2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(23)

権力が教育を破壊する(6)

戦後教育の民主化(5)


戦後教育史年表(3)
 教育権と教育委員会


 第92回帝国議会での教育に関する議論をもう少し追ってみよう。

 言うまでもなく、帝国議会の議員たち全員が憲法・教育基本法の核心的な意義を自覚できていなかった訳ではない。第92回帝国議会での吉田茂首相の施政方針演説に対して、教育刷新委員会の副委員長・南原繁議員が次のように迫った。
「政府は一体文化及び教育の問題に対して、如何なる方針と態度を御持ちになって居るのか」

 これに対して、文部大臣・高橋誠一郎はまことにまともな答弁をしている。その答弁で「文部省の基本的態度は、米国教育使節団の報告書と教育刷新委員会の報告とを尊重して教育改革にあたること」を明言している。さらに、「教育基本法」は「教育の憲法とも称すべきもの」であると答弁している。

 この国会においては、その後、教育勅語と教育基本法との関係も論議されている。政府側は、

 教育勅語と教育基本法とは矛盾せず、前者の良き精神は後者に受けつがれている。

 しかし、勅語は明治23年に発布されたものであり悪用されたこともあるし、現在国民の間に疑問もあるので学校で奉読することはしていない。

 教育勅語を廃止するつもりはない。
等の答弁をくりかえし、従来の態度を変えていない。

 しかし、教権ないし教育権の確立についての政府側答弁は次のように、これもまたまことにまともな答弁をしている。

「今までの文部省のあり方と申しますのは、やはり相当統一的に、中央集権的に行ってきたのでございますけれども、この教育基本法を通じての基本的な精神といたしますところは、文部省が上から強制的に教育を統轄し、支配していくということは極力避けまして、教育は国民全般の教育であるという点から、地方に対するいろいろな干渉とか取締りとかいう文部省の態度は、できるだけ捨てていきたいという気持でございまして、……」(3月14日衆議院教育基本法案委員会における剣木享弘政府委員の答弁)

「第十条の『不当な支配に服することなく』というのは、これは教育が国民の公正な意思に応じて行われなければならぬことは当然でありますが、従来官僚とか一部の政党とか、その他不当な外部的干渉と申しますか、容喙と申しますかによって教育の内容が随分ゆがめられたことのあることは、申し上げるまでもないことであります。そこでそういうふうな単なる官僚とかあるいは一部の政党とかいうふうなことのみでなく、一般に不当な支配に教育が服してはならないのでありまして、ここでは教育権の独立と申しますか、教権の独立ということについて、その精神を表わしたのであります」(同右、辻田力政府委員の答弁)

 「官僚とか一部の政党とか、その他不当な外部的干渉」を排除して「教育権の独立」を保証すべく制定されたのが「教育委員会法」であった。しかし、教育委員会法公布に至るまでには、なお一年ほどの時間を要した。

1947年

12月27日
 教刷委、教育行政民主化を建議
 文部省解体や文化省の設置など教育行政の民主化を建議している。

 この年は政治制度の抜本的改革が行われた年であった。3月には衆議院議員選挙法改正公布され、4月20日に第1回参議院選挙、4月25日に第23回衆議院議員総選挙が行われた。衆参ともに社会党が第1党となり、片山哲が首班指名されている。帝国議会から日本国憲法下の国会への移行である。教刷委の「文部省解体」などの建議はこのような政治状況が後押ししていたのだろう。参議院議員になった羽仁さんも大いに関わっていたことだろう。文部省解体について、羽仁さんは次のように述懐している。

 教育のことを考えるのに、ぼくの文部省廃止論は決して私論でなく、天下の公論なんだ。

 そして現に敗戦の時に、陸海軍を廃止し、内務省を廃止した時に文部省も廃止するところまでいっていた。それで教育委員会なるものを作った。ぼくは国会にいて、教育委員会というもので、学校を文部省から取っちゃったわけですよ。それで、人民の公選する教育委員会の監督にしたんだね。

 ところが文部省のところにまだ図書館なんか残っていたんだよ。それでぼくは参議院で国立国会図書館法というのを作って、今度は図書館を文部省から取っちゃった。国会図書館が全国の図書館のお世話をするというのは、権力関係じゃないと思っている。実際に経済上のお世話をするんだからね。だから、だんだん、政治を経済に還元していくのが近代政治なんだね。

 つまり、道徳というものから政治を解放する、これがマキャベリだね。マキャベリズムといって、みんな悪くいうけれど、実際は大したもので、彼は政治は道徳とは関係ないものだ、といったんだよ。それを逆にとって政治家はどんな悪いことをしてもいいなんていっているなんてね。そうじゃないんだよ、マキャベリは道徳の陰にかくれて政治をやる奴が最大の悪人だということをいっているんだ。

 その意味で、教育委員会が公選制になって、文部省というものがいらなくなった。

 ちなみに、国立国会図書館は1948年6月5日に開館されている。

1948年

7月15日
 「教育委員会法」公布

10月5日
 第一回教育委員選挙を実施

 教育委員会法が公布された翌年(1948年)は教育改革のための法律が一気に出そろった感がある。「・・・設置法」の目白押しである。その中で、5月31日に文部省設置法が公布されている。

1949年

5月31日
 「文部省設置法」公布
 文部省は廃止されなかったが、文部省の権限はできるだけ地方に委譲すること、そしてその任務は専門的・技術的な指導・助言・援助と教育の基準設定に限定され、それらの事項遂行を裏付ける財政援助が主な任務となっている。

 このように始まった文部省と教育委員会であったが、公選として始まった教育委員会は1956年に任命制へと改悪されてしまった。歴代自民党政権は、8年の歳月をかけて人民の教育権の簒奪を企て、それに成功した。また、文部省は図太く生き残り、悪制度を次々と打ち出して教育を破壊し続けきた。そして、1999年に文部科学省設置法の施行により廃止された。

 さらに今、アベコベ政権が教育行政のさらなる改革を推し進めている(「教育を私物化する安倍政権 -教育委員会制度の変更について-」を参照して下さい)。

 さて、公選教育委員会の意義と教育権について、羽仁さんは次のように述べている。

 今、家永三郎君の教科書裁判で、幸いにして裁判官の中にも多少法律のわかる人がいて、教育権というのは、政府にあるんじゃなくて国民にあるんだ、ということを第一審の判決で明言したんだね。

 ところが教育権が国民にあるということをみんなはなはだ曖昧に考えているんだよ。これは、教科書だけの問題でもないしね。教育権が国民にあるということはそれじゃ、日教組にあるのか、あるいは政府が国民を代表しているから政府にあるのかということじゃないんだ。教育権が国民にあるということを法律的に具体化したのが教育委員会の公選ということなんだ。だから、教育権が国民にあるというのは、抽象的な文学的な表現じゃなくて、文学的な表現であれば政府は国民を代表して教育権を持っているんだともいえるし、日教組が持っている、いや父兄だ、子供だというふうになってしまう。

 これが法律的にどうだというと、教育委員会が公選によって成り立っている、ということなんだね。だから、文部省を廃して、どうするんだというと、教育委員会の公選を復活しろということだね。教育委員会が公選であれば意味があるんだよ。なぜかといえば、教育委員会というのは行政権力じゃないんだ、公選であればね。つまり、人民の支配が直接教育に及んでくるんだからね。だけれども任命制であれば行政権力になってしまう。

 これまで述べてきたことを原則的に整理すると、つまりなぜ文部省があると、百害あって一利がないかということは、第一に、教育は人間が改善できるということを前提としている。これは決して、昔から、その確信が人間にあったわけじゃない。フランヌ革命が初めてこれを明らかにしたんだな。つまり、制度によって人間は改善できるということね。そうすると、なぜ人間に制度が必要かということなんだな。制度なんていらない、ということもいえるんだよ。だけど、制度なしの人間っていうのは生まれたままの人間で、古代なり中世の人間は、制度的な自覚がなかっだから、最悪の制度を作っちゃった。

 これは、例えば、福田恒存君がこの間、『自由新報』という自民党の新聞に、「先生は、自分の思う通りに教育しろ、学者や組合なんかに頼る」、という一見いい意見を述べていた。ところが、このように一人一人の先生をおっ放したって、結局は最後には文部省が出てくるんだよ。弱い一人の教師がやはり権力の下で苦しまなければならない。だから、福田君の論は、文部省を廃止したなら、正論になるんだよ。

 文部省がなくなった、だから、先生は自分でやりなさい。組合に頼るのは、自分の月給の問題だけにしなさい、教育の内容は自分で考えなさい、学者に頼るな、東京大学の学者なんてろくな奴はいないのだから、学者のいうことを聞くより子供の顔をじっと見て、この子供はどんな希望を持っているかと、子供のいうことを聞いた方がいい。

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