2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(60)

権力が教育を破壊する(43)

教育反動(35):21世紀に入って(3)


 1998年に改訂された学習指導要領で打ち出された「ゆとり教育」路線は2008年改訂の「学習指導要領」では見直され、そこからの脱却が図られている。それをめぐる議論を追ってみよう。

 「ゆとり教育」見直しのきっかけとなったのは2003年度の「経済協力開発機構(OECD)」による「生徒の国際学習到達度調査(PISA)」と、もう一つ、「国際教育到達度評価学会(IEA)」による「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の成績結果だという。前者は『フィンランドの教育』で紹介した調査である。

 教科書Eはそれぞれの調査における日本の成績を、前回の調査と比較して、その順位の推移を次のようにまとめている。(「前回の順位→2003年の順位」という形で表示ます。)

《PISA》
 3年ごとに調査。2003年度は41ヵ国参加。
 15歳児(高校一年生)を対象に、小・中学校を卒業した段階での「知識や技能等を実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを評価(記述式が中心)」する調査である。「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」のほかに、今回は「問題解決能力」を加え、4項目の調査をしている。従って、この調査は学校で学ぶ教科とは必ずしも一致していない。
「数学的リテラシー」1位→6位
「科学的リテラシー」2位→2位
「読解力」     8位→14位
「問題解決能力」前回なし→4位
 なお、平均得点は参加国平均の500点を下回った。

《TIMSS》
 4年ごとに実施。2003年度は45ヵ国が参加。
 日本では小学校4年・中学校2年に当たる生徒が対象で、「学校のカリキュラムで学んだ知識や技能等がどの程度習得されているかを評価(選択肢が中心)」する調査、つまり、いわゆる「学力到達度」の調査である。教科書Eでは中学数学・中学理科に付いてのみふれている。
中学数学 4位→4位
 (参考 1964年2位、1981年1位)
中学理科 4位→6位
 (参考 1970年1位、1983年2位)

 私にはこのような調査に一喜一憂して大騒ぎをする思考が理解できないが、教科書Eは、上のような数字が「関係者に少なからぬ衝撃を与え」さらに「これらの調査結果は、これをマスコミが大きく報じたこともあって、この国の教育政策の針路にも多大な影響を及ぼすことになった。」と述べている。では、実際に文科省などはこれを受けて何を始めたのか。その動向は次のようである。

 2003年5月
 文科相、「今後の初等中等教育改革の推進方策について」を中教審に諮問。

2005年年2月
 文科相、中教審に「学習指導要領」の見直しを諮問。

 PISAのよる調査結果が発表されたのは2004年12月であり、TIMSSの調査結果の発表はその直後であった。上の諮問はこれらの発表を受けての判断だったのだろう。ここで学習指導要領の改訂と「ゆとり教育」の見直しの方針が表明されたのだった。

2008年1月
 中教審、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」を答申。

2008年3月
 小・中学校の「学習指導要領」改訂。
(施行は小学校が2011年度、中学校が2012年度から)

2009年3月
 高等学校の「学習指導要領」改訂。(施行は2013年度から)

 この「学習指導要領」改訂における大きな変更点は、従来の「ゆとり教育」路線の見直しであった。相変わらず「生きる力」を育むことが理念として掲げられているが、「生きる力」は「ゆとりある生活」を通して育まれるという従来の認識に代わって、それが知識・技能の習得や思考力・判断力・表現力などの育成と密接に関わるとの認識が示された。まるでPISAの調査項目を踏まえた認識のように見える。

 改訂内容を具体的に見てみよう。

(1)「総合的な学習の時間」の削減
 「ゆとり教育」を象徴する「総合的な学習の時間」は、小学校についていえば、これまで中・高学年の4年間で430時間が組み込まれていたものが、280時間に大幅削減された。
(2)授業時数の増加
 例えば小学校では、国語・社会・算数・理科・体育の授業時数が10%程度増加されるとともに、週当たりのコマ数も低学年で週2コマ、中・高学年で週1コマ増加された。小学校6年生でいえば、年間総授業時数がそれまでの945時間から980時間に増加された。教科では
算数 150時間→175時間
理科  95時間→105時間
へと増加された。

 PISA・TIMSSによる調査結果
「数学的リテラシー」1位→6位
 中学理科 4位→6位
におおいに影響された結果だろう。

(3)
 教科内容が系統学習の観点から見直された。上記のように理数系の教科は授業時数の増加が図られたが、それとともに反復指導や課題学習の充実が強調された。また、一方で国際化への対応、他方で日本の伝統・文化への理解が改めて図られた。小学校に外国語活動が導入されることになったこと、中学校にて武道が必修化されたことなどは、各方面から様々な論議を呼んだ。

 繰り返しになるが、「新・学習指導要領」では「生きる力」の育成という方針自体が見直されたわけではない。見直されたのは、「生きる力」を育むための要件に関わる認識であった。「小学校学習指導要領」の総則には、
「学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において、児童に生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない。その際、児童の発達の段階を考慮して、児童の言語活動を充実するとともに、家庭との連携を図りながら、児童の学習習慣が確立するよう配慮しなければならない。」
と述べられている。そして、「生きる力」を育むために必要な要件次の7項目が挙げられている。
①創意工夫を生かした特色ある教育活動
②基礎的・基本的な知識及び技能の確実な習得
③思考力、判断力、表現力その他の能力の育成
④主体的に学習に取り組む態度の養成
⑤個性を生かす教育の充実
⑥児童の言語活動の充実
⑦児童の学習習慣の確立

 中教審の会議が目に浮かんでくる。会員たちが思い思いに思いつく事柄を得意そうに発言する。それらの関連性を検討する議論は出てこない。会長も得意げにそれらを連記するだけの答申を提出する。文科省の役人もそれをそのまま「学習指導要領」に盛り込む。

 山本さんはこの学習指導要領に盛り込まれた七つの要件について次のように批判している。


 もちろん、それぞれの項目がそれぞれに重要であることは論をまたない。だが、各項目間の関連がどうなっているか、あるいはどの項目に中核的取り組みとしての含意が与えられているのか、に関する吟味が加えられた痕跡をこの文章に認めることは困難である。

 こうして現今の教育政策は、考えられうる施策を複数の項目としてただ羅列することに終始し、それらの中で何に重点が置かれ、また諸施策がいかなる構造連関に基づいて実施されていくのかを明示的に掲げようとする姿勢に、著しく欠ける傾向にある。明らかなことは、2008年改訂の「学習指導要領」に基づいて「ゆとり教育」の方針が見直されたことだけであって、これからの教育のあり方にどのような針路を与えようとするのかについては、まさに混迷と混沌の状態に覆われていると評せざるをえない。

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