2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(56)

権力が教育を破壊する(39)

教育反動(31):中曾根臨教審以後(2)


   学習指導要領改訂案が公表されたのは1989年2月10日だった。それより先の1月26日に自民党の「初等中等教育に関するプロジェクトチーム」の第5回目会合が開かれている。その議題は、「学習指導要領案」であり、文部者側から初中局長が出席している。その会合がどのようなものであったかについて、久保さんは、その会合に参加した"某メンバー"の談話を引用している。

「以前から党側の注文を出していたので、文部省には主としてその点を中心に説明してもらった。異論なんてでなかった。『おおむね了承する』との態度でのぞんでいたからだ。いわば、セレモニーだよ。」

 その党側が出していた注文とは、つぎのようなものであった。
①道徳教育の改善、
②歴史上の人物名の明示、
③国旗・国歌の取扱い、
④地理歴史科及び公民科の新設、
⑤歌唱共通教材の改善。


今回の学習指導要領改訂の主要な柱となるものの大部分が、この自民党プロジェクトの圧力によるものであったことが分る。

 「初等中等教育に関するプロジェクトチーム」のほかに、自民党には「教科書問題を考える議員連盟」(1985年10月に発足)があった。この議員連盟は森山元労働大臣、奥野元文部大臣、海部元文部大臣、林健太郎議員(元東大学長)などが発起人であった。その呼びかけの趣旨は次のようである。


 現行の教科書には当然記述されていなければならない人物名などがない、

わが国の伝統や歴史を否定的に記述し、国家の一員としての誇りを失わせしめているので、教科書の内容の正常化を検討していく。

 そこでは、その当然記述されていなければならない人物として、東郷平八郎が挙げられていた。さらに、この議員連盟では、
「中国の『魏志倭人伝』に載っている卑弥呼を取り上げながら、建国の基となった神武天皇を入れないのは何故か」
というような意見が続出し、神武天皇を指導要領に盛り込む要望が相ついだという。久保さんはその例として次のような発言を引用している。
「ギリシャ神話を教えていることを思えば、日本の神話、伝承の教育をうたった今回の指導要領で、古事記、日本書紀を参考にして(神武天皇を)教えられないはずはない」(同連盟幹事長・長谷川峻氏)
「卑弥呼は中国から印璽をもらった人物であろうが、この人から(日本の歴史が)始まったのではない」(加藤武徳参院議員)
 しかし、文部省側は「神武天皇(の存在)は歴史的事実ではない」と突っぱね、記載することを受け入れなかった、という。

 自民党内で行われているこのような低次元の教育論議によって教育内容が醜く歪曲されていく。久保さんは『世界日報』の「『天皇への敬愛』明記 自民・文教族が巻き返し」という見出しの記事を転載している。次のようである。

「『水が低いところに流れるように、左翼は日常生活の中で、スキがあれば常に突いてくる。日教組に、"ゆとりある教育"という"スキ"を突かれたのであり、気がつけば彼らの思う通りになっていた』という認識の下に現行学習指導要領の抜本的改革をめざしてきたのである。だから、例えば小学校6年の『社会』で、旧学習指導要領にあった『天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること』は、現行学習指導要領で削除されたのを、今回の新学習指導要領案では復活した。」

 小学校6年社会科からもう一例。
 素案では「軍部の台頭、日中戦争の始まり」とあった文が、改訂案では「軍部の台頭」を削除し、「日中戦争」を「日華事変」と修正している。

 自民党議員連盟の要求を受け入れた結果、学習指導要領改訂案にも、多くの修正という名の歪曲が行われている。久保さんが取り上げている例のうち小学校社会科6年の例を転載しよう。

「2月10日発表案文」(青字は削除部分)
  ↓
「3月15日告示文」(青字は加筆部分)
という形式で記録します。赤字部分は久保さんによる批判です。


(例一)
<表現の適正化>と称して
「日華事変、太平洋戦争、日本国憲法の制定などについて調べて、第二次世界大戦を経て、民主的な国家として出発したことを理解すること。」
  ↓
「日華事変、我が国にかかわる第二次世界大戦、日本国憲法の制定などについて調べて、戦後は民主的な国家として出発したことを理解すること。」

 自民党は、「日中戦争」を「日華事変」に修正させたが、今度は、「太平洋戦争」を「我が国にかかわる第二次世界大戦」というように修正させた。「日中戦争」と「太平洋戦争」の用語は、すでに歴史学の学術用語として定着しているものである。「太平洋戦争」の用語については、それが、極東軍事裁判において用いられたものであるとして、自民党関係者等は、感情的に反発しているものであった。

(例二)
<内容の取扱いの明確化>と称して
「ア・・・」
  ↓
 アの次にイ項を加える。
「イ・・・神話・伝承については、古事記、日本書紀、風土記などの中から適切なものを取り上げること」。

 神話について、三書を明記することにしたのは、天皇制の始源や皇位継承の永遠性を明らかにして、天皇敬愛の念を深化させようとしたものであった。

 この天皇敬愛教育が社会科において重要な位置を占めるようになった。この問題について、久保さんはかなり詳しい批判を加えている。それを次回に取り上げよう。
スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/1969-33a4ba34
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック