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440 「正義論」は「現実」とどう切り結ぶか(1)
効率優先社会への批判
2006年2月19日(日)


 私の関心に引き寄せて、これまでは「アイデンティティについて」という表題をつけてきた。今回からはテーマは「アイデンティティ」からは明らかに離れることになるので、表題に本来のテーマである「正義論」を取り入れ稿を改めることにした。ロールズの「正義論」の現実問題への応用編という意味合いとなる。土屋さんの著書「正義論/自由論」の第3章以降にあたる。
 今回のテーマはきわめて今日的である。現在進行中の「新自由主義」に依拠するコイズミの改革路線はまさに最悪の「効率優先社会」をつくりつつある。

 効率優先社会への批判は「実力主義=競争原理」と「効率主義」の2点について展開されている。

 ロールズの「正義の原理」のもとでは実力主義は認められない。実力主義はこの社会の不平等を助長こそすれ、決して解決することはない。しかしロールズは競争原理に留保をつけているが、全面否定をしてはいない。

 競争の原理を否定しないのは、「社会の活力を保持する」という効用面においてであり、「市場の自由にすべてをゆだねる」という手放しの自由放任主義を認めているわけではない。
 一つは、大前提として、「競争の公正な機会の均等」がなければならない。
 また、異なる才能と資質をもつ人間によって社会が構成されている以上、社会が不平等を結果として生み出すことは否定できないが、「正義の第2原理」に従って、その不平等の結果を競争のなかで破れ去った者の状態を有利にするために使われるべきであるという。たとえば、教育への助成・社会福祉・税金の軽減などを通して、競争に勝ち残った者のその成果をを自分だけで享受するのではなく社会的配分にゆだねよという。

 次に功利主義への批判。
 功利主義は「社会全体の幸福計算の総和が高まるように、個人は自分の幸福を追求すべきである」と主張する。
 この考えのもとでは、いつでも個人の自由は社会全体の効率のために犠牲にされることになる。「正義の第1原理」を選択した時、社会全体の効率を理由に「平等な自由の権利」を否定するいうな考えは否定されている。このことを土屋さんは次のように述べている。


 たとえば、奴隷制が正義にもとるということを、功利主義は説明することができない。奴隷制によって、社会が効率よく運用されるならば、奴隷制は認められてしまうことになる。たとえ、功利主義者が奴隷制に反対したとしても、思想家個人の感情であって、自分の理論とは矛盾しているのだ。
 これを、私たちのトピックスとして考えれば、「国内総生産」とか、「国民総所得」という統計上の計算が、個々人の幸福の増大とは直接関係がないことに対応している。世界第二位もしくは、世界第一位の経済大国などといばってみても、私たちの生活は、まったく貧弱である。



 「国内総生産」とか「国民総所得」という統計上の計算結果を提示して、日本は経済大国であるという。「国家の経済的繁栄が、そのまま日本人民衆の繁栄である」かのように、日本の民衆は錯覚させられている。
 このことに関連して、土屋さんはイギリスでの次のような見聞を紹介している。


 (土屋さんの下宿先の)大家さんは、ロシア占領後に、ポーランドから亡命してきた、ポーランド人であった。彼の家は、隣にあったが、三人の子供がいて、どれもが大学教育を受け、娘さんは音楽大学にいっていた。ご主人はもう相当な年になっていて、ハインツの缶詰工場に勤めていて、ポーランドの農夫という感じの好々爺になっていた。彼は、日本にもハインツの缶語は売っているというと、びっくりして喜んでいた。この老夫婦は、停年の年を迎えるので、ウェールズに土地を買って、そこに引っ越すということだった。ウェールズは、イギリスの田園地方で、美しい場所である。
 戦後に亡命してきたポーランド人が、ハインツの缶詰工場に勤めていて停年を迎えれば、ウェールズに引退することができる。私は心底羨ましかった。こんなことは日本では考えられない。停年後も働くであろうし、下手をすれば、相当過酷な労働条件のもとで働かなければならないのが、日本人の停年後の姿である。亡命者ではないのだから、田舎はあるかもしれないが、そこに引退して優雅に老後を過ごすなどということは、夢のまた夢である。

 生活の質の向上というスローガンは聞き飽きるほど聞いても、いっこうに庶民の現実とはならない。いたずらに「国内総生産」とか、「国民総所得」といった数字だけが、新聞にある。
 この日本の姿は、まさしく効率優先の社会の姿である。計算上の総和が、経済の指標であるのだ。

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