2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(59)

権力が教育を破壊する(42)

教育反動(34):21世紀に入って(2)



 中教審は、1996年7月に「二十一世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の第一次答申を出しているが、その表題は「子供に[生きる力]と[ゆとり]を」となっている。そして、「ゆとり」ある生活の確保のために学校週五日制の完全実施を提言した。そして翌年6月の第二次答申では、「ゆとり教育」という教育政策は「生きる力」育成のための基盤であることを強調している。

 これを受けて、1998年7月に教育課程審議会が
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」
を答申している。この答申では、およそ次のような方針が明示された。

 「多くの知識を教え込むことになりがちであった教育」
から
「幼児児童生徒に自ら学び自ら考える力を育成することを重視した教育」
への転換が強く求められ、そのために、幼児児童生徒の発達の状況に応じて、知的好奇心・探究心をもって、自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力を身に付けるとともに、試行錯誤をしながら、自らの力で論理的に考え判断する力、自分の考えや思いを的確に表現する力、問題を発見し解決する能力を育成し、創造性の基礎を培い、社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視した教育活動を積極的に展開していく必要がある。

 これだけ読むとなんら問題のない正論に見えるが、「ゆとり教育」の根底にある思わくは、前回紹介した「ある種の能力の備わっていない者が、いくらやってもねえ。」という江崎玲於奈の認識と呼応している。改めて江崎の発言を転載しておこう。

「人間の遺伝情報が解析され、持って生まれた能力がわかる時代になってきました。これからの教育では、そのことを認めるかどうかが大切になってくる。僕はアクセプト(許容)せざるを得ないと思う。自分でどうにもならないものは、そこに神の存在を考えるしかない。その上で、人間のできることをやっていく必要があるんです。ある種の能力の備わっていない者が、いくらやってもねえ。いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝情報に見合った教育をしていく形になっていきますよ。」(斎藤貴男「機会不平等」より江崎玲於奈・教育改革国民会議座長の発言)

 次に紹介する発言は当時の教課審会長であった三浦朱門のものであり、これも斎藤貴男著「機会不平等」からの引用である。(詳しくは『「君が代日の丸」が「考えるな、服従せよ」と恫喝する』をお読み下さい。)

「学力低下は予測し得る不安と言うか、覚悟しながら教課審をやっとりました。いや、逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。つまり、できん者はできんままで結構。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなくなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいのです。(中略)それが"ゆとり教育″の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ。」(「ゆとり教育」についての著者の質問に対する三浦朱門・前教育課程審議会会長の回答)

 ここでちょっと横道に入ります。

 「似た者夫婦」という言葉がある。広辞苑は「仲のよい夫婦はその性質・趣味などが似るということ。また、性質・趣味などが似ている夫婦。」と説明している。世の中には差別思想を共有しているという「似た者夫婦」もいることを知った。最近、三浦朱門の妻・曽野綾子がアパルトヘイト支持の発言で非難されている。その曽野の言説を東京新聞の「本音のコラム」で宮子あずささんが、別の観点から、次のように批判している。

介護への無理解
  宮子あずさ(看護師)

 曽野綾子氏が産経新聞に寄せたコラムがアパルトヘイトを肯定する内容だとして批判されている。夫が買ってきた週刊ポストに、曽野氏擁護の記事を発見。全文読めば誤解が解ける、との趣旨で新聞掲載の全文が掲載されていた。

 読んでびっくり! 導入部分からひどすぎて、移民を受け入れても、居住は分けるべきだ、という問題部分になかなか到達しなかった。

 「高齢者の面倒をみるのに、ある程度の日本語ができなければならないとか、衛生上の知識がなければならないとか言うことは全くない」。だからハードルを下げて、どんどん移民を受け入れよ、というのが彼女の意見である。その根拠は、専門知識がない孫でも、「祖母の面倒をみるという構図はよくある」から。

 このあたりで開いた口がふさがらなくなった。そもそも仕事として介護を提供すれば、孫の世話より高いレベルが求められる。さらに、施設から在宅への流れの中で、介護中心の施設でも重症者の比率が上がってきた。施設はいまやみとりさえ任される。もはや曽野氏が言う「やさしければそれでいい」仕事ではありえない。

 結局曽野氏は介護の現状について、あまりにも無知。今どき介護にここまで無理解な人は、そうそういませんよ。これが新聞にそのまま掲載される状況が、なんともやりきれない。

 この曽野綾子について思い出したことがある。このシリーズでは最初に『羽仁五郎の大予言』の序章を用いて「チリのクーデター」を取り上げた。その序章の中に次のような一文があった。

「曽野綾子という女流作家が『諸君』という雑誌に、チリのことを書いているのを読んだが、こういう無邪気さも困る。なんでもわざわざチリにまで行って ― アジェンデが倒されて、さぞ悲惨な状態だろうと考えていたが、実に平和な状態で、私は怒りを覚えるより悲しみを覚えただけだ ― なんていっている。そんなことじゃないんだ。あの政変でボロ儲けしたり、利用したりした連中がいることを忘れてはいけない。ピノチェトを断固として認めないということから出発しなければ、まったく有効ではない。」

 つまり、曽野は民主的に誕生したアジェンデ社会主義政権をクーデターで転覆させたピノチェトのことをあっけらかんと支持しているのだ。羽仁さんはこの曽野の認識を「無邪気さ」の結果とやんわりと批判しているが、私は邪気だらけ言説だと思う。また広辞苑のお世話になろう。
「無邪気」
(1)邪心のないこと。わるぎのないこと。
(2)深い考えのないこと。考えの単純なこと。
(3)あどけなく、かわいらしいこと。
とあるが、もちろん(3)の意味ではないだろう。(1)も当てはまらない。私は「邪気だらけ」と書いたが、曽野の言説の裏に社会主義政権をくさしたい意図を感じたからだ。それはアジェンデが行った政治とピノチェトが行った卑劣にして残虐なクーデターについての「あまりにも無知」であり、「ここまで無理解な人」としてあきれるほかない。好意的に解釈すれば(2)でいう「無邪気さ」と言うことになるが、いっぱしの評論家として言説を発表しているのなら、この「無邪気さ」は恥ずるべきだろう。あるいはクーデターの経緯を知っていたのだとすれば、その事実を歪曲した結果の言説であり犯罪的ですらある。

 いずれにしても、「むち」の2乗のような言説だ。江崎玲於奈も三浦朱門も曽野綾子も、「無知」に「無恥」な鈍感な人たちなのだ。

 長い横道になるが、もう少し続けよう。実は東京新聞(3月7日)の「こちら特報部」が『はびこる「無知の無恥」』と題してアベコベ政権のでたらめぶりを取り上げていた。四つの実例を取り上げて検証しているが、その記事のリードと、まとめに当たる中野晃一教授(上智大)へのインタビュー記事を転載しておこう。

 昔から「知らないことを恥じるな」という。知つたかぶりをするより、謙虚に学ぶことが大切という意味だ。しかし、もし「謙虚に学ぶ」という暗黙の了解がなくなれば、ただの恥知らずになる。最近、そうした「無知の無恥」が目に余るように思える。それも権力の中枢、周辺で横行している。「反知性主義」という言葉が流行しているが、現実はさらにその一歩先を進んではいないか。(榊原崇仁、沢田千秋)

「何でもあり」まん延

 こうした「無知」を恥じない発言の横行について、上智大の中野晃一教授(政治学)は「古代ギリシヤの哲学者プラトンは『知識がない人間の統治は不正義』と言った」と批判する。

 中野教授は今日の事態は小泉純一郎元首相の登場から始まったと指摘する。小泉氏は2003年、自衛隊のイラク派遣を非戦闘地域に限定することに絡んで、「どこが戦闘地域か、私に聞かれたって分かるわけがない」と開き直った。

「辞任に追い込まれても全くおかしくない暴言だったのに結局、許されてしまった。小泉氏は従来、支配的だった建前の政治をバカにし、『そんなことを知らなくて何が悪い』とタブーを破るポーズで改革者を装って、大衆の支持を集めた」(中野教授)

 この手法が第三次安倍政権下の今日まで続いているという。ただ、この劇薬的な手法は副作用を伴う。

 中野教授は「事態は政治の枠にとどまらない。首相や有名人の無知や差別的発言がまかり通れば、国民にも何でもありの雰囲気がはびこる」
とし、
「国民は知性を守る戦いを挑まれている」
と警鐘を鳴らす。

 放置すれば、待っているのは日本の国際的な孤立だという。
「立憲主義への無知やアパルトヘイトの肯定は、人類が打ち立ててきた原理原則や英知に対する挑戦だ。生ぬるい態度をとっていると、日本だけが世界からどんどん外れていき、孤立するだろう」

 思い掛けず、ずいぶん長い横道になってしまいました。次回、本道に戻ります。
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