2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(45)

現在の経済学は?(23):欠けている視点(9)


吉本隆明の「歴史的産業構造の転換」論(7)

 教科書(c)『貧困と思想』で、吉本さんは非常に目立つ形で拡大してきている「富の蓄積の不均衡」とそれと比例して蔓延している「精神障害」を指摘して、現状を「第二次産業革命」と呼んでいる。そして
「病気のことと、拡大する産業規模をどこで止めるか、止められるか、あるいは他に抜け道があるのかということを考えることが今の課題だ」
と指摘している。しかし、その課題に対する具体的な施策の提案は教科書(c)にはない。そこで、年代は数年さかのぼるが教科書(b)『「ならずもの国家」異論』を読んでみることにした。

 マスコミが伝える景況判断は主要企業の首脳たちにアンケートして得た景況感などを判断の材料にしている。現在「アベコベミクスによって景気が回復しつつある」といったたぐいのニュースが垂れ流され続けているが、すべて主要企業に軸足を置いた景況判断である。これに対して吉本さんは
「わたしの判定法は家計のなかで個人消費が先月より増加しているか、前年の同じ月より増加しているかで簡単に判断する。」
と言い切っている。あくまでも一般庶民の立場に立った思考を貫いている。私も一人の庶民としての感覚を元に経済を考えているので、吉本さんの論考には同意するところが多い。反面、どうしても「支配の補助学」としての経済学への違和感を払拭できないでいる。

 さて、教科書(b)が執筆されたのは2003年頃で、小泉悪政の真っ最中である。その頃の景況判断はいわゆる「イザナミ景気」と呼ばれていて、一般には景気が回復しているとされている。しかし、これは庶民的な景況判断とはまったく相容れない。教科書(c)に『「景況判断」異論』という章がある。次のように書き始められている。

 いまの政府のやり方は現実に即しているように見えながら、いちばんだめだというか、いちばん空想的だとおもいます。

 政府のやっていることはこうです。まず金融機関から不良債権を取り除いて、心細い金融機関は合併・合同させて政治的に動かしやすいようにする。景況判断とか産業対策を論議する場合でも、自動車とかハイテクとか、相変わらずそんなことばかりいっています。 そこを景気よくすればいいんだという考え方しかできていません。だから出てくる名前はいつもトヨタとか日産とかソニーです。

 要するに、経済専門家というかエコノミストは、そういった企業の景気をよくすればいいんだというわけです。ぼくは自動車がどのくらいの期間が過ぎたら廃車にされるのかよく知りませんけれども、自動車やトラックがもし長持ちするものなら、そんなところを刺激する景気対策なんて意味がないわけです。無意味です。それなのになぜそんな論議ばかりしているのか。トヨタや日産といった大企業を怒らせないようにしているだけじゃないか。もちろん一個一個の商品とすれば車は値段が高いわけだから景気問題に大きな意味を もつといえば格好はいいわけですが、本当はそうではない。車が五年でも十年でも長持ちするものだったら、そんな業種の成長を論じても意味がないわけです。でも、いまの論議は全部そうなっています。ハイテクでもひじょうに需要が多い大企業を主体に論じているし、自動車だってトヨタや日産を主体に論じています。それは意味ないよとおもいます。もちろん国民総生産に対しては大きな影響力をもつかもしれないし、たしかに大企業なら大企業が盛んになればいいわけでしょうけれども、そんなの、日産やトヨタにお世辞つかっているだけじゃないかといいたくなります。

 これはちょっと余談になりますが、テレビなどを見ていると、政府や大企業の政策や方針をなぞっているような意見をよく耳にしますけれども、ああいうのはまったく意味がないとおもいます。何か発言するというのは、政府や大企業の方針をトレースすることではなくて、これはいっておかないとだめだぜとおもえるようなことを表明することなんです。そういうことがないなら何もいわないほうがずっとましです。

 現在のアベコベミクスを巡って行われている議論レベルも10年前とほとんど変わらない。こうしたマスコミの主流議論に対して、吉本さんは中小企業と一般庶民の方に目を向ける。

 いま、実質的に大きな問題をかかえていて、早い時期から不況の影響を受け、さらに受けつづけているのは中小企業です。じっさい2002年に1万8千件もの倒産があったのは先に見たとおりです。また、自己資本比率を上げようとする大銀行の煽りを食らって「貸し渋り」「貸し剥がし」の影響をもろに受けている。中小企業が大金融機関の自己資本比率達成の犠牲になるなど、明らかに本末転倒です。この問題をどうするのか。

 国民一般のふところぐあいも重要です。これまではボーナスがいくら出たなんていっていたのが、それが出なくなってしまったとか、あるいは毎年昇給があったのにそれもなくなっちゃったとか、そういうことがつづいている。これは大きな問題です。景気にもいちばん響くはずです。

 ところが、テレビを見ていても新聞を読んでいても、そういう論議はすこしも出てこない。別に小さい会社だから援助しろとか、国民一般だからすこし緩くしろといいたいわけではありません。不況がじかに響いてくるのはやっぱりそこなのだから、そこから目を離しちゃだめだということなんです。逆にいえば、中小企業の生産が多くなったとか、あるいは個人消費が目に見えて上がったということのほうが、大企業の動向より景気に対しては大きな影響を与えるわけです。

 じっさい、就労人口の7割は中小企業で働いているのです。そして中小企業は日本全体の生産の6割、流通の8割を担っている。景気問題では、大企業より中小企業のほうが重要な要因になっているのです。

 大企業の利潤が増えたとか減ったということより、中小企業の景気がよくなったとか、個人のふところがちょっとでも温かくなったということのほうが大きな影響力をもっている。そこがよくなって、気分的にも消費がたやすくなったとか、町にいい製品が出回るようになったということのほうが大事なんです。

 中小企業の設備投資や国民一般の個人消費を増やすことが経済的な不況から脱するいちばんの早道であるし、社会全体つまり国民総生産に対してもいちばん有効な手段だというのは自明なことなのです。だから、そういう論議を真っ先にすべきだし、またそういうところへの援助を真っ先に実行すべきだとおもいます。

 大きな問題としてはリストラがあります。リストラされる員数を減らすことが経済に対しても大きな影響があるのに、企業はそうした努力をまったくといっていいほどしていない。逆に、どんどんリストラの員数を増やしている。そんなリストラによって企業が正常になったとか、赤字から脱したといっているのは、全然見当違いです。人を削ってバランスーシートが好転したからといって、そんなのは威張れた話じゃありません。

 公的な投資や援助をして、リストラの員数を減らしたほうが経済全体に対しても好影響があるのは自明のことなのですから、目を細かくして、気配りも細かくして、早急に中小企業に資金援助をすることが必要です。資本金がいくらで利潤がこれくらい、従業員がこれくらいの企業にはこれだけの援助をする、それ以上の資本金・利潤・従業員のところにはこれこれだと、そんな金額をはじき出すことなど簡単なことですから、すぐにでもやるべきです。

 日本はもう、これくらいの援助をすれば景気は回復するんだという議論が出てこなくてはいけない時期にきているのです。

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