2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(86)

終末論の時代(23)

「独占資本主義の終末」補充編(7)

羽仁提言「三つの原則」の検討(6)


原則2:「社会主義」(5)

<参考書2>
中谷巌著『資本主義以後の世界』(徳間書店2012年刊)


 中谷さんは経済学者で、かつては新自由主義者であったが、新自由主義の誤りを認めて、そこから転向している。ウィキペディアから引用する。
『過去に自分が行っていた言動(アメリカ流の新自由主義や市場原理主義、グローバル資本主義に対する礼賛言動、構造改革推進発言など)を自己批判し、180度転向したことを宣言した上で、小泉純一郎・竹中平蔵・奥田碩の三人組が実行した聖域なき構造改革を批判し、ベーシック・インカムの導入等の提言を行っている。労働市場についてはデンマーク・モデルを理想としている。』

 さて、中谷さんは
『グローバル資本主義の危機を克服するには、究極的には「文明の転換」が不可避』
という立場から、資本主義後のあるべき未来社会を構想するための基本的な考えとして次の三点を挙げている。

 グローバル資本の「投機的性格」を是正

 「交換の思想」から「贈与の思想」への転換

 「自然観の転換」
 この三点を詳しく論じている論考を追ってみよう。

① グローバル資本の「投機的性格」を是正
 「資本主義以後の世界」においては、まず、グローバル・マネーの投機的な動きが規制されなければならないだろう。そうでなければ、アジア通貨危機、リーマン・ショック、ユーロ危機のような国際金融危機はますます恒常化するだろう。ユーロ危機のような国際金融危機は、各国の財政再建に加えて、グローバルに動く投機資本の規制が国際合意されなければ根本的な解決には至らないだろう。恒常的な国際金融危機を回避したければ、EU諸国に加え、アメリカ、日本、中国、ロシアを含む世界的協力体制によってグローバル資本という「モンスター」の暴走を食い止める合意が不可欠であろう。

 ただし、投機資本の規制に対しては、グローバル資本はあらゆる政治勢力を動員して反対してくるはずだ。ウォールストリートの金融資本がホワイトハウスの政策形成に与える影響力の大きさを考えれば、このことはすぐに理解できるだろう。それ故、投機資本の規制が早急に実現する可能性はかなり低いと言わなければならない。実際、ノーベル経済学賞受賞者ジェームズ・トービン(イェール大学経済学部教授)が1972年に提唱したトービン税は、投機目的の短期的な国際金融取引に対して課税をしようという提案であったが、強烈な反対に遭ってこれまで無視されてきた。

 たしかに、投機的取引と実質的な資産の売買を伴う資本の取引を区別するのはそれほど簡単なことではない。コンピュータを使って電子の速度で取引される巨大な資本取引の中身を瞬時にチェックし、課税・非課税を判定することは技術的に見ても恐ろしく困難な仕事であろう。

 ただし、それは不可能ということではない。すでに第4章で詳しく見たように、中国においては実物資産取引の裏付けのない投機資本の流人を厳しくチェックすることで、リーマン・ショックの中国経済に対する悪影響を最小限に食い止めることに成功している。もちろん、投機資本を阻止するため、中国は厳重な資本管理体制を敷いており、かなりのコストを負担していると思われるが、世界的な金融危機の影響を最小限に食い止めるというきわめて大きなメリットを享受しており、そのことを考えれば明らかにコストよりも便益のほうが大きいと思われるのである。

 中国が投機資本の流入を厳しくチェックしていることについては、アメリカ政府などが規制の解除(人民元の国際化・自由化)を強く求めているが、中国はその要求を直ちには受け入れないだろう。中国共産党は、投機的取引の自由化が中国経済の安定にとってきわめて危険であることを十分に理解しているからである。さらに重要なことは、中国における投機資本の取引規制が、実物取引のための資本流入を阻害しているという証拠はないということだ。逆に、改革開放以来、グローバル資本は長期にわたって中国に着実に流入してきており、それが中国経済の成長に大きく貢献していることは明らかである。

 このように、投機的な資本取引規制は経済活性化にとって致命的な悪影響があるという新自由主義者たちの主張が正しくないことは、中国の事例を見ればすぐにわかることなのである。重要なことは、投機資本が自由に国境を越えて移動できるかどうかということではなく、その国の経済に十分な潜在力があるかどうかなのである。実際、潜在力が十分あると認められた中国に対しては、投機的取引規制が敷かれているにもかかわらず、大量の(実物資産取引の裏付けのある)資本が流入し続けてきた。

 いずれにしても、世界経済の安定化のためには、投機資本の取引規制が国際合意されることが望ましいのだが、それに対してはアメリカやイギリスなどが強硬に反対することであろう。実際、リーマン・ショックの直後、ドイツやフランスが投機資本の規制を提案したが、イギリスやアメリカは強硬に反対した。日本はアメリカに同調した。これが世界の現実である。

 そうであるとすれば、投機的取引規制に合意できる国が協調し、それらの国には投機資本の流出入が規制されるようにすればよいのではないだろうか。これまでの経緯を見る限り、イギリスを除くEU諸国の多くは投機的資本取引の規制を支持する可能性がある。ただし、移行措置はかなり慎重に行われなければならない。そうでないと、投機資金が規制に一斉に反応し、それが新たな世界的金融危機を発生させる恐れがあるからである。

 もうひとつの可能性は、相次ぐ金融危機により、グローバル資本の政治力が弱まることである。現在の世界的金融危機が解決されず、アメリカやイギリスなどのグローバル資本勢力が大きなダメージを受け、国際的な発言力が低下していくならば、グローバル資本の国際間移動が規制される可能性が出てくるかもしれない。あるいは、投機資本の流入を制限することで金融危機の被害を最小化することに成功してきた中国の国際社会での発言力が強くなり、グローバル資本主義というイデオロギーそのものが修正されるようになるというシナリオもありうるだろう。それほど、グローバル資本に対する世界の目が厳しくなってきているからである。

 このような動きが出てきたとき、日本はいかなる対応をすべきなのだろうか。「資本の自由な国際間移動こそが経済を活性化させる」と考える新自由主義者と、「過剰な資本移動こそ経済を不安定化させる元凶であり、国際的な投機取引は管理すべきである」という保守主義者の間で大きな論争が起こることだろう。

 私自身は後者の立場をとる。もちろん、投機資本と実物投資を目的とする資本をどう見分けるのかという昔からの技術的な問題は残っているが、それはやる気次第でどうにでもなる問題であり、規制反対勢力が反対のためにする議論であるにすぎない。

 先にも述べたように、長期的な観点から見て最も重要なのは、規制の有無ではなく、その国が持つ潜在力、もしくは、産業競争力であり、それさえ確立できれば、資本は投機資金の規制には関係なく必ず吸い寄せられてくる。

 国際的な投機資本の規制 ― 世界がまずもって目指すべきはこの問題を解決するための知恵を出し合うことである。もちろん、アメリカ、イギリスを中心に反対は強いと思う。それは、これらの国では、金融資本と国家の結びつきが強いからだ。日本はそのような結びつきが強くないこともあって、投機的取引の規制を国際的に提案することは政治的に不可能ではないだろう。また、中国をはじめとする新興国やヨーロッパ大陸諸国の多くは、投機的な取引規制には賛成に回る可能性が高いのではないだろうか。

 これまで、投機的取引の規制の必要性について述べてきた。それでは、実物資産の取引をともなう資本取引については、規制の必要はないのであろうか。本書の文脈からすれば、実物資本についてもその「移動性」については一定の規制をかけるべきだということになる。たとえば、外国資本による工場建設が行われた場合、それがあまりに短期的に撤退することについては制限を設けたほうがよい。なぜなら、短期的に工場が撤退することを許せば、工場が建設された地域は大きな混乱に巻き込まれることになるだろうからである。グローバル資本の気ままな移動によって、地域社会が大きく影響を受けないように、たとえば、工場建設後数年間は撤退できないようにするなどの制限を設けるのである。

 「投機的取引の規制」によって、資本主義体制下の社会的不正がいくらかでも是正できるのなら、それにこしたことはない。しかし、私は、資本主義体制の中で利権に群がっている連中が国家を牛耳っている限り、それはほとんどあり得ないことだと思う。中谷さんは「中国をはじめとする新興国やヨーロッパ大陸諸国の多くは、投機的な取引規制には賛成に回る可能性が高いのではないだろうか。」と期待を寄せているが、現在進行中の中国の経済破綻とそれに対する金融緩和や人民元の切り下げなどの経済政策と、その中国に煽られている世界経済を見る限り、残念ながらこれもほとんどあり得ないことと思う。なぜなら、現在の中国経済はアメリカ発(それに追従する日本など)の新自由主義経済とほとんど変わりがないのだから。

 ここで一つ思い出したことがある。2015年3月22日にサイト「ちきゅう座」に掲載された論文『現代中国を読む座標軸 知識人の現状認識と展望』(筆者は元共同通信社記者の岡田充さん)を記録しておいた。その論文中の中国経済を論じた部分を転載させて頂こう。

 なお、予備知識として、次のことを確認しておく。
 引用文中の「銭」とは魯迅・毛沢東研究者の銭理群のことであり、銭さんは「57体制」(1957年の反右派闘争以後の「党がすべてを指導する」体制)→「64体制」(1989年6月4日の天安門事件の後の体制)という独自の時代区分を用いている。


銭の分析。
「64体制は57体制を引き継いでいるが、権威主義的資本主義が姿をあらわし、二極化が表面化。新しい階級が生まれ①権貴資本②私営企業家③知識エリート。政治エリート、経済エリート、知識エリートが権力の中核に姿をあらわした。これに対するのがレイオフ労働者、失地農民、農民工。かくも両極化した状況は過去になかった」。

 グローバル化が進行する中で、中国は今や米国と共にグローバル資本の世界経済支配をけん引している。根底には「新自由主義」思想がある。中国の「特色ある社会主義」は、権威資本主義がもたらす両極化に歯止めをかけられるのか。

(中略)

 変わらぬ共産党の一党独裁の中で、変化に着目する識者も多い。新華社高級記者の王軍は、一連の経済改革が民間の権利意識を高め「2007年物権法が施行され、土地使用権が認められるようになって、人々の権利意識が強くなった」とみる。そして、土地の私有化と非公有制経済の進展によって「市民社会が再構築されつつある」と分析し、中産階級を主体とする「公民社会」に改革の希望を託す。

 王は言う。
「公民社会はまず政府を信じないことから始まる。これは98年の住宅私有化の延長線上のもの。アジア金融危機があり、内需拡大に迫られた側面も。大量の公有住宅が私有化された。住宅を手に入れた住民は転売したことにより内需は刺激された。2007年の厦門パラキシレン(PX)工場の建設撤回は政府が妥協した典型的具体例。」

 中国では、約4億人の収入が1万ドルを超えた。彼らを中産階級と呼んでいいだろう。台湾、韓国などアジアの多くの開発独裁国家では、経済成長とともに育った中産階級が民主化の担い手になったが、中国も同じ道をたどるのだろうか。NGO活動家の周鴻陵は
「中国がシリアと同じように危機的状況で、何が起きてもおかしくないと批判する声がある。一方、ホテルやショッピングモールは消費を楽しむ人であふれ、ホワイトカラーや中産階級の間では現状を肯定的にとらえる傾向が強い」
と、中産階級の保守的性格を強調する。経済学者の胡星斗(北京理工大教授。戸籍・土地制度に精通)も
「3、4億人の中産階級がいるが、彼らが真の独立した社会改革を求める公民になることはなく、改革を促す力になるとは考えられない」
と、中産階級が改革の原動力になるとの見方には否定的だ。

「中国モデル」(儒家思想)
 リーマンショックを乗り切って以来、中国の発展モデルである「中国モデル」がもてはやされてきたが、知識人の間ではこれを評価する声は皆無である。人気ブロガーで「張鳴博客」の筆者の張鳴は、中国モデルの優位性は、低賃金で労働組合のない大量の労働力にあるとする。
「中国モデルとは何か。表面的には効率的。国有企業改革でも大手を守って中小企業を切り捨て、数千万人がレイオフ。ほかの国では複雑なプロセスが必要な制度改革も中国では軍隊に命令を下すような方式で処理。その結果、役人が中国で最も豊かで権勢を誇る階層になった」
「人権の低さによる優位性。その背後には戸籍制度の二元体制の下、農民工の存在がある。」

 歯切れのよい分析である。「新自由主義」と権威主義のドッキングが為せる業というわけだ。

 ところで、本日(8月26日)の東京新聞のコラム「筆洗」で中国経済の本質を突く実に分かり易い見解が語られている。中国経済に関する部分を転載させて頂く。

 中国での株価急落が、世界中を揺るがせている。「世界経済のエンジン」とも称される巨竜がのたうちまわることになれば、どんな大波が起きるか。欧米メディアは「中国版・暗黒の月曜日」と報じている。(管理人注:世界大恐慌が始まったのは1929年10月24日(木)であった。この日は「暗黒の木曜日」と呼ばれている。)

 考えてみれば、共産党政権という不透明きわまりない政府が透明性が求められる市場を操る不可思議。「卒業することは、失業すること」と言われるほど若者の就職難は深刻なのに、公表される統計からは把握しようもない実態。そんな謎だらけのエンジンがエンストすれば、アベノミクスも急減速はまぬがれまい。

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