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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
歴史隠蔽偽造主義者たち(12)

「慰安婦強制連行」捏造論(5)

 前々回、政治家たちの旧態依然とした「慰安婦強制連行」捏造論を取り上げたが、最近、慰安婦強制連行を巡って「新しさを装った歴史修正の動き」があるという。特集『「南京」と「慰安婦」』の慰安婦関係の第2記事がそれについて論じている。これを取り上げてカテゴリ「歴史隠蔽偽造主義者たち」を終わることにする。

 この論考の筆者は東京外国語大学教授の金富子(キム プジャ)さんである。その表題と枕の文は次の通りである。
根拠なき新説? 朴裕河氏をもてはやしていいのか 金富子

南京大虐殺や日本軍「慰安婦」をめぐり、「歴史修正」という名の偽造を恥ずかしげもなく"外交戦略"にする日本政府と自民党だが、新しい偽造とも言うべき根拠なき主張で日本の"リベラル知識人"をも取り込んでいるのが韓国・世宗(セジョン)大学校日本文学科教授の朴裕河(パク ユハ)氏だ。その主張の何が問題なのか。

 ティル・バステイアン著『アウシヴイッツと〈アウシュヴイッツの嘘〉』(石田勇治ほか編訳、白水社)という本がある。ナチによる大量虐殺の事実と、それを無害化・否定しようとする歴史の偽造について簡潔明瞭にまとめている。欧米では、歴史を偽造する人々を修正派」と呼ぶが、その議論の中心は犠牲者数を少なく疑わせて「大量虐殺」の信用失墜を図ることだ。「証拠」を創り出したりもする。

歴史修正を外交戦略に

 日本でも1990年代後半から「修正派」の台頭が著しい。その特徴は「南京大虐殺」否定、「慰安婦」否定を政府・政治家が率先して行なうことだ。10月に中国がユネスコ(国連教育科学文化機関)に申請した「南京大虐殺文書」が世界記憶遺産に登録されたが、これに対し日本政府はユネスコヘの分担金拠出の見直しに言及した。ここでも犠牲者数が問題にされ、「虐殺」の信用失墜が図られた。

 「慰安婦」否定ではどうか。2014年8月の『朝日新聞』「慰安婦」問題検証記事をきっかけに、安倍晋三首相は国会で同年10月「日本が国ぐるみで性奴隷にしたとの、いわれなき中傷がいま世界で行われている」と述べた。自民党の国際情報検討委員会も同年9月、「慰安婦の『強制連行』の事実は否定され、性的虐待も否定された」「国連をはじめ全ての外交の場、また官民挙げての国際交流の中で、国としての正しい主張を訴え続ける」と決議した。歴史修正は、政府・自民党の外交戦略になっている。

 歴史修正の動きは政府だけでない。最近は "新しさを装う" のが特徴だ。その例が韓国の日本文学研究者・朴裕河『帝国の慰安婦』(韓国語2013年、日本語版2014年)である。韓国では話題にならなかったが、兵士とは「同志的関係」、「協力者」などの記述に対して、昨年6月に「ナヌムの家」の被害女性9人が名誉毀損裁判(民事・刑事)を起こし、一躍知られるようになった。

 他方、日本ではリベラルとされる『朝日新聞』などメディアや一部の日本人(男性)知識人が、彼女の言説を「もてはやす」という構図になっている(同書への詳細な批判は鄭栄桓(チョン ヨンファン・明治学院大学准教授のブログ参照)
 では、どこが新しく見えて、新しくないのか。

少女は「少数例外」?

 まず、「慰安婦」にされた朝鮮人少女は、「少数で例外的」という朴氏の主張を取り上げよう。新しい説である。
 朴氏は同書で、
①韓国挺身隊問題対策協議会・挺身隊研究所が編んだ証言集(『強制的に連行された朝鮮人軍慰安婦たち』第5集、以下『強制5』、韓国語)の被害女性の証言を使って「わたしが一番幼かった。ほかはみな20歳過ぎ」
 と紹介したり、
②ビルマのミッチナで捕虜になり米軍政府情報局の尋問をうけた朝鮮人「慰安婦」20人の「平均年齢は25歳だった」
 などとして、朝鮮人「慰安婦」=少女は[少数で例外的]、しかも「軍の意思よりは業者の意思」―などと強調する。

 しかし
①について、実際に朴氏が使った証言集『強制5』をみると、証言者の連行時の年齢は皆「20歳以下」であった。
②のミッチナの朝鮮人「慰安婦」20人にしても、捕虜にされた時は「平均23歳」、2年前に徴集された時は「平均21歳」であり、しかも20人のうち未成年(国際法では20歳は未成年)が12人と過半数が少女だった。
 つまり、朴氏の「少女は少数で例外的」という新説は、創り出された「証拠」であり、根拠がない(Fight for Justiceブックレット3『朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任』御茶の水書房を参照)

背景に植民地支配と差別

 次に、「性奴隷否定」説だが、朴氏だけでなく、秦郁彦氏、(THE FACTS」(『ワシントン・ポスト』意見広告)、さらに安倍首相も先述のように主張してきた。

 朴氏の特徴は、朝鮮人「慰安婦」を、未成年ではない、〈愛国〉的役割や兵士との恋愛があったとか、慰安所での日本人兵士/朝鮮人「慰安婦」の関係を「同じ日本人としての〈同志的な関係〉」を強調することだ。
 なぜか。そうした特徴をもつ日本人「慰安婦」に限りなく近い「帝国の慰安婦」=新しい朝鮮人「慰安婦」像を主張するためと思われる。ここでは、民族の支配・被支配の関係が消える。しかし、その前提には、公娼出身の日本人「慰安婦」は性奴隷ではないという認識がある。

 問題は日本人「慰安婦」への認識不足を露呈していることである。2000年「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」や、最近刊行されたVAWW RAC編『日本人「慰安婦」』(現代書館)で解明されたように、日本人「慰安婦」は公娼制度下だけでなく、慰安所でも性奴隷であった。心情的交流や恋愛があったとしても同様である。問題の核心は、偶発的な個人関係ではなく、制度にあるからだ。

 朝鮮人「慰安婦」に少女が多かったのは、政策的裏付けがある。吉見義明氏が『従軍慰安婦』(1995年、岩波新書)で明らかにしたように、第一に、日本政府による「慰安婦」徴集(選別)に関する民族差別である。日本人女性の徴集は「満21歳以上で、性病のない、売春女性」(内務省警保局長通牒、1938年2月23日)に制限されたので、植民地から「未成年で、性病のない、非売春女性」が徴集された。第二に、「婦女売買に関する国際条約」など国際法の抜け道として植民地が適用除外された。第三に、日本軍将兵の性病対策として、植民地の性経験のない未婚女性がターゲットにされた(麻生徹男軍医の意見書など)。

 つまり、徴集には朴氏のいう業者ではなく「軍・政府の意思」が作用した。もちろん朝鮮人女性で未成年がターゲットにされた最大の理由は、日本による朝鮮植民地支配と民族差別・性差別にある。

秦氏が太鼓判押す

 興味深いのは、日本の歴史修正主義のマエストロともいうべき秦郁彦氏による朴氏への評価である。「慰安婦」制度を「公娼制の戦地版」と位置づける秦氏は、朴氏を次のように評価する(「慰安婦事実を見据えるために」『週刊文春』2015年5月7・14日号、鄭栄桓氏のご教示による)

 〈筆者(=秦郁彦)と似た理解を示したのは、韓国世宗大学校の朴裕河教授である。/しかし強制連行や性奴隷説を否定し、「韓国軍、在韓米軍の慰安婦の存在を無視するのは偽善」と指摘した彼女は、慰安婦の支援組織から「親日的」だとして提訴された。〉(抜粋)

 秦氏は、朴氏が「強制連行や性奴隷説を否定し」たと理解し、それを秦氏と「似た理解」と太鼓判を押したのである(ただし朴氏を提訴したのは「ナヌムの家」被害女性9人であり、先述の挺対協は韓国軍や在韓米軍の「慰安婦」被害者を支援しているので、誤解がある)。

 一見新しく見える朴氏の「慰安婦」理解は「修正派」であり、連行や慰安所での軍の関与と強制性を否定する点でも「河野談話」の破壊に行き着く。しかしもっとも問題なのは、秦氏の「慰安婦」理解を敬遠し「河野談話」を支持するのに、秦氏と「似た理解」を述べる朴氏を「もてはやす」日本のリベラル派なのは言うまでもない。

 ネット検索で、「誰のための和解なのかー『帝国の慰安婦』の反歴史性」(鄭栄桓イム・ギョンファ訳/青い歴史)の翻訳出版記念講演会の詳細を伝える『東アジアの永遠平和のために 朴裕河対鄭栄桓「慰安婦」評価巡り激突(ハンギョル新聞)という記事に出会った。紹介しておこう。
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