2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《米国の属国・日本》(12)

軍事面での対米従属(5):戦争法(2)


<対中脅威論>

 対中脅威論の中核にあるのは南シナ海紛争と尖閣諸島問題である。後者に関連した出来事としては、今月(8月)初めから中国海警局の公船と共に数百艘の中国漁船が尖閣周辺に押し寄せた問題が報道された。日本での報道はあまりにも扇情的だったという。例えば
「南シナ海だけでなく東シナ海でも、いよいよ習近平政権が強権的な行動に出てきた」
といった論調があふた。また、ネットでは
「あれは漁民でなく軍事訓練を受けた海上民兵が乗り組んでる」
といったような流言飛語まで出たそうだ。

 この問題について日刊ゲンダイが『日中漁業協定も読まずに「中国脅威論」をあおる愚』という高野孟(ジャーナリスト)さんによる記事(2016年8月18日付)を掲載していた。それによると「退職後も霞が関周辺で情報関係の仕事に携わる元外交官」という方の次のような談話を紹介している。
「日中漁業協定も読んだことがないような記者が、こういう記事を書いているのでしょうね。ご承知のように、尖閣については領有権で日中は折り合わず、従って12カイリの領海、その外側12カイリの接続水域、さらに200カイリの排他的経済水域に至るまですべて折り合わない。しかしそれでは両国の漁民が困るので、97年の日中漁業協定で『暫定措置水域』を設定して、そこでは両国の漁船はお互いに、相手国の許可を得ることなく操業でき、両国の公船は自国の漁船についてのみ取り締まる権限を持つことにした。今回の事態は、中国側が設定している禁漁期が8月1日までなので、待ちかねた中国漁民がドッと押し寄せたというだけの話です」
 そして中国の公船が一緒だったことについても、次のように説明している。
「それは『金儲けしか考えない漁船が(日本側の主張する)尖閣領海に乱入するのを取り締まるためだ』と、中国側は日本側にちゃんと通告してきています。そういう了解があるから、11日に中国漁船がギリシャ船と衝突して沈没した時も、海保が淡々と救助し、それに中国側が謝意を表明するということが起きるのです」

 これを受けて、高野さんは、南シナ海問題も取り込みながら、次のようにまとめている。

 実際には、海保の活動現場ではこのような危機回避のメカニズムが機能しているというのに、政府・外務省・マスコミは「今にも中国と軍事衝突か」と中国脅威論をあおることにばかり熱心で、それと連動して南シナ海でも、東南アジアはじめ各国に働きかけて中国包囲網を形成しようと躍起となっている。

 しかし、国際仲裁裁判所で中国に全面勝利したフィリピンは外交上手で、ドゥテルテ大統領はラモス元大統領を特使として8日、香港に派遣し、中国の外交要路と非公式会談を開いて南シナ海を巡る話し合い解決に踏み出した。

 日本の硬直した反中国姿勢では世界から取り残されていくばかりだ。

 さて、白井さんの論説に戻ろう。
 白井さんは「なぜ対中脅威論に頼るのか」と題して、「アベコベ軽薄姑息うそつきオカルト」政権の「硬直した反中国姿勢」を批判している。

 「抑止力の強化」という言葉を、新安保法制の成立過程において安倍内閣は連発しました。一体誰を「抑止」するのか。新安保法制賛成派が切り札としていた理屈を簡潔に表現すれば、次のようなものです。
「明日にでも中国との戦争が始まりかねませんよ。すぐそこに敵が迫っている状態なのに、違憲だとかなんとかごちゃごちゃ言ってる場合じゃないですよ。いますぐ中国を抑え込まなければなりません」。

 これは、ナチスの高官、ヘルマン・ゲーリングの格言 ― 国民を戦争に引きずり込むのは実に簡単だ、外国に攻撃されつつあると言えばよい― を応用したレトリックであり、危機感に訴えるために劇薬的に機能する理屈ですが、大きな問題があります。まず、そもそもそのような危機はいま本当に存在するのか。尖閣諸島をめぐっては、確かに緊迫した状況がありますが、そのことと戦争の脅威はまったく別問題です。

 ゲーリングの言説の出所を知りたいとネット検索をして『ヘルマン・ゲーリング』に出会った。それによると、ゲーリングがニュルンベルク刑務所で裁判を受けているときゲーリング付のグスタフ・ギルバート心理分析官(大尉)に対して語った言葉だという。(中略)部分があるが次のように記録されている。

『もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ。』

 白井さんの 論説に戻ろう。

 では、なぜ権力側は、これほど対中脅威論に頼っているのでしょうか。これも「永続敗戦レジーム」の本質を考えていくと、理由が見えてきます。

 永続敗戦レジームを支えていた最重要の要素である冷戦構造のおかげで、日本は大変良い目を見ることができました。アメリカとの共通敵としてソ連があったため、日本とアメリカの潜在的な利害対立がなかなか顕在化しないで済みました。

 また、第一章で見たように、アメリカがもっと日本に何かやらせたい、あるいは何か要求を呑ませたいというときでも、日本はそれを断ることができた。それはソ連という存在を担保にしてのことです。社会主義イデオロギーを奉じるかなりの規模を持つ社会党という第二党が存在し、いざとなったら ―時が流れるにつれてどんどん現実的な想定ではなくなってきましたが― 日本は東側陣営に走るかもしれない、というふうにアメリカに想像させるだけの切り札があったからです。特にアメリカは、戦後の初期においては、日本が親ソ国家になってしまうのではないかということを真剣に恐れていました。となると、アメリカとしては、日本に対して不満があっても、庇護しなければならないということになります。

 しかし、以上は共通敵があってこその話です。冷戦構造がなくなったことで、共通敵は消えてしまいました。それでも、日本としては、居心地が良かった「あの頃」のことが忘れられません。そこで、現在の「居心地の悪さ」の原因は、共通敵がいないことだと考える。では、新たに共通敵をつくればいいんだということで、持ち出されるのが中国です。要するに、「危ない」中国を一緒に敵視しましょうよと、アメリカに誘いをかけているわけです。

 例えば、日本の外交当局者が頻繁に使う言葉に「価値外交」というものがありますが、この言葉はそのような戦略の端的な表れです。この言葉の意味は、根本的な価値を共有する国同士だけが親密な信頼関係を築くことができる、ということです。これを裏返して言えば、価値を共有しない国は一緒に仲間外れにしましょう、ということでもある。つまりは、日本とアメリカは共通の価値を前提できるが、中国は違う。すなわち中国は日米の仲間ではない、と日本の当局者は暗にそう言いたいわけです。

 では、その共通の価値とは何か。それは議会制民主主義であり、人権の尊重であり、報道の自由、そして法の支配である、と日本の外務省は言っている。これらの要素を、日本とアメリカは自由民主主義社会の基礎として尊重しているけれども、中国は異なる。だから俺たちの仲間には入れるわけにいかない、というわけです。要するに、「価値外交」は、中国を共通の敵として同定するためのレトリックとして使われているという面があります。こう考えていくと、結局、ポスト冷戦時代の日本がたどり着いた結論は何かというと、「ああ冷戦時代は良かったな、あの頃に戻りたいな」という話でしかありません。

 外務省が欧米諸国と共有していると言っている価値「議会制民主主義・人権の尊重・報道の自由・そして法の支配」を「アベコベ軽薄姑息うそつきオカルト」首相が口にすると、笑止千万ということになる。また、日刊ゲンダイの記事をお借りする(『自由と民主主義を強調 安倍首相“中国対抗フレーズ”の噴飯』2016年8月29日付)。

 ケニアで開かれたアフリカ開発会議に出席した安倍首相が、3年間で総額3兆円の投資を表明した。いつもの“バラマキ”外交だが、目立ったのが安倍首相の中国への対抗心だ。

 アフリカ諸国への投資で、中国は金額や規模で圧倒的に先行している。そのため日本は「量」ではなく、「質」と「技術力」をことさら強調。さらに安倍首相は基調講演で、「自由で開かれたインド太平洋戦略」という方針を打ち出し、こう締めくくった。
「アジアで根付いた民主主義、法の支配、市場経済の下での成長が、アフリカ全土を包むことが私の願いだ」

 「自由」「民主主義」「法の支配」は、中国との差別化で安倍首相が毎度持ち出すフレーズだ。しかし、違憲の解釈改憲で憲法を踏みにじり、国民から自由や権利を奪うような国家優先の改憲草案を作成した自民党の総裁が、よく言うよ、である。

 「市場経済」にしたって怪しい。官製相場で株価を左右したり、賃上げや設備投資を官主導で指図したりと、今や日本は“統制経済”だ。

 聖学院大教授(憲法・フランス法)の石川裕一郎氏もこう言う。
「中国包囲網の一環で安倍首相は以前も、『米や豪、インドなど自由主義の国々とともに』と言い、自由や民主主義といった『価値観共同体』を強調していました。しかし、米ニューヨーク・タイムズや仏ルモンドなどがたびたび書いている通り、欧米の知識人は、安倍首相が欧米と価値観を共にしているという主張に疑念を抱いています。自民党改憲草案のQ&Aには『我が国の伝統を踏まえたものにする必要があるため、天賦人権論は見直した』と書いてある。天賦人権論とは『人は生まれながらに人権を持っている』というもので、欧米の価値観の根底にあるものです。それを否定する政党のトップが、一方で欧米との『価値観共同体』を持ち出す。底の浅さを感じます」

 発展途上のアフリカでは、中国以上の強権国家も少なくない。安倍首相の言う“価値観”が通用するのかどうか。欧米だけでなくアフリカにも相手にされず……、ってことになるんじゃないか。

 日刊ゲンダイの記事は、キチンと本質を踏まえた上、歯に衣を着せない論説で、まさにジャーナリズムの鏡である。

………
追記(8月31日)
 『日中漁業協定も読まずに「中国脅威論」をあおる愚』の中の元外交官の談話について、この元外交官は日中漁業協定を歪曲しているという意見に出会った。調べてみたら『暫定措置水域』が間違っていた。第7条で暫定措置水域が定義されているが、その水域は北緯27度以北であり、尖閣諸島の領海は含まれていない。『暫定措置水域』を根拠にした議論は成り立たないことになる。

 しかし、国会で「1997年のいわゆる日中漁業協定における尖閣諸島の取り扱い等に関する質問主意書」が提出されいて、その質問の三と、それに対する政府の答弁が次のようになっている。
『第六条(b)には「北緯27度以南の東海の協定水域及び東海より南の東経125度30分以西の協定水域(南海における中華人民共和国の排他的経済水域を除く。)」とあるが、右海域には何があるか。右海域は、我が国固有の領土である尖閣諸島が含まれる海域であると理解するが、確認を求める。』
『協定が適用される水域は、協定第一条において日中両国の排他的経済水域とされている。したがって、協定第六条(b)に規定する水域には、我が国固有の領土である尖閣諸島の周辺の我が国の排他的経済水域は含まれるが、同諸島の周辺の我が国の領海は含まれない。

 中国の漁船団が操業をしていたのが「尖閣諸島の周辺の我が国の排他的経済水域」だったのかどうかが問われることになる。ほとんどの報道では「尖閣諸島周辺の接続水域(領海の外側)」となっている。問題ないようだ。海上保安庁のサイトを調べたら「尖閣諸島周辺海域では、領海内での中国漁船の操業は違法となりますが、そのすぐ外側で操業する中国漁船は、我が国漁業関係法令の規制の対象になりません」と書かれていた。ちなみに、産経新聞は「領海」(意図的だろうか)と書いている。

………

スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/2106-1c3acb61
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック