2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《沖縄に学ぶ》(52)

機密文書「日米地位協定の考え方」(9):内容の検証(6)


《日本国民を守らない外務省の「犯罪」》

 地位協定第17条(刑事裁判権)の5項(a)は次のような条文である。
「日本国の当局及び合衆国の軍当局は、日本国の領域内における合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族の逮捕及び前諸項の規定に従って裁判権を行使すべき当局へのそれらの者の引渡しについて、相互に援助しなければならない。」

この項に関わるマニュアルの(注152)に次のような説明文がある。

(注152)
 日本国籍を有する地位協定該当者たる米軍人による米軍法上の逃亡罪について政府は、このようないわゆる脱走日本人米兵についても協定第17条5項(a)の逮捕協力義務があるが、具体的事案の解決については善処したい旨答弁している(なお、日本国民たる米軍人が我が国以外の地で脱走した後に我が国に入国したような場合はそのような米軍人は地位協定該当者ではないので我が国政府に協定第17条5項(a)に基づく逮捕協力義務がないことについては第1条の項の4参照)。

 また、これまでに米側が日本国民につき協定第17条5項(a)に基づく逮捕協力を要請してきたことはない。
(過去に国会でも問題にされた脱走日本人米兵のうち二見寛については脱走後に我が国に入国したケースであるが、結果的には自発的に渡米し原隊復帰したものであり、清水徹雄については休暇中に我が国で脱走したケースであるが、米側との協議の結果、米側より先例とはしないとの保留つきながら、本件には特殊な事情もあるので、逮捕協力の要請は行わない旨連絡越た経緯がある。)
(「連絡越した」という変な文があるがそのまま転載した。)

 ( )内に書かれている二人の脱走日本人米兵については私は全く知らなかった。二見寛(ふたみかん)さんについては「結果的には自発的に渡米し原隊復帰した」と説明しているが、ここに外務省の「犯罪」が隠されている。前泊さんが詳しく解説しているので後にそれを読むことにする。
 清水徹雄さんについてはネット検索をしてみた。毎日新聞「憲法のある風景」という特集の第1回目の記事(2016年1月1日)『9条に迷い救われ 被爆、渡米、ベトナム戦、脱走 日米の間に生きた』が清水徹雄さんの人生を詳しく取上げていた。もう一つ、「談話室」と言うサイトの『チャールズ・ジェンキンズ氏についての英語掲示板など、ご存じないでしょうか。』という記事に清水徹雄さんの脱走の顛末が簡略にまとめられていた。ここでは後者を転載しておく。

【清水徹雄さんの事件】
 清水さん(1945年生まれ)は、広島市出身の日本人。66年渡米。67年に米国陸軍に徴兵、ベトナム戦争に派遣され、最前線のキャンプ・アヴエンス基地で戦闘に参加。68年9月、帰休で日本に戻ったとき、戦争参加が安易だったことを反省、米軍からの脱走を決意、べ平連(ベトナムに平和を!市民連合)の支援を求めた。「清水徹雄君を支持する会」や「支持する弁護団」などが結成され、米国大使館、日本政府などに働きかけ、結局、12月14日、米大使館スポークスマンは、「慎重に検討した結果、清水君の逮捕を日本当局に要求しないことに決定した」と発表、事件は落着。

 この間、清水さんの行動への賛否両論が、マスコミの投書欄などをにぎわせた。日本政府はこの問題に何の動きも見せなかった。この間、鶴見俊輔さんは、清水さんが逮捕される可能性もあることを覚悟しながら、京都の自宅にかくまった。

 本文の方では、この決着について
「日本世論の動向に配慮したのでしょう、逮捕を要求しないことにしたのでした。法律や条約の問題ではなく、政治的配慮のレベルのことでした。」
と解説している。「…考え方」では全て外務省の交渉の結果みたいな書き方をしていて全く触れていないが、べ平連による働きかけの成果だった。

 さて、二見さんの場合はどのような経緯をたどったのだろうか。少し長いが、前泊さんの解説を全文転載する。

 地位協定の適用をめぐるやりとりのなかで、「日本国籍」をもつ「脱走米兵」の身柄を、本来は日米地位協定が適用されない身分にもかかわらず、地位協定を適用してアメリカに引き渡すという事件も起きています。

 この事件は日本政府と外務省が「国民も守れないのか」と大きな批判を受けた事件として、「考え方」のなかにしっかりと記録されています。

 事件は1966年3月に起きました。アメリカに出稼ぎに行っていた日本人青年の二見寛さんが、当時、アメリカの長期滞在者にも適用される「普通軍事訓練および兵役法」によって米軍に徴兵されてしまいます。そしてベトナム戦争に派遣されることになったのです。

 徴兵された二見さんはベトナム戦争に派遣され、死ぬかもしれないという不安と恐怖、そして日々くり返される激しい戦闘訓練に耐えられず、軍を脱走してカナダに亡命します。ところが、カナダ政府は日本人の亡命を認めていなかったため、本人の希望にそって同年4月に日本に強制送還しました。

 強制送還された二見さんは千葉県の親戚の家に身を寄せます。しかしその二見さんについて米軍は、
「脱走した米兵の身柄を引き渡してほしい」
と外務省に対して、日米地位協定をもとに身柄の引き渡しを求めます。その結果外務省は、日米地位協定にもとづいて二見さんの身柄をアメリカに送り返してしまったのです。

 ここからは一連の出来事を、「二見寛事件」と呼ぶことにします。

 二見寛事件は国会でも大きな問題になりました。事件には地位協定上の問題にかぎらず、日本の政治、行政、司法がかかえるたくさんの問題がふくまれていたからです。

 まず、第一が「アメリカに日本人を徴兵させたこと」です。現在は、日本人が外国に長期間滞在したとしても、滞在国で徴兵され兵役に服すようなことも、戦場に送りこまれることもありません。しかし、当時はそれが許されていたのです。原因は外務省の失態でした。タイやインドネシアなど、諸外国とは結んでいる「軍事服役免除」条約を、政府がアメリカとの間で締結していなかったために徴兵されてしまったということが、国会論議であきらかになりました。

 いったい何人の日本人が徴兵されてベトナム戦争に送りこまれたのか。当時の国会で事実関係を問われた外務省は、「把握していない」とあっさり答えています。国民の命にかかわる重大な条約を結びそこねたうえに、徴兵された国民の数もわからないというのですから、まったく話になりません。このように相手がアメリカの場合、日本ではどう考えてもおかしなことが平気で起こってしまうのです。

 第二の問題は、「本来適用されない在米米兵への日米地位協定の適用」です。日米地位協定は第17条5項で脱走米兵の身柄引き渡しを決めています。外務省は「脱走日本人米兵についても第17条5項(a)の逮捕協力義務がある」と説明していますが、一方で外務省は「地位協定の考え方」のなかで、『わが国以外の地で、脱走後、わが国に入国した場合は、地位協定該当者ではないので、逮捕協力義務はない」と明確に答えています。

 二見さんはアメリカで脱走しています。しかも身分は「アメリカ本国の軍隊に所属」していて、「在日」米軍所属が対象となる逮捕協力義務は発生しないはずです。それなのに、外務省は実際には日米地位協定を適用して二見さんを米軍に引き渡していたのです。

 この問題を国会で指摘された外務省の答は、こうでした。
「これまで米側が日本国人につき、同項にもとづく逮捕協力を要謂してきたことはない」

 では、二見寛事件は?
「結果的には自発的に渡米し、原隊に復帰した」

 こんな説明をだれが信じるというのでしょう。

 第三の問題に入りましょう。「国際法無視」の問題です。たとえ地位協定で決めていたとしても、国際法上は「自国民不引き渡し」原則があり、自国民の生命を各国政府は最優先に考え、主張できる権限を認めています。ところがこの「自国民不引き渡し」原則に反して、外務省は自国民を引き渡してしまっています。
「地位協定で決めてあっても、国際法にもとづいて自国民を保護します」
と強く主張すれば、二見さんはアメリカに引きもどされることもなかったはずです。軍事服役免除条約を結び損なったとしても、自国民の命は国際法で守れたはずです。国際社会から「日本は自国民をアメリカの兵役にすら差し出すお人好し国家」とみられているかもしれません。

 第四の問題は、「憲法違反」です。日本国憲法は第9条で『戦争の放棄、軍備および交戦権の否定』という平和条項をもっています。それにもかかわらず、政府・外務省は日本国民である青年を結果として米軍隊への入隊を強制して、「ベトナム侵略戦争への参加を意識的に強要した」と国会で追及されました。

 「考え方」のなかで、外務省は「日本国民である米軍人がわが国以外の地で脱走したあとに、わが国に入国したような場合は、そうした米軍人は地位協定該当者ではないので、わが国の政府に協定第17条5項(a)にもとづく逮捕協力義務がない」と明記しています。ところが実際には、外務省が二見さんの逮捕に協力したにもかかわらず、二見さんは「結果的には自発的に渡米して原隊復帰した」(前出)と説明しています。国会審議をみると、外務省は二見さんに対して原隊復帰しないと今後はアメリカの永住権もとれなくなるなどと言って、説得していたことがわかっています。亡命までした人が自発的に渡米して原隊復帰するというのは、そもそも考えにくい話です。

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