2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(62)

権力が教育を破壊する(46)

教育反動(38):遂にここに極まれり(3)


《教育への市場原理の導入》

 「教育への市場原理の導入」を象徴する第1の施策は
(1)「学校選択制」
であるが、これとの関連事項として、次のような政策が打ち出されている。
(2)「特色ある学校づくり」
(3)「教育バウチャー制」
(4)「学校評価」
 この四つの施策の動向を追っていこう。

(1)「学校選択制」

 この施策は「「教育の自由化」論」で取り上げたように既に臨教審に発端があった。そこでは「学校の多様化を促し、学校選択の自由化を進めるべき」との主張が盛り込まれていた。それに対して、文部省は学校選択制の導入には慎重な姿勢を示していたが、「いじめ」の問題や通学区域の非合理性(例えば、最も近距離の学校に通学できないといった)の問題に対応するために、1997年1月に「通学区域の弾力的運用について」を各都道府県教育委員会に通知した。その後、次のような動きが続いた。

2000年
 東京都品川区が学校選択制を導入。

 これが、この制度に全国的な注目を集めるきっかけになった。

2003年3月
 「学校教育法施行規則」の一部改正により、各教育委員会は、その判断に基づいて学校選択制を導入することが可能となる。

 2006年に実施された文部科学省の調査によれば、学校選択制を実施している自治体は、
小学校段階(1696自治体)で240(14.2%)
中学校段階(1329自治体)で185(23.9%)
 必ずしも多いとは言えないが、上記の「通学区域の弾力的運用について」を通知した1997年での学校選択制導入の自治体数が、小学校65、中学校30であったことからすれば、学校選択制の導入が徐々に拡がってきていることが分る。文科省の資料を調べてみたら、2012年では小学校88.2%、中学校71.1パーセントとなっていた。

(2)「特色ある学校づくり」

 このテーマに基づいて行われている施策で近年注目を集めているのが「中高一貫教育校」開設の動きである。

 中高一貫教育校が制度化された経緯は次のようである
1997年6月
 中教審第二次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で提示。
1998年6月
 中等教育学校という名称で「学校教育法等の一部を改正する法律」に盛り込まれ、1999年4月から制度化された。

 1999年度には全国に4校が開設されたが、その後増加を続け、制度発足10年後の2009年度には370校となり、さらに2012年度には私立・国立を含めて全国に441枚が設置されている(公立184校、私立252枚、国立5校)。

 中央教育審議会第二次答申では中高一貫教育校設立の趣旨は、「中等教育の一層の多様化と生徒の個性を重視する教育の推進」とされているが、この中等教育学校について、山本さんは次のような危惧を述べている。

「これらの学校での一貫教育が進学・就職実績を第一義的に目指すようになれば、またそれが上述の学校選択制と結びつけられるならば、その存在は、容易に学校の序列化や格差化を促進するように機能することが予想される。」

(3)「教育バウチャー制」

 「教育バウチャー制」という聞き慣れない用語の意味を調べてみた。「バウチャー voucher」は「引換券・割引券」という意で使われており、ウィキペディアによると「教育バウチャー制」は次のような制度を指す。
「私立学校の学費など、学校教育に使用目的を限定した「クーポン」を子供や保護者に直接支給することで、子供が私立学校に通う家庭の学費負担を軽減するとともに、学校選択の幅を広げることで、学校間の競争により学校教育の質全体を引き上げようという私学補助金政策である。」 制度である。ただし、
「実際の運用にはクーポン券を直接家庭にくばる必要はなく、また補助金額を単純に個々の生徒に比例させる必要もない。何らかのかたちで学校への補助金の大部分が生徒数に応じて決定されるようなメカニズムを導入すればそれがバウチャー政策となる。」

 さて、日本でのこの制度の導入はどうなっているだろうか。
2005年10月
 文科省、「教育バウチャーに関する研究会」を発足。
 この制度の検討や諸外国事例の調査を行ったが、国の政策として実施されるには至らなかった。(ちなみに、このときの調査・検討は文科省のHPに公開されている。「教育バウチャーに関する研究会 教育バウチャーに関する検討」)

 上の報告を読むと、教育バウチャーの導入については文科省は慎重であったことが分る。しかし、第一次安倍内閣はこれを教育改革の目玉の一つとした。そして、安倍内閣が設置した教育再生会議がこれを提言している。

2007年12月
 教育再生会議第三次報告の中で、学校選択制の促進と、児童生徒数を勘案した予算配分を提言。
 同報告は、学校教育の質を高めるためには「適正な競争原理」を導入することが必要だとした上で、その方策として、

 画一的な教育や悪平等の弊害を改めて、各学校が授業や課外活動での創意工夫と情報公開を進める、

 それに基づいて、児童生徒や保護者が主体的に学校を選択できるようにする、

 この学校選択制によって、児童生徒が多く集まり、保護者からの厚い信頼が寄せられた学校に予算配分を増やす、

 この「バウチャー的な考え方」により、学校や教職員のインセンティブが働くようにする、などを提言した。しかし、「教育格差を拡大させる」として文部科学省から慎重論が出たことや安倍晋三の辞任により、事実上見送られた。以上を踏まえて、山本さんは次のようにコメントしている。
「今後の教育バウチャー制の導入・実施は不透明ではあるが、学校選択制の普及との関連において、その動向はこれを注視していく必要がある。」

(4)「学校評価」

 小・中学校などにおける自己評価の必要性については、次のような答申や報告で言及されてきた。
1998年9月
 中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方について」
2000年12月
 教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」
2000年12月
 教育改革国民会議最終報告

 そしてこれを制度化したのが、
2002年3月の「小学校設置基準」ならびに「中学校設置基準」の制定(幼稚園及び高等学校は設置基準の一部改正)であった。

 しかしこの時点では、学校の自己点検・評価とその結果の公表は努力義務とされていたが、その後、
2007年6月の「学校教育法」の一部改正と、同年10月の「学校教育法施行規則」の一部改正により、自己評価の実施・公表とその評価結果の設置者への報告が義務づけられ、さらに保護者など学校関係者による評価の実施・公表が努力義務とされた。

 文科省の学校評価等実施状況調査によれば、公立学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校)では、努力義務である学校関係者評価についても、
2008年度間は81.0% 2011年度間では93.7% の学校がこれを実施している。

 この学校評価についての山本さんのコメントは次のようである。
「学校評価は、もとより各学校における教育活動や学校運営の充実・改善、あるいは保護者や地域社会との連携協力に資することを目指して行われるものであり、その限りでは前向きに考えられるべきものである。だが、これが上記の学校選択制や教育バウチャー制を前提として行われる色彩の濃いものになるならば、それは各学校を競争と序列化の世界に追い込むことになりかねない。この動向についても、今後、冷静な分析を加え続けていく必要が認められるのである。」

 以上のように、「学校選択制」「特色ある学校づくり」「教育バウチャー制」「学校評価」という四つの施策は個々に切り離して評価することはほとんど無意味である。その全体を「教育への市場原理の導入」という観点から考察するとき、初めてその本質が見えてくる。
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