2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(31)

権力が教育を破壊する(14)

教育反動(6)


1953年

5月21日
 第5次吉田内閣が発足。大達茂雄が文部大臣に就任。

 大達は満州国総務庁長、昭南(シンガポール)特別市長、内務大臣などを歴任した経歴があり、戦犯官僚として追放されていた人物である。その大達が文相となり、さらに旧特高官僚を次官、初中局長、地方課長にすえた。

 大達は日教組と正面切って対立した初めての文相である。そして、戦後教育改革の民主的原則を空洞化・形骸化するという、その後の文教行政の基本路線を敷くという重要な(反動勢力にとって)役割を果たしている。

6月3日
 岩国市教育委員会、平和問題等に関する記述を不当として、山口県教組編『小学生日記』「中学生日記」の回収を決定。

 この事件は「山口日記事件」と呼ばれている。大達はこの事件を徹底的に利用することを企んだ。

 山口日記事件の経緯は次のようである(教科書Aより引用する)。

 岩国市教委の一人は「県教組編集の日記はアカである」といい出し、市教委は校長にたいしその使用状況調査・回収を強要した。「親ソ的」とされた欄外記事は文部省推薦図書『朝日年鑑』から抜すいした「ソビエト連邦」であり、「再軍備と戸じまり」では、在日米軍基地への疑問をなげかけたものであった。毛利元就の三本矢の話も、中共の思想だと攻撃され、このような"偏向教育"という武器に県教組分裂の攻撃がかけられた。

 大達文相は徹底的にこれを利用し、「教育の中立性確保」の名目で、教員の政治活動の禁止をたくらんだ。国会討論でも大達は
「再軍備をしない建前だということを教えるのはいいが、再軍備反対といえば一つの政治的主張だ」
という珍妙な論理で、憲法・教育基本法の根本精神から教育をきりはなそうとした。

「平和と独立のための教育であるが、一口にその正体を洗えば、アカ(平和)と反米(独立)のための教育である……民族的課題とやらを解決するために教育を道具に使うことだけは、絶対にやめて貰わねばならぬ。いな、絶対にやめさせなければならぬのである」(大達茂雄『私の見た日教組』新世紀社、1955年)。

 これは対米従属下の軍国主義復活を推進する独占資本・支配層の意志を集中的に表現していた。この時期に教員の思想調査事件が相ついで発生した。

 山口日記事件については、私はほとんど知らないので、もう少し追うことにする。教科書Cが山口日記事件を詳しく記録しているので、それを用いる。

岩国市教育委員会は「日記の欄外記事には明らかに政治的偏向がみられ、次のような内容を含んでいる」として取り上げたのは次の6項目である。

1 再軍備反対(保安隊及び警備隊反対)
「再軍備反対の声が強いのはなぜか」(小学生日記31頁)「平和憲法」(同3頁)

2 講和条約の批判
「日印平和条約」(同26頁)

 「日印平和条約」がなぜ「講和条約の批判」になるのか。調べてみた。ウィキペディアから引用する。

「インドはサンフランシスコ講和会議に招請を受けたが、1951年8月23日に会議への参加と条約への調印は拒否した。表向きの理由は日本の主権が制限されていること(特に占領下での日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約締結の合法性の問題)、沖縄、小笠原諸島のアメリカ合衆国による信託統治への反対であった。また、日本に対しても東側諸国の講和会議参加への障害となっているとして千島列島と樺太全域のソビエト連邦への編入を認めるように主張した。ただし、日本との関係回復を否定する立場にはないして、日本国との平和条約調印当日になって日本側に対して個別に平和条約を結ぶ意思があることを通告した。


3 軍事基地反対
「死んだ海」(同15頁)「再軍備と戸じまり」(同59頁)

4 朝鮮動乱の批判
「気の毒な朝鮮」(同35頁)

5 対中国貿易再開
「ポツダム宣言」(同53頁)「日本の貿易」(同12-13頁)

6 反資本主義・社会主義讃美
 「ソ連とはどんな国か」(同51頁)

 教科書Cは「再軍備と戸じまり」と「再軍備反対の声が強いのはなぜか」を全文記録している。次のようである。

〈再軍備と戸じまり〉

 日本人の中には『泥棒が家にはいるのをふせぐために、戸じまりをよくし、錠前をかけねばならない』といってソ連を泥棒にたとえ、戸じまりは再軍備と同じだという人がいます。これは正しい話でしょうか。

 表の錠前を大きくばかりしていて裏の戸をあけっぱなしにしているので、立派な紳士が、どろ靴で上って家の中の大事な品物を806個も取っていってしまいました。それでも日本人は気がつきません。とられた品物は何かよくみると、それが日本の軍事基地だったのです。一体どちらが本当の泥棒かわからなくなってしまいますね。

〈再軍備反対の声が強いのはなぜか〉

 再軍備について討論の代表的なものを六つばかりあげてみます。学級の問題としてどれが正しいか考えましょう。


 日本にしっかりした軍隊がなければ、いつソ連や中共がせめてくるかもしれない。

 強い軍隊があれば外国からせめてこない。

 いまの世界のありさまから見てソ連や中共は日本へせめてくるはずがない。だから軍隊をつくる必要がない。

 今、軍隊をつくればアメリカに利用される。アメリカについて戦争をすれば、日本はまためちゃくちゃにされてしまう。だから軍隊はない方がよい。

 軍隊をつくるには多くの費用がかかる。軍隊をつくる金があれば貧乏で困っている国民の生活をよくするのにまわした方がよい。

 国と国との間の問題は戦争で解決しようとせずに、どこまでも話しあい(外交)で解決することができるはずだ。

 などですが、あなたはどれとどれに賛成しますか。

 〈再軍備と戸じまり〉は「望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利」(ダレス)という米国の一方的な基地占有を寓話風に語っている。自民党政府にはおおいに腹立たしいことだろうが、間違ったことは言っていない。

 〈再軍備反対の声が強いのはなぜか〉はとても良くできていると思う。現在、集団的自衛権を巡って行われている議論と同じではないか。丸暗記を強いる御仕着せの授業ではなく、さまざまな意見をめぐって子供たちが自ら考え討論する。こんな授業ができたら、楽しくもすばらしい授業だ。

7月8日
 文部省、教育の中立性維持に関し次官通達。

 この通達が出されるに至った経緯と、その後の大達文相の言動について、教科書Cから引用しよう。

 これ(山口日記事件)を知った大達文相は、事務当局に注意を与えたが、思ったように進捗しないので、都道府県知事を通じて教育委員や学校長に厳重に注意を喚起するよう命じた。しかし、出来たものが微温的なものであったので、みずから訂正加筆して、同年7月8日西崎恵事務次官名で都道府県教委・知事宛に「教育の中立性維持について」の通達を出させたのである。それは、つぎのようなものであった。

「最近山口県における『小学生日記』『中学生日記』の例に見るごとく、ややもすれば特定政党の政治的主張を移して、児童・生徒の脳裏に印しようとするがごとき事例なしとしない」から教材資料の「取捨選択にあたっては、関係者において特に細心留意すること」、また「職員の服務につき」指導を怠ることなく適切な監督を行い、「勤務不良の教職員の絶無を期せ」と命じた。

 このような一片の通達だけでは、その意図が達成できるとは、大達文相も考えていなかった。通達は、教員の政治活動規制に対する大達文相の決意表明であり、その決意を具体化するためには、それを立法化する必要があった。

 しかし、大達文相は、立法作業に着手する前に、文部省の陣容の再建をはかった。8月28日付で人事異動を行い、西崎恵事務次官と久保田藤麿調査局長に勇退を求め、次官の後任に内務省出身の初中局長田中義男、初中局長には宮崎県総務部長緒方信一を抜擢した。日教組対策を専管とする地方課長には、同課の課長補佐斉藤正を起用した。田中は大達が満州国総務長官時代の文教部次長、緒方も旧内務官僚で山形県警察部保安課長・三重県特高課長も務め、大達が昭南市長時代の軍政官だった。これは、教員の政治活動規制のための異例の文部省人事であった。

 大達文相は、8月30日、車中談の形で同行記者団に対し
「教員に政治活動を許しているために、教育の中立性がおびやかされていると判断されるならば、何らかの措置をとらざるを得ない。立法措置も中立維持対策の一つだ。教育の中立性をおびやかす一例として山口日記問題もあるが、これは明らかに組織的・計画的なものだ」
とのべ、教員の政治的活動規制の方針を明らかにしたのである。

 教員の政治活動規制の法案化には、「山口日記」だけでは不十分であると判断した文部相は、12月23日、「地方課発第九三九号」の極秘通達を全国の教育委員会に送付した。それは、「教育の中立性が保持されていない事例の調査について」と題するもので、全文はつぎのようなものであった。

「近時新聞等に、学校内において教育の中立性を阻害するがごとき事例が報ぜられているが、その実情を承知いたしたいので、貴都道府県内の公立学校等において、特定の立場に偏し た内容を有する教材資料を使用している事例、または特定の政党の政治的主張を移して、児童生徒の脳裏に印しようとしている事例、その他特定の政治的立場によって教育を利用し、歪曲している事例等、教育の中立性が保持されていない事例について至急調査の上、該当事例の有無ならびに該当事例があれば、その関係資料添付の上、できるかぎり具体的に至急報告願います」

 これは、単なる調査という域を超えて、検察官・警察官の捜査に訴える方法をも予知させるほどの要請文であった。それほど、それは、「偏向教育」の一定量の情報資料を、当局は必須としているということを窺わせるものであった。

 大達が立法化を目指した成果がいわゆる「教育二法」である(次回に取り上げる予定)。また、大達は教科書検定の強化にも手をつけ始める。

8月5日
 「学校教育法等の一部改正法」を公布。文相の教科書検定権を明示。

 つくづく思う。「政治的中立」って何だ。そんなものあるのか。それとも自民党政府を支持していれば「中立」なのか。「偏向教育」って何だ。自民党政府がお気に召すように作られた検定教科書だけの教育は「偏向教育」ではないのか(この問題も次回に取り上げる予定)。
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