2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
永遠の不服従のために(27)

国家テロリズム(4)

 今回の表題は「敵」である。ならず者国家アメリカが敵視している国々は本当にアメリカの敵なのか。辺見さんは「米国の真の敵は、米国自身である」と断じている。そして、枕には次の文が使われている。
もし悪が他の悪を除去するために必要ならば、この悪の鎖は一体どこで終わりとなるのか?(H・R・ジョリッフ『ギリシヤ悲劇物語』の序説から内村直也訳)

 本文は次のように始められている。

 いっとき、私もそうしたい誘惑にかられたけれども、あの男の、およそ深みのある物語など想起させはしない、どこか下卑た面相を思い出しては、手びかえてきたのだった。ジョージ・W・ブッシュを、試みに、ソフォクレスの『オイディプス王』になぞらえてみること。乱暴な話ではある。でも、いずれ、だれかがやるのではないかと予感していたら、やはり、でてきた。栗田禎子さんが、「『テロを支援するシステム、国家』の正体」(『現代思想』2001年10月臨時増刊号)のなかで、いみじくも記している。
「今回、ブッシュ大統領が……テロの犯人を『草の根分けても』捜し出す決意を表明する映像が流されるたびに、筆者が感じるのは『オイディプス王』を読む時と同じ、あの独特の不安感である」と。

 栗田さんの論考は炭疽菌騒ぎ以前にしたためられたようだが、9月11日のテロだけでなく、あの不気味な白い粉を念頭におくとき、ブッシュ=オイディプスの牽強付会は、妙な現実妹を増すのである。それは、オイディプス王の支配する国には疫病が荒れ狂っていて、ある殺人者を罰することにより、その疫病がおさまるという神託が告げられるところから、この悲劇の妙所がはじまるためだ。当然、犯人逮捕こそが、国家の喫緊(きっきん)の要事となるが、ある日、盲目の予言者が登場して、オイディプス王にいうのである。
「あなたが捜している下手人、それはあなたご自身ですぞ」
 予言者はさらにいう。
「あなたの敵は、あなたご自身なのです」。
 そう、米国の真の敵は、米国自身である。まっとうな論者たちは、いまも昔も、そう主張している。ソフォクレス流にいうなら、ブッシュはいま、CIA長官でもあった父親やかつての大統領たちから継いだ、米国の、いわば"世襲的罪"と戦っているのであり、また、『オイディプス王』の啓示するところによるならば、アフガニスタンに対する報復戦争劇は、ブッシュの思惑とはまったく逆に、米国にとって9・11テロや炭疽菌騒ぎ以上の、悲劇的終幕へと向かわざるをえないはずなのである。

 「炭疽菌騒ぎ」は前回にも言及されていたが、私はその内容を詳しくは知らない。ネット検索をしてみたが、その全貌を詳しく書いている記事はなかった。手元にある書物を調べてみたら、中丸薫著『この地球を支配する闇権力のパラダイム』(2006年8月31日刊)という積ん読本で取り上げられていた。それを参考にまとめると、次のような事件であった。

 9・11テロの約1ヵ月後(2001年10月)、ホワイトハウスあての郵便物から炭疽菌の陽性反応が検出された。ブッシュはこの炭疽菌テロにアルカイダ・イラクが関与していると発表し、ハイジャック実行犯とされているモハメド・アタを容疑者と断じた。その後25日に国務省郵便室の男性職員が炭疽菌に感染し肺炭疽を発症していると診断された。さらにニューヨークの集配局でも炭疽菌が検出された。また「連邦議会上院議員あての炭疽菌には特殊な化学処理がされていて、このような処理はイラクが開発した方法だ」などというデマ報道もされて、アメリカ国民の中には「イラクが炭疽菌テロに関与している可能性がある」という印象が残された。この炭疽菌事件もイラク侵略の口実の一つとして利用された。その経緯については直接全文を転載しよう。

米マスコミは、米政府とグル!

 ところがである。12月17日には、一連の炭疽菌事件に使われた菌の出所は、米国内の施設である公算が強くなった。炭疽菌入りの封筒に「アッラーは偉大なり」と書いた犯人は、生物兵器の研究に従事した米軍関係者という「身内」である可能性が高まったのである。そして翌月には、メリーランド州ホォトディートリックにある陸軍の細菌戦争研究施設で、炭疽菌の芽胞を含む、27の細菌サンプルが紛失していたとの報道があり、炭疽菌テロの犯人が、同施設の関係者であることを暴露してしまった。

 その一方で、CIA当局者が菌提供者としてイラクを疑っているという報道もなされ、「プラハで少量の炭疽菌がイラク外交官からアタ容疑者に渡された」などという説も流された。

 マスコミがイラクの生物化学兵器開発への疑惑を煽る中、結局、米国内の単独犯説が有力となって、それも明確にされないままになった。アフガニスタン攻撃が一段落するとともに、マスコミは炭疽菌事件に代わって、今度はフセイン大統領の大量破壊兵器の問題ばかりが取り上げられるようになった。これによって、真相は霧の中に葬り去られ、それ以前に米国民の脳裏に焼き付けられた「イラク関与説」が払拭されるどころか、イラクの悪いイメージがますます強まった。

 9・11テロ以後に行なわれたアフガニスタン攻撃の当初から、ブッシュ政権は、イラク攻撃を主張していた。しかし、本当のところ、イラク攻撃の陰謀は政権発足時点からあった。イラクがテロ組織アルカイダと接点があるというのは、口実にすぎなかった。

 イラクによる大量破壊兵器の開発も、米国がイラク攻撃を正当化する最良の口実であり、「ウラン購入疑惑」もそのために捏造された。「1999年から2001年にかけて、イラクがニジェールから大量のウランを購入しようとした」「ウラン濃縮に必要な遠心分離器の部品となるアルミ管を手に入れようとしていた」などの情報は、ネオコンのパール国防政策諮問委員らを通じて、米政権中枢に流れ込んでいったものである。こうした経緯を分析すれば、米マスコミは米政府とグルだったことが明らかだ。

 炭疽菌の検出数や感染者が増えるほど、記事は大きくなり、同時テロと関連付け、イラクと関連付けられていった。こうして9・11テロの余波に便乗したマスコミのセンセーショナリズムで、市民の不安を利用して、イラク戦争か始まるのである。

 炭疽菌事件が思い掛けず長くなってしまったが、辺見さんの論考の続きも読んでしまおう。

 世襲的罪とはなんであろうか。それは、米国がもっぱら自国の利益のために、世界のあちこちに蒔いてきた、争いの種子である。米国が血まなこになって捜しているウサマ・ビンラディンその人が、冷戦期に、反ソ連・テロリストとして米国によって育てられた事実はいまさらいうまでもない。「わが国の敵は、自由な人々が、自分が好きなように生きることを否定しようとするテロリスト組織と国家の地球規模のネットワークなのである」(ラムズフェルド国防長官)というときの、その組織や国家とは、あたかも米国そのものなのであり、実際、その出自において、米国となんらかの関係をもつテロ組織が世界には驚くほど多い。米大統領たちが代を継いで重ねてきた世襲的罪とは、米国の、米国による、米国のためのテロの育成でもあったのだ。

 米国は、オイディプスがあの「三叉路の殺人」を忘れたように、数多くの殺人を失念している。あるいは忘れたふりをしている。1960年代にCIAがサウジ王制と結託し、中東各国の民主的運動を弾圧するためになにをやったか。イスラエルによるパレスチナ攻撃、虐殺行為をいかに裏から支援してきたか。ちょっと古いけれど、ベトナム戦争中、いわゆる「ベトコン狩り」を目的として南ベトナム軍・警察を動員して、大がかりなテロ工作(フェニックス作戦)を展開し、いかに多くの一般住民を殺したか。そのほか、グレナダ左翼政権の転覆、パナマ侵攻、ニカラグア介入、チリのアジェンデ人民政権への介入……などなど、枚挙にいとまがない。

 米国が方々に蒔いた悪い種が、出芽し、生い茂り、その怨念の蔓はめぐりめぐって、いま、米国の首を絞めあげるに至っているといってもいい。米国よ、お前の敵はお前自身なのだ――といういい方は、たしかに、まちかってはいないのだ。だが、よくよく考えてみれば、ブッシュはやはり、オイディプスではない。すべての真実を知ったオイディプス王は、みずからの手で両眼をえぐり取り、われを追放せよと叫びつつ、号泣したではないか。これは、とてもではないが、ブッシュの役柄ではない。オイディプスはその後、盲目のさすらい人となり、ありとあらゆる苦悩を経験することになる(「コロノスのオイディプス』)けれども、これまたいうもおろか、ブッシュからは想像もつかない。

 米英両軍がアフガン空爆を開始してから、1ヵ月以上の時をへた。ビンラディンの身柄拘束とテロ組織アルカイダの撲滅という当初の"限定的"な作戦目的は、本稿執筆時点で達成されておらず、常軌を逸する猛爆がただ恒常化しつつあるのみだ。ユニセフによれば、食料援助が行き渡らない場合、この冬、10万人以上の子どもが餓死するという。北部の山岳部などで、避難民90万人が、餓死ないし凍死する恐れがあるという情報もある。国内避難民は、このまま空爆がつづけば、最大で600万人になると予想されている。

 こうした国の体すらなさない嘆きの大地に、猛烈な爆発力をもつクラスター爆弾を撃ちこみ、最近では、小型核兵器並みの破壊力がある燃料気化爆弾(BLU82)まで投下したというのだから、米英軍というのは、いったい人間の神経を有しているのか、まことに疑わしい。BLU82の場合、1キロ4方を真空状態にし、人間が洞窟や建物のなかにいても、爆弾が酸素を燃焼しつくすため、窒息死するか急激な気圧の変化によって内臓破裂で死亡してしまうという。

 ブッシュはだれと戦っているのだろうか。どれほど殺せば、気がすむというのか。私の眼には、ブッシュの敵は、タリバンなどではなくて、やはり、ブッシュ自身であるように見える。ただし、彼は、オイディプスではありえない。ブッシュには語るべき物語がないからである。彼は他者の物語を、米国の基準で、抹殺しようとするばかりなのだ。ビンラディンには、たとえそれが悪であるにせよ、聴くべき物語がありそうだ。

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