2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
「尖閣諸島棚上げ論」の検討

 前回話題にした宮古島市長選(1月22日投開票)は残念ながら宮古島への陸上自衛隊配備を容認している自民推薦の下地敏彦現職知事が再選された。しかし東京新聞は報道していなかったが、同時に行なわれた宮古島市議会議員補欠選挙(欠員2名5人立候補)では陸自ミサイル部隊の配備に伴う新基地建設反対の石嶺かおりさん(36歳 3児の母)が初当選した。(詳しくは田中龍作ジャーナルの記事『新基地反対の母親が当選 「生命の水を守れ」』をご覧下さい。)

 ところで、「中国脅威論」の検証を始めることにしたが、奇しくも田中龍作ジャーナルの記事がこの問題を取り上げていた紹介しておこう。
『【煽られる脅威】 漁師「(中国に対する)危機感はまったくない」 ~上~』
『【煽られる脅威】 要塞化する観光の島 ~下~』


 さて、私がこれから用いる参考論文は『21世紀中国総研』というサイトに連載されている岡田充(おかだ たかし、共同通信客員論説委員)さんの『海峡両岸論』という論文で、その第1号は2009年2月7日に書かれている。最新号は第74号「脅威論が生む排外主義「日本ボメ」現象再論」(2017年1月17日)である。実は岡田さんの論文『海峡両岸論』を知ったのは、サイト「ちきゅう座」が2017年1月18日に岡田さんの最新号を転載したのを読んだのがきっかけだった。克明に事実を調べ上げ、それを元に堅実な論考を進めている。是非他の号も読んでみたいと思った。

 まだ全部に目を通しているわけではないが、今回からのテーマに直接関係していると思われる論考は「第69号~第74号」のようだ。関心のある方はこれらを直接お読みになればよいわけだが、各号ともかなり長い論文だ。例によって何よりも私自身の勉強のため、岡田さんの論文を用いて今までに疑問を持っていたことを纏めて見ようと思った。

 まず論文の題名『海峡両岸論』について。
 論文の第1号は台湾問題(独立か統一か)を取り上げている。この場合は台湾海峡の両岸ということで、直接には中国大陸と台湾を指している。しかし、国際問題を取り上げるとき、西岸はマレーシア・ベトナム・朝鮮半島も関係してくるし、東岸はブルネイ・フィリピン・日本も関係してこよう。この場合は南シナ海・日本海の両岸という意味に拡大することになる。

 例えば、「中国脅威論」の主要軸の一つである「南シナ海紛争」では中国が管轄権を主張してきた「九段線」は次の上の図とおりであり、関係各国も主張を併記すれば下の図のようになる(南シナ海地図で検索して表れた地図から選びました)。
中国主張の南シナ海領海
南シナ海領海主張地図

 「中国脅威論」の主要軸は「南シナ海紛争」の他に「尖閣諸島問題」があるが、「中国脅威論」の根底を支えているイデオロギー(私は「虚偽意識」と訳している)として、中国・韓国・北朝鮮へのヘイトスピーチとその裏側に付着している「日本自慢」イデオロギーがある。

 では「尖閣諸島問題」から始めよう。

 尖閣諸島の領有権については「棚上げ」という用語がニュースで取り上げられていたが、これの経緯は次のようだ。
 1972年の日中国交正常化時、尖閣諸島の領有権は日中ともに主張していたが、「領有権問題の決着を先送りすること」で日中両政府が了解した。また、1978年の日中平和友好条約調印時にも同様の合意が行なわれたという。この時の双方の首相は田中角栄と周恩来である。

 しかし、現在日本政府は
「尖閣諸島を巡って中国側と『棚上げ』することで合意したという事実はない。」
「尖閣諸島はわが国固有の領土であり、解決すべき領有権問題は存在せず、中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もない」
という立場を一貫して主張している。

 「棚上げ合意」で検索すると、この政府見解を否定する記事にたくさん出会う。政府の主張が真っ赤な嘘である決定的な証拠になると思ってサイト「データベース『世界と日本』」に掲載されている『日中国交正常化交渉記録』を読んでみたが、尖閣諸島をめぐっては次のようなやり取りしか記録されていない。

田中総理: 尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。

周総理: 尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。


 なるほど、これでは「棚上げ合意」していたとは言えないだろうと思っていたら、岩上安身さんによる矢吹晋さんへのインタビュー記事『外務省が削除した日中「棚上げ」合意の記録 尖閣諸島問題の核心について』に次のような解説があった。

削除された「田中発言」

 『チャイメリカ』『尖閣問題の核心』『尖閣衝突は沖縄返還に始まる』などの著作があり、日米中関係に詳しい元東洋経済新報社記者で横浜市立大学名誉教授の矢吹晋(すすむ)氏は、岩上安身のインタビューの中で、当時の外務省中国課長・橋本恕氏が、田中角栄首相の発言記録を削除したと指摘した。

 矢吹氏によれば、外務省が公表している「田中角栄・周恩来会談」の記録では、尖閣諸島の棚上げを持ちかけた周首相に対する田中首相の返答が残されていないのだという。

 矢吹氏は、大平正芳元総理の追悼文集『去華就実 聞き書き大平正芳』(大平正芳記念財団編、2000年)に収録された「橋本恕の2000年4月4日 清水幹夫への証言」における、次のような記述を引用した。

「周首相は『これ(尖閣問題)を言い出したら、双方とも言うことがいっぱいあって、首脳会談はとてもじゃないが終わりませんよ。だから今回はこれは触れないでおきましょう』と言ったので、田中首相の方も『それはそうだ、じゃ、これは別の機会に』、ということで交渉はすべて終わったのです」

 このように、田中角栄首相の側も、周恩来首相の「棚上げ」提案に対し、「それはそうだ」と合意していたというのである。矢吹氏は、「日本政府は、『尖閣諸島に領土問題は存在しない』という立場と矛盾するという理由から、田中角栄の発言を削除したままにしている」と説明。日中間で尖閣諸島に関する「棚上げ」合意は確かに存在し、約束を反故にして現状を変更しようとしているのは日本側であると指摘した。

 それでは日中平和友好条約の時はどうだったのだろうか。日本の担当者は園田直外務大臣だった。外務省の次の記録記事td bgcolor="yellow">『第087回国会 外務委員会 第13号(1979年5月30日)』によると、その委員会で園田大臣は次のように答弁している。(「棚上げ合意」問題については社会党の土井たか子議員と井上一成が質問している。少し長くなるが土井さんの部分を転載する。)

○塩谷委員長
 土井たか子君。

○土井委員
 私は、まず尖閣列島問題についてお尋ねをして、さらに金大中氏事件に対しての質問に入りたいと存じます。
 園田外務大臣、中国側は口頭で遺憾の意を表明しておられるようであります。その中で、中日両国間の了解に違反していることは明白という旨の部分があるわけでありますが、日中平和友好条約締結の際にはそのような了解があったというふうに考えてよろしいわけでありますか。

○園田国務大臣
 北京における日中友好条約交渉の際、鄧小平副主席と私との間にこの尖閣列島の問題は出たわけであります。私の方から問題を切り出しまして、私が言ったのは、尖閣列島に対するわが国の従来の立場の主張、これを申し述べ、さらに先般のような漁船団のような事件があるのは困る、こういうことを申し上げたわけであります。
 これに対して鄧小平の言われた言葉、そのまま申し上げますと、この前のようなことは今後起こさない、尖閣列島は二十年、三十年いまのままでよろしいと、こう言われただけであります。
 したがいまして、その後来られた鄧小平副主席が、共同記者会見の際、これはたな上げだ、こういう言葉を使われたわけでありまして、北京では全然私の主張に反発もされず、たな上げという言葉も出さずに、両方からそういう言葉を言い合ったままで打ち切ったわけでありますから、ここに若干の食い違いはあると存じます。私は、日本古来の領土であると主張をして、この前のような事件は困る、こう言ったのに対して鄧小平副主席は、ああいう事件は起こさない、尖閣列島は二十年でも三十年でもいまのままでよろしい、こういうことを言われたのであります。


○土井委員
 そうすると、いまの外務大臣の御答弁の中では、北京においては、外務大臣は日本の領有権を明確に主張されたということがはっきりうかがえるわけでありますが、去る二月二十七日の予算の第二分科会の席で、同僚議員がこの尖閣列島問題に対して質問をいたしました節、外務大臣の御答弁はまことにきっぱりしたものであります。その内容は、「有効支配をするために施設をすることは絶対に反対である、」「有効支配のためにやるということになれば、」「外交的な儀礼はなくなるわけでありますから、今後ともその点については、私は自分の所信を貫徹するつもりでございます。」こういうふうに述べていらっしゃるわけでございます。今回のヘリポート建設並びに調査は、先方である中国から見ますと、有効支配の誇示というふうに見て抗議してこられたのではないかと思うわけでありますが、いかがでございますか。

○園田国務大臣
 そういう気配が見られたから申し入れをされたものと理解をいたします。

○土井委員
 そういたしますと、先ほど私が申しました二月二十七日の、まことにきっぱりとした外務大臣御答弁からいたしましても、今後、外務大臣としては、これにどういうふうに対処なさるかというのは大変大事なことになってまいります。この種の問題は、話がだんだん大きくなっていきますと、双方ともなかなか引っ込みがつけがたくなってまいります。したがって、話がこじれないうちに、穏便に処理しなければならないということは、鉄則とも言えると思うわけであります。日中間の友好関係にひびが入らないことを大前提として考えて、外務大臣は中国に対してどのようなアプローチを行うというお考えをお持ちになっていらっしゃるのか。いかがでございますか。

○園田国務大臣
 先ほど井上委員の御質問にお答えしたとおりでありまして、この申し入れに対してどのような対処をするか、現在の尖閣列島の問題をどう扱うかという問題はきわめてむずかしい問題でありますから、慎重に十分検討してやりたいと思いますので、いましばらく時間をおかしを願いたいと存じます。

○土井委員
 慎重に十分御検討ということでありますけれども、しかし現実の問題として、今回の運輸省や総理府の行為というものがあるわけであります。私たちは、これは運輸省や総理府のこれ見よがしのやり方だというふうに思います。外務省として、これに対してどうお考えなんですか。また、田中六助官房長官は、わが国の有効に支配している領土でもあるわけだから当然の措置であり、調査の中止などは考えないと言って、非常に強腰で述べていらっしゃるわけですが、私などこれを見ておりますと、外交的な配慮というのは全く足りないのじゃないかという気がしてなりません。これでは、園田外務大臣が政治生命を賭してがんばられたあの日中平和友好条約締結の際の御努力に水を差すものじゃないかというふうな意見が出てくるのも、至極当然だと思いますが、外務大臣、どのようにお考えになっていますか。

○園田国務大臣
 官房長官の談話は、私も新聞で拝見しただけでありますが、これは一般原則で日本古来の領土であるという立場をとっておりますから、そこで、日本がこれに対する必要な措置をするのはという意味のことを言われたんだと思います。したがいまして私は、この問題によって日中友好関係が阻害されないようにどのようなことをやるか、こういうことを慎重に検討したいと考えております。

○土井委員
 幾ら日本の国内における外務委員会で外務大臣がそのように抗弁されましても、相手方である中国から見れば、そのようには考えられないであろう。非常に強腰のあの発言というのは、私は外交関係からするとまことに刺激的だと言わざるを得ません。したがいまして、今回の調査などは有効支配の誇示ではないということを、中国に対して十分に理解が行き渡るように説明をするということの必要性も出てまいります。外務大臣は、その点についてはどういうふうにお考えになっていらっしゃいますか。

○園田国務大臣
 きのう、とりあえず申し入れのときに伴公使が申しておりますが、今後そういう点も含めて十分検討いたします。

 園田大臣の答弁にはぬらりくらりとした曖昧な部分もあるが、「尖閣列島は二十年、三十年いまのままでよろしい」という提案はそのまま受け入れているし、共同記者会見での鄧小平副主席の「これはたな上げ」という発言を批判したり抗議をしたりしていないのだから、尖閣諸島問題は「棚上げ合意」していたと読むほかないだろう。
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