2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
「南シナ海紛争」の検討(3)

 仲裁裁定の骨格となっている「島か岩か」という判断の基準は「海洋法条約121条」に規定されている。次の通りである。

第121条 島の制度

 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう。

 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。

 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 さて、沖ノ鳥島の何が問題になっているのか。画像を『両岸論69号』から転載します。

沖ノ鳥島
(東京都島しょ農林水産総合センターHPから)

 沖ノ鳥島の大きさは、南北約1.7km、東西約4.5km、周囲約11kmほどのサンゴ礁の島である。最高標高は約1mであり、干潮時には環礁の大部分が海面上に姿を現しているが、満潮時には礁池内の東小島(旧称・東露岩)と北小島(旧称・北露岩)が50㎝ほど海面に頭を出し他は全て海面下に没する。つまり「海洋法条約121条」によれば、沖ノ鳥島は「島」ではなく岩礁ということになる。満潮時に50㎝ほど頭を出す「島?」の旧称をみると、その頃の日本政府は沖ノ鳥島を「岩礁」と認識していたのだろう。

 しかし現在、日本政府はこれを島と主張して排他的経済水域(EEZ)を設定している。これに対して中国・韓国が「岩だからEEZは設定できない」と主張している。これに対して日本政府は「島である」という主張を維持するために、1987年から約600億円をかけて防護壁の護岸工事を開始した。さらに「人間の居住または独自の経済生活」を可能にするため2005年から「海水温度差発電所」の建設実験を開始した。私は知らなかったが、この発電所案 は当時都知事だった石原慎太郎が提言した計画だと言う。しかし今日に至るまで発電には成功していない。つまり「人間の居住と経済生活」の維持という「島」の要件は今も満たしていないのだ。『両岸論69号』で岡田さんは「中韓両国は日本政府のウィークポイントを今後も突くだろう。」と述べ、その後の「南シナ海紛争」をめぐる日中両国の応酬を次のようにまとめている。

 北京が、南沙と沖ノ鳥島を政治レベルで連動させたのは2015年8月である。王毅外相がASEAN関連会議で、中国の埋め立てを批判する岸田外相に反論、沖ノ鳥島の防護壁に触れ「他人のことを言う前に、自分の言動をよく考えるべきだ」と述べたのである。

 昨年(2015年)11月、筆者も参加した武漢大学国際シンポジウムで、台湾の大学教授が「中国側の埋め立て工事は、日本の沖ノ鳥島を先例として倣ったのだ」と発言したのを聞いて、少し驚いた。北京は公式には「模倣」と言ってはいないが、新華社通信が7月4日配信した記事は、日本の中国批判を「二重基準だ」と指弾している。「日本は南海島礁の属性を疑いながら、他方で沖ノ鳥岩礁の属性には口をつぐみ、依然としてEEZを設け漁船や船員を不当に抑留している」。さらに「日本は米国に追随して自由航行を鼓吹しながら、他国の艦船がトカラ海峡などの国際海峡を平常通り通過したことに怒り狂った」と批判した。漁船、船員の「不当抑留」とはことし4月、日本の巡視船がEEZ内で台湾漁船を拿捕したことを指す。

 続いて岡田さんは「裁定は法的判断としては重要だが、南シナ海紛争の一側面にすぎない。国際政治と歴史など、総合的な角度からとらえなければ実相は見えない。」と指摘して、議論を進めているが、ここで思い出したことがある。『週間金曜日1116号(2016年12月9日)』の特集『「過去の戦争」「未来の戦争」』の中に「『「中国脅威論」にしがみつき、米中関係を読み間違い 世界の潮流から取り残される安倍政権』と題する高野孟さんによる論考があった。この論考も国際政治という角度から南シナ海紛争を論じている。この論文から安倍外交の対極にあるようなフィリピンのドゥテルテ大統領の見事な外交を論じている部分を転載しておこう。

 「中国憎し」でアジア情勢も世界情勢も目に入らず、安倍政権の外交戦略は冷戦時代そのまま。メディアもそれに乗っかって、米中開戦を煽る。未来の戦争を起こさせないための外交戦略が、今の日本には必要だ。

 外交とは本来、建前の裏には本音があり、もう一枚めくると、今までおくびにも出していなかった落としどころまで用意されているといったふうに、多次元方程式を巧みに操りながら最適解を探っていくクールな知的ゲームであるけれども、そこに愛憎とか好悪とかのエモーショナルなものを安易に持ち込んでしまうと、薄っぺらさを相手に見透かされてしまって何事もうまくいかなくなる。安倍外交がまさにそれで、中国が危ない、怖い、という「中国脅威論」に立って、日米軍事同盟強化を基軸として中国の軍事的台頭を牽制しつつ、周辺の国々を巻き込んで「対中包囲網]を作り上げるという冷戦時代そのままの時代錯誤の戦略設計にしがみついているために世界の潮流から独り大きく取り残されつつある。

 フィリピンとの関係が典型的で、日本は野田・安倍両政権を通じてフィリピンを"準同盟国"と位置付けて、新造の巡視船10隻の円借款供与、海上自衛隊の練習機5機の貸与を約束するなど事実上の軍事協力を進め、南シナ海でフィリピンが対中対決姿勢を強めるよう煽ってきた。ところが6月に登場したドゥテルテ大統領は「米国離れ」を宣言、7月には中国の南シナ海"領有"主張を全面的に退けた国際仲裁裁判所の判決が出たにも拘わらずそれで大騒ぎすることをせずに、逆に中国との和解交渉の準備に入った。同判決を機にフィリピンと連携して対中圧力を強めるつもりだった安倍政権は大いに当惑し、8月、遅れていた巡視船の最初の1隻を急ぎ届けるとともに、9月にはさらに大型の外洋活動可能な巡視船2隻を新たに供与すると発表した。

 ところが、10月に訪中したドゥテルテは「判決で勝利したが、われわれはそれを大声で宣伝して中国を怒らせるつもりはない。対立を続けて戦争になるか、兄弟のように平和に向けた話し合いをするかだ」と言って、習近平主席から領有権問題を棚上げにしてフィリピン漁民の同海域での操業を認める約束を引き出し、さらに中国が13項目2兆5000億円にのぼる経済支援を供与するとの合意を取り付けることに成功した。

 その直後にドゥテルテを東京に迎えた安倍は、呆然として為す術もなく、政府関係者からは「裏切り者め!」という声さえ漏れたが、仲裁裁判所の判決のキーポイントは「南シナ海には島は一つもない」と断定したことにあり、これでは中国よりよほど前から多くの"島"を実効支配し軍事建設を進めていたフィリピンやベトナムもマレーシアも立場を失ってしまう。そこを冷静に見ていれば、フィリピンは同判決を盾に中国を責め立てることはないと見通せたはずである。日本は「中国憎し」の色眼鏡で世界を見ているから目が曇るのである。

 もう一つフィリピン(とベトナム)の柔軟な外交政策がある。両国とも南シナ海で中国と対立はしていても、経済的な結びつきから中国を敵視してはいない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に、両国とも創設国として参加していることがそれを実証している。
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