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277 日本のナショナリズム(30)
山田美妙の軍歌
2005年5月21日(土)


 「抜刀隊の詩」が表出したナショナリズムは山田美妙の軍歌に引き継がれて行きつくべきところまで 行きつく。すなわち「文明開化―洋学(モダニズム)」系の表出意識を源流とするナショナリズムは対外に目を向けた 「国軍=国家」イデオロギイに収束する。
 明治19年刊《新体詞選》におさめられた山田美妙の《戦景大和魂》は、外山の《抜刀隊》を 下敷きにして書かれているとみてよい作品だが、外山によってはナショナリズムが理念(国家) へのぼりつめてゆくものととらえられているのとちょうどうらがえしに、美妙はもっぱら理念が リアリズムにゆきついた地点(戦場)でナショナリズムを歌っている。<敵は幾万ありとても、 すべて烏合の勢なるぞ>という起句の発想は、<敵の大将たる者は 古今無雙の英雄で 之に従 ふ兵は 共に剽悍決死の士>といった、西南戦役における西郷や反乱軍兵士たちの印象をまだ のこしている外山の発想とはちがって、すでに対外戦争()に眼をむ けたものだといえよう。
 そしてまた、戦死するにしても命を安売りせずになるべく高く売れとか、なまぐさい血のにお いは敵方に死人が多いためだろうから、この好機をのがさず敵を揉潰せ ― といった展開のしか たは、美妙のナショナリズムが明治の初期資本主義的(あるいは商業的)リアリズムを経由する ことなしには思想化されえない質のものであったことを告げているとおもう。この詩が日清戦争 期を代表する軍歌のひとつとして大衆化しえた理由は、おもにそうしたリアリズムにあっただろ う。もちろんそれはじっさいの<戦場>では、ひとたまりもなくふっとんでしまうようなものに すぎないことは言うまでもないが―――。

 今回はこの菅谷さんの記述に付け加えることはない。 ヽ山(ちゅざん)仙士(外山正一)の「抜刀隊の詩」(全6連の うちの初めの2連と最終連を抜粋)と山田美妙の戦景大和魂(小山作之助が「敵は幾万」と改題して 作曲したときに選んだ3連。全部で8連ある。)を、参考のため以下に掲載した。これらの知識人たちは 自らは戦いに駆り出される心配のない場所にいて自らの内部に「死ぬる覺悟」などまったく持たな かっただろうし、万一戦争に駆り出されればさまざまな「恐るる事」や「たゆとう事」 に直面して身も心もただただおののくばかりになるに違いない。


抜刀隊の詩
 
我は官軍我敵は     天地容れざる朝敵ぞ
敵の大將たる者は    古今無雙の英雄で
之に從ふ(つわもの)のは    共に剽悍決死の士
鬼神も恥ぬ勇あるも   天の許さぬ反逆を
起しヽ者は昔より    榮えし例あらざるぞ
敵の亡ぶる夫迄は    進めや進め諸共に
玉ちる劔抜き連れて   死ぬる覺悟で進むべし

皇国の風と武士(もののふ)は    その身を護る靈の
維新このかた廢れたる  日本刀の今更に
又世に出ずる身の譽   敵も身方も諸共に
刃の下に死すべきぞ   大和魂ある者の
死すべき時は今なるぞ  人に後れて恥かくな
敵の亡ぶるそれ迄は   進めや進め諸共に
玉ちる劔抜き連れて   死ぬる覺悟で進むべし

我今に(しな)ん身は     君の爲なり国の爲
捨つべきものは命なり  假令ひ屍は朽ちぬとも
忠義の爲に捨る身の   名は芳しく後の世に
永く傅えて殘るらん   武士と生れた甲斐もなく
義もなき犬と云はるヽな 卑法者なそしられそ
敵の亡ぶるそれ迄は   進めや進め諸共に
玉ちる劔抜き連れて   死ぬる覺悟で進むべし



戦景大和魂

敵は幾万ありとても
すべて烏合(うごう)の勢なるぞ
烏合の勢にあらずとも
味方に正しき道理あり
邪はそれ正に勝ち難く
(ちよく)(きよく)にぞ勝栗(かちぐり)の
堅き心の一徹は
石に矢の立つためしあり
石に立つ矢のためしあり
などて恐るる事やある
などてたゆとう事やある

風に(ひらめ)く聯隊旗
しるしは昇る朝日子よ
旗は飛来る弾丸に
破るる程こそ誉なれ
身は日の本のつわものよ
旗にな()じそ進めよや
(たお)るる迄も進めよや
裂かるる迄も進めよや
旗にな愧じそ()じなせそ
などて恐るる事やある
などてたゆとう事やある

敗れて逃ぐるは国の耻
進みて死ぬるは身の誉
(かわら)となりて残るより
玉となりつつ砕けよや
畳の上にて死ぬ事は
武士の為すべき道ならず
むくろを馬蹄に懸けられつ
身を野晒(のざらし)になしてこそ
世にもののふの義といわめ
などて恐るる事やある
などてたゆとう事やある
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