2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
「南シナ海紛争」の検討(4)

 前回、岡田さんの「裁定は法的判断としては重要だが、南シナ海紛争の一側面にすぎない。国際政治と歴史など、総合的な角度からとらえなければ実相は見えない。」という提言から、『週間金曜日』に掲載されていた高野孟さんの論考を思い出して、その論考の一部を紹介したが、今回は岡田さんの論考に戻って、岡田さんが捉えた「南シナ海紛争の実相」を読むことにする。

 前回の引用文で高野さんは
『(安倍政権は)「対中包囲網]を作り上げるという冷戦時代そのままの時代錯誤の戦略設計にしがみついているために世界の潮流から独り大きく取り残されつつある。』
と述べていたが、この安倍政権の誤りは次のような「国際政治面の実態」を見損なったことに由来する。

 南シナ海紛争の国際政治面での背景の一つは、米国と中国の新旧両大国による勢力バランス変化である。韓国・台湾・東南アジア諸国連合(ASEAN)など、米国の旧来同盟国にとって中国が敵である時代はとっくに終わっていて、冷戦時代に生まれた米国中心の同盟構造の軸は脆弱になっていた。つまり、米国にとっては同盟の強化・再構築が急務になっていた。同盟には「敵」が必要である。米国の目的は対中強硬姿勢を示すことによって、東アジアにおける指導的地位を回復することであった。しかし、こうした背景から生まれた「米中対立」は「出来レース」だと、岡田さんは次のように述べている。

 中国反応で注目されるのは、非難の矛先を安倍政権に集中している点だ。それは対米非難に勝る。「テロとの闘い」に高い優先順位を置く米国にとって、折から発生した「ニース・テロ事件」やトルコのクーデター未遂、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備決定のほうが、南シナ海紛争より明らかに優先度が高い。その分、安倍政権が中国非難の急先鋒に躍り出た印象が突出し、それに中国が反論・対抗する構図が鮮明化しているのだ。

 地球規模の経済的利益を共有する米中両国は、南シナ海での軍事衝突は全く望んでいない。米国が進める「航行の自由作戦」では確執が目立つが、実際は「出来レース」の側面が強い。南シナ海紛争に対する米国の基本姿勢をみればその理由が分かる。「対中強硬姿勢を示すことによって、東アジアにおける指導的地位を確保する」のが目的であり、仲裁裁判は「米国の安保上の既得権益を法的に補強するため」。「航行の自由作戦」もこの目的達成のため、ASEAN諸国に「米国の指導力」を見せる、ある種の「演技」と言ってよい。中国もそれを理解しているから、反応には自制がみられる。

 裁定後も米中両国は、政府間ハイレベル協議と軍事対話・交流を積み重ね、米国は「自制」している。7月12日裁定からの1カ月をみても
 ▼米海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長が7月18-20日初訪中し、呉勝利海軍司令官と会談(同作戦部長は26日、ワシントンで、呉司令官との会談で、中国が南シナ海で防空識別圏を設定し、スカボロー礁で施設建設を継続すれば、米中関係に悪影響と懸念表明したと説明)
 ▼習近平国家主席は7月25日、訪中したライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)と会談「現行の国際秩序や規則に挑戦するつもりはない」と対米協調姿勢をアピール
 ▼米太平洋軍は8月8日、太平洋艦隊のスコット・スウィフト司令官が中国海軍北海艦隊の拠点がある青島(チンタオ)を訪問し、袁誉柏司令官と会談したと発表。

 中国としては、米大統領選挙の行方を見定めながら、外交駆け引きによって東アジアでの「米国の指導力」を一定程度満足させる妥協点を探るとみられる。

 このような「米中対立」の実相を理解できずに前のめりになっている日本の「ハシゴ外し」も見えてくる。

 当事者であるフィリピンのドゥテルテ政権も、6月末の就任後は中国を刺激する言動は一切控え、対話に向けた環境整備を模索する。大統領特使のラモス元大統領を8月8日に香港入りさせ、今後の交渉に向けた地ならしを開始。11日には中国外務次官を歴任した全人代外事委員会の傅瑩主任と会談した。さらに12日、滞在先の香港で記者会見し、「適切な時期に中国政府と公式協議を行うことを望む」と表明、平和的解決に向け、対話の継続を目指すドゥテルテ政権の意向を強調した。中国も香港入りを歓迎している。

 目立つのは、裁定を中国脅威論の材料として前のめりになっている安倍政権である。岸田文雄外相は8月11日、ドゥテルテ大統領と会談、中国への結束対応を呼び掛けた。しかし「対中包囲網」を築きたい日本と、中国との経済関係を重視し対立激化を避けたいフィリピンとの温度差が逆に浮かび上がる結果となったようだ。前述したように、フィリピンもベトナムも「反中同盟」に加わり、中国を敵視する気は一切ない。ドゥテルテは岸田に、中国に仲裁判断の尊重を求める考えを示したが、岸田に同行した外務省筋は「リップサービスの要素もある」と神経をとがらせたという。

 裁定直後の15日、モンゴルの首都ウランバートルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)の際の日中首脳会談で、安倍首相は「法の支配を重視し、力による一方的な現状変更を認めないとの原則を貫くべきだ」と主張。これに対し李克強首相は「日本は当事国ではない。言動を慎み、騒ぎ立てたり干渉したりしてはいけない」と強く反論した。さらにラオスのASEAN外相会議に向かう岸田が24日「法の支配の重視、平和的解決の大切さを訴えたい」と、仲裁判断に従うよう中国に促すと、中国がかみついた。外務省の陸慷報道局長は「日本は当事国でない。(日中戦争の)不名誉な歴史もある。あれこれ言う資格はない」と岸田非難のコメントを発表するのである。

 日本政府が過剰介入を続ければ、引くに引けない状況に陥り、場合によっては「ハシゴ外し」に遭う恐れすらある。中国は今後、沖ノ鳥島問題で日本に揺さぶりをかけるほか、米国の「航行の自由作戦」に対抗して、中国軍艦が日本領海を通過する中国版「航行自由作戦」を展開する可能性がある。中国海軍の情報収集艦が6月に鹿児島の口永良部を通過したのはまさにその一例であった。5日から、沖縄県・尖閣諸島周辺海域で多くの中国公船や漁船が航行し、日本側の抗議で外交問題に発展した。「仲裁判断を巡る日本の対応に反発した可能性は否定できない」(日本政府筋)との憶測も出ているが、根拠があるわけではない。在京中国外交筋は「8月1日の禁漁解禁で中国漁船が例年より大量に出漁し、監視に当たるため大量の公船が航行した。中国側に事を荒立てる気は一切なく、日本がなぜこれほど騒ぐのか理解に苦しむ」としている。

 尖閣諸島(中国名 釣魚島)問題以来、アジアで燃え盛る領土ナショナリズムをいかに鎮めるか。南シナ海は米国の湖でも中国のものでもない。そこで生きる住民の生活海域だ。国民国家の枠組を超え、共同管理・開発で共通利益を目指す思考を持たないと、領土ナショナリズムの魔力にはまるだけである。

 唐突ながら、上の赤字部分を読んで6年ほど前の記事『《続・「真説古代史」拾遺篇》(33)』を思い出した。日本海の島々は日本側の名称の他に中国・韓国・ロシアなどによる名称があるが、それを取り上げた時に、ちょっと横道に逸れて領有権を争っている問題に対する正鵠を射た意見として吉本隆明さんの「それはどちらの国のものでもない。地域住民のものだ。」という発言を紹介した。そして、私の言葉として「両国の地域住民の公平な利になるように共有すればよいのだ」と付言した。勿論その中には竹島(韓国名 独島)・千島列島(ロシア名 クリル)も含まれる。

 しかし、「両国の地域住民の公平な利になるように共有する」などという解決策は各国家が領土領海ナショナリズムに囚われている限り実現不可能な単なる理想論でしかない。

 次回から、「中国脅威論の信憑性」を「ナショナリズム」というイデオロギー(虚偽意識)の面から捉えてみることにする。
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