2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(72)

終末論の時代(8)

ジャーナリズムの死(8):戦後の言論弾圧(2)



矢崎
 ついでにいってしまうと、近ごろの新聞には非常に疑問を持っているんです。爆弾事件の直後、「朝日新聞」の「天声人語」で、いわゆる爆弾教本が市販されているのはけしからん、すぐ取り締まれという驚くべき発言が載っていましたが、あれは自ら言論の自由を放棄してるとしか思えません。『朝日新聞』が自殺行為の模範を示しているようなものです。その影響がウニタ書舗の『栄養分析表』押収という形でたちまち出てきています。日本ではとにかく誰かが警察に捕まるとか、家宅捜査を受けると、まるで犯罪者扱いされる。羽仁さんのおっしゃるINTO JAILが、日本では監獄へ行く者イコール悪人ということになってしまう。新聞の扱い方がひどすぎる。例えば、太田竜氏が手配されて、小田原署に自首したとき、まるで重大犯人が捕まったように新聞は書きたてています。しかも、どの新聞も「ふてぶてしい」とか「うそぶいていた」とか「不敵な笑みをもらしていた」とか、新聞記者の頭の程度を疑いたくなるような書き方をしている。この種の表現は新聞にはザラにあるんですね。

羽仁
 自分がジャーナリストであるという自覚がなさすぎるんだよ。

矢崎
 『朝日ジャーナル』の川本記者、『プレイボーイ』の春日原記者、そして『毎日新聞』の西山記者など、いわゆる逮捕されたジャーナリストの例をみても、捕まると新聞も週刊誌も黙ってしまう。一人が監獄へ入ると、その人を犠牲にしてしまうようなところがある。ジャーナリストの自覚も大切ですが、マスコミの体質に大きな問題がありそうですね。ぼくをでたらめな記事で誹謗した『週刊現代』なども、ひとつのあらわれだと思うんです。

 矢崎さんの談話に出てくる事件について、簡単に注記しておこう。

爆弾事件
 1969年から1971年にかけて、東京都内で発生した4件の爆破殺傷事件で、「土田・日石・ピース缶爆弾事件」と呼ばれている。18名が逮捕・起訴されたが、全員が無罪になっている。

太田竜の自首
 1974年8月30日三菱重工爆破事件を皮切りに、「東ア反日武装戦線」による連続企業爆破事件が起きた。その事件を起こした集団の教本は「腹腹時計」と呼ばれている。太田竜は「腹腹時計」の作者であり、「東ア反日武装戦線」の指導者だという容疑で手配されていた。それに対して太田竜が「自分が爆破犯として手配されてると知って、潔白を晴らすべく出頭」したのだった。捜査の結果「太田竜の理論が爆破犯に利用されたが、本人は関係なし」ということで釈放されている。

『朝日ジャーナル』の川本記者
 1971年8月21日に起きた朝霞自衛官殺害事件に関わったとして、1972年1月9日に証拠隠滅罪容疑で逮捕され、9月27日に懲役10ヵ月執行猶予2年の有罪判決を受けた。

『プレイボーイ』の春日原記者
 上の事件で川本記者をかくまった容疑で同日に逮捕されている。1974年10月29日に懲役8月執行猶予2年の有罪判決を受けた。

『毎日新聞』の西山記者
 沖縄返還協定に際し、地権者に対する土地原状回復費400万ドルを、実際には日本政府が肩代わりして米国に支払うという密約をしているとの情報を外務省の女性事務官から得た西山記者が、その情報を日本社会党議員に漏洩したとして、逮捕された事件。女性事務官は懲役6月執行猶予1年、西山記者は懲役4月執行猶予1年の有罪判決を受けている。
この事件は現在にまで尾を引いている。少し長くなるが、その後のことをかいつまんで記録しておこう(ウィキペディア「西山事件」を利用しています。きめ細かい見事な記録です)。

2000年5月
 アメリカ国立公文書記録管理局で、25年間の秘密指定が解かれた公文書類の中に、密約を裏付ける文書が発見された。
 この密約をめぐる訴訟は現在まで延々と続いているが、政府は一貫して密約はなかったと嘘を言い続けた。しかし
2009年12月1日
 密約訴訟で、それまで政府の意向に沿って密約を否定してきた吉野文六元外務省アメリカ局長が、「過去の歴史を歪曲するのは、国民のためにならない」と、これまでの発言を撤回して、密約が存在する事実を証言した。
 すると政府は今度は破廉恥にも、「文書はあったが廃棄済みで存在しない」と新たな嘘を言い張り続けて臆面もない。
2010年4月9日
 密約訴訟判決。東京地裁(杉原則彦裁判長)は「国民の知る権利を蔑ろにする外務省の対応は不誠実と言わざるを得ない」として外務省の非開示処分を取り消し、文書開示(本当に存在しないなら“いつ”“誰の指示で”“どの様に”処分されたのかも)と原告一人当たり10万円の損害賠償を国に命令。西山は文京区民センターでの講演『知る権利は守られたか』でこの判決を「歴史に残る判決」と評価し、「われわれが裁判を起こして今回の判決を導き出していなければ、外務省の外部有識者委員会による報告書が密約問題に関する唯一の解明文書となり、国民の知る権利は封殺されていただろう」と述べた。
2011年9月29日
 密約情報開示訴訟控訴審、原告逆転敗訴。判決趣旨
「政府が文書はあったが廃棄済みで存在しないと言っているからそれを信じるしかない」
原告側は上告。また外務省に対し公開質問状を提出、回答を要求。
 この事件についても、最高裁は政府べったりの最低裁の本領を発揮している。ウィキペディアが記録している最後の裁判は次の通りである。
2013年12月13日
 政府が特定機密指定した事項について最長60年の開示保護を行い、内容を探知し公表した者を処罰する「特定秘密の保護に関する法律」(特定秘密保護法)が制定される。
2014年7月14日
 密約情報開示訴訟上告審判決で、最高裁第二小法廷は上告を棄却し、密約文書を不開示とした政府の決定を妥当だとする判断を下した。
 これが「特定秘密保護法」という悪法が論拠となった最低裁による最初の判例のようだ。

 羽仁さんと矢崎さんの対話は最後に裁判についての批判を語っている。順序を変えてその部分を引用しよう。なお、矢崎さんの談話の中に「八海(やかい)事件」が出てくるがその事件はおおよそ次のような事件である。

 1951年に山口県熊毛郡麻郷村(おごうむら)八海で発生した強盗殺人事件。5人が逮捕され、拷問による自白で全員有罪となったが、のちの裁判で被告人5人のうち4人が無罪になっている。

羽仁
 実際、最近の最高裁のあり方は恐ろしいの一語に尽きる。北海道の猿払の郵便局の人たちが勤務外の時間に、野党のポスターをはったというのが有罪になったんだ。はっきりいって「表現の自由」「思想の自由」っていうのは憲法上の権利だよね。公務員法というのは、ひとつの法律にすぎない。法律によって、憲法で定められた権利か制限されるというのは戦前の状態なんだよ。帝国憲法の時代でも、表現・結社の自由はあったが、まったく許されてはいなかった。歴史は繰り返されるというが、繰り返されはしないんだ。前に較べたら百倍も千倍もひどい状態になるだけなんだよ。

矢崎
 疑わしきは罰せずどころか、疑わしくないものまで罰してしまう。裁判はかなり悪くなってきていますね。八海事件に題材をとった『真昼の暗黒』という映画がありましたが、ラストシーンで有罪判決を受けた被告が「まだ最高裁があるんだ」と叫ぶ。あそこで観客はホッとしたものだけど、今やその叫びは空しくなってしまった感が強いですね。

羽仁
 下級裁判なんていうけど、第一審で若い裁判官が良心的に出した判決が、最高裁へいくとレベルの低い判決で覆されてしまう。だから、下級審なんていう呼び方をするなら、最高裁こそ最下級なんだよ。憲法の権利が、国家公務員法で制限されてしまう世の中なんだ。しかし、戦前になかったと思うのはね、今の学生なんかを救援している救援連絡センターが出した『フレームアップと黙秘』というパンフレットがある。どういうことが書いてあるかというと、
第一章、デッチ上げ事件の構造的な特徴
第二章、暗黒の取り調べ
第三章、屈服・誘導・迎合
第四章、なぜ黙秘が必要なのか
第五章、弾圧に対する心得
 第五章は
一、逮捕
二、任意出頭
三、家宅捜索
というふうになっている。こういうパンフレッ卜が出てくるのは、圧迫が誰かに向ってなされるのではなくて、今やみんなの問題になってきているからなんだね。やっぱり、誰かひとりが暗黒に引きずり込まれてしまったときに、それを救う方法は、いつ自分に襲いかかってくる暗黒かもわからないという恐怖を感じることなんだよね。

 羽仁さんの「憲法の権利が、国家公務員法で制限されてしまう世の中」という指摘について一言付け加えておこう。東京都で始まった「日の丸・君が代の強制」は教育委員会が出した一片の通達に過ぎない。その通達にも「公務員(公立学校の教員)は法に従え」という論理が使われている。これまでにも何度か紹介しているが、美濃部亮吉さんの言葉を再録しておこう。羽仁さんと全く同じ見識を語っている。

『仮に通達と法律とが矛盾しあうならば、法律に従うべきであり、法律と憲法が矛盾している時は、憲法に従うべきであるというのが私の行政官としての判断である。』

 なお、これも既に何度か採り上げた問題であるが、「日の丸・君が代の強制」関係の裁判の一つである「予防訴訟」について触れておこう。この裁判の第一審では上の美濃部さんの言葉と同じ趣旨の原告全面勝訴の判決が出されたが、都が控訴して行われた東京高裁裁判では真逆の判決が出された。さらに続けられた上告審で、最高裁は上告を棄却して最低裁の面目(?)を保っている。
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