2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
「尖閣紛争」の検討(2)

 日中両国は尖閣問題について2014年11月に「対話を通じて不測の事態を避ける」という合意を取り交わしたが、その後の両国はどのような動向を交わして行っただろうか。

 中国公船の尖閣水域への侵攻は2016年8月25日以降収まった。その理由をメディアは
『9月初め杭州で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議を前に「中国側が自制した可能性」がある』
と憶測していた。岡田さんはこうした憶測を「G20のスケジュールははるか昔に決まっていたのに…」と一蹴している。
 中国外交部は9日「中国固有の領土であり、争いのない主権がある」とした上で「正常なパトロールは中国固有の権利」と主張した。同時に4項目合意に触れ「双方が緊張や複雑化を避けるようにすべき」とコメントした。要するに日本に対し「事を荒立てる意図はない」とのサインを送ったのである。この間、中国の官製メディアが公船問題について一切報道を控えたことも、早期鎮静化を希望していた傍証になる。

 また、日時を少し遡ると、8月1日に中国漁船が大量に出漁し、それに伴って大量の公船が航行する事態が発生した。この事態に対して、直後に在京の中国外交筋が次のような説明をしている。
「8月1日の禁漁解禁で中国漁船が例年より大量に出漁し、監視に当たるため大量の公船が航行したのが実情。中国側に事を荒立てる気は一切なく、日本がなぜこれほど騒ぐのか理解に苦しむ」

 こうした中国側の説明には論拠がある。日中両国は1997年に漁業協定を結んでいる。それによると、尖閣諸島のすぐ北側に「日中暫定水域」を設定し、中国漁船が自由に操業することを認め、中国漁船の監視・取り締まりができるのは中国側である。

(ここで思い出したしたことがある。実はこの問題はすでに
『《米国の属国・日本》(12) <対中脅威論>』
『《米国の属国・日本》(13) <対中脅威論のジレンマ>』
で取り上げていた。参照して下さい。)


 こうした日米のやり取りについて、「海峡両岸論 第70号」は次のように論評している。

 2年前の秋、数百隻を超える中国漁船が、小笠原諸島付近でアカサンゴを密漁した時も「海洋進出を狙った偽装船」「乗組員に武装民兵」などの報道が目を引いた。領土・領海ナショナリズムにとりつかれると、「あちら」の非ばかりに目を奪われ、「こちら」の行為には無自覚になる。外務省の発表を鵜呑みにして、無理な「謎解き」をしたメディア報道は、テーマ設定自体の怪しさを疑わない「落とし穴」にはまった例だと思う。

 北京からみれば「日本政府はなぜこの時期に騒ぐのか?」という疑問こそ合理的なテーマ設定になる。ちょうど8月末、防衛省は2017年度概算要求で16年度当初予算比2・3%増の5兆円を超す過去最大額を要求した。海上保安庁も尖閣などの警備強化のため、巡視船と巡視艇計9隻を新造する7%増の概算要求を出した。眼鏡をかけ替えただけで「中国の脅威をあおる安倍政権が、安保法制の実行を急ぐため公船侵入を利用したのではないか」という全く「別の風景」がみえてくる。


 続けて岡田さんは「中国海軍の尖閣接近」問題を取り上げている。

中国海軍の尖閣接近

 ことしは6月にも、尖閣や沖永良部島で中国海軍の行動が活発化し、日本政府は北京に厳重「抗議」や「懸念」表明した。中国の行動は一見挑発的にみえるが、接続水域と海峡通過は、国際法上認められた合法活動である。「中国軍艦が接続海域に初侵入」「情報収集艦が領海侵入」などと大きく報じられると、多くの読者は「国際法に違反し日本の領域を侵害した」と受け取るだろう。しかしここは事実関係を冷静に見直す必要がある。北京の意図を分析する上で、尖閣接続水域での航行と、口永良部島や北大東島付近の日本領海航行は分けて考えたほうがよい。

 まず尖閣。外務省の発表によると、6月9日午前0時50分ごろ、中国フリゲート艦(写真 東京新聞=TOKYO Web=から)が久場島(黄尾嶼)と大正島(赤尾嶼)の接続水域に入ったのを自衛艦が発見。中国艦は午前3時10分ごろ大正島の接続水域を北上するまで航行した。これに先立ち8日午後9時50分ごろには、ロシア海軍の駆逐艦など3隻も同じ接続水域に入って北上し、9日午前3時5分ごろに同水域外に出たとされる。

 斎木昭隆外務事務次官(当時)は9日午前2時、程永華・駐日中国大使を呼び「一方的に緊張を高める行為で、受け入れるわけにはいかない」と「抗議」。程氏は「受け入れられないが政府に至急伝える」と答えた。これが外務省発表の概要である。

 中国側の反応はどうか。中国外交部報道官は「中国は釣魚島に対し主権を有しており、中国軍艦が自国の管轄海域でどんな活動をしても完全に主権の範囲内」と述べた。尖閣は中国の領土だから「何をしようと自由」という論理だ。

 一方、在京中国外交筋は「日本側の発表は事実ではない。中国艦は、海上自衛隊の護衛艦が入ったのに対抗して接続水域に入り追尾した」と明かす。さらに「斎木次官は抗議という表現は使わず、懸念と述べた」と指摘した。接続水域は12カイリの外側12カイリに設定され、基本的には「公海」とほぼ同じであり、軍艦を含めどの国の艦船も自由に航行できる。接続水域内の航行は合法だから、日本も「抗議」ではなく「懸念」にとどめたのだと同筋はみる。

 争点は「合法性」にあるのではない。中国は、日本の尖閣国有化以来、海警船を接続水域と領海に入れている。しかし双方間では軍艦は入れない事実上の「紳士協定」があった。だから争点は「どちらが先に入ったか」になるのだが、この点は「藪の中」としか言いようはない。

 南沙諸島(スプラトリー)で、米国と対立する中国が今、尖閣で事を荒立てもあまり利益はない。国家海洋局などが7月中国で開いた海洋問題の国際シンポジウムで、主催者が筆者に対し、発表テーマについて「政治がらみは避けて欲しい」と要求していたのもそれを示す一例だ。当時中国側は尖閣紛争が外交問題化しないよう極めて神経質になっていた。

中ロ共同行動ではない

 「中国の挑発行動」の構図が独り歩きしているが、「中国側が意図して入ったというより、結果論に近い」(政府筋)という見方に説得力を感じる。これを機に中国が軍艦の派遣を続け「日本の実効支配を力ずくで突き崩そうと試みる可能性がある」と予測するのは早計だ。

 今回、中国中央テレビは論評で「興味深いのは日本が中ロ両国の軍艦が『共同行動』したと認めようとせず、政府の発表でも中ロ両国の軍艦が『同じ時間帯』に同じ海域に出現したとしか述べていない」と指摘。その理由として、安倍政権がプーチンと平和条約交渉を進めたいため「中ロ共同行動」を認めたくないからだと「深読み」したのだ。興味深い見方だが、先の中国外交筋は、「中ロ共同作戦」の意図について「全くの偶然であり、そういう意図はないと思う」と否定した。

 一方、中国情報収集艦の口永良部島や北大東島の領海航行のほうは、比較的分かりやすい。米海軍が南沙諸島の中国埋め立て地12カイリ内を通過する「航行の自由作戦」への報復行動だと言ってよいだろう。安倍政権はことし4月、自衛艦や潜水艦をフィリピン、ベトナム両国に繰り返し寄港させ、艦船供与を積極的に申し入れた。北京から見れば、安倍政権の南沙紛争への露骨な介入だ。日本側も十分それを意識しているはずであり、対日警告の意味が強い。

 領海航行に懸念表明した日本政府に対し、中国側は「いずれも国際海峡であり、通常の通航である」とはねつけた。対日米報復の意図については、中国外交部報道官が6月15日の記者会見で「(中国軍艦の行動は)米国の最近のこの地域での行動と関連づけられている。従ってこの問題解決の根源を米国に求めることができる」と微妙な説明をした。中国側の行動を問題にするなら、まず米国に「航行の自由作戦」を止めさせるべきだという理屈だった。

 何が脅威なのかはその「意図」と「能力」で決まる。ただ軍事行動は多くの場合「機密」だから、意図を見極めるのは難しい。日本側の発表をそのまま伝える報道を鵜呑みにすると、恣意的な判断が独り歩きしてしまう。8月の公船侵入もそうだが、一方の主張を絶対視せず、他方の声にも耳を傾けて相対化することこそ、実相に近づく道である。

 次回から「南シナ海紛争」を検討する。
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