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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
『続・大日本帝国の痼疾』(18)

幕末期の一揆・騒動に現れた民衆の劣情


 生野県の農民騒動には、被差別部落民の解放に 反対するという負の志向をもった要求項目があっ た。これは民衆を分断して支配するという政治権力の常套 手段によって育成定着されてきた民衆の劣情の 発現にほかならない。同じように民衆の劣情の発 現したものとして、ケッタイな要求項目がもう 一つある。1971年武一・福山騒動の「藩主引き 留め」の要求がそれである。これは「異国人に対 する排斥」という項目と一体のものである。

 異国人に対する危機感や恐怖感は、多分に流言・ 風聞がその根拠である。流言・風聞が騒動をまき おこした。福山藩の騒動では、藩主が国元を退去 して「今、我々ガ見放サレナバ、又黒船ガ人々ヲ 取リニ来テモ、防グ事ハ出来ヌゾヤ」という流言 が伝えられている。民衆の中にも、もちろん、日 本の西洋列強による植民地化の強い危機感があっ ただろうが、それは恐怖感にのみ繋がっていた。 同様な例が広島・福山・丹波の他に土佐三郡騒動 (71年12月)でもみられるという。

 この時期、いまだに半植民地化の危機が完全に は払拭されていたわけではない。これらの騒動に 現れた対外国問題について危機意識は、慶応年間 から進んでいないどころか、退歩さえしていた。 この民族間題についての劣情は「世直し」騒動の 負の一面の一つであったが、民衆がこの種の問題 からは排除されていたことの反映でもあったろう。 確かな情報にこと欠く状況では、流言・風聞に左右 されるのも、一面では、いたし方ないことだった。

 今利用している論文「幕末の社会情勢と世直し」 の「はしがき」に、横浜で貿易を営んでいた甲州 屋篠原忠右衛門という商人が、1872(明治5)年に出身地(甲府)の 息子に書き送ったという手紙の一部が紹介されている。

当節当地風聞、(g)日本いよいよフランスへ御渡しに 相成候趣。右につき、江戸御城へフランスの旗た て候由、(h)天子様は五月二十三日、御乗船にて薩州 に御こし、それより外国へ行き候由也。右の段相 違これなきように、人びと申し居り候。(i)当地御支 配村々、地高一筆限り、間数打ち、札たて候義に 候。如何相成るべきや、相判らず、村々役人衆、 心配致し候。 (下線は佐々木氏によるもの。)

 ある意味では時代の最先端にあった横浜という 新開地では、より確かな情報に触れる機会も多か ったと推測できるが、その横浜でもこのような風 聞が流され、半ば信じられている。他の地方にお いては推して知るべしというべきか。

 流言・風聞は単なるデマ・うわさではなく、 民衆の関心・願望の表現という観点からも読み解 くことができる。上の風聞の記述から、当時の民 衆の天皇観や対外国問題(植民地問題)に対する 意識のほどがが、はっきりと読み取れる。 この点については佐々木氏の分析を引用しよう。

 これは全体として、天皇の西国巡回についての 風聞である。ここでもこの巡回の歴史的意義につ いては別のこととしなくてはならない。ただ、 ひと言だけいえば、(h)の記述が、天皇 にたいする何程の感懐をも含んでいないことに注 意しておくべきであろう。それは「民衆の世直し的願望を天 皇に吸いあげ、天皇を解放者・支配者として浸透 させようとした」新政府の「御一新」「王政復古」 イデオロギーによる民心把握が全く成功していな いことを、見事に示しているからである。

 その上でこの風聞について指摘しておかねばな らないことは、この天皇の西国巡回が、民衆の中 に秘められている植民地化の問題と結びつけられ ているということである。しかしながらこのこと が、露わには、植民地化の危機感とは結びつけら れていないということに、さらに注意する必要が あろう。

 或いは、(g)(h)と(i)との関連はそのことを示す のかも知れないが、少なくとも(g)(h)を読む限り では、記述はきわめて淡々としているといえる。 そしてそれは記述のしかたの問題ではなく、風聞 そのものと、それをうけとっている者のうけと り方がそのようなものであることを示しているで あろう。とすると、この風聞は、一面ではすでに、 民衆の間で、植民地化の問題が危機感と切り離さ れて広まっているということをも示していること になる。

 ここにみられる一般民衆の醒めた(というより 私は「健全な」といいたい)天皇観が、どうして 新政府の「王政復古」というイデオロギー(虚偽 意識)に収奪されていったのかという問題が、この稿のテーマの核心 のつもりである。いずれその問題をじかに扱うこ とになるはず…なのですが、どうなることやら、 いまのところ見通しがつきません。

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