2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(43)

現在の経済学は?(21):欠けている視点(7)


吉本隆明の「歴史的産業構造の転換」論(5)

 手元にある吉本さんの著作で、小泉「構造改革」(2001年)以降に出版され、かつ、経済問題を論じた章が含まれているものが三冊あった。初版の出版年順に並べると次のようになる。

(a)
 『メディアを疑え』(春秋出版社 2002年)
(b)
 『「ならずもの国家」異論』(光文社 2004年)
(c)
 『貧困と思想』(青土社 2008年)

 ほかにもあるかもしれないが、とりあえずこの三冊を教科書として話を進めよう。

 まず、2001年以降の雇用破壊の状況がどのようであったのかを調べようと思い、ネット検索をした。たくさんの資料に出会ったが、一目で分かるグラフとして次の三つを選んでみた。

非正規雇用者の割合

 非正規雇用者は増え続け、2011年には36.2%にもなっている。

賃金の推移
先進国賃金比較
(下のグラフはサイト「すくらむ」さんの記事「「ファストフード世界同時アクション」35カ国で5月15日-日本では時給1500円求め渋谷で展開」から拝借しました。)

 賃金は下がり続けている。しかも下のグラフによると、いわゆる経済先進国の中では、下がり続けているのは日本だけである。

 また、上のグラフの2012年度の数値によると、非正規雇用者の賃金は正規雇用者の賃金の約36%でしかない。格差もひろがるばかりでる。賃金だけではない。勤務形態も職場環境もたいへん過酷な状態になっている。「「ファストフード世界同時アクション」35カ国で5月15日-日本では時給1500円求め渋谷で展開」にはその具体的な例がたくさん挙げられている。

 このような状況を一顧だにせず、「アベコベ軽薄姑息うそつき」政権はますます労働者を奴隷化しようとさらなる労働規制緩和を企んでいる。(これまでアベコベ政権と呼んできたが、昨15日の解釈改憲への盲進宣言にあきれ果て、「軽薄姑息うそつき」を付加することにした。これでもまだ言い足りない。)

 さて、このような状況を吉本さんはどのように捉えているだろうか。吉本さんは教科書(c)の第1章「蟹工船と新貧困社会」で、2008年に小林多喜二の『蟹工船』がベストセラーになったということにふれながら、上記のような状況の現代社会を「第二の敗戦期」と呼んで次のように述べている。(なお、教科書(c)は高橋順一さんによるインタービューをまとめたものです。『蟹工船』に関連して言及している文芸評論的な部分を省略して引用します)。

 この4、5年で、日本の「戦後」が終わり、新しく「第二の敗戦期」とも呼ぶべき段階に入ったのではないか ― 僕はそんなふうに捉えています。ですから、今年に入って小林多喜二の『蟹工船』がベストセラーになっていると聞くと、なるほど、とわかるような気がします。

(中略)

 日本が「第二の敗戦期」に入ったとはどういうことか。
 敗戦直後とは要するに、多くの家庭でものを食べること自体が不自由だった時代です。お米なんか食べられませんでしたから、お芋を手に入れるために、千葉県あたりまで行って、着物や小さくて洒落た家具と交換してもらいました。僕もヤミの石鹸会社に勤めていたころ、会社には内緒で自分たち用の石鹸を作ってみんなで分けて、お米や食べ物と交換したこともあります。

 今の日本はまた、そんな貧しい時代に近づいてきたんじゃないか、と思えるんですね。格差社会、と言われ、給食費や高校の授業料が支払えない家庭が増えてきたことが報じられています。不況下で正社員の就職口が少なかった「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代は、条件の悪い派遣の仕事や日払いのアルバイトで食いつながざるを得ない。「ニート」や「フリーター」、「ワーキングプア」という言葉が広まり、「ネットカフエ難民」の出現など、働いても働いても暮らしが楽にならないという実感が、若い世代にも広がっているようです。

 一方、3、4年前から、親子・家族間の殺人事件が目立って増えてきました。日本人が本来の東洋的な価値観から一番大切にしてきた親子関係、家族関係が変容し、たとえ家族の間ででも、少しでも嫌なことがあると我慢できずに、すぐにキレたり、刺し殺したりしてしまう。普段は健常に生活していたのに、何かの拍子にとんでもない犯罪を犯してしまい、その原因が精神科医にも解釈できないケースもある。おそらく、精神の薄弱さ、心の病の増加は、社会からの無形の圧迫が強くなっていることに起因するんじゃないでしょうか。  19世紀の産業革命の頃の資本家は労働者をこきつかったため、労働者の集団的な病気として肺結核が大流行しました。それを契機に、イギリスを中心に労働者運動が始まったんですね。今の日本で、産業革命時代の肺結核に相当するのが、精神的な病気でしょう。過労とか、リストラされて職場を転々とするとか、ワーキングプアの人たちが増えてきたという状況の下で、うつ病も増えてきました。

 戦中派である僕らの世代は、本当の飢えを知っています。着物を芋と交換してやっと食いつなぎ、戦後はサラリーマンとして、あるいは労働者として額に汗して働きながら、子どもを食べさせ、育ててきた体験があります。  いま、それほどの貧困のなかで子どもを育てているという話はめったに聞きません。働いてもプアだということはあるにしても、まだ比喩的な要素が強く、文字通り飢えたという実感を持つ若い世代はそれほど多くない。本当の意味で貧しい育ち方をしてきたわけじゃないから、本当の問題は貧困というより、何か人間の精神的な抵抗力が弱くなってしまったことにあるのかもしれません。

 また、敗戦直後は左翼的な労働者運動が盛んになった時代です。いまのワーキングプアの人たちは、文字通り飢えてはいないにせよ、正社員にはなかなかなれないし、たとえなったとしても給料は上がらないし、時間外の給料は払ってもらえない。本来はそれに文句を言うべき労働組合とか、労働者運動もだめになっている。そのことも今の時代の大きな問題じゃないかなと僕には思えます。

(中略)

 今の若者たちが『蟹工船』に魅かれるから共産主義的なメッセージを欲しているのかというと、そうともいえないでしょう。彼らの一番いい面は、党派性が消失したことだと思います。物事や人間を党派に分けて判断するという感じ方が、全般的に崩れましたね。

 『蟹工船』の感想に、「同世代の若者に、労働者としての何らかの意識、闘争のための古典的な連帯はほとんど存在しない」とあるそうですが、それもわかります。

 経済的な苦境、過労に対してちゃんとした給料が支払われていないことへの不服、不公正さ。前途がこのままではかなわないな、という絶望感。それが蔓延する状況をどうしたらいいのか。

 もちろん、経営者側が、時間外の残業代はきちんと払うとか、過酷な労働条件になっていないか配慮してくれるのが一番いい。さもなければ、厚生労働省が、労働基準法に照らして、お前のところの人の使い方はおかしいと注意するか、労働組合ががんばって、労働者ひとりひとりを守ることです。でも、実際には、両方ともなっていない。労働者を助けてくれるはずの組合も十全に機能していなければ、経営者の側にも、給料を抑えたまま、余計に働かせても通るんじゃないかという感じ方が強くなっている。ましてや、派遣社員やフリーターなど、既成の組合に所属していない人の労働条件は劣悪なままでしょう。

 吉本さんは第2章「肯定と疎外」で現代社会の状況に触れている。そこでは「第二の敗戦期」は「第二の産業革命」とも言えると指摘している。次回はそこから始めよう。
スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/1911-8a85f8d1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック