2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(47)

現在の経済学は?(25):欠けている視点(11)


吉本隆明の「歴史的産業構造の転換」論(9)

 前回、「(政府は)国民一般や中小企業、金融機関なら信用金庫や信用組合、それらが自由にふるまえるよう」な政策を、という吉本さんによる不況克服のための指針を紹介した。中小企業を元気にするためには中小企業と密接な関係にある「信用金庫や信用組合」を支援するというのは当然と読み流していたが、それだけの単純な理由だけではなさそうだ。『週間金曜日5月23日号』の記事『毒牙をあらわしたアベノミクス』の中に『「公正さ」と「資源有効な調達」が必要なインフラ資源だ』と題する安冨歩さんの談話が掲載されている。その中の一節で安冨さんは、現在メガバンクには適切な企業支援をする機能が全くなく、それができるのは信用金庫であると語っている。次のようである。

聞き手(及川健二)
 「資金の有効な調達」ですが、本当に必要な人にお金が回っていないという現実がある。それはメガバンクの与信能力欠如にあるとして、与信機能を剥奪して決済機能だけ与える「決信分離」を提案しています。

安冨
 もともとは大阪大学の尾崎雅彦さんが唱えられた考え方です。金はただ刷ったってしょうがない。能力・意欲・条件が揃っているところに回さないといけない。しかし、メガバンクはそれを審査する能力を欠いている。なぜか。事業活動の芽を見出してそこに資金を供給する役目のバンカーが、自分の立場を守ることしか考えないからです。私は銀行員でしたので業界に知人が多いのですが、某メガバンクの本店営業部で行なわれる最重の業務は、冠婚葬祭、とりわけ、お葬式のチェックだというのです。プロジェクト・ファイナンスの審査についてきかれたメガバンクの担当者が「私ら、忙しくて、審査なんかできませんよ」と答えたというくらいです。与信能力があるのは信用金庫です。ここにお金が集まるようにする必要があるのです。

 ついでなので、これまでに私が接したことのない切口でアベノミクスを批判しているので、それも紹介しておこう。
聞き手
 アベノミクスの一番の問題点は何ですか。構造的な転換を図らず、いまの体制でやっていけるかのような幻想を国民に抱かせていることですか。

安冨
 その幻想は国民が望んでいることです。安倍政権が国民の希望を打ち砕いているというのは間違いで、国民の希望を反映する政策を打ち出すから国民が支持しているのです。つまり、国民の望みが間違っているということです。宮澤内閣のとき、円高で企業が倒れるのを阻止するため金融を劇的に緩和し、バブルがおきました。当時の見積もりで、戦後補償は3~10兆でした。あのときの金で祖先が引き起こした愚かな戦争の償いをして、排外主義的な制度を立て直し、東アジアの知識・金融・科学技術のセンターとしてアジアの発展を支える機能を果たしていたら……と思います。あのときの円高の本当の意味は、それをすることにあったのではないか。しかし、そのことに直面する勇気を私たちはもたなかったばかりか、逆の方向に走り出してしまった。いままた同じように、アベノミクスで暴走を続けてしまっているのです。

 さて、次に吉本さんは、国民一般が置かれている重要な問題として、年金・産休問題を取り上げている。

 当初やることは、分け隔てがないようにすることです。できれば、危なっかしいというか、力の弱い中小企業や国民一般を支えるようにしたほうがいい。そしてやがて、そこにいる人たちが利益を得られるようにすることです。大枠でいうなら、そういう考え方ができればいいんです。

 「そんなこと、夢みたいなことだといわれるかもしれない。でも、夢みたいなことでもいいからいってみることがたいせつです。

 いまはどうかといえば、失業者は多くなるし、保険・年金の受給額はすくなくなる。それなのに医療費は高くなる一方です。レントゲンー枚撮れば、その代金もちゃんととられるようになった。前は薬代だけで診察・診療はただ同然だったから、こりゃいいやとおもっていたのが、最近は逆で、桁ちがいに高くなっています。

 医療費が高くなる一方、もらえる年金や保険はだんだん下がってきて、おまけにリストラは多くなった。そんななかで企業の業績がすこしよくなったなんていわれても、これはちょっと聞けない話です。とんでもない、何やってるんだといいたくなります。企業が多少うまく運営できるようになったといったって、老人の医療費がべらぼうに高くなったり、年金の額を減らされたりしたんじや、シャレにもならない。ふつうの人はいいませんけれども、ぼくはそうおもっています。

 医療費、保険、年金は本当にひどい情況になっています。いま企業の業績が多少なりとも上向いたとしても、では何が企業の赤字を解消したんだといったら、要するにそういうところに皺寄せが行ったにすぎません。あまりにもひどいことは真っ当にいっておいたほうがいいとおもいます。いったからといって別にどうにもならないかもしれませんが、いっておいたほうがいいのです。

 介護保険料は年金をもらっている老人からもとっています。ぼくもとられている。そこでおもうわけですが、社会の問題を突き詰めていくと、究極は老齢年金と女性の産休のテーマに行きつくのではないでしょうか。

 働いている女性が妊娠して出産して赤ちゃんを育てるまでの二年間くらい、これは有給休暇にして、それからまた働きたいなら復帰してもいっこうにさしつかえないよという会社にすることがたいせつです。

 ところがいまは産休を終えてもとの職場へ復帰するのはなかなかむずかしくなっているようです。何か文句をつけたり、手続き上の制約があったりして、なかなか復帰させてもらえないらしい。そんなふうに会社が復帰に前向きでないと、周りのもとの同僚も手助けはしてくれません。一年も休んで、なんだ遊んでただけじゃないかと冷たい目で見るそうです。企業がそうでなくなれば、まわりの人も変わるんでしょうが、そこまではとてもいっていないようです。

 そして、お年寄りの問題はいちばん最後にやってくるわけですが、お年寄りがゆったり暮らせるような社会ができたら、一国の問題としては、政治の役目は終わりだよといっていいとおもいます。しかし、これもまったくできていない。

 企業の赤字を減らしたり、不良債権の処理が優先されて、肝心の国民一般の問題は置き去りにされたままです。それどころか、リストラで失業者は増える、保険・年金は支給額が減って負担が増える。これではちっともよくない。過去から未来へ進むのではなくて、未来から過去に戻っているようなぐあいです。時間の流れが逆じゃないかといいたくなります。

 国民一般が納得するような方向に議論を直すのは大変です。だから夢みたいだといわれるようなことでもいっておかなくてはいけないとおもうわけです。いまのままではお年寄りと病人と赤ちゃんが最初にまいっちゃいます。いちばん弱いところがいちばん先に被害をこうむって本当にまいってしまう。

 ところで、吉本さんは教科書(c)で、
「経営者側が、時間外の残業代はきちんと払うとか、過酷な労働条件になっていないか配慮してくれるのが一番いい。さもなければ、厚生労働省が、労働基準法に照らして、お前のところの人の使い方はおかしいと注意するか、労働組合ががんばって、労働者ひとりひとりを守ることです。でも、実際には、両方ともなっていない。労働者を助けてくれるはずの組合も十全に機能していなければ、経営者の側にも、給料を抑えたまま、余計に働かせても通るんじゃないかという感じ方が強くなっている。ましてや、派遣社員やフリーターなど、既成の組合に所属していない人の労働条件は劣悪なままでしょう。」
と、経営者(企業)・厚生労働省(政府)・労働組合の無為無策を嘆いていた。(「現在の経済学は?(21)」を参照して下さい。)

 また、企業に対しては
「リストラされる員数を減らすことが経済に対しても大きな影響があるのに、企業はそうした努力をまったくといっていいほどしていない。逆に、どんどんリストラの員数を増やしている。」
とも言っている。(「現在の経済学は?(23)」を参照して下さい。)

 政府に対する提言はこれまでにずいぶんと紹介してきたが、教科書(b)では企業や労働組合がなすべき方策についても語っている。次回はそれを読んでみよう。
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