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2007年2月19日(月)
高野岩三郎著「囚われたる民衆」(3)


 論じてここに至り、私は憲法改正問題に関し、なお進んで言を費やすの必要を感ずる、

けだし現今憲法改正に関する論点は天皇制を中心とする政治的変革体制事項であるが範囲は単にそれに限るべきでなく、それ以上経済的社会的体制の事項にもまた思い及ばなければならない。

多言するまでもなく、わが国における資本主義は、明治の初期以来駸々(しんしん)としてとどまるところを知らず、ついに事変前に至っては、かなり高度に達し、幾多の大小財閥の興隆を見たのであるが、新時代の現出に伴なって政治的にわが民衆を解放せんとするのみならず、財閥を征伐して公正なる経済的正義の実現に向わしめんとするの方向に向いつつある。換言すれば社会主義の実行に向わしめんとしている。政治上の民主主義に加えて社会主義による民衆の解放がまさに同時に採用されんとする趨勢にあるといえる。

 終りに新時代における民衆の解放その民主主義化は政治および経済の方面以外さらに文化方面においてもまた行なわれなければならない。それはすなわちわれわれの各種生活方面における合理主義、科学主義の徹底的実行である。これより派生するところの要求は科学の尊重その振興を始めとし、教育の平等男女の機会均等化、文化的享楽の権利、休養の権利、文化的生活水準の享受、信教の自由等々となって現われるのである。

 これを要するに現代の憲法なるものは広く民衆の政治・経済・文化の三方面にわたりその生活の基準となるべき根本原則を規定すべきものであって、しかもそれは現在および将来におけるわが民主政治の円満かつ円滑なる進展に資するものであらねほならぬ。

 ここにおいてかわれわれ同志数人は事の重要性に鑑みて、さきに憲法研究会を作り、数回会合を催おし意見を交換し機やや熟するを待ちこれを鈴木安蔵君の手を煩わして一の成案に纏め、去る一月中旬政府に提出して参考に供すると同時に、世に公けにしたる次第である。しかしながらこれよりさき私は別に一の私案を作製して会員に示した。以下に掲ぐるところのものはすなわちそれである。

畢境私自身多年憲法に関して抱懐せる所見を箇条書的に列挙しいささかこれに体系を与えたるにとどまる、すこぶる蕪雑なる構想の羅列に過ぎずして不備欠点に充つるは私自身のひそかに自覚するところである。研究会案は多くの智能の集積に成りかつ巧みに鈴木君によって編整されたるが故に、終始一貫してその整然たる体制を備えたるに反し、私案はすこぶる雑駁なるの譏(そしり)を免かる能わずと思惟すれども、会員の中にはかくのごとき試案を案じたるものもありしかと考え、多少の参考に供せらるる人士あらば、至幸とするところである。

改正憲法私案要綱

根本原則
天皇制ニ代エテ大統領ヲ元首トスル共和制ノ採用

第一 主権オヨビ元首
 日本国ノ主権ハ日本国民ニ属スル
 日本国ノ元首ハ国民ノ選挙スル大統領トス
 大統領ノ任期ハ四年トシ再選ヲ妨ゲザルモ三選スルヲ得ズ
 大統領ハ国ノ内外ニ対シ国民ヲ代表ス
 立法権ハ議会ニ属ス
 議会ノ召集開会オヨビ閉会ハ議会ノ決議ニヨリ大統領コレニ当タル、大統領ハ議会ヲ解散スルヲ得ズ
 議会閉会中公益上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ大統領ハ臨時議会ヲ召集ス
 大統領ハ行政権ヲ執行シ国務大臣ヲ任免ス
 条約ノ締結ハ議会ノ議決ヲ経テ大統領コレニ当タル
 爵位勲章ソノ他ノ栄典ハ一切廃止ス、ソノ効力ハ過去与エラレタルモノニ及ブ

第二 国民の権利義務
 国民ハ居住オヨビ移転ノ自由ヲ有ス
 国民ハ通信ノ自由ヲ有ス
 国民ハ公益ノ必要アル場合ノホカソノ所有権ヲ侵サルルコトナシ
 国民ハ言論著作出版集会オヨビ結社ノ自由ヲ有ス
 国民ハ憲法ヲ遵守シ社会的協同生活ノ法則ヲ遵奉スルノ義務ヲ有ス
 国民ハ納税ノ義務ヲ有ス
 国民ハ労働ノ義務ヲ有ス
 国民ハ生存ノ権利ヲ有ス
 国民ハ教育ヲ受クルノ権利ヲ有ス
 国民ハ休養ノ権利ヲ有ス
 国民ハ文化的享楽ノ権利ヲ有ス

第三 議 会
 議会ハ第一院オヨビ第二院ヲモッテ成立ス
 第一院ハ選挙法ノ定ムルトコロニヨリ国民ノ直接選挙シタル議員ヲモッテ組織ス
 第二院ハ各種職業等ニソノ中ニオケル階層ヨリ選挙セラレタル議員ヲモッテ組織ス、議員ノ任期ハ三年トシ毎年三分ノ一ズツヲ改選ス
 何人モ同時ニ両院ノ議員タルコトヲ得ズ
 二タビ第一院ヲ通過シタル法律案ハ第二院ニオイテ否決スルヲ得ズ
 両院ハ各々ソノ総議員三分ノ一以上出席スルニアラザレバ議決ヲナ スコトヲ得ズ
 両院ノ議事ハ一切公開トシコレヲ速記シテ公表ス
 両院ハ各々ソノ議決ニヨリ特殊問題ニツキ委員会ヲ設ケコレニ人民ヲ召喚シ意見ヲ聴聞スルコトヲ得
 両院ノ議員ハ院内ニオイテナシタル発言オヨビ表決ニツキ院外ニオイテ責ヲ負ウコトナシ
 両院ノ議員ハ現行犯罪ヲ除クホカ会期中マタハ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルルコトナシ
 両院ハ各々政府マタハ大臣二対シ不信任ノ表決ヲナスコトヲ得。コノ場合政府マタハ大臣ハ直チニソノ職ヲ去ルベシ

第四 政府オヨビ大臣
 政府ハ各省大臣オヨビ無任所大臣ヲモッテ組織ス

第五 経済オヨビ労働
 土地ハ国有トス
 公益上必要ナル生産手段ト議会ノ議決ニヨリ漸次国有ニ移スベシ
 労働ハイカナル場合ニモ一日八時間ヲ超ユルヲ待ズ
 労働ノ報酬ハ労働者ノ文化生活水準ニ下ガルコトヲ得ズ

第六 文化オヨビ科学
 スベテ教育ソノ他文化ノ享受ハ男女ノ間ニ差異ヲ設クべカラズ
 一切ノ教育ハ真理ノ追究真実ノ闡明(せんめい)ヲ目標トスル科学性ニソノ根拠ヲ置クべシ

第七 司 法
 司法権ハ裁判所構成法オヨビ陪審法ノ規定ニ従イ裁判所コレヲ行ナウ
 司法権ハ行政権ニヨリ侵サルルコトナシ
 行政官庁ノ処分ニヨリ権利ヲ傷害セラレ、マタハ正当ノ利益ヲ損害セラレタリトスル場合ニ対シ別ニ行政裁判所ヲ設ク

第八 財 政
 国ノ歳出歳入ハ詳密明確ニ予算ニ規定シ毎年議会ニ提出シテソノ承認ヲ経べシ
 予算ハマズ第一院ニ提出スべシソノ承認ヲ経タル項目オヨビ金額ニツイテハ第二院コレヲ否決スルヲ得ズ
 租税ノ賦課ハ公正ニ行ナワレイヤシクモ消費税ヲ偏重シテ民衆ノ負担ノ過重ヲキタサザルヨウ注意スルヲ要ス
 歳入歳出ノ決算ハ速カニ会計検査院ニ提出シソノ検査確定ヲ経タル後政府ハコレヲ次ノ会計年度ニ議会ニ提出シテ承認ヲ得ベシ

第九 憲法ノ改正オヨビ国民投票
 将来コノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アリト認メタルトキハ大統領マタハ第一院モシクハ第二院ハ議案ヲ作成シコレヲ議会ノ議ニ附スべシ
 コノ場合ニオイテ両院ハ各々ソノ議員三分ノ二以上出席スルニアラザレバ議事ヲ開クコトヲ得ズ。出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニアラザレバ改正ノ議決ヲナスコトヲ得ズ
 国民全般ノ利害ニ関係アル問題ニシテ国民投票ニ付スル必要アリト認ムル事項アルトキハ前掲憲法改正ノ規定ニ準ジテソノ可否ヲ決スベシ

(付 枢密院ハコレヲ廃止ス)

 しかしながら憲法はいかに精巧に成案されても、要するにわが国民の生活の大本、支柱的骨組を示すにとどまる。さらにこれに明確なる肉づけを施こさなければならない。かつて英国においてウェッブ夫妻は「大英社会主義国の構成」(Sydny and Beatrice Webb-A Constitution for the Socialist Commonwealth of Great Britain. -1920.)(丸岡重尭訳、大原社会問題研究所出版、大正14年)を著わして、この種の構想を公けにしたのであるが、私もまたいささかこれに倣ってわが国について同種の企図を考量している。考想その緒についたならば、公けにして世間の批判を仰ぎたいと希望している次第である。

管理人のつぶやき「なんとすごい憲法草案だね。天皇制の廃止関係の項目と土地の国有化以外はほとんど全部現行の憲法に盛り込まれている。」
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