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『大日本帝国の痼疾』(13)

明治維新と昭和維新運動の類似性(2)


 昭和維新は第二の明治維新とも呼 ばれている。ともにその運動理念の中心が天皇 (制)にある点に大きな類似性がある。しかし、 昭和維新は、明治維新が創り出した明治国家の 破壊こそをその目的としていた。

 昭和維新は、1929年の世界恐慌の一環と しておこった農業恐慌を背景としている。つまり 近代資本制の内部矛盾の激化が、その原因である。 これが昭和維新運動を主導した昭和超国家主義の 時代的背景である。これに対して、明治維新の原 因をなした幕末インフレは、新条約締結による開 港にともなう外部的なもの(政治問題)と観念さ れていた。経済発展はせいぜいマニファクチユア 段階であり、産業革命も原蓄もみられず、資本制 は成立期にはいろうとしていたばかりだった。

 このような根本的な経済的条件の相違にもかか わらず、「秘訣」と昭和超国家主義とは、その天 皇観において思想的一致がみられる。「秘訣」に みられる能動的ニヒリズムは、昭和維新運動の 頂点とも言うべき2・26事件をひきおこした皇道 派青年将校の、「革命」の挫折にたいする絶望的 な憤怒のなかに、その表現をみいだすことができ る。近藤さんは、2・26事件で中心的役割を果たした 青年将校・磯部浅一の獄中手記を引いている。

 天皇陛下は15名の無双の忠義者を殺されたので あろうか、そして陛下の周囲には国民が最もきら っている国奸らを近づけて、彼らのいいなり放題 におまかせになっているのだろうか、陛下われわ れ同志ほど、国を思い陛下のことをおもう者は日 本国中どこをさがしても決しておりません、その 忠義者をなぜいじめるのでありますか、朕は事情 を全く知らぬと仰せられてはなりません、仮りに も15名の将校を銃殺するのです、殺すのでありま す、陛下の赤子を殺すのでありますぞ、殺すと言 うことはかんたんな問題ではないはずであります、 陛下のお耳に達しないはずはありません、お耳に 達したならば、なぜ充分に事情をお究め遊ばしま せんのでございますか、なぜ不義の臣らをしりぞ けて、忠烈の士を国民の中に求めて事情をお聞き 遊ばしませぬのでございますか、何というご失政 ではありましよう。

 こんなことをたびたびなさりますと、日本国民 は陛下をおうらみ申すようになりますぞ、菱海 (注-磯部の戒名)はウソやオベンチヤラは申し ません、陛下のこと、日本のことを思いつめたあ げくに、以上のことだけは申し上げねば臣として の忠道が立ちませんから、少しもカザらないで陛 下に申し上げるのであります。

 陛下日本は天皇の独裁国であってはなりません、 重臣元老貴族の独裁国であるも断じて許せません、 明治以後の日本は、天皇を政治的中心とした一君 と万民との一体的立憲国であります、もっとワカ リ易く申し上げると、天皇を政治的中心とせる近 代的民主国であります、さようであらねばならな い国体でありますから、何人の独裁をも許しませ ん、しかるに今の日本は何というざまでありまし ようか、天皇を政治的中心とせる元老、重臣、貴 族、軍閥、政党、財閥の独裁の独裁国ではありま せぬか、いやいや、よくよく視察すると、この特 権階級の独裁政治は、天皇をさえないがしろにし ているのでありますぞ、天皇をローマ法王にして おりますぞ、ロボツトにし奉って彼らが自恣専断 を思うままに続けておりますぞ。

 日本国の山々津々の民どもは、この独裁政治の 下にあえいでいるのでありますぞ。

 陛下なぜもっと民をごらんになりませぬか、日 本国民の九割は貧苦にしなびて、おこる元気もな いのでありますぞ。

 陛下がどうしても菱海の申し条をおききとどけ 下さらねばいたし方ございません、菱海は再び陛 下側近の賊を討つまでであります、今度こそは宮 中にしのび込んでも、陛下の大御前ででも、きっ と側近の奸を討ちとります。

 おそらく陛下は、陛下の御前を血に染めるほど のことをせねば、お気付きあそばさぬのでありま しょう、悲しいことでありますが、陛下のため、 皇祖皇宗のため、仕方ありません、菱海は必ずや りますぞ。

 悪臣どもの上奏したことをそのままうけ入れあ そばして、忠義の赤子を銃殺なされましたところ の陛下は、不明であられるということはまぬかれ ません、かくのごとき不明をお重ねあそばすと、 神々のおいかりにふれますぞ、いかに陛下でも、 神の道をおふみちがえあそばすと、ご皇運の涯て ることもございます。


 おなじ青年将校村中孝次の手記(「丹心録」) もそうなのだが、とくに磯部のものは村中のスタ ティックな表現にくらべ、ダイナミックなそれで あって、超国家主義の思想的特徴をティピカルに 示す構成要素にみちている。すなわちあの聖?三 位一体の原理 - 革命思想としての能動的ニヒ リズムが、政治哲学としてのテロリズムが、世界 観としてのアナーキズムが、そこにはふんだんに ばらまかれている。

 磯部の天皇観は、変態革命の思いがけない蹉跌 による、ザインとしての天皇への失望と、それに 対応してゾルレンとしての天皇がそのペガサスの 翼を溶かされあえなく地上に転落してしまったこ とへのいかりとによつて分裂しており、その裂け 目から暗黒の虚無が発生している。その天皇信仰 解体のプロセスは、今上天皇が磯部らを「国賊叛 徒」とよび、彼らの「革命」を「日本もロシアの ようになった」とみなしたときの、

「今の私は怒髪天をつくの怒りにもえています、 私は今は、陛下をお叱り申し上げるところにまで、 精神が高まりました、だから毎日朝から晩まで、 陛下をお叱り申しております。(行改)天皇陛下、 何というご失政でありますか、何というザマです、 皇祖皇宗におあやまりなされませ」

という言葉に、あらわれている。そして奉勅命令 の欺瞞性を見抜いたとき、磯部ははじめてニヒリ ズムの能動性を獲得した、といってよい。じぷん が「小悪人」、「小利巧」、「小才子」、「小善 人」だつたから抵抗できなかつたのだといい、

「二月革命の日、断然奉勅命令に抗して決戦死闘 せざりし吾人は、後世、大忠大義の士にわらわる ことを覚悟せねばならぬ」

という認識にとうたつするのである。

 2・26叛乱のこの青年将校の思想が、日本の単純 素朴な伝統右翼や国家主義者のそれとも、幕末の 排外主義的な天皇信者のそれとも根本的に異形で あるてんは、その近代性にある。それは、明治国 家を天皇機関説国家ととらえ(それだけなら軍部 ・民間右翼が統帥権干犯としてこぞって政府を批 判したことと変わりはない)ているてんであつて、 そこで天皇機関説を「進化」のために、つまり歴 史的必然のために、承認しているのである。

 「天皇機関説日本をさらに一段高き進化の域に進 ましむるを任とした」にもかかわらず、そのよう な国家の「機関説的奉勅命令」をうけいれてしま ったことに慙愧したわけだ。

 磯部は維新後の日本が『近代的民主国」である ことをくりかえし主張している。「高天ケ原への 復古革命論者」は「共産主義」者と同様磯部の拒 否するところであった。このような磯部の合理的 政治思想が、北一輝に負つていることはいうまで もない。「日本改造法案」の一字一句を実行しよ うとした磯部にとって「法案はわが革命党のコー ラン」であって、それゆえ法案が「国体」に抵触 するのではないかと危ぶんでいる他の同志は「不 徹底なる者」ということになるのである。

 これについてはおなじ皇道派といっても村中の 見解とおおいにちがう。村中にあつては2・26の行 動は北の法案を実現することにあつたのではなく、 あくまで『精神革命」を企図したのであり、した がって「クーデター」を否定している。村中の手 記には反政治的かつ反権力的思考がつらぬかれて おり、天皇信仰は最終的に解体していない。他の 青年将校もおそらく村中の発想とよく似たパター ンのはずで、そうであつたからこそ2・26「革命」 は敗北を喫したのである。

 つまり磯部の思想だけが特異なのであり、その 特異性はちようど「秘訣」の思想が他の幕末志士 の思想のなかにしめる特異性とパラレルである。 尊攘激派の思想が ― すでにみたように坂下門外 の変を画策した大橋訥庵には天皇(制)への不信 がきざしていたし、さらに反革命的な8・18政変以 後の情況ではそれはよりデスペレイトな様相を呈し た。たとえば禁門の変における真木和泉の武カに よる天皇の意志の変更 ― しょせんは日本政治 思想史の特質である「諌争」の思想の圏内にあり、 忠誠のカテゴリイにぞくするものであつだ (葦津珍彦)。

 昭和の皇道派もそのような伝統を踏襲している。 しかし北や磯部の能動的ニヒリズムが超国家主義 の思想的特徴をなす〝順逆不二″の論理にみちび かれて生成したことは、まちがいない。順縁と逆 縁との一致を説く法華の教理は、忠誠と反逆との 一致、天皇への忠誠をつきつめれば反逆に転化す るという論理に発展する。「秘訣」の思想構造も これとおなじメカニスムをもっている。近代性と はそのような非ヨーロツパ的性格を意味している。

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