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『大日本帝国の痼疾』(2)

『「英将秘訣」論』のモチーフ


 近藤さんは、マルクスを引用してフランス二 月革命の「喜劇」から説き起こしている。そして 『「英将秘訣」論』のモチーフを次のように述べ ている。

(『二月革命の「喜劇」』については次の記事を 参照してください。)

第693回 12月28日:唯物史観と国家論の方法(15)「ブリュメール十八日」(1)

第694回 12月29日:唯物史観と国家論の方法(16)「ブリュメール十八日」(2)

第695回 12月30日:唯物史観と国家論の方法(17)ヨーロッパ革命の本質


 本稿で問題にすることはもちろん、二月革命の 喜劇についてではない。あたらしい革命がその胎 内に過去のふるい伝統的要素をひきずっているこ とが、それどころかそのふるい伝統的要素じたい が革命の有力な契機となることが、歴史的必然で あるような、おなじ19世紀の日本の明治維新の 悲劇について、である。

(中略)

 革命の復古的理念としての「過去の亡霊」が同 時に、明治維新の近代的理念(「文明開化」= 「旧来ノ陋習ヲ破リ、天地ノ公道ニ基クベシ」 (五ケ条誓文))を意味し、その根元が天皇 (制)であったから、このような二重構造を批判 するためには、マルクス主義・アナーキズム・自 由主義などの西欧近代思想が不十分であったこと はいうまでもない。そのためには第二次世界大戦 の敗北をまたねばならなかった ― そこでは近 代思想もまた死を刻印された ― が、ここでは 幕末―維新期の様々な思潮のうち王政復古思想の 側に、その究極的価値の源泉である天皇(制)を 超克する可能性を秘めた思想が、当時すでに存在し ていたことを、指摘してみたい。それは「英将秘 訣」とよばれる断簡で、その標題が示すように英 雄たるべき心得を箇条書に書き綴ったものである。 この、いかにも封建社会の終末を象徴する幕末期 の産物としかいいようのない奇怪な文言の分析 が、ここでの課題である。

 ここで、明治維新の「悲劇」の根源として指摘 している「二重構造」とは、私が「痼疾」と言って いること、つまり外見的にはプロシャ流の立憲的専 政君主制と復古されたアジア的デスポティズム という政治形態の二重性と別のことではないだろう。

 さて、「英将秘訣」は全90ヶ条の箴言から成る。 これを近藤さんは次の六つの要素に分類して、 この分類の順に論を進めている。

一、能動的ニヒリズム
二、政治的テロリズム
三、アナーキズム
四、国学(神道)
五、愚民観
六、権力志向

 もちろんこの分類は便宜的なものであり、それ ぞれのファクターはとうぜん重なりあう。近藤さ んはこの分類について次のように解説を加えてい る。

 能動的ニヒリズムが政治行動に走れば、容易に テロルを誘発するだろうし、アナーキズムのもつ いっさいの権威にたいする破壊衝動は、前二者に もみられる精神の傾向でもある。要するにこれら 三者は区別することが困難なように、思想の聖 (?)三位一体をかたちづくっている。

 第四の特徴としてあげた国学ないし神道は、 いうまでもなく幕末に繁栄をきわめ、明治国家の 完成とともに凋落した平田派のそれをさすが、 「英将秘訣」が従来いわれてきたように坂本竜馬 の手になるものではなく、平田派国学者グループ の手にかかるものであることが、今日ではほぼ通 説になっている。このことはのちに触れるとして、 これら三者の思想的囚子を包括しているのが幕末 国学(神道)ということになる。正確にいえば、 幕末国学を母胎にしてこれら三者の思想的要素が 生まれた。ただその生まれかたに、ある種の突然 変異のように、飛躍と断絶があり、そのことを私 は縷々説明するつもりでいる。結論的にいえば、 「秘訣」にそのような特異性をあたえたものは、 幕末期(家政以後)のかこくな政治情況そのもの であるということになる。

 愚民観と権力志向は、能動的ニヒリズムの精神 的属性ともいえる。また愚民観は、「マキャベリ ズム」を連想させるが、ヨーロッパたると日本た るとを問わず、封建支配者の普遍的な民衆観とい えよう。さらにファシズムの心理とつうじるよう である。

 権力志向は、古代から現代にまでひろくみられ る政治的人間の心性だが、愚民観と比翼連理の関 係にあるものだろう。

 幕末を主導したイデオロギーはいわゆる「尊王 攘夷論」である。「英将秘訣」が表明するイデオ ロギーが、一般に流布されていた「尊王攘夷論」 とは「ある種の突然変異のように、飛躍と断絶」 があり、特異なものであることが指摘されている。

 では一般に流布されていた「尊王攘夷論」とは どんな思想なのか。『「英将秘訣」論』の本文に 入る前にその学習をしておきたい。

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