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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
恥を忍んで、自作品の公開

<『影』より(2)>

<>詩文編(18)

 『影』の第一部「二二歳― 私の買いものは早すぎた」の残りの四作品と、第二部「二七歳― 私の買いものは遅すぎた」の〈「流れ星」「墨田川異影」「私のための賛歌」「雨の墨田川」「秋 空気のような歌」「冬 波の歌」は最終詩集に掲載しましたので、ここでは残りの〉八作品を転載します。

<二二歳― 私の買いものは早すぎた>


通過すべからざる隧道

誰もが入ることを拒むところだ
しかし そこを通過しなければ
ぼくは存在し得ないのだ

一歩足を踏み入れれば
もはや四囲は真の闇
自分の手さえ見えないのだ

見えないながらも目をみはり
音のない時空に耳すまし
ぶつかリつまずき遅々と進む

天井からは水が滴り
闇はじめじめと押し迫り
心がぶよぶよむくむのだ

もうどの位来ただろうか
疲れた しかし進まねば
ここには光は少しもないのだ

やがてはるかの彼方に
どの位の向こうかわからぬが
光が 絹糸のような光が

だが心せよ 先はまだ長いのだ
ぼくがやってきた行程は
もう入口も見えぬほど深いのだが

それでもいつかは絹糸も滝となり
鋭い光を一杯身にあびて
ぼくは目の痛さをこらえているだろう


蜃 気 楼

その時 俺の肉体は病み疲れていた
その時 俺は荒涼とした砂漠にいた
その時 俺は水に渇いていた
その時 俺はあえぎあえぎ、一かき一かき
     はいすすむことしかできなかった
その時 俺は血迷っていた
その時 俺の精神は乾きしなびていた
だからこそ俺の理性は
しなびた精神の命令に従って
すべての歯車を敢えて停止した
そしてしなびた精神は
無様な感情の支配下にあった
こんな時 俺は蜃気楼を見た
  (当然のことではなかったか)
こんな時に見た幻は
それが幻であることが判っていても
幻を真実と思い込んで
否 そう思わずにはいられず
あえぎあえぎ 幻つかもうと
一生一代の力振りしぼって追いすがり
ふと幻であることを思ってためらいもするが
俺は完全に止まることができず
すぐ忘れ
再び這いすすみ 追いすがり
やっと幻をつかもうとした時
幻は消えた
残る荒涼とした砂漠
裏切られたとか
  (当然のことではなかったか)
さて
俺は砂漠に蜃気楼を見てから
もはやオアシスのあることを信じなくなった
真のオアシスをも幻であることを恐れ
目を閉じて通過するであろう
俺は砂漠に行き倒れようとも
そこにオアシスを信じない!


恋の時空について

今初めての恋に身も心も浸り切れる若者達よ
心せよ!
恋の時空は歪んでいる。

          さて それから一歩を踏み出す前に
          まず変分法を学ぶべし
          そこでは性急であってはならないのだ
          直線が最短距離とは限らない
          君と彼女の 彼と君の
          測地線を焦らず確かに積分よ

     若者達よ
     もうひとつ この時空での
     命題証明の原理を教えておこう
     まず否定的事実を探すこと
     たとえ些細なものであっても
     それがふと思う疑惑であっても構わない
     否定的気配が瞬時でもあったなら
     まずその命題は真ならずと言えるのだ
     真理の肯定的証明法はありはせぬ
     肯定的証明は永遠になされない
     永遠に謎なのだ。

今初めての恋に身も心も浸り切れる若者達よ
心せよ!
恋の時空は歪んでいる。


豪 雨 の 夜

真に暗い夜であった
雨が激しく降り
ぼくらはずぶ濡れの肩を寄せあい
安らかな心の通いを感じながら
僕らの黎明を求めて歩いた

と 突然君は走り出し
ぼくから遁れて行くように
一寸先の闇に消えた
ぼくは呼び叫び
君の後を追ったのだが……

君は何処へ消えたのか
闇に溶けたのか
窪みに足を取られたのか
或は水に流されたのか
どこかで氾濫を告げる鐘

いつかぼくのまわりを
師と友と君の身よりが取り囲み
ぼくの腑甲斐なをなじり
ぼくに多大の責任を果せようとした
雨はあがった

ぼくは疼く胸に君をえがき
泣きながら街中をかけた
うっすらと明けていく
東の空を雲が走っていた
道を雨が轟々と流れていた



                 <二七歳― 私の買いものは遅すぎた>


私の悲喜劇

私の暦は
いつでもくるっている
それが私の喜劇だった

私の暦は
遅過ぎたり早すぎたりした
それが私の悲劇だった

たとば
草の芽がふくらみ初める頃の野に
真夏の太陽を持ちこんだり
未練もなく去ろうとする病葉のかげに
春の花を咲かせようとしたり

その度に 私は
苦い想いにうちひしがれた
私の暦を正そうと焦った

その度に 私は
正された暦に 安息を覚えた
私はその時私ではなくなっていたのに

昨夜
酒を酌みつつ華やかに笑ったものは
気がつくと一年前の花であった

一年前
私の心に咲き続けるものと思って
私の心が摘んだ花だった

今朝
自らの迂闊さに腹が立ち
後もどりした暦をちぎっていったら
一年先まで進んでしまった
私の暦はまだくるっている


秋の蛾

脳髄の振動には
歪められた波形しかない
と思っていると
胃も腸もうなだれてしまう
のがよく分かる。
生々しい創造の
ない心が堪えられないのだ
偉大でないのは屈辱だ
心は存在しなければ
一等よかったと思うのだ。
秋の日暮れがせまると
ヘパイストスのように
滅入ってしまう。
酒は
終結定理の先を考えて飲んでいると
にがい。

眠れない時に
夜空を眺めていると
歴史の教科書が
からから笑うのだ。
「自由」はすべて「必然」と
結婚してしまえばよい
確かによいのだ。
おれはふと気狂いに
郷愁を覚える
「あじさいの紫で
 髪をかざってくれ」
といって人は自殺するのだ。
「死ぬのはむずかしいので
 人は生きようと意欲するのだ」
と昨日弟に言ってやった。

さっぱりわけのわからな
自分の心に
脳髄の歪んだ波動を
正させるのはむずかしい。
おれはあと十年以上は
結局生きのびるのだ
と思っていると
電燈にぶつかって落ちた蛾
のもだえが
おれの眉毛にひびいた。
静かな人生もたくさんあるが
溌剌とした創造の
ない心が堪えられない
強くないのは屈辱だ。
女の心よりは
教員室の方が
中世の教会に近いと思うのだ。


秋の夜の哀歌

生成の貧しさはつらく
友らの無視のまなざしのようにつらく
そのつらさを耐え忍ぶため
 (何故堪えようとするのか)
かえって極限のつらさにまで追いつめようと
生活のあらゆる習慣にさからって
心はあてどもなくさすらおうとするのだ

ごみ箱を鼻のあたまであさる
野良犬の期待のないどん欲さで
雨戸をかたくとざしたまま
一日中床にくるまって本をむさぼり読んだり
出来るだけ人並みに着かざって
人ごみの中にうずもれようとしたり
お金をばからしい仕方で使いきるため
真夜中まで酒を飲み歩き
バァの女とたわむれたり

結局自分の貧しさに圧倒されて
もうそれ以上にはなり得ぬほどのつらさに
真夜中の車道を
一文ももたず
友情と孤独の本を宝物のように胸にだいて
鼻をすすりながら
涙をくしゃくしゃにしながら
同じ歌をくり返しくり返しうたい

――赤イクツハイテタ女ノ子――

足が枯れ草のようになって倒れたのだ

晩秋の夜の冷たさが
内臓の機能を狂わせ
道をよろめきながら
ふるえて
激しく嘔吐し
ふと凍死の誘惑を聞いた

無能のものには無能の悩み
出来損ないには出来損ないの死
未熟児のように哀れにちぢかんで
眠れ眠れ
朝は小春日のまぶしさに
見えない目をまばたかせ
お前を取りまく無縁の人たちにこそ恥よ
無能のものには無能の思想
出来損ないには出来損ないの忘却

正常な時間の動きを
再び迎えることがどんなにつらくとも
死のみを思っていられるわけではない
極限のみじめさをおどおどふりかえれば
涙のかれた歌がくすぶるようにうたわれていた

――赤イクツハイテタ女ノ子――

貧しいものには貧しいものを
何をもってしてもうめるすべがないのだ
この理不尽な宇宙の掟に
生命(いのち)はいたしかたなく従おうとする


北 風 に

北風よ
もっと強くもっと冷たく
吹きなさい
暗うつな雲は散って
夜空は深く澄み
星たちは賢くきらめく
あれはあなたの業(わざ)ですか

北風よ
もっと強くもっと冷たく
吹きなさい
私の心の燃えたつ炎を
吹き消しなさい
私の心のくもりをぬぐいなさい
 (この苦しみより
  むしろ
  私はこごえて死のうか)

あゝ 北風よ
あなたの力が衰えぬうちに
せめて
もとの私を戻してはくれまいか


人よ

人よ
ひとりさかずきを傾けてつつ
身にしみて感覚せよ
あてどもなく
質量のない汝の孤独を
胸つまるほどに感覚せよ

人よ
透明なさかずきの底に
映るものを冷やかに見つめよ
汝が生の光のいとわしき漂い
影となり得ぬものの刹那の影を
涙にじむほど見つめよ

あゝ人よ
たまさかのその影が
さかずきの底に消え入りつつ冷やかに
語ることばに耳傾けよ
 「汝よりもより光たるもの
  汝に行きずりの一瞥を投げかけるのみ。」




空の青さと雪の白さの
秒速三十万キロメートルの
絶え間のない光の乱反射の往復は
天と地に
さだかならぬ
漠々たる曲面をまばゆかせ
冷下二十度の青と白の
ここ広大な希薄の天地で
私たち 人の
激深の孤独さえ何であろう。
いかに生々しく激しく
溢れ溢れても
それは冷ややかに吸収され
拡散し
漲る風さえ吸収され
宵時の激風は拡散し
海抜三千メートルの
ここ非常の
光の天地に
もはや形はない。
ただ
稜線を疾走する氷風巻きくれば
青と白との入り乱れ
青と白との雪乱舞。


春 タンポポの歌

ふとわたる風にも
こそばゆい息吹き
あらゆるものの生命(いのち)の
幸福のさざめき



たんぽぽ たんぽぽ
春の妖精よ
おまえの幸福は
それではなかったのか
白くやわらかくふくらんで
高くたんたんと風にのり
遠くにかすむ山より高く舞い
たんぽぽ たんぽぽ
純白の踊り子よ おまえは何処へ流れるのか
何処へ流れる

私がかつて憧れた
重みのないかろやかな
第二の幸福の妖精よ
それはまだあるか
私にそれを教えよ


夏 夕焼けの歌

山岳の夕べ色は透明だ。
一日の行程を終えた山の男に
悔いない疲労の影ばかりが黒い。
尾根道に頭(こうべ)をたれてくっきりと黒い。

入り日に向かうあの敬虔な影が
街ではどんな愛憎に悩むのだろうか。
憧れた死のような静かな夕映えに
愛憎を溶かしこめよ、黒い影。
山は無言の母のかいなだ。

男がまもってきた一つの矜持。
は 町ではあまりにもろくはないか。
女の心のうちには通らない。
街でためらった涙を今流せ、黒い影。
街には顔をうずめるふくよかな胸がない。

山岳の夕べの色がうすやみにとければ
一日の行程を終えた山の男の
悔いのない疲労の影は一層静かだ。
明日(あす)愛憎の町に帰るにはあまりに静かだ。


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