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『続・大日本帝国の痼疾』(40)

三叉竹越の天皇観


 天皇の神秘化や、「君」と「民」の障壁となる 貴族制度には批判的だった竹越であったが、 「一君万民」というイデオロギーを清算すること はついにできなかった。もっとも、維新政府が打 ち出した人民差別と疎外の枠組みをトータルに認 識し得た知識人は、明治初期にはほとんどいなか ったであろう。

 竹越は
『大革命は勤王のために成就せられたるにあらず して、皇位の崇高、威厳、美麗こそ、かえって大 革命のために発揮せられたるなり。勤王は大革命 の原因にあらず、かえって国民の活力たる大革命 より流れ流出せる結果なるなり。』
と、明治維新の原動力を正しく把握していた。そして その「皇位」のあり方としては、維新の勝利者の「国家 最強、最多数の思想」の専有物であってはならず、 「少数者、微弱者、敗北者」あるいは「異種異分子」 をも網羅した社会すべての分子」を包容した「国家 最善、最美、最上なる意志の発表せらるるの座」 であり、「一視同仁の地」でなければならないと 言う。

 では、明治維新は実際は竹越の理想を体現した だろうか。「一君万民」というイデオロギーに呪 縛された目には、当然に天皇制の闇を見透すこと はできない。もちろん、大日本帝国憲法もありが たく押し頂くことになる。竹越は維新における宗 教問題を取り上げて次のように言っている。

 試みに回顧せよ。維新の当年に於て、宗教の一 点よりいわば、皇位は実に神道の意見を代表せる にあらずや。然れども仏教のその勢力を回復する や、実にこの二教を竜車の両輪として進まんとす るの傾ありしなり。もし宗教社会に於て、更らに 他の一分子を増加せざりしならば、皇位は長く両 教を以て前駆とすること、中世の皇位のごとくに してテムポラルの権と共にスピリチュアルの権 とを併有せしならん。

 然るに基督教が突として波涛の勢を以て入り来 るや、両教をして意外の勁敵(けいてき)を得せし めたると共に信仰、不信仰は人の自由たるべきの 論盛に唱えらる。もしこの時に方って皇位にして なお両教に意を傾けしむるあらば、これ皇位は一 視同仁の地に立つものにあらず、少数ながらも進 歩思想を有する人民を以て、皇敵となすものにし て、決して皇位本来の性質にあらず。

 ここに於いてか、基督教及び自由思想の勢を得 ると共に、宗教上に於ける皇位の性質また一変し、 皇室と宗教と全然分離し、一視同仁、共覆、斉庇 (せいひ)、中立、超然、彼を是とせず、之を非と せず、多数なる旧教の上に立つと共に、少数なる 新教の上にも親臨し、独り信仰のみならずまた不 信仰者の上にも君臨するに至れり。憲法第28条こ れなり。


憲法28条
日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ 背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス

 憲法公布の時点において、「安寧秩 序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」 という文言の猛毒(「良心の自由」とは何か Ⅲ を参照)に気づかなかったことを責めるの 酷であろう。

第29条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及 結社ノ自由ヲ有ス

 もちろん、これも絵に描いた餅であった。

 続いて竹越は「教育勅語」についても手放しで 賞賛する。

 その他道徳の主義に於て、甲是乙非、あるいは 儒教によらんとし、あるいは基督教に頼らんとし、 天下の衆論帰着する所なきや、明治二十三年十月、 左の勅語を発して衆多の意見を調和せるがごとき、 また以て皇位が国民の中、最慧、最良、最善の思 想を代表し、強者に偏せず、弱者を捨てず、中立 の地となりしを証すべきなり。


 竹越は、1898(明治31)年に第3次伊藤内閣の文相・西園 寺公望の秘書兼勅任参事官に起用されたのを機に 現実政治に深く関わるようになる。

1902(明治35)年 衆議院議員に当選
1922(大正11)年 貴族院勅撰議員
1940(昭和15)年 枢密顧問官に任命される。

 軍部が言論に強く容喙するようになったとき、 竹越もその旧著の発売を禁止され、政治的圧 迫を受けている。

 竹越は1950(昭和25)年に没している。大日本帝 国が滅亡したとき、竹越は政治的責任を痛感して 一切の公職から引退したという。明治維新に劣ら ぬ 大激変を再び経験して、竹越の天皇観はどうだっ たろうか。何か変化があっただろうか。 あるいは何ら変わることはなかっただろうか。

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