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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化・日本編(6)



株式会社樹研工業(3)


 樹研工業の社員たちの働きぶりを示すエピソードを拾ってみよう。

 知り合いの紹介で、モデルのように細く、非力な青年が入社してきました。彼は女性社員がいとも簡単に運んでいる25キロほどのプラスチックももち上げる力がなく、悪戦苦闘して、うんうん言いながら運ぼうとしていたそうです。たまたまそこを通りかかった松浦社長がそれを見て、
「その程度の原料がもてないとなると、わが社じゃ使いものにならないなあ、きみはクビだぞ」
と冗談を言ったそうです。

 すると午後、「話があります」と、若手社員数名が松浦社長のところにやってきました。なんだろうと思って話を聞くと、
「社長は午前中、○○くんに『クビだ』と言ったそうですが、もう少し待ってくれませんか。私たちが一人前にしますし、その間は彼の手伝いをしますから」
という直談判だったそうです。

 樹研工業の社員には、元暴走族とか登校拒否児の学校中退者といった、いわば学校教育からドロップアウトした人が少なからずいるそうです。就職しようと思っても、そんな彼らに門戸を開放している企業は多くありません。しかしそんな彼らは、同じ会社仲間のために、社長に直談判するほどやさしい気持ちの持ち主でもあるのです。

 経営理念が先着順採用が孕む危惧を吹き飛ばしている。社員を大事にする社風がやさしい人を育んでいる。

 100万分の1グラムの歯車を完成させたのと同じような時期に、多くの研究費を費やして同じような研究に取り組んでいたのが、全国の名だたる大学の教授たちです。その先生方が、新聞記事を読んで樹研工業に教わりに来たのです。工学博士の教授たちが、中途退学・元暴走族の若い社員に説明を受けている写真が新聞にも載りました。

「最近の若者は自分のことしか考えない」
「他人への思いやりに欠ける」
などと言われていますが、樹研工業の社員の言動は、正しい企業文化をもち、経営者が感動経営を実践すれば、どんな若者でもその可能性を育てられるのだということの実例だと思います。

 松浦社長は、
「社員が育つために大事なことは、経営者がチャンスを与えることです。口だけではなく実際に投資をしてやることです」
と言っている。そのよい例として次のようなエピソードがある。

 あるとき、入社2年目の3人の若手社員が、
「私たちも先輩が使っているようなCADを使いたいので一台買っていただけませんか?」
と言ってきました。

 松浦社長は「ダメだ」と言いました。ただ、その理由が変わっています。
「3人いるのに1台とは何事だ。1人1台ずつ買いなさい」
と言ったのです。そして3台買いました。

 そうすると3人の心に火がついて、猛烈に勉強を始めたそうです。

「そのときが、チャンスなのです。やる気になったときにポンと乗りかかる。そうすると彼ら、彼女らの世界がパッと広がるのです」

 この3人は、今では立派な戦力に育っているそうです。

 また、こんなことも言っていました。
「20代後半の職人が『こういう機械が必要なのです』と相談してきました。高い機種と安い機種の二つがあったのですが、私は彼が希望した3500万円の高いほうの最高速の機械を、すぐに発注しました。彼は今その機械に夢中になって没頭し、いい仕事をしていますよ……」

 さらに松浦社長は、
 「今の若者はタイミングよく心に火をつけてやれば、ガムシヤラに勉強し働くのです。彼らがそういうことを言い出すような雰囲気を用意するのが、会社の、経営者の役割でしょう。僕は誰がいつどんなことを言ってくるか、年中予測しています。〝彼はそろそろこの機械が必要だと言ってくるだろうな″と。それがわかるのは、毎日会社の現場を歩いて、みんなとの会話を楽しんでいるからです。僕も勉強して、機械技術の最先端を把握しています。職場は楽しい真剣勝負の場なのです……」
 と言います。

 一般の会社では役員会が最高意思決定機関となっている。しかし、樹研工業では重要事項は全社員が参加する全体会議で決定している。この会社もトップダウン管理から脱している。

 (全体会議は)会社が休みである土曜日の10時から15時に行われ、約90人の全員が集まります。誰でも参加していいし、強制ではありませんから不参加も自由です。しかしほとんどの社員が出席して、斬新なアイデアや発言を活発に出してくるそうです。おそらくこの会議が、情報やビジョンを共有する場になっているのでしょう。

 このような素晴らしい会社だから中途で辞める人はいなだろうと思うが、どうであろうか。

 そんな会社ですから、辞める人がほとんどいません。それどころか、「私が辞めたら子供を入れてくれ」という社員もいるくらいです。

 中小企業では経営者の世襲制が問題になっていますが、樹研工業では社員の世襲制が始まっています。息子や娘に幸せになってほしいわけですから、自分が信じている会社に入ってほしいという親の気持ちは痛いほどよくわかります。

 また樹研工業では、結婚や出産、子育てが終わった女性社員を正規、不正規を問わず積極的に雇用しています。その理由は、
「この人たちはベテランで、客先も半分以上わかっていて、何も教えなくても、その日のうちに即戦力になるからです」
と松浦社長は言っていました。

 ところが、男性社員のなかには、隣の芝がきれいに見えるのか、退社する人がときどきいるそうです。そんなときでも松浦社長は、
「もし、『やっぱり樹研工業がいい』と、帰りたくなったら遠慮なく帰ってこい。転職先で成功したんだったら、そのときも連絡をくれよ」と、温かく送り出すのです。

 実際にこうした武者修行(?)を終えて戻ってくる社員もいるといいます。出戻りOK。それが樹研工業という会社なのです。

企業経営の社会主義化・日本編(7)



株式会社沖縄教育出版(1)


 沖縄教育出版はもとは『沖縄海中動物生態図鑑』『沖縄園芸植物図鑑』『沖縄の方言入門』『沖縄の歴史』など、地元・沖縄に根差した書籍を出していた会社だった。いまは、社名はそのままで、健康食品と化粧品(同社では粧品と呼んでいるそうだ。いいですね)の製造販売をしている。その事業転換の経緯は次のようである。

 (創業者の川畑保夫社長は)8年ほど勤めた出版社を29歳のときに辞めて独立、沖縄県の泊に「沖縄教育出版」という個人企業をスタートさせたのです。モーレツ社員だった川畑社長ですから、当時は「規模を大きくしたい、業績を高めたい」という思いがとりわけ強く、社員に檄を飛ばしつつ、自身も身を粉にして経営に邁進していました。

 しかし業績は思うように伸びず、社員も次々に辞めていったのです。
「これではいけない、なんとか社員の支持を得て、一丸となって仕事をしなければ」と思い、ある年、市内の飲食店を借り切り、社長のおごりで忘年会を開催しました。ところが、参加したのは30名いた社員のうち、わずか半分の15名。今さらながらの「気づき」でした。

 そんな川畑社長が、真の気づきを得たのは、病を得てからのことでした。過労とストレスで腎臓ガンになってしまった川畑社長は、昭和61(1986)年、国立がんセンターに入院し、左腎を摘出。その3ヵ月の入院の間に、川畑社長は生まれ変わったのです。

 自分のこれまでの生き方や考え方を見直し、真に世の中に役立つ事業、一人ひとりの命が輝く経営を行うことを決意し、健康食品や化粧品を扱うことにしました。

 沖縄教育出版の健康食品や化粧品などの自家商品は、信頼のおける業者に製造を委託し、県内外の顧客をターゲッ卜に通信販売で展開しています。通信販売といっても一般的な方法ではなく、通信販売とコールセンターが一体となった、インタラクティブ(双方向)コンタクトセンター事業方式です。

 3ヶ月の入院生活で生まれ変わった川畑社長の経営理念は次のようである。

「私たちは、地球上に住むすべての人々が、健康で平和に暮らせる社会をつくるため、みんなで力を合わせて、働きがいのある楽しい職場環境を創り、お役立ちの喜びを実践しています」

 そして、
「人間尊重の経営への挑戦、感謝、恩返し、そしてお役立ち」
を社是(この会社では社憲と呼んでいる)としている。

さて、この会社の紹介文の目次は次の通りである。

株式会社沖縄教育出版(沖縄県)
 本当に世の中に役立つ事業をしたい。
 一人ひとりの命が輝く会社になりたい。

①日本でいちばん長くて楽しい朝礼
②社員同士が心を共有できる朝礼
③「出版」だけれど健康食品も扱う会社
④ガンによって〝気づき″を得た社長
⑤「I am OK! You areOK! We areOK!」
⑥思わず納得の行動規範
⑦まるで大学? 委員会&サークル活動
⑧障害者を受給者から納税者に
⑨さまざまな形で社会に貢献する
⑩営業をしないコンタクトセンター
⑪ひと月に約150通届く、顧客からの感謝の手紙
⑫これからもめざす「人間尊重の経営」

 坂本氏は紹介文の序文を次のように記している。

 沖縄教育出版は、高業績企業としても有名ですが、私が当社を本書で取り上げたのは、この会社の「日本でいちばん長い、かつ楽しい朝礼」をじっくり見学させていただいたことにあります。

 この会社の社員たちは、健常者、障害者が一体となり、まるで家族のように愛し愛され、生かされていると実感したからです。

 それでは川畑社長の企業理念が生かされている社風と社員の様子を、②⑥⑦⑧⑨を中心に、詳しく見てみよう。

 大抵の会社の朝礼は、前日の業務報告・今日の予定の確認・各種事務連絡などで、多くは上意下達的なものであり、その時間もせいぜい10~15分前後のようだ。ところが沖縄教育出版の朝礼は、なんと平均1時間、最長記録は3時間だという。そのような長時間、一体何が行われているのだろうか。坂本氏は見学した時の朝礼のプログラムは次のようだった。

一、お喜びの声の紹介
二、感謝したい社員の紹介
三、わっしょい体操、ハッピー体操
四、私の小学校時代のいちばんの思い出
五、最近うれしかったこと
六、私のお得意様自慢
七、新人社員コーナー

 坂本氏はその朝礼の様子を次のように書き留めている。

 ワンフロアの事務所で、80名ほどの社員の方が立って迎えてくれましたが、周囲の壁を見て驚きました。いたるところに文字を書いたポスターやメモが貼り付けられ、小学校の教室みたいだったからです。

 そのポスターやメモには、「仕事は芸術だ」「仕事は祭りだ」「やる気が能力だ」「どんな人でも可能指数は200はある」「人間は歴史をつくるために生まれてきた」「人間は愛する人のことを学ぶために生まれてきた」などと書いてあります。

 朝礼は、「ファシリテーター」と呼ばれる二人の司会者が進行します。

 「お喜びの声の紹介」は、沖縄教育出版の社員が顧客からいただいた数々の礼状の一部を全社員の前で司会者が読み上げるもので、情報や感動の共有化をはかるために行われています。

 「感謝したい社員の紹介」は、自分が困っているとき、悩んでいるときにアドバイスをしてくれたり、聞いてくれたり、助けてくれた仲間の社員に、みんなの前でお礼をするというコーナーです。

 「わっしょい体操、ハッピー体操」はラジオ体操とは異なり、ストレッチをしたり、肩をもみ合ったりする体操です。

 「私の小学校時代のいちばんの思い出」は、自分の小学校のころのいちばん楽しかったこと、辛かったことなどを、当時を思い出しながら全員の前で紹介するコーナーです。

 「最近うれしかったこと」は、何人かが前に出て、自身が最近体験したうれしかったこと、よかったことを話します。

 「私のお得意様自慢」は、担当者が素敵だと思うお得意様のエピソードを紹介するコーナーです。

 この日の朝礼で私かとりわけ感動したのは、いつもていねいで心のこもった仕事をする若手男性社員に対し、顧客からいただいた手紙とプレゼントが渡されたときです。

 顧客の手紙を代読した先輩女性は、涙を流していました。プレゼントをいただいた若手男性社員も、「今まで人生辛かったです。でもこの会社に入れてうれしいです。みなさんやさしくしてくださってありがとうございます」と涙声で話をしていました。

 あとからこの若手社員について川畑社長に聞いたのですが、彼は施設で育ち、幼少時代に深い心の傷を受け、今もトラウマを抱えているそうです。

 また、「新人社員コーナー」では、一ヵ月前に入社したパートの女性が話をしてくれました。その内容を紹介します。

「私はこれまで五回ほど、パートとして職場を経験しました。どこの職場でもうまく溶け込めず、いつも仲間や家族、とりわけ主人や姑に当たり散らすような生き方をしていました。自分は性格が悪いと自分で思いながら、職場が辛く、自分の生活を変えることができませんでした。でも、私はこの会社に入って、家族、とりわけ主人からほめられることが多くなりました。自分でも自分が毎日変わっていくことがよくわかります。毎日この会社で働けて、楽しく生き、感謝しています」
 と、述べていました。

 この朝礼は、社員のモチベーションを高めるだけではなく、社員の居場所をつくっているのです。「あの人はこんな性格だったのか」「私と同じような子供のころの思い出があるんだ」「こういうことに感動できる人なんだ」という情報・感情・目的を共有する場でもあるのです。

 こうした一風変わった朝礼のうわさを聞きつけ、私のように朝礼を見学に来る人々が、役所や銀行、一般企業や学校の教師など、月に300人以上訪れるそうです。

 ちなみに、当時の社員構成は次のようである。

 従業員数…は158人(正社員47人、パートさん101人)
社員の出身地…が沖縄県70%、沖縄県外30%
性別…女性90%、男性10%
 なんと、圧倒的に女性中心型の企業だ。
企業経営の社会主義化・日本編(8)



株式会社沖縄教育出版(2)


 目次に「まるで大学? 委員会&サークル活動」とあるように、この活動もじつにユニークだ。「会社をよくしていこう。活発で元気な、小学校みたいな会社をつくろう」という趣旨のもとに行われている。坂本氏は「それが社内の活発な提案や改善活動の場として、また社員同士のコミュニケーションの場として、大切な役割を果たしているのです」と絶賛している。次のような委員会・サークルがある。

●イベント委員会
 バザーや誕生日会、ビーチパーティーなどの社内イベントを考えています。

●ECO委員会
 毎月一回、企画を交えながら海でのごみ拾いなど、みんなで楽しくエコ活動を行っています。

●教養委員会
 毎月、お客様へのご挨拶文や、沖縄の情報の発信を行っています。

●TPM委員会
 社内の備品関係の定時配置を行います。どの机の中身も同じにするなど、誰でも場所がわかるしくみをつくっています。

●社内報(POCO)委員会
 社員の顔が見える社内報をテーマに、社員の家族が楽しみに待っている社内報をつくっています。

●ありがとう委員会

 社員同士の「ありがとう」を増やすための活動を行っています。ありがとうカードに日頃の「ありがとう」を書いて相手の方に贈ったり、「ありがとうマネー」という社内通貨も発行しています。

●花花委員会
 社内の花や植物の世話を行い、緑の多い職場づくりを進めています。

 以上のほかに次のような活動や制度がある。

●早朝勉強会
 毎朝、八時から九時の一時間、社員主体の勉強会が開催されています。
 地域の清掃を終えた社員が八時少し前、会場に集まってきます。テキストを使ったり、外部講師を招いたりなどで、私も二回目に訪問した折、講師を依頼されましたが、約10名くらいの若手社員が待っていてくれました。

●さん付け制度
 近年、上司を肩書きで呼ばず、「さん」で呼ばうという会社が増えています。沖縄教育出版もそれを実行しているのですが、驚くのは、それが全社員に浸透していることです。
朝礼に参加した折、ファシリデーターの方が「ヤスオさん、ひと言」と言ったのを聞いて一瞬誰かと思ってしまいました。ヤスオさんとは川畑保夫社長のことだったのです。

●一人一日一情報制度
 全社員のコミユニケーションを活発化させるとともに、全社員の心地よい居場所をつくるための制度が「一人一日一情報制度」です。これは全社員がその日一日、仕事の面、仕事外を問わず、感じたこと、思ったことを書き、その内容は全社員にフイードバックされます。
 文章好きの社員が多いこともあり、長くなってしまうため127字に制限しているそうですが、その参加率は90%以上だそうです。

●入社おめでとう制度
 入社して一年たった社員に「おめでとう制度」として、一年後に一万円を支給するそうです。この制度は、二年目、三年目も続くそうです。

●お誕生会
 毎月、その月に誕生日を迎えた社員のため、社長をはじめ幹部社員が主催し、那覇市内の高級レストランに該当社員を招待して、誕生会を開催しています。

●高齢者雇用制度
 当社には、名目の定年制度はありますが、実質定年は80歳です。現在も55歳以上の社員が46人もいます。

●インターンの受け入れ
 沖縄教育出版では、県内外の高等学校、専門学校、大学等から依頼され、インターン生の受け入れを積極的に行っています。その数はなんと50名だそうです。インターンシップに来て入社し、辞めた人はいないといいますから、定着率も実質100%だそうです。

 沖縄教育出版では、毎年4~6名くらい採用するそうですが、応募は全国から毎年600~700名くらい来るといいます。これは、川畑社長率いる沖縄教育出版の人間尊重の経営が、多くの人に知られている証明でもあります。沖縄教育出版の人間尊重経営への挑戦は、これからも続いていくことでしょう。

 さらにさらに、次のよう社会貢献も行われている。

 内戦が続いているアフリカ・ウガンダ北部のグル地区でゲリラに誘拐され、子供兵とされていた子供たちの社会復帰と自立支援にも取り組んでいます。

 特定非営利法人テラ・ルネッサンスの理事長と沖縄教育出版のスタッフが現地に行き、施設内で約一週間、子供兵だった子供たちと一緒に学んだり、遊んだり、給食を食べるなどして、交流を深めているのです。

 現在、世界には1日1ドル以下で生活している人々が10億人もおり、飢餓で毎日3万人の子供たちが亡くなっています。ウガンダの元子供兵の家族は、1日1ドルで5、6人が暮らしているといいます。

 一方、日本には餓死する人はいませんが、年に3万人の自殺者がいます。マザー・テレサが「先進国では物に飢えるより、愛に飢えるほうがもっと深刻である」と警鐘を鳴らしたように、家族や企業など、人間関係の崩壊は先進国病となっているのです。

 そうした日本での社会貢献活動で沖縄教育出版が行っているのが、就業前、全社員が交代でやっている会社周辺と近くの学校の清掃活動です。清掃の時間は朝7時から8時で、8時から9時までは社員が主体の自発的勉強会を行い、9時から朝礼というスケジュール ということになります。川畑社長は毎朝6時30分に出社し、掃除を始めます。

 この清掃活動で地域の人々とのコミュニケーションが深まるだけでなく、掃除をすることでその人自身の心が磨かれ、気づきが深まっていくそうです。

 最初のころは挨拶をしても返事もしてくれなかった学校の子供たちも、最近では挨拶をしてくれるようになったといいます。

 全社員が家族のような雰囲気の社風が彷彿として浮かんでくる。しかし、このようなさまざまな活動をしていて、一体いつ仕事をするのだろう、会社の業績は大丈夫なのだろうか、と余計な心配をしてしまうが、心配ご無用のようです。業績はすこぶる好調だという。

「ここ5、6年間の推移を見ると、売上高は14億円から18億円、経常利益は3億円から4億円です。売上高経常利益率で見ると20~30%となり、驚異的な好業績企業なのです。」

 さて、坂本氏が朝礼見学で沖縄教育出版を訪問したとき、出迎えた社員の中に障害のある方が二人いたそうだ。坂本氏はそのお二人の印象を
「その言葉、態度は自信に満ち満ちており、まったくといっていいほど障害が感じられません。」
と記録している。最後に沖縄教育出版の障害者雇用の様子を見てみよう。

 沖縄教育出版では、障害者雇用にも積極的に取り組んでいます。現在約50名いる正社員のうち、10名は障害がある社員で(知的障害者9名、聴覚障害者1名)、障害者の正社員に占める比率は16%になります。しかも、その比率も年々高まっています。

 わが国の障害者雇用促進法では、常用雇用56人以上の会社は、法定雇用率が1.8%となっていますが、日本の企業の平均は1.6%、法定雇用率以下の企業が約60%もあります。また、上場企業の障害者の最大雇用比率は8%です。このことからも、沖縄教育出版が、いかに積極的に障害者雇用に取り組んでいるかがわかります。

 沖縄教育出版の障害者雇用のきっかけは、川畑社長の幼少時代、障害のある友だちが身近にいたことも関係があるのでしょう。さらには社員の身内に障害のある人がいたことも、障害者雇用に熱心な理由だと思います。

 また、平成11(1999)年、川畑社長が大分県の福祉工場を視察した折、そこの経営者の
「障害者を受給者から納税者にしよう。自分たちは、ほとんど障害者だけでやっているが、本社が潰れても自分たちは大丈夫だ、と言えるくらいの経営をしていこう」
という言葉に深く共鳴したため、障害者雇用への強い信念をもつようになったのです。

 そういう信念のもと、いよいよ平成12年、養護学校から生徒を一度に3人も社員として採用しました。

 当初は手探りで、何もわからない状態でスタートしたためどうしていいかわからず、出社してから砂場に出かけた新人社員と、一日中一緒にいた日もあったそうです。また、入社したばかりの障害者がほかの人に気に留めてもらいたいため、警報機の非常ベルを押してしまい、ビル全体が大騒ぎになってしまったこともあるそうです。

 しかし、「この子たちを幸せにしなければ」と、ほかの社員と一緒になり、養護学校からの人たちを生かす職場づくりをし続けてきたのです。

 多くの大企業や中小企業が障害者雇用から目をそらしています。障害者の大半は施設や自宅ではなく、どんなに辛い大変な仕事でもいいから、働く場を求めているのです。

 健常者であれ障害者であれ、「人にほめられること、人に愛されること、人の役に立つこと、人に必要とされること」という、人が得たい四つの幸せは、働くことによってしか得られないからです。

 川畑社長は「当社には健常者、障害者という区分はありません。あるのは個性だけです」と当たり前のように言います。

 沖縄教育出版で雇用されている障害のある社員の賃金ですが、最低で12~13万円の給料を保証しており、国からの支援を合わせれば月額20万円以上になっているそうです。

 労働者を搾取の対象としか扱かわず、厖大な資産をため込んでいる不良会社の経営者たちは、優良会社の経営理念とその実際を知っても、たぶん、生まれ変わることはないだろう。そう思うほど、私は彼らには絶望し、軽蔑している。
企業経営の社会主義化・日本編(9)



「はじめに」と「プロローグ」から


 最後にまとめとして『日本でいちばん大切にしたい会社3』の「はじめに」と「プロローグ」の文章を紹介しよう。

 坂本氏は「はじめに」で「企業関係者がとりわけ大切にしなければならない」例の5人の人を指摘して、次のように続けている。

 ところが現実には、多くの経営者が、業績重視・成長重視・シェア重視・ランキング重視といった、間違った経営をしているようにみえます。業績や成長は正しい経営を行っているかどうかの結果の現象であり、目的にしてはならないのです。

 結果の現象を目的にする結果、前述の五人を、特に一人目から四人目の人々を苦しめてしまっているのが、今という時代です。このことは、うつ病等の精神障がい者の激増や、自殺者の増加、離職者の増加などを見てもよくわかります。

 そのように多くの企業が業績や成長を追い求めている一方で、赤字企業比率は年々増加し、実に三社に二社が赤字に陥ってしまっています。このことからさらなる景気対策を求める声が高まっていますが、私はそうした見方・考え方には賛同できません。本質的な問題は、別のところにあるからです。

 私はこれまでおよそ40年間、全国各地の約6500社の中小企業を訪問し、その経営の現場をただひたすら見てきました。そしてそのうちのおよそ一割の企業は、好不況にかかわらず、その業績がほとんどぶれていないことに気がつきました。それも、売上高対経常利益率で見ると、長期にわたって5パーセント前後以上を持続しているのです。なかには50年以上連続増収増益で売上高経常利益率は10パーセント以上という企業や、40年間、売上高経常利益率が20パーセント以上といった驚くべき企業もありました。それらの企業は、景気を超越し、景気を創造していたのです。つまり、景気は関係なかったのです。

 そこで、こうした企業をハード面・ソフト面から詳細に調査研究してみると、いくつかの共通する特長があることがわかります。その最たる共通項とは、「人間尊重経営」「人本経営」、つまり人を大切にする、人のしあわせを念じた経営が貫かれていることでした。これらの企業は、社員へのリストラはもとより、仕入先・外注企業などに理不尽なコストダウン要求をしたことが一度もありません。顧客のリピーター率もきわめて高く、お客が全国各地からわざわざ追いかけてくる状態です。また、障がい者や高齢者も多数雇用し、彼ら、彼女らが、健常者と一緒に元気に働いている企業でした。

 これらの企業は、人間尊重の経営、どこまでも人を大切にする経営を追求してきた結果として、高い、ぶれない利益を生み出してきていたのです。

 坂本氏の著作に学んで氏に感謝の手紙を届ける人がたくさんいるそうだ。氏は「プロローグ」でそのうちの3通を紹介している。その1通目の「日本の大手メーカーのアメリカの生産子会社の社長さんからのもの」が大変感動的なので、その感動を是非多くの人と共有したくなった。少し長いが全文転載しよう。

 私はアメリカ・インディアナ州在住の○○と申します。日本の惨状を拝見し、何もできない自分に歯がゆさを覚えながら、一方で着々と進む復興に日本の底力を感じております。
 さて、大変ぶしつけでありますが、日経新聞等で先生の記事を拝読し、メールさせていただきました。
 実は昨年11月末にビザの更新で帰国した際に、書店で先生の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』や『経営者の手帳』を買い求めました。私が実践したかったことが本の中に凝縮されており、常に私のデスクに置いて、日々の会社運営の参考にしております。

 弊社はアメリカ○○州にある日系の鋳物製造会社です。従業員数は現在400名です。昨年一月までは日本の別会社がオーナーでしたが、そこの伝統で「従業員は使用人。代わりはいくらでもいる」という考えが根底にありました。
 私が昨年一月末に再建社長として単身派遣されたときには、従業員の心は荒れ果て、毎日のようにケガが起こり、スクラップは5パ-セント、生産性も上がらす、当然赤字垂れ流しの状態でした。さらに離職率は実に40パ-セントを超えており、5人に2人が辞めていくありさまでした。
 赴任初日に全員を前にあいさつしようとしたとき、床に座った従業員たちの上目づかいで刺すような視線を感じ、正直頭の中が真っ白になりました。「生産は続ける。安全と品質に留意し、協力してほしい」と私なりに精いっぱいの英語でスピーチする、全員が立ち上がり、それまでの厳しい視線から一転、歓迎ムードになりました。
 彼らは、自分たちは全員解雇されるものと考えていたことを後から聞きました。そのとき、「この人たちと家族をなんとしてもしあわせにしたい」と心から思ったのです。
 それから、まずはアメリカ人の人事部長と徹底的に話をし、日本でいう長期雇用をめざした労務政策を打ちたいことを理解してもらいました。そして従業員との対話、それも現場の管理職との昼食懇談から始めました。
 出て来る、出て来る、不満や不安の大爆発です。日本でいう「3K職場」、こちらでは「4D職場」(Dangerous,Dirty,Difficult,Dark)と私は名づけました。危険だし、汚いし、大変な作業だし、暗いし、これで不満なく働けというのが無理な職場でした。それに対して、これまでの経営陣は「儲かっていない」ことを理由に、いっさい環境対策をしてこなかったのです。
 私はすぐに天井に大型のファンを、また溶解炉近くにはスポットクーラーを設置、さらに、各職場に冷水器も導入しました。
 またある日、週一回の全体ミーティングで調査をしました。「今朝、食事をしてきた人、手を上げて!」と私は質問しました。手が上がったのはわずか6、7人でした。
 実は、会社内で弁当が盗まれる事件が続出していました。そこで、「もしかすると、この人たちは朝食をとっていないのかもしれない」と思ったのです。
 弊社のある街は人□が5000人、これといった産業があるわけでもなく、働ける人はまだよいほうで、生活水準がきわめて低いのです。
 弊社の従業員の7割は地元の住民ですが、住む家はトレーラーハウス、車もドアやフェンダーの色が違ったりバンパーがなかったりなどの古いもので、大変貧しいのです。
 そこで私は少しでも従業員のお腹を満たしてあげたいと思い、人事部長に「就業前や休憩時間にサッと食べることができて、栄養のあるものはないか?」と尋ねました。人事部長は「バナナだ」と答えてくれました。
 私は人事部長にお願いをし、試しに食堂に無料でバナナを置いてみました。
 案の定、すぐになくなりました。
 そこで私は人事部長に、「箱ごと置けばいい」と提案したのですが、「持ち帰る人がいるので、それはやめたほうがいい」と反対されました。私は「それでもいいから、まずは出してくれ」と頼みました。
 次の日の夕方、食堂近くを通りかかると、何人かがバナナをポケットに入れているのを目にしました。「人事部長が言った通りか……」と裏切られた思いになりました。
 しかし、何の気なしに、部屋の窓から外を見ると、駐車場に彼らを迎えに来ている家族の車の中から子どもが出てきて、お父さんと「ハグ」、そしてその子どもに何か言いながら、ポケットのバナナを渡している光景を見たのです。私は、その睦まじい光景を見て、バナナを出してよかったと心が満たされました。
 次の日の夕方、人事部長を誘い、食堂の近くで、帰宅する従業員の様子を見ていました。従業員がポケットにバナナを入れる光景を見た人事部長は、私に「ミスター○○、私が言った通りだろう」と勝ち誇ったように言いました。
 私は人事部長を窓際に連れて行き、「まあ、もう少し見ていてごらん……」と言いました。そして前の日と同じ光景を見たのです。
 人事部長の目には涙があふれ、そして一言、「ミスター○○の言っていることの意味がよくわかった。明日からバナナだけではなく、リンゴとオレンジも出していいか……」とまで言ってくれたのです。
 次の日からは、リンゴとオレンジも、カゴに入れて置かれるようになりました。それ以降、弁当が盗まれることもなくなりましたし、倒れる人も激減しました。
 それからしばらくして、トマトとキュウリが食堂のテーブルの上に置かれているのを見ました。不思議に思って、人事部長に「メニュー増やしたの?」と聞きました。すると人事部長が「あれは従業員の○○が家で採れたのを持ってきたんだ……」と言うのです。
 私は何だかうれしくなって、すぐに現場へ行き、持ってきてくれた○○と握手をしました。そのとき彼は、「われわれは、あなたが、自分たち家族のことを考えていろいろやってくれていることに感謝している。あなたは最高のボスた……」と言ってくれました。私は涙があふれ出てきました。
 私のつたないブロークン・イングリッシユたけでは十分真意が伝わりにくいので、毎週「社長メッセージ」という形で、従業員に発信を続けています。その内容は先生の著書からキ-ワードをかなり拝借しております。おかげさまで、業績も夏から黒字に転換、利益を還元すべく、従業員の給料も10パ-セント程度上げ、年末には少しでしたがボーナスも出すことができました。
 10月以降は離職率がなんと2パーセントに激減、そうなると品質、生産性ともに上昇し、利益体質に転換することができたのです。

 長々と雑駁なメールになってしまいましたが、私が一番申し上げたかったことは、先生のお考えは日本だけでなく、アメリカでも通用する、いやむしろ義理人情に厚いアメリカでこそ、成果が上がるのではないかということです。
 これからも先生のお考えをベースに、この会社の従業員と家族のしあわせを追求していきたいと思っております。
 日本で被災された人々の心が癒されること、そして一日も早い復興がなされることを、遠いアメリカから、心から祈念しています。時節柄どうかご自愛のほどを。
 一足早い、満開の桜の写真を添付いたします。

 「人を大切にする」経営理念をもつ社長を得て、社員たちは生き返ったようだ。それにしてもそれ以前の労働条件のひどいこと。1%の貪欲を満たすために奴隷並みの扱いを受けている99%を象徴するような有様だった。

 これは他人事ではない。小泉・竹中が導入したアメリカ式新自由主義が日本の労働者をもとんでもない状況に追い込んでいる。厚生労働省の発表(2011年)によると、1800万人(全労働者の3割)が有期契約労働者だという。そして、彼らの74%は年収200万円以下なのだ。

 言うことやること全てアベコベミクス政権はこのような悪政を改めるどころか、産業競争力会議とか規制改革会議などという経団連の代弁者で構成される会議が労働者搾取をさらに過酷にするようなことを議論しているという。日刊ゲンダイが「サラリーマンは全員アルバイトになる 首切り法案 戦慄の中身と進行状況」という記事(4月16日付)で取り上げている。その中から、山井和則衆院議員(民主党)のコメントを転載しておこう。

「結局、この内閣は大企業のための内閣なのですよ。産業競争力会議に入っているのは経営者だけですからね。甘利大臣は労働問題を話し合うときは労働者の代表を入れるべきだ、と言っていましたが、だったら、すぐにやって欲しい。それをやらずに解雇のルールづくりを話し合っている。いまは慎重答弁ですが、参院選が終わったら、首切り自由な国になってしまう可能性があります」