2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
「南シナ海紛争」の検討(1)

今回からの参考書は「海峡両岸論 69号」ですが、矢吹晋著「南シナ海 領土紛争と日本」を併用します。それぞれ『両岸論69号』『南シナ海』と略記します。

 南シナ海紛争の沿革をさかのぼれば、日本が「新南群島の所属に関する件」を閣議決定した1938年にたどり着く。それ以来現在に至るまでの経緯については必要が出てきたときに触れることにする。

 現在、南シナ海紛争がにわかに大きくマスコミに取り上げられるようになったのは常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)による南シナ海紛争に対する仲裁裁定が下りたとき(2016年7月12日)からだった。その仲裁裁定にいたる経緯は次のようである。

 2013年1月、フィリピンが仲裁手続きを求めた契機は、中国が前年の4月にフィリピン・スカボロー礁を奪ったことであった。フィリピンの訴えの内容は

 中国の「九段線」には法的根拠はない

 中国の人工島は引き潮の時に露出する「低潮高地」か「岩」で、EEZ(排他的経済水域)や大陸棚の権利はない

 人工島などの開発は、国連海洋条約の環境保護違反
など15項目に及ぶ。

 この提訴に対し中国側は「認めず、参加せず、受け入れず」の姿勢をとり続けてきた。理由は
(1)
 中国フィリピン両国が合意した交渉による解決という二国間の取り決めに違反
(2)
 中国は06年に国連海洋法条約に基づき、強制的紛争解決手続きの適用除外を宣言した
(3)
 裁判所は領土主権と海洋境界画定問題について判断する権限はない
であった。裁定後も中国はこの姿勢を維持している。

 フィリピンは、中国が仲裁裁定を拒否したので、2014年3月に国連海洋法条約の強制的仲裁に提訴した。(『南シナ海』では提訴先を「海洋法常設裁判所」(オランダー・ハーグ)と書いている。)
 その提訴の内容を『南シナ海』からの転載するが、その内容はより詳細になっていて、紛争の舞台である南支那海の詳細な地図が必要なの、それも転載しておく。
南シナ海
フィリピンによる海洋法常設裁判所への提訴内容

 中国はいわゆる九段線によって、中国の「主権権」と「歴史的権利」を主張しているが、これは海洋法と相容れない。

 フィリピンEEZ内のスカボロー礁(=黄岩島)に中国はEEZや大陸棚を持たない。

 ミスチーフ礁(=美済礁)、セカンド・トマス礁(=仁愛礁)、スビ礁(=渚碧礁)は中国の領海、EEZ、大陸棚ではない。

 ミスチーフ礁、セカンド・トマス礁はフィリピンのEEZ、大陸棚の一部である。

 ガベン礁(=南薫礁)、マッケナン礁(=西門礁)、ヒューズ礁(=東門礁)は、低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚を持たない。

 ジョンソン南礁(=赤瓜礁)、クワテロン礁(=華陽礁)、ファイアリー・クロス礁(=水暑礁)は、EEZ、大陸棚をもたない。

 中国は不法にも、フィリピンのEEZ、大陸棚で生活資源を開発している国民と船舶の活動を妨げている。

 中国は不法にも、スカボロー礁で伝統的漁業に従事するフィリピン漁民の活動を妨げている。

 中国はスカボロー礁とセカンド・トマス礁で海洋環境を保護し保存する海洋法の義務を履行していない。

 ミスチーフ礁における中国の占領と埋め立ては海洋法の規定を無視したものだ。

 中国はスカボロー礁を航行するフィリピンの船舶と衝突するような危険な行為を行い、海洋法の義務を蹂躙している。

 2013年1月にフィリピンが仲裁を申請して以来、中国はセカンド・トマス礁でさまざまの干渉を行い、フィリピンの航行の権利を侵害している。

 この提訴に対する裁定の詳細は次の通りであり、フィリピンの主張がほぼ全面的に認められた。


 中国は海洋環境保護に関する条約義務に違反し、埋め立てや人工島造成によって、生態系やサンゴ礁に取り返しのつかないほど甚大な損傷を与えた

 中国は中国漁船によるウミガメやサンゴの密漁を容認

 中国はフィリピンの油田探査や漁民のスカボロー礁での伝統的漁業権利を不当に妨害し、フィリピンの主権を侵害

 中国公船は海洋の安全に関する条約義務に違反し、フィリピン船への接近を繰り返し衝突の危険を生じさせた

 中国は、仲裁手続き開始以降も南沙諸島で大規模埋め立てによる人工島の造成を行い、仲裁手続き中に対立を悪化させることを避ける義務に違反。

 ここまでの紛争は中国とフィリッピンとの間のスカボロー礁をめぐっての紛争だが、上の裁定の⑤で取り上げられている中国が非難されている「南沙諸島(スプラトリー諸島)で大規模埋め立てによる人工島の造成」問題までも視野を広げれば、南シナ海紛争問題は中国だけが非難される単純な問題ではない。『南シナ海』で矢吹さんは英『エコノミスト』誌(2015年3月2日)が掲載した「南シナ海実効支配競争」という下の地図を転載して次のように解説している。
ラプラトリー諸島

 これによると、埋め立て工事をやっているのは中国だけではない。中国のほかに台湾もベトナムもマレーシアもフィリピンもそれをやっており、滑走路建設(地図中の飛行機マーク)も中国だけではなく、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシアが以前から行っている。中国のスプラトリー諸島海域作戦は遅れて始まり、他の諸国の埋め立てはほとんど終わったときに、すなわち2014~2015年にかけて急激に行われた。

 日本敗戦から数十年に及ぶ沿岸諸国の実効支配競争と先行する滑走路建設は不問に付して、遅れてこの競争に参加した中国のみを非難し攻撃するのは明らかにフェアな態度ではない。この点で米国と距離をおく英誌の図1は比較的公平な態度をとろうと努めていることが察せられる。

 著者は2012年に書いた『チャイメリカ ー 米中結託と日本の進路』のなかで、「米中結託」をキーワードの一つに選んだ。ところが、その後、「米中結託」よりは「米中対決」が基調となったかに見える。米中関係の核心は「結託」ではなく「対決」ではないかという見方が広く行われている。著者によれば。これはメダルの表と裏である。どちら側から見るかによって見方は変わる。日本政府は米国政府に追随して、反中国を煽っているため、日本のメディア等は「対決」論一色だ。「攻撃的中国」の横暴に対して、日米協調により、「中国を封じ込める」と称する倒錯した議論が日本を席捲している。

 だが、これは特殊日本的な偏見、謬論にすぎない。ベトナムやフィリピンは、スプラトリー諸島の領有をめぐって中国と鋭く衝突しているが、両者ともに中国の提唱するアジアインフラ投資銀行には「創設国」として参加し、中国の提唱する「一帯一路」構想がグローバル経済の発展に役立つとする認識で一致している。アジアインフラ投資銀行の可能性を否定して、参加を拒否して、外野席で悪口ばかり繰り返す日本とは大違いなのだ。

 ベトナムもフィリピンも国益を第一に考慮して、近隣の大国とのつきあいを慎重に模索している姿の一端をこの一例からうかがうことができよう。

 こうした歴史的な事実を無視して、権力に追随して「中国脅威論」を煽る日本のマスゴミの論調にいたずらに捉われる愚民にはなるまいと、改めて自戒している。
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