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ミニ経済学史(37)

現在の経済学は?(16):欠けている視点(2)


 「現在の経済学は?(8)」で、盛田常夫さんの『アベノミックスは「天動説」-俗流経済学で国民経済は救われない―』という論文を引用したが、その最後の一文は次のようであった。

「このように現象的量的諸関係を操作することによって、経済世界を操作できると考えるのがアベノミックスを擁護する経済学者たちだ。そのような操作の余地があることを否定しないが、その効果は一時的なものでしかない。なぜなら、長期にわたってGDPが増えない原因は右辺の支出要素にあるのではなく、左辺の生産を支える社会条件の変化にあるからだ。現象と本質を区別できず、現象世界の操作に活路を見出そうとする政策は、歴史的な構造転換期を迎えている日本経済の有効な道筋を示すことができない。」

 いずれ盛田さんによる「有効な道筋」が示されることを期待したいが、今はとりあえず手元にある資料を頼って話を進めよう。以下では「歴史的な構造転換」を、対象をはっきりと限定して、「歴史的な産業構造の転換」と言うことにする。

 さて、松尾さんが日本型雇用慣行の崩壊の原因として挙げていたのは
(1)「IT革命やロボット技術の進展」
(2)「人口減少や低成長の時代」
だった。

 ところで、3月29日に千葉市中央区の市文化センターで「お金のはなし 政治のはなし」と題した浜矩子さんの講演会(主催:市民ネットワーク千葉県)があった。その講演内容を東京新聞(3月30日 砂上麻子記者)が次のように伝えていた。

 浜教授はアベノミクスについて「アホノミクスで何のミクスと呼ぶに値しない」と言い放った。その理由を「経済活動は、人間が幸せになることを追求するものだが、アベノミクスは人間が不在だ」と説明。

 さらに日本経済を出来の悪いホットプレートにたとえ「熱の伝わり方に差がある。経済の恩恵を受ける人が限られている」と述べた。

 浜教授は今後の日本経済が目指すべき方向として「シェアからシェアへ」を挙げた。「市場の奪い合いから分かち合いへと変えなければいけない」。「成長戦略でなく成熟戦略が必要。貧困率を下げる政策をとるべきだ」と指摘した。

 上の浜さんによる提言はまさしく(2)という「歴史的な産業構造の転換」に対応した適切な提言といえるだろう。今後の具体的な論考展開を期待したい。

 (1)は生産業務や事務業務の革命的進展であり、「歴史的な産業構造の転換」そのものと言うより、その転換の重要な要因の一つでるととらえたい。そして、それが要因となって展開してきた「歴史的な産業構造の転換」とは、私は「産業構造の第三次産業化」だと考えている。

 「第~次産業」という概念は、一般には次のように区分されている。
第一次産業 ― 農林漁業
第二次産業 ― 製造業・鉱業・建設業
第三次産業 ― サービス業・卸売・小売業など

 戦後日本の「第一次産業・第二次産業・第三次産業」の構成割合は次のグラフのように推移している(2010年度版労働白書「労働経済の分析」より)。
産業構造の変遷

 明らかに第三次産業化が進んでいる様子が分かる。2013年度版労働白書では1970年と2010年の構成割合の変化を、「業分類が変更されており、厳密な比較はできないが」という注釈付きではあるが、次のように数値で示している。

1970年
 1,015万人(19.3%) ― 1,790万人(34.1%) ― 2,451万人(46.6%)
2010年
 238万人(4.2%)  ― 1,412万人(25.2%) ― 3,965万人(70.6%)

 先に述べたように、この「産業構造の第三次産業化」の要因としては「IT革命やロボット技術の進展」が挙げられるが、大企業が廉価な労働力を求めて海外へ移転(私は「逃散」と呼びたい)したことも大きな要因の一つだったのではないだろうか。企業の海外移転については「海外移転横行で製造現場激変 営利優先で国潰す大企業」が詳しくまとめていて参考になる。終わりの方の一節を引用しよう。

 2012年度上半期の国内自動車メーカーの海外生産比率はトヨタ=60%、日産=77%、ホンダ=73%、スズキ=64%、マツダ=30%、三菱自=48%、ダイハツ=21%、富士重工=26%。この乗用車8社の総生産台数は約1294万台で、このうち海外生産が795万台。自動車業界の海外生産比率は61%に達している。食糧自給率39%と同様、自動車製造も国内生産は39%に低下。自動車大手は車をアメリカに売るため農産物輸入の自由化を進めて食料生産を破壊してきたが、もうからなくなると国を捨てて海外に出ていき、製造業もぶっつぶす動きとなっている。

(中略)

 アジア各国の人件費(一般工)は日本と比較すると韓国が2分の1で中国が7分の1。他の国はインドが9分の1、フィリピン=11分の1、タイ=13分の1、ベトナム=29分の1、カンボジア=46分の1、バングラデシュ=49分の1、ミャンマー=56分の1。最近はミャンマー進出を狙う企業が増えている。経営が立ちゆかなくなって工場閉鎖に追い込まれたわけではなく、営利追求でアジア各地を食い荒らして回る日系大手企業の思惑があらわになっている。

 日本全体の海外進出企業の動向をみると、海外現地法人の事業所は01年段階で1万2476社。それが9年間で6123社も増加し1万8599社(2010年度)になっている。海外生産をおこなう現地法人の労働者数は01年段階は317万5396人だったが、9年間で約182万人も増え、499万3669人(2010年度)に到達した。海外進出の裏で進行したのが日本国内の著しい疲弊である。

 総務省の労働力調査(2013年)によると、完全失業者数は246万人、不本意(正規の社員になりたいがなれない)非正規社員は345万人である。合計591万人で上記の499万3669人とほぼ見合っている。偶然だろうか。「海外進出の裏で進行したのが日本国内の著しい疲弊である」という指摘がうなずける。企業の海外への「逃散」が「産業構造の第三次産業化」に直接的な要因であったかどうか、私には確言できないが、「第二次産業の空洞化」を引き起こしたことは確かだろう。この「第二次産業の空洞化」も含めて「産業構造の第三次産業化」と言うことにしよう。

 さて、この「産業構造の第三次産業化」は経済政策を考える上で無視できない重要な要素になっていると思うが、この問題を正面に据えて具体的な政策提言をした経済学者を私は知らない。しかし、すでに20年ほども前にこの問題を取り上げていた人がいる。吉本隆明さんである。次回は、吉本さんの著書『超資本主義』(1995年刊)から、いま問題にしているテーマ「産業構造の第三次産業化」を取り上げている第1章「超資本主義の行方 第2節不況とは何か2」を読むことにする。
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