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《米国の属国・日本》(3)

対米従属、その内実の変遷(3)


 GHQの占領政策がGS的なものからG2的なものに変わって行ったが、それは、GHQの消滅後、日本の政治にどのように引き継がれていったのだろうか。白井さんは現在に至るまでの経緯を次のように論じている。

 90年代に『人間を幸福にしない日本というシステム』という本で官僚支配の続く日本社会を批判し、有名になったオランダ人ジヤーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレンさんと対談をしたときに、「なるほど、オランダの人からはこう見えるのか」と興味深く聞いた話があります。

 ウォルフレンさんは、戦後の日本の社会党 ―いまは社民党ですが― の流れをとても批判的に見ています。自民党政権がこれだけおかしくなったのも、社会党がだらしがなかったからだというわけです。いわく、社会党は、結局現実路線を取ることができず、空理空論ばかり唱えていたからダメになってしまった、ヨーロッパにおける社会民主主義政党(マルクス主義の革命論を放棄した)のように変身を遂げることができなかった。だから、今日の日本の政治状況をつくり出した罪は社会党にもある、と。

 前章で社会党が戦後の現実に対応できなかったことを指摘しましたが、そこでも述べたとおり、ウォルフレンさんの主張には首肯できる点がある。しかし、ちょっと違うのではないか、と思うところもあります。どういうことかと言えば、いま述べてきたように、すでに占領期の段階で、GHQの内部で、GSとG2の間に激しい権力闘争があったわけです。両者の対立は、当初はGSが優勢でしたが、最終的には逆コースの中で関係が逆転する。当時起きた昭電疑獄事件(1948年)とか炭鉱国管疑獄問題(1947―48年)などの汚職系の政治スキャンダルの背景にも、実はGSとG2の対立があったと言われています。

 こうした暗闘の結果、GSが劣勢になり、G2は日本の保守勢力、とりわけ旧ファシスト勢力との結びつきを強めていくわけです。まさしく、「永続敗戦レジーム」の主役中の主役と呼ばれるべき勢力と結びついていく。

 サンフランシスコ講和条約締結によって占領期が終わると ―もちろん米軍は駐留し続けていますが― GHQによる直接的な政治支配はなくなります。では、その後、GS的な民主主義推進勢力はどうなったのでしょうか。

 ウォルフレンさんは、社会党のほかにも、作家の大江健三郎氏の政治的スタンスを強く批判していました。社会党や大江さんは、日本の保守政治を批判してきたけれども、言っていることはまるで非現実的で、GHQの言っていたこととほとんど変わらない、というのです。大東亜戦争を実行した軍国主義国家としての日本などいまでは存在しないのに敗戦直後の占領軍のような言説を千年一日のごとく繰り返しているのはおかしいではないか、と。彼が言ってることは、ある意味で的を射ています。社会党や大江健三郎的な保守政治批判というのは、確かに、占領期にGSが言っていたことを受け継ぐものです。

 つまり、次のように整理できるでしょう。GHQの消滅後、G2的なるものは戦前とのつながりを色濃く残す保守派へと受け継がれ、日本の国家権力と一体化する一方、GS的なるものは、占領軍という後盾を失った形で社会党などの左派へ受け継がれました。

 G2的なるものからすれば、GSによる改革の成果などどうでもよく、国家権力の行使に際して邪魔くさいものでしかない。だからいま、永続敗戦レジームの純粋形態としての安倍政権ならびに極右的政治家たちは、戦後民主主義改革の成果を次々に覆そうという意志を露にしています。自民党の新憲法草案は、その最も見やすい現れです。

 GSの遺産の守り手たちから見れば、この状況は「ほら、言わんこっちゃない」というものにほかなりません。戦後日本の民主主義は本当には定着していないという状況判断があったからこそ、彼らは、例えば憲法の問題にしても、「指一本触れてはならない」という立場を堅持してきました。

 ウォルフレンさんに言わせれば、現に自衛隊が存在し、海外派遣すらされているのだから、文字通りの護憲など欺瞞にすぎない、ということになる。しかし、このような欺瞞の中にとどまることが、国家権力を背景にできないGSの遺産の守り手たちにとって、永続敗戦レジームの地金が露出することを防ぐ唯一の手段であったのだとすれば、それは単なる空理空論だったとは言えない。「日本の保守支配層は、彼らの憧憬する戦前のレジームを隙あらば取り戻そうとする」という彼らが繰り返してきた批判は、実際に当たっていたのです。

 この状況は、ある意味で、占領期のGSとG2の暗闘が、役者を替えていまだにズルズル引き続いているようなものです。外から見れば、日本は先進自由民主主義国であるかのように見えるかもしれませんが、このような不毛な現実を内在させ続けてきたことは、事実なのです。

 こうしてGSとG2の流れは、明らかに戦後の保守と革新のそれぞれの系譜へと結びついていくわけですが、保守の側が方針としたのは、政治・経済的な次元での対米従属を通じた対米自立ということでした。他方、リベラルや左派の側は思想的次元で同様の軌跡を描いてきました。

 戦後の左派やリベラルが価値観として最も盛んに強調してきたものは、民主主義です。そもそも民主主義は、GHQが戦後改革の柱として強調したものであり、アメリカの国是でもあります。これを重視するということは、左派やリベラルは思想的な次元でアメリカに依存しているということになります。

 そして、アメリカに対する思想的な次元での依存を、今度はアメリカに対する批判の根拠にしていくことになるわけです。例えば、ベトナム戦争のごとき侵略戦争を行なっているアメリカには、本当の民主主義はないというような論理で、アメリカから受け取ったものをアメリカ批判の根拠にしていく。あるいは、憲法九条にしても、起源においてはアメリカの側から強制されたものなのですが、これを通じて、戦争ばかりしているアメリカと日本の間に一線を画そうとしていくわけです。こういう具合に、保守・リベラルともに、アメリカに対する依存と自立の志向が絡み合った非常に複雑な状況のもと、歴史は推移してきました。

 ところが、長いあいだ極めて複雑かつ、捻じれもはらんだものであったアメリカに対する関係は、現在では驚くほど単純になっています。例えば、2015年9月に成立した新安保法制の成立過程を見ても、その本質はとてもシンプルです。新安保法制は、衆議院の憲法審査会に招致した憲法学者三人全員から「違憲」との判断を下されました。自民党が呼んだ憲法学者まで、「違憲だ」と言ったのです。にもかかわらず、そんなことは政府の側は何にも気にしませんでした。なぜかといえば、それは、「アメリカ様がやれと言ってるから」、「アメリカ様にもう約束してしったから」という、きわめて単純な理屈です。

 先に述べたように、岸信介が60年安保で取り組んだゲームが複雑なものであったのとは対照的に、現在の安倍晋三首相のロジックは異様なまでにシンプルなものになっています。2015年の夏、戦後70年の談話を彼は発表しましたが、その中で、あの戦争における日本の過ちは「国際秩序への挑戦者となってしまった」ことだと述べています。この言い方は、あの大戦を総括するにあたって使われるものとしてはやや珍しい。

 この件が、現存する「国際秩序」の善悪如何を問わず、「現存の国際秩序に挑戦すること自体が悪いことなのだ」と言っているのだとすれば、そこには重大な含意があることになります。現代の国際秩序とは、不安定さを増しているとはいえ、アメリカ中心のそれであることは確かです。これが良いものであろうがなかろうが、それに挑戦すること自体が罪深いことである、ということになる。こうなるともはや、従属と自立をめぐる複雑なゲームをやる能力も意思もないらしいと判定せざるをえません。

 上の引用文中に出てきたウォルフレンという方も、その著書『人間を幸福にしない日本というシステム』も私は全く知らなかった。<注>には次のように紹介されている。

 この著書は当時30万部以上のベストセラーとなった。この中でウォルフレン氏は、日本の民主主義は常に「中味のない貝殻のようなもの」であり、「その殻のなかで実際に機能している権カシステム」を「官僚独裁主義」と名付けた。
 カレル・ヴァン・ウォルフレン著、篠原勝訳『いまだ人間を幸福にしない日本というシステム』毎日新聞社、1994年。
 白井聡さんとカレル・ヴァン・ウォルフレンさんの対談本『偽りの戦後日本』KADOKAWA/角川学芸出版、2015年。

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 ウォルフレンさんの著書で翻訳出版されているのが外にもあるだろうかと、利用している図書館の蔵書を調べてみた。結構沢山あるので驚いた。また、その内容紹介を読むと全ての著書が今テーマにしている問題と重なっているので、すごく興味を引かれ、読んでみようかと思った。以下は私のためのメモなのだが、興味をお持ちの方もいるかと思い、ここに記録しておくことにした。出版年代順に紹介する。

『日本/権力構造の謎』(1990)
(内容紹介なし)

『人間を幸福にしない日本というシステム』(1994)
 官僚批判の火付け役となった「日本/権力構造の謎」につづき、本書では「政治化された社会」等の新概念で日本のリアリティーにさらに深く斬り込む。

『なぜ日本人は日本を愛せないのか:この不幸な国の行方』(1998)
 ウソばかり聞かされてきたのだから、国を愛せなかったのも無理はない。日本の栄光の時代が終わった今こそ、真実に目を開こう。「人間を幸福にしない日本というシステム」に次ぐ渾身の論考。

『怒れ!日本の中流階級』(1999)
 「おとなしい中流」が「怒れるブルジョア」に変わるとき、この国のすべてが幸福な方向へ一変する。最高の日本分析家が心からの同情を込めて、21世紀ニッポンのただ一つの希望の道を説く。

『世界が日本を認める日:もうアメリカの「属国」でいる必要はない』(2005)
 高度経済成長達成から目標を見失ってしまった日本人。大国アメリカが壊れていくなか、日本は世界秩序の安定に貢献する存在となれるのか。未知なる危機に直面した国際社会のなかで、日本という国家が果たすべき役割を探る。

『もう一つの鎖国:日本は世界で孤立する』(2006)
 日中関係、日米関係、米中関係がシフトチェンジの時をむかえている今、日本はかつてない重要な選択を迫られている。40数年間にわたり日本の変化を見つめ続けてきた著者が、ニッポンの外交に警鐘を鳴らす。

『日本人だけが知らないアメリカ「世界支配」の終わり』(2007)
 アメリカの覇権は終わり、すでに世界はアメリカ抜きで動き始めている。日本はいつまでアメリカに縋りつくのか?アメリカの不在が露わにしつつある政治・経済の新しい現実を、綿密な取材と緻密な分析で明らかにする。

『アメリカとともに沈みゆく自由世界』(2010)
 オバマ大統領の不作為によって、さらに危険な国家へと変質しつつあるアメリカ。この現実を見誤るとき、世界はかつてない混乱に巻き込まれる―。ポスト・アメリカの時代を政治・経済の両面から透徹した論理で分析し警告する。

『いまだ人間を幸福にしない日本というシステム』(2012)  漠然とした不満を驚くほど多くの日本人が感じているのはなぜか―。アメリカの庇護と官僚独裁主義に甘んじてきた日本社会の本質を喝破。政権交代、金融危機、東日本大震災等を経て、迷走を続ける日本へ新たな指針を示す。

『この国はまだ大丈夫か』(2012)
 日本はなぜ改革が進まないのか。小沢一郎はなぜ消されようとしているのか。アメリカはもはや盟友ではないのか。官僚の力はどうして削がれないのか。日本分析の第一人者による語りおろしを収録する。

『人物破壊:誰が小沢一郎を殺すのか?』(2012)
 「人物破壊」というキーワードから、政治家・小沢一郎を巡る騒動の背景に、国家を支配する非公式権力の姿が浮かび上がる。日本の権力構造を見つめ続けるオランダ人ジャーナリストが「画策者なき陰謀」の正体を喝破する。

『日本を追い込む5つの罠』(2012)  アジアを搾取しアメリカ経済すら破壊するTPP、「国家なき国」の犠牲となり続ける沖縄の基地問題…。震災後の日本を追い討ちする“本当の危機”を直視せよ! 世界の権力地図が塗り変わる今、指針を示す。 孫崎享共著『独立の思考』(2013)
 TPP、半島・尖閣有事、普天間問題…。日本人はいつまで騙され続けるのか? 外交から日本の問題を読み解いてきた孫崎享と、官僚を出発点に日本社会を論じてきたウォルフレンが、共に行き着いた対米追随という元凶を論じる。

『日本人だけが知らないアメリカ日本に巣喰う4つの“怪物”』(2014)
 保守化する日本と塗り替えられた世界“権力”地図。混迷極める欧州からの警告を直視せよ―。知日派ジャーナリストが、日本人の未来を閉ざし、民主国家を害するポリティカル・モンスターの正体を明らかにする。

『偽りの戦後日本』(2015)
 1945年の「敗戦」を認められない日本人は、「戦後70年」という巨大な欺瞞の構造をいつまで放置し続けるのか―。原発、基地問題から安倍政権の本質まで、独立なき「永続敗戦」の現実を直視する日欧の論客が語りあう。
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