2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
第783回 2007/04/27(金)

《滝村国家論より》:「ファシズム」再論(16)

「ファシズム」運動の社会的担い手


 「ファシズム」再論(12) で紹介したように、丸山さんはファシズム運動の社会的担い手 を「小ブルジョア層」ないし「中間層」として、それを 二つの類型に分けて論じた。

 第一類型
 小工場主、町工場の親方、土建請負業者、小売商の店主、大工 棟梁、小地主、乃至自作農上層、学校教員、殊に小学校・青年学校 の教員、村役場の吏員・役員、その他一般の下級官吏、僧侶、神官、 というような社会層

 第二類型
 都市におけるサラリーマン階級、いわゆる文化人乃至ジャーナリス ト、その他自由知織職業者(教授とか弁護士とか)及び学生層

 そして、ドイツやイタリアでは第二類型の知識人・学生が大きな 積極的役割を果したのに較べて、日本では第一類型の中間階級が 運動の積極的な担い手となり、「ファッショ的」国家支配の下士官 的役割をも果した、と主張している。「知識人・学生などのインテリ に関しては、次のように述べている。

『ドイツなどではともかく一流の学者教授がナチの基礎づけをやった わけですが、日本ではどうでしょう。むろんファッショのお先棒をか ついだ学者もありましたが、まず普通は表面はともかく、腹の中では 馬鹿馬鹿しいという感じの方が強かったようであります。』

『……インテリは日本においてはむろん明確に反ファッショ的態度 を最後まで貫徹し、積極的に表明した者は比較的少く、多くはファ シズムに適応し追随しはしましたが、他方においては決して積極的 なファシズム運動の主張者乃至推進者ではなかった。むしろ気分的 には全体としてファシズム運動に対して嫌悪の感情をもち、消極的 抵抗をさえ行っていたのではないかと思います。これは日本のファ シズムにみられる非常に顕著な特質であります。』

 このような主張が随所でみられるという。この見解に対して、 滝村さんは次のように手厳しく批判する。

 ここでは、すでにすっかりおなじみになったラスウェル流の権力 =心理的服従説が、
<いわば面従腹背で、「ファシズム」や「ファシスト」権力に腹の 底から同調し服従していたわけではないから、「ファシズム」の思 想的同調者や「ファシスト」の協力者ではなかった>
という具合に、戦前・戦中の左翼的・進歩的知識人の戦争協力と 「ファシズム」責任を、ゴマかし、それをそっくり、先の日本 的中間層を戴く一般庶民大衆の側に、転嫁するための道具として使 われている。

 全くとんでもない野郎だが、インチキ理論によるインチキな自己 【と同類の知識人の】弁解なんて、シャレにもならない。

 しかし特定の人物の思想的本質は、彼が心の中という広い精神 の片隅に密閉していたかもしれない、一粒の大事な思いなどによっ てではなく、彼が実際に活動した、その客観的な社会的性格によっ て判定さるべきであろう。腹の中でどう思っていようが、彼らが学 者・知識人としての学識・筆力と影響力のすべてを縦横に駆使し て、「ファシズム」思想の紹介とその正当性を高唱した多数の著 書・論文を公表し、さらに軍事官僚や革新官僚の内外国家政策の理 念的意義づけと立案に、積極的に参画したとすれば、彼らはドイツ におけるC・シュミットやO・ケルロイターなどと全く同様、まざ れもなく「ファシズム」学者・思想家であり、「ファシスト」への 協力者に他ならない。

 それにもう一つ、忘れてはならないことが.ある。「ファシズム」 は、少なくともその根本理念と思想的骨格に関する限り、先行者ム ッソリーニの試行と経験を大きく止揚する形で、ヒットラー一個の 思想的独創によって生み出された。ところがわが国の場合、「日本 ファシズム」の政治的中枢をなした軍事官僚や革新官僚が、軍人な いし官僚として包懐していた素朴な国家主義的意識に、「ファシズ ム」思想としての理論的骨格と体系的連関を与えたのは、通俗マル クス主義や「左翼転向者」であった。そしてさらに、彼らと思想的 にも人脈的にも錯綜するが、当時左翼的・進歩的知識人を代表した 大学教師、名指していえばとくに東京帝大・東京商科大(一橋大) を中心とした、多数の経済学者・社会学者・歴史学者・政治学者た ちが、これに直接間接に協力したことを忘れるわけにはいかない。

 この意味で、彼らの「ファシズム」責任たるや、極めて大なので ある。ついでに附言しておけば、天皇制イデオロギーとしての「国 体論」自体の、「ファシズム」的改作を断行【とくに『臣民の道』 をみよ】したのも、通俗マルクス主義の影響をうけた革新官僚や 「左翼転向者」であった。

 第一類型の中間層が「ファシズム」国家的支配の下士官的役割を 果したことの理由を、丸山さんは、彼ら中間層の国内的地位が、当 時の日本の国際的地位と大変よく似ていたことからくる共感に求 めている。

 これに対して滝村さんは、「この間題を解くには、かなりやっか いな実証史的作業が必要」といい、丸山さんのような機能主義的・ 現象論的レヴェルでのアナロジーにもとづく解釈ですむ問題ではないと 指摘している。

 さらに、日本的中間層を一括して同じ類型として扱うこと自体が 誤っているとし、階級・階層としての社会的存在形態における差異 と共通性から、次のように二つの部分に区別さるべきであると言う。

(1)
 「小工場主、町工場の親方、土建請負業者、小売商店の店主、大工 の棟梁」などの、いわゆる商工自営業者と「小地主、乃至自作農上 層」

(2)
 「学校教員、殊に小学校・青年学校の教員、村役場の吏員・役員、 その他一般の下級官吏、僧侶、神官」


 前者の商工自営業者は、資金・規模・技術などあらゆる点で、同 一産業・業種の大資本に、とうてい太刀打ちできない。従って、資 本制的な自由経済の競争原理が峻厳に貫徹されれば、その大部分は 自然淘汰されかねない必然性を、内包している。ということは、か なり強力な国家的保護が彼らの存在に必要であること、とりわけ資 金融資や税制上の特別優遇措置が、継続的に施行されない限り、彼 らが生き残れないことを意味している。そしてこのことは、小地主 や自作農についてもほぼあてはまる。

 ドイツやイタリーでは、「ファシスト」政治組織【ナチ党や国家 ファシスト党】は、商工自営業者・職人や農民からの支援を獲得す るため彼らの保護・援助政策を公約し、政権奪取後はそれなりに実 行したが、わが国の場合、国家的保護といえるような政策は、農民 層に対してだけであって、商工自営業者については殆んどみられな い。そうなると、とくに商工自営業者の側からの、政策的反対給付 なき「ファシズムL支持が、何故必然化されたかが問題になってくる。

 しかしこの問題を解くためには、外からの学校教育やマス・コミ的 世論の不断の注入と、内における社会教育と家庭教育の伝統のなかで、 日々くり返されている彼らの手からロへの社会的な存在形態の特質が、 一体どのような精神世界を生み落してきたのかを、何よりも個々の職 種に即して、実証事実的に追究しなければなるまい。私が先に、やっ かいな実証史的作業といったのは、この点を考えてのことである。

 さて後者の下級官吏・教員・僧官・神官などは、近代天皇制国家 の存在、とりわけその国教であった「国体論」を日々念頭におき、 これと観念的・思想的に取り組むことが、そのまま彼らの手から口 への社会的活動と重なり合っている点で、特殊な観念的存在といっ てよかろう。

 むろん同じことは、下級官吏に対する高級官僚や軍事官僚につい て、教員・僧官・神官に対する大学の教師・研究者についてもいえ る。両者の違いは、高級官僚や軍事官僚が、近代天皇制国家を直接 運転している国家的支配者であり、大学の教師・研究者が、「国体 論」を決して信仰することなく、独自的研究の対象とするばかりか、 ときには左右の政治思想・イデオロギーにもとづいた、もっともら しい理論的改作・改竄さえ躊躇しないのに対して、彼らはもっぱら 後者の政治的また思想・イデオロギー的活動の忠実な受け手、それ も一般庶民大衆に較べればはるかに積極的な受け手だという点にあ る。

 ということは、彼らがそれだけ「国体論」をごく素朴に、そし て単純に徹底化された形で受容する、一般的傾向にあることせ示し ている。そこで、地域社会に居を構えている彼らが、内に農村の窮 状や大都市の政治的・文化的堕落と腐敗を眼にし耳にし、外に先進 諸外国による十重二十重の重圧をくり返し喧伝されたとき、経済的 窮状を救済し、内部的堕落・腐敗と外部的諸悪に断固たる破邪顕正 の鉄槌を下せる、強力で道義的な専制国家を望想したとしても、 むしろ自然の成り行きといってよかろう。

 今回で『「ファシズム」再論』を終了します。

 なお、今回の『「ファシズム」運動の社会的担い手』については これまでに何度か取り上げてきています。それらの関連記事を下に 紹介しておきます。

「非国民について」(1)

「哲学について」

そのとき「大国民」たちは?(4)

民衆の戦争責任・第Ⅱ部


今日の話題

(お休みです。)

スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/797-72c9371c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック