2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《沖縄に学ぶ》(28)

沖縄問題の本質(5):日米原子力協定

 3月9日、大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め訴訟で運転停止を命じる判決を下した。ところが一昨日(4月6日)、今度は福岡高裁が九州電力川内原発の運転差し止め訴訟では運転を追認する判決を下した。前者は福島の原発事故を考慮して国の新規制基準を「再発防止には原因の徹底究明が必要だが、まだ不十分。原子力規制委員会の姿勢に疑問を感じる」と判断したのに対して、後者はまるで福島の原発事故など無かったのように「地震リスクはゼロでないが、耐震安全性の観点から高度の合理性を持つ」と国の方針に追随した判決だった。この判決の原型は1978年の建設予定の原発の安全性をめぐって争われた伊方原発訴訟の判決に見ることができる。

 一審判決(柏木賢吉裁判長)
「原子炉の設置は国の高度の政策的判断と密接に関連することから、原子炉の設置許可は周辺住民との関係でも国の裁量行為に属する」
 最高裁判決(1992年 小野幹雄裁判長)
「〔原発の安全性の審査は〕原子力工学はもとより、多方面にわたるきわめて高度な最新の科学的、専門技術的知見にもとづく総合的判断が必要とされる」から、「原子力委員会の科学的、専門技術的知見にもとづく意見を尊重しておこなう内閣総理大臣の合理的判断にゆだねるのが相当である。」

 田中耕太郎の砂川判決の論理は「統治行為論」というと呼ばれて、伊方原発訴訟の方は「裁量行為論」と呼ばれているが、内容は全く同じである。矢部さんはこうした法理論の行き着く先を
「司法による人権保障の可能を閉ざす障害とも、また行政権力の絶対化をまねく要因ともなりかねず…司法審査権の全面否定にもつながりかねない。」
と憂慮している小林節さんの言説を(『政治問題の法理』より)引用して、次のように続けている。

 まったくそのとおりのことを、過去半世紀にわたって日本の裁判所はやりつづけているのです。また、そうした判決に向けて圧力をかけているのが、おそらく81ページの「裏マニュアル①」をつくった最高裁事務総局であることは、すでに複数の識者から指摘されています。裁判所の人事や予算を一手に握るこの組織が、「裁判官会同」や「裁判官協議会」という名目のもとに会議を開いて裁判官を集め、事実上、自分たちが出したい判決の方向へ裁判官たちを誘導している事実が報告されているからです。(『司法官僚』新藤宗幸著/『原発訴訟』海渡雄一著/ともに岩波書店)

 こうして駐日アメリカ大使と日本の最高裁が米軍基地問題に関してあみだした、「統治行為論」という「日本の憲法を機能停止に追いこむための法的トリック」を、日本の行政官僚や司法官僚たちが基地以外の問題にも使い始めるようになってしまった。官僚たちが「わが国の存立の基礎にきわめて重大な関係をもつ」と考える問題については、自由に治外法権状態を設定できるような法的構造が生まれてしまった。その行きついた先が、現実に放射能汚染が進行し、多くの国民が被曝しつづけるなかでの原発再稼働という、狂気の政策なのです。

 矢部さんが「裏マニュアル」と呼んでいる文書は三つある。いずれも日米合同委員会における非公開の「合意議事録」の事例をマニュアル化する形でまとめられたものだという。

①最高裁の「部外秘資料」(1952年:正式名称は「日米行政協定に伴う民事及び刑事特別法関係資料」最高裁判所事務総局/編集・発行)
②検察の「実務資料」(1972年3月:正式名称「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」法務省刑事局/作成・発行)
③外務省の「日米地位協定の考え方」(1973年4月:正式名称同じ。外務省条約局/作成)

 参考図書としてあげられている著書も転載しておこう。
①・②
 吉田敏浩著『密約―日米地位協定と米兵犯罪』(毎日新聞社)
③はいま利用中の前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』が挙げられている。この著書の「PART2」の表題は『外務省機密文書「日米地位協定の考え方」とは何か』である。いずれ取り上げる予定である。

 さて、原発問題に関して地位協定と同じような役割をしているのが日米原子力協定である。日米原子力協定の「仕組み」は次のようである。

 その後調べると日米原子力協定という日米間の協定があって、これが日米地位協定とそっくりな法的構造をもっていることがわかりました。つまり「廃炉」とか「脱原発」とか「卒原発」とか、日本の政治家がいくら言ったって、米軍基地の問題と同じで、日本側だけではなにも決められないようになっているのです。条文をくわしく分析した専門家に言わせると、アメリカ側の了承なしに日本側だけで決めていいのは電気料金だけだそうです。

 そっくりな法的構造というのは、たとえばこういうことです。日米地位協定には、日本政府が要請すれば、日米両政府は米軍の基地の使用について再検討し、そのうえで基地の返還に「合意することができる(may agree)」と書いてあります。

 一見よさそうな内容に見えますが、法律用語で「できる(may)というのは、やらなくていいという意味です。ですからこの条文の意味は「どれだけ重大な問題があっても、アメリカ政府の許可なしには、基地は絶対に日本に返還されない」ということなのです。

 一方、日米原子力協定では、多くの条文に関し、「日米両政府は○○しなければならない(the parties shall…)」と書かれています。「しなければならない(shall)」はもちろん法律用語で義務を意味します。次の条文の太字部分を見てください。

「第一二条四項
どちらか一方の国がこの協定のもとでの協力を停止したり、協定を終了させたり、〔核物質などの〕返還を要求するための行動をとる前に、日米両政府は、是正措置をとるために協議しなければならない(shall consult)。そして要請された場合には他の適当な取り決めを結ぶことの必要性を考慮しつつ、その行動の経済的影響を慎重に検討しなければならな(shall careflly consider)」

 つまり「アメリカの了承がないと、日本の意向だけでは絶対にやめられない」ような取り決めになっているのです。さらに今回、条文を読みなおして気づいたのですが、日米原子力協定には、日米地位協定にもない、次のようなとんでもない条文があるのです。

「第一六条三項 いかなる理由によるこの協定またはそのもとでの協力の停止または終了の後においても、第一条、第二条四項、第三条から第九条まで、第一一条、第一二条および第一四条の規定は、適用可能なかぎり引きつづき効力を有する

 もう笑うしかありません。「第一条、第二条四項、第三条から第九条まで、第一一条、第一二条および第一四条の規定」って……ほとんど全部じゃないか! それら重要な取り決めのほぼすべてが、協定の終了後も「引きつづき効力を有する」ことになっている。こんな国家間の協定が、地球上でほかに存在するでしょうか。もちろんこうした正規の条文以外にも、日米地位協定についての長年の研究でわかっているような密約も数多く結ばれているはずです。

 問題は、こうした協定上の力関係を日本側からひっくり返す武器がなにもないということなのです。これまで説明してきたような法的構造のなかで、憲法の機能が停止している状態では。

 だから日本の政治家が「廃炉」とか「脱原発」とかの公約をかかげて、もし万一、選挙に勝って首相になったとしても、彼にはなにも決められない。無理に変えようとすると鳩山さんと同じ、必ず失脚する。法的構造がそうなっているのです。

 日米原子力協定は30年間の協定なので、2018年に期限が切れるが、悲しいかな、現在の官僚に牛耳られている属国傀儡政権では絶対に破棄することはできない。ダメナ野田政権の前例がある。

野田内閣は2012年9月、「2030年代に原発稼働ゼロ」をめざすエネルギー戦略をまとめ、閣議決定をしようとしました。このとき日本のマスコミでは、
「どうして即時ゼロではないのか」
とか、 「当初は2030年までに稼働ゼロと言っていたのに、2030年代とは九年も延びているじやないか。姑息なごまかしだ」
などという批判が巻き起こりましたが、やはりあまり意味のない議論でした。外務省の藤崎一郎駐米大使が、アメリカのエネルギー省のポネマン副長官と9月5日に、国家安全保障会議のフロマン補佐官と翌6日に面会し、政府の方針を説明したところ、「強い懸念」を表明され、その結果、閣議決定を見送らざるをえなくなってしまったのです(同月19日)。

 これは鳩山内閣における辺野古への米軍基地「移設」問題とまったく同じ構造です。このとき、もし野田首相が、鳩山首相が辺野古の問題でがんばったように、「いや、政治生命をかけて2030年代の稼働ゼロを閣議決定します」と主張したら、すぐに「アメリカの意向をバックにした日本の官僚たち」によって、政権の座から引きずりおろされたことでしょう。

 いくら日本の国民や、国民の選んだ首相が「原発を止める」という決断をしても、外務官僚とアメリカ政府高官が話をして、「無理です」という結論が出れば撤回せざるをえない。 たった2日間(2012年9月5日、6日)の「儀式」によって、アッというまに首相の決断がくつがえされてしまう。日米原子力協定という「日本国憲法の上位法」にもとづき、日本政府の行動を許可する権限をもっているのは、アメリカ政府と外務省だからです。

 本章の冒頭で、原発を「動かそうとする」主犯探しはしないと書きましたが、「止められない」ほうの主犯は、あきらかにこの法的構造にあリます。

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