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第628回 2006年10月6日(金)


「ほんとうの考え・うその考え」―宮沢賢治の実験(5)
銀河鉄道の夜


 賢治の作品には宗教的とまではいかないけれどもきわめて倫理的な情操が色 濃く表されているものがある。信仰とは直接にかかわりないところで、賢治に とって倫理とはどのようなものだったのだろうか。

 その倫理の問題の要は法華経20章「常不軽菩薩品」ではなかったかと思われる。

 「常不軽菩薩品」は常不軽菩薩という人の次のような事蹟が書かれている。
 常不軽菩薩は、悟りを開くための坐禅や修行をしないし、お経もあまり読まな い。出あった人には誰に対しても「わたしはあえてあなたがたを軽んじたりし ません。あなたがたはやがて、菩薩になられる人で、最高の悟りに達せられる 人です。だから、じぶんはあなたがたを礼拝します」と、礼拝だけしかしない。 それ以外のことはなにもしない。常不軽菩薩はそういうお坊さんです。それは 誰だったかというと、終わりの所で世尊が、それはかつての自分自身だった 、わたしはその生まれ変わりだ、と言いいます。

 賢治の童話のなかには虐げられた人、差別された人、弱小な人、動物とかに たいする一種のシンパシーが流れている作品が多い。それらはごく普通のわか りやすい倫理です。しかし、賢治が描いている最高の倫理は、それほどわかり やすいものではない。それは、たとえば「銀河鉄道の夜」のなかの「烏を捕る 人」をめぐるジョバンニの心の動きの中に読み取ることができる。


 「八 鳥を捕る人」より

 鳥捕とりとりは、二十ぴきばかり、ふくろに入れてしまうと、きゅう両手りょうてをあげて、兵隊へいたい鉄砲弾てっぽうだまにあたって、ぬときのような形をしました。と思ったら、もうそこに鳥捕とりとりの形はなくなって、かえって、
「ああせいせいした。どうもからだにちょうど合うほどかせいでいるくらい、いいことはありませんな」というききおぼえのある声が、ジョバンニのとなりにしました。見ると鳥捕とりとりは、もうそこでとって来たさぎを、きちんとそろえて、一つずつかさなおしているのでした。
「どうして、あすこから、いっぺんにここへ来たんですか」ジョバンニが、なんだかあたりまえのような、あたりまえでないような、おかしな気がしていました。
「どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか」
 ジョバンニは、すぐ返事へんじをしようと思いましたけれども、さあ、ぜんたいどこから来たのか、もうどうしても考えつきませんでした。カムパネルラも、顔をまっ赤にして何か思い出そうとしているのでした。
「ああ、遠くからですね」鳥捕とりとりは、わかったというように雑作ぞうさなくうなずきました。


 「九 ジョバンニの切符」より

 ジョバンニはなんだかわけもわからずに、にわかにとなりの鳥捕とりとりがきのどくでたまらなくなりました。さぎをつかまえてせいせいしたとよろこんだり、白いきれでそれをくるくるつつんだり、ひとの切符きっぷをびっくりしたように横目よこめで見てあわててほめだしたり、そんなことを一々考えていると、もうその見ず知らずの鳥捕とりとりのために、ジョバンニのっているものでも食べるものでもなんでもやってしまいたい、もうこの人のほんとうのさいわいになるなら、自分があの光る天の川の河原かわらに立って百年つづけて立って鳥をとってやってもいいというような気がして、どうしてももうだまっていられなくなりました。ほんとうにあなたのほしいものはいったい何ですかとこうとして、それではあんまり出しけだから、どうしようかと考えてふりかえって見ましたら、そこにはもうあの鳥捕とりとりがいませんでした。網棚あみだなの上には白い荷物にもつも見えなかったのです。またまどの外で足をふんばってそらを見上げてさぎるしたくをしているのかと思って、いそいでそっちを見ましたが、外はいちめんのうつくしい砂子すなごと白いすすきのなみばかり、あの鳥捕とりとりの広いせなかもとがった帽子ぼうしも見えませんでした。
「あの人どこへ行ったろう」カムパネルラもぼんやりそうっていました。
「どこへ行ったろう。いったいどこでまたあうのだろう。ぼくはどうしても少しあの人にものわなかったろう」
「ああ、ぼくもそう思っているよ」
ぼくはあの人が邪魔じゃまなような気がしたんだ。だからぼくはたいへんつらい」ジョバンニはこんなへんてこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今までったこともないと思いました。
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