2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(11)

裁判は階級的である(3)

新宿騒乱事件(1)


 羽仁さんはまずはじめに新宿騒乱事件を取り上げている。それはどのような事件だったのか。矢崎さんがまとめている事件の概要記事を転載しよう。

1968年10月21日(国際反戦デー)
 この日全国で基地撤去、米タン阻止、沖縄奪還の統一行動が展開された。東京では、反戦青年委、中核派、社学同、ML派、第四インターなどが明治公園、日比谷野外音楽堂などで集会を開き、新宿駅、防衛庁へ向った。ことに新宿駅東口では、労働者や一般市民も混って、集会は約二万人にふくらみ、学生は駅構内を一時占拠するに至った。政府は事態を収拾するために騒乱罪を適用して、機動隊による徹底した弾圧を強行した。逮捕者は千人を越え、一般人を含む負傷者は次々と病院へかつぎ込まれた。一方、社学同は防衛庁、社青同解放派は国会へそれぞれ突入、革マル派は麹町署付近で機動隊と市街戦をやるなど、各所で血なまぐさい闘争がくりひろげられた。また総評を中心とする労働者は国労、動労が軍需物資輸送反対の一時間ストを行ない、明治公園で四万人の抗議集会を開いた。大阪では学生、労働者およそ五万人が御堂筋をデモで埋め、広島や九州の板付でも学生による基地反対の実力行動が行なわれている。

(もう少し詳しく知りたい方には『新宿騒乱事件の背後にも「ベトナム」』をお薦めします。)

 さて、政府(佐藤栄作内閣)は労働者・一般市民・学生たちによる全国的な抗議行動の一環である学生たちの新宿駅突入闘争に「騒乱罪」を適用した。1974年3月29日、羽仁さんはそのときに逮捕された学生たちの弁護側証人として法廷に立っている。この日はちょうど羽仁さんの73回目の誕生日であった。羽仁さんはこのような事件に対するときの基本的な認識を次のように語っている。

 ぼくは敗戦以前に二回、治安維持法被疑事件で逮捕され投獄された。われわれを治安維持法によって迫害した政府はその後、つまり敗戦によって、聞違いを犯していたことがはっきりした。戦争に反対し、平和を主張したわれわれの方が正しかったということが、実証されたんだ。こういうことは、もう二度と繰り返しちゃいけないというのがぼくの信念なんだ。国家が間違っていて、個人が正しいということがある以上、裁判所といえども、誤った判決をくだすという可能性があるということでもある。それは取り返しのつかないことだ。だから、誤りを犯しそうなことは、権力側は絶対にやってはならないんだ。

 ぼくが最初に捕まったのは1933年だが、このことは非常に勉強にはなった。もし、あの体験がなかったら、文部大臣にでもなって汚職していたかもわからない。とにかくああいう体験によってわかったことは、国家が誤りを犯すと、あとで取り返しようがないということなんだ。誤りを繰り返してはならない。そこで参議院へ立候補することにした。日本の政治そのものが誤りを犯さないように。その政治の背後には、裁判もあるし、警察もある。敗戦前のようなことを再びやらせないようにしようと考えたんだよ。それでなければ、ぼく自身の学問を棄ててまで政治家になろうとはしなかっただろう。

 人事委員をやったときに教育勅語を廃止した。紀元節もやめることにした。とにかく国民が望まないものは一切いらないという方針だ。敗戦後間もなくできた公務員法では、政治的自由も団結の自由も認められていた。いわゆる争議権も立派に認められていたんだ。ところが、1947年の2・1ゼネストで、占領軍司令官のマッカーサーが、日本の労働運動を利用するというこれまでの方針をひっくりかえして、さまざまな権利を労働者から剥奪した。公務員法の改正、つまり改悪が行なわれた。占領政策によって、すっかり歪められてしまったのだ。それが今もって続いている。

 日本が独立した自由な国家だったら、公務員の争議権というものがあって当然なんだ。国鉄などに争議権がないのは、こうしたいきさつからなんだが、今だにくすぶっている。ストが終ると処分、その処分に対して反対の意志を表明するとまた処分。いつまでたってもすっきりしないんだよ。

 つい最近、イギリスでも炭鉱労働者をはじめとするゼネストに近い争議が2ヵ月以上続いていたが、処分しようとした政府を世論が許さなかった。労働者が雇用条件について交渉するということは犯罪ではない、というんだ。どう考えても、そういう世論が出てきて当然なんだね。しかも、争議権そのものが、雇用条件以外のなにものでもないんだ。雇われる人間が自分の雇われ方についての条件を話し合いたいといっているだけなんだよ。これは犯罪じゃない。

 日本の保守政権が、今だに争議権を認めないでいるのは、きわめて階級的な考え方からだ。占領軍にオンブしてやってきた政治の名残りが根強くあるとしかいいようもない。

 それと経済闘争ならいいが、政治闘争はよくないという考え方がある。つまり、一般市民や労働者が政治的発言をしたり、政治的な行動をとったりすることを、ある種の犯罪であるかのような扱い方をする。政治というのは汚ないものだ、悪いものだというふうに見せかけて、政治には口を出さないことがいいことであるかのように、ずっと封建時代からされてきているんだ。ヨーロッパでもルネッサンスまではそうだった。政治はお上にまかせておけばいいということで、どんどん悪くなってきた。

 マキャベリがルネッサンスのときになかなかいいことをいっている。マキャベリというと君主主義者と思ってる人がいるようだが、この人は共和主義者なんだ。彼は「静かな状態というのは社会が死んだ状態だ」といっている。生きている状態というのは「動乱状態にあることだ」というんだね。明治維新の自由民権派の植木枝盛という人は、ドンドンパチパチやるのだけが戦争じゃないっていうんだ。そうした状態のときより、国民がものもいえなくなって黙っちゃった状態の方がはるかに悪いというんだ。本当の生きた社会というのは、反対の意見をどんどんいって、政治上の争いが活発にあって、それで均衡が保たれているのが平和な社会なんだといっているんだよ。この二人の言葉は、きわめて似ている。この点を考えてみると、新宿騒乱事件の裁判ともかかわってくる。沈黙を強いられるような社会は、死んだ社会だということ。生きた社会にあっては、動乱的なことは、しばしば起こり得ることであって、それは、いささかも犯罪ではない。

 それと、公共の迷惑とか公共の福祉とかいうことで基本的人権の主張をしりぞけようという動きがあるが、これもおかしなことだ。公共の福祉が基本的人権に優先するわけがないんだよ。上のものを下のもので制限するという妙なことになっちまうんだ。そんなことができるはずがないじゃないか。まず基本的人権というのをしっかりと確立しておいて、それからあとで、公共の福祉というのがあるんであって、公務員法は論理の矛盾をすでに犯しているんだ。

 羽仁さんは新宿騒乱事件の根底には二つの問題点があると言う。第一点は次のようである。

 新宿騒乱事件というのは1968年10月21日に起きている。この1968年というのが大事なところなんだ。パリでは五月革命が起きて、カルチエ・ラタンが占拠された。アメリカではコロンビア大学が学生に封鎖され、イギリスでは最高のレベルにあるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが学生の手で粉砕された。日本では日大闘争、東大闘争といった大学闘争が活発になっている。この年に起きた事件だということが実は大切なことなんだよ。

 そのころ新宿を“米タン”つまりアメリカのタンクローリーが一日に7、8回通っていたんだ。一列車が十両編成くらい。満載しているのがジェッ卜燃料。国鉄は事故ばかり起こしていたのだから、非常に危険なことなんだ。もし衝突事故でも起きたら、それを救う方法なんてありはしない。新宿駅付近で爆発したら、三越だって伊勢丹だって、全部街ぐるみふっ飛んでしまう。そういう不安が新宿には常にあった。

 何のためにタンクローリーで燃料を運んでいるかといえば、あのベトナム戦争のためなんだ。それで、その米タンを阻止しようということで集会が開かれ、駅を占拠した。むろん法律だけを先に持ってくるならば、いかにも違法にみえる。しかし、理由を考えてみれば、米タン阻止は当然のことだった。それに現在では、ベトナム戦争というのは世界の歴史始まって以来の"汚ない戦争"だったことで知られている。批難の的になっている戦争なんだ。それをなぜ日本が援助しなければならないのか。日本の法律が、なにゆえにベトナム戦争を続けようとするアメリカを守ってやらなければならないのか。新宿騒乱事件の第一の問題は、そこにあった。

 アベコベ政権が目論む集団的自衛権は米タン輸送のような後援だけでなく、直接自衛隊をアメリカ軍の指揮下に提供しようとすることにほかならない。

 羽仁さんは「米タン阻止は当然のことだった」と述べているが、実際新宿騒乱事件の前年に米タンがいかに危険であるかを示す事故があったのだった。『新宿騒乱事件の背後にも「ベトナム」』から引用する。

 1967年8月8日未明、新宿駅構内で、同駅を出ようとしていた下り八王子行き貨物列車(20両編成)に同駅に入ってきた上り新宿駅行き貨物列車(19両編成)が衝突した。下り貨物列車はガソリンを、上り貨物列車は砕石を広くそれぞれ満載していた。衝突と同時に上り貨物列車の電気機関車が脱線し、はずみで機関車の機械室から出火。その火が、下り貨物列車のタンク車に引火した。タンク車はガソリンで満タンだったから、タンク車は大音響とともに爆発し、前後のタンク車にも燃え移った。衝突のはずみで線路づたいにこぼれたガソリンも燃え上がり、約300メートルにわたって火の手が上がった。一時は燃えさかる高さ約20メートルの火柱が、夜空を焦がした。

 この事故で、電車1185本が運休し、111本に遅れが出た。影響は首都圏の通勤客ら200万人に及んだ。衝突事故の原因は上り貨物列車の機関士、機関助士によるブレーキ操作のミスだった。

 事故を大きくしたのは、タンク車に満載されていたガソリンだったが、その正体は、米軍用のジェット機用燃料だった。引火点は40~50度。わずかの衝撃でも爆発する。こんな危険物を積んだ列車が、乗降客数日本一の新宿駅構内を分単位の過密ダイヤの合間をぬって運行されていたのだ。このことは、一般の市民には知らされていなかった。未明の列車衝突事故が、この事実を白日のもとにさらけ出したのだった。

 羽仁さんの分析の続きを読もう。

 騒乱は犯罪であるとあっさりいいきっていいものかどうか。それをさかのぼると、およそ革命というものはすべて犯罪だということにもなる。明治維新は、日本におけるひとつの革命だとされている。もし革命が犯罪ならば、明治維新もまた犯罪だったということになる。そうなると、われわれは封建時代へ逆戻りしなければならなくなる。

 ぼくがいいたいのは、革命の問題というのは法律では処理できないんだ。つまり、警察や裁判所でとやかくいえる問題ではないんだよ。しかも日本には現在戒厳令というものが存在していない。革命を押さえつけようという法的な根拠すらどこにもないんだ。

 まあ警察法の中に″非常事態宣言″というのがあるにはある。これは地域を限って、騒乱が起きた場合に、非常事態の宣言をやって集会その他の自由を一時的に制限するということだ。しかし、これにしても、次にくる国会にすぐかけて、承認を得なければならない。もし否決されれば、すぐ解除しなければいけないんだ。

 例をあげると、自分の家、またはごく限られた場所で赤ん坊が泣いているのを、一時的に抑えつけて黙らせることはできる。しかし、日本全国で赤ん坊が泣いているとしたならば、それはどこかおかしいのであって、誰にも抑えつけることも処理することもできないのだ。つまり政治上の問題を警察にゆだねてしまうことが大問題なんだよ。だから革命、または革命的行為を騒乱罪だというふうにたちまち犯罪だときめつけてしまう。これでは警察政治といわれても仕方がない。

 現代の日本には、いわゆる戦前にあったような内乱罪とか叛逆罪とかは認められていない。したがって政治の問題は政策で解決するしかないんだよ。反対者の主張も聞かなくてはいけない。民主主義は多数決だと思い込んでいる馬鹿な人が多いが、少数の意見が尊重されてはじめて多数決の意味が存在する。国会であらゆる意見が出され、その中で処理されなければならない。しかし、自分の意見が尊重されない場合、国民はあきらめなくてはならないのかといえば、あきらめる必要はまったくないんだ。国民にはデモによって抗議をする権利がある。デモを認めないというやり方は、反対党を認めない政治だ。それを独裁政治というんだ。

 岸信介は、国会に十万人をこえるデモが二ヵ月にわたって押しかけているというのに、なんら反省することなく、日米安全保障条約を強行してしまった。そのとき彼はなんといったか。

「人が集まっているのが珍しかったら、後楽園へ見に行け。後楽園には一年中人が集まっている」

 こんな放言を一国の首相がヌケヌケとやっている。デモを無視された国民は泣いているんだ。そのとき、こんなことをいってのけている、こんな相手に対しては、もっと強い抗議をしなければならないと、誰だって考えるだろう。それが革命へつながっていくんだ。

 するとたちまち騒乱罪の適用。政治で解決しなければいけないことを、できないからといって、警察権力を行使して国民を黙らせようとする。どっちが犯罪的かを考えてみたらいいんだ。

 新宿騒乱事件の根本には、反対意見に耳を貸そうとしない国家権力の独断がひそんでいる。このことを忘れてはならない。

 実は岸信介は自衛隊の出動させようとまでビビっていたが、時の防衛庁長官・赤木宗徳の強い反対で断念している。今、祖父に心酔している孫が民意無視のアベコベ政策を強行している。そういえば、自民党の石破幹事長が「秘密保護法反対デモはテロと同じ」なんて言っていた。まともな議論抜きで強行採決をする手法こそ国会テロだろう。
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