2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(29)

現在の経済学は?(8):リフレ策は本当に有効なのか(2)


 全国消費実態調査は5年毎に行われている。時代を追った変化を加味したいと思い、前回の表に2004年度のものを追加して2004年度と2009年度の表を併記してみたが、不十分であった。改めて1999年―2004年―2009年の資料並べる形で、年間収入・貯金額・株式所有額を抽出して表を作り直すことにした。そこでまず、その時代の経済の動きを知る必要がある。「現在の経済学は?(1)」で、デフレ不況の経緯をごくおおまかに調べているが、今度は少し詳しく調べてみる。

 1991年のバブル崩壊後、1995年に一時景気回復が見られたが、1997年4月の消費税引き上げを契機に不況は長期化した。1998年には多くの企業が減収減益となり、「日本列島総不況」状況になった。そして…

 1999年は日銀が2月に金融緩和策の一つとして「ゼロ金利政策」を開始した年である。

 2000年8月、景気は回復したとされ、ゼロ金利政策は解除されているが、企業のリストラが本格化し、失業率は悪化。企業の倒産件数も増えている。「ジョブレ・リカバリー(仕事のない景気回復)」と言われている。
 2001年、アメリカの景気後退の影響もあって、景気は再び悪化。3月、日銀は量的金融緩和を始める。銀行間の金利は再びゼロとなる。9月11日、アメリカで同時多発テロ発生。アメリカの景気悪化を受け、日本の景気もさらに悪化する。
2003年、世界経済の回復とあいまって、輸出と設備投資が伸び、景気回復の兆しが強まる。

 2004年 「景気回復から景気拡張へ」となった年とされている。

 2005年、経済財政白書は「バブル後からの脱却」を宣言。しかし、この景気には地方格差があり、また正社員と非正規労働者との格差も取り残されたままだった。
 2006年3月、日銀は量的金融緩和策を解除
 2007年7月、アメリカでサブプライムローン問題発生。金融機関が多額の損失を被り、金融危機となり、さらに株価が下落し、深刻な不況になっていった。
 2008年、景気はさらに悪化。リーマンショックが引き金となり、世界的金融不安となる。さらに世界的な株価下落、世界は同時不況の深刻化へと進む。

 2009年年末年始にNPO「年越し派遣村」が設置されている。10月には消費者物価指数が過去最大の下落率を記録した。

貯蓄高による区分     年間収入   貯金額   株式所有額(世帯%)
 ①150未満 487.9― 462.9―452.8   43.4―  41.7― 49.5  0.5(1.6)―  0.5(1.3)―  1.0(2.3)
②150~ 300 581.0― 540.4―519.9  125.8― 130.6― 142.8  2.5(4.3)―  2.8(3.8)―  4.3(5.1)
③300~ 450 634.2― 587.1―574.6  205.6― 213.3― 235.2  6.0(6.2)―  5.6(6.5)―  8.2(8.3)
④450~ 600 679.2― 631.3―599.7  280.9― 289.2― 325.7  9.6(9.2)―  9.2(7.4)― 12.1(10.5)
⑤600~ 750 716.2― 652.9―636.7  360.0― 374.1― 406.1 15.2(11.7)― 15.2(1.5)― 19.5(13.6)
⑥750~ 900 755.3― 691.7―655.8  440.4― 461.5― 482.2 20.7(13.8)― 21.3(13.5)― 26.8(15.3)
⑦900~1200 777.7― 709.2―672.7  573.1― 594.3― 625.1 32.5(17.6)― 30.5(16.1)― 40.9(19.4)
⑧1200~1500 828.3― 740.4―698.2  749.7― 784.5― 807.5 47.5(23.0)― 47.5(19.9)― 64.8(24.1)
⑨1500~2000 843.0― 774.8―725.3 1004.0―1016.4―1066.9 81.1(26.7)― 77.2(24.9)― 95.5(29.5)
⑩2000~3000 901.3― 806.6―739.9 1461.2―1517.4―1537.6136.9(33.0)―140.8(31.4)―157.6(36.1)
⑪3000~4000 953.7― 854.6―793.0 2060.9―2168.0―2183.3250.5(39.8)―223.9(39.4)―271.5(43.4)
⑫4000以上1140.8―1038.8―948.7 3839.2―4096.1―3918.4722.8(53.2)―686.8(53.7)―756.3(57.3)
―――――――――――――――――――――――――――
平均763.8―700.7―656.3862.6― 948.9― 936.7100.1(19.0)―103.9(18.5)―117.7(21.0)


 さて、上の表の年間収入を見ると、景気拡大とされる2004年にも改善は見られず、年を追う毎に下がり続けている。「イザナミ景気(3):その内実」で見た通り、脆弱な景気回復だったことが分かる。

 それにもかかわらず、区分①と区分⑫以外では貯金額は増え続けている。しかし、全世帯平均は「862.6―948.9―936.7」と、2009年度は減少している。2009年度では区分⑫だけが「3839.2―4096.1―3918.4」と、約180万円も減少している。区分⑫の世帯の貯蓄額は4000万円以上であり、上限がない。並みの金持ちのほかにいわゆる富豪と呼ばれる人たちも含まれる。このような統計では全世帯平均は区分⑫の動きに大きく左右されることになると推測できる。では、この貯金額の減少は何を表しているのだろうか。

 年間所得が減少しているにもかかわらず、株式所有額も軒並み増えている。区分⑫の2009年度の増加額は約70万円だが、前回の表を見ると、有価証券全体での増加額は約190万円である。区分⑫に限って言えば、資金が貯金から有価証券に流れたと考えられる。

 総じて、所得減にもかかわらず、貯金・株式が増加しているのはどうしてだろうか。資料がないが、次のように推測している。

 区分①から⑥ぐらいまでの世帯では決して流動性選好による貯め込みではないだろう。長引く不況に備えてより多くの貯蓄が不可欠となってきたのだ。そして、株の所有ついては、貯蓄額の多い世帯では、個人的ではなく投資ファンドを通しての投資かもしれないが、投機的な株売買をしている人が多いかと思う。しかし、一般の人は、決して売買での利鞘が目的の投資ではなく、金利の低い貯蓄に替わる配当金を当てにした投資だろうと思う。たとえ株を所有している全世帯が投機的な株投資をしているとしても全世帯の20%前後でしかない。株高で喜んでいる人々の数はその程度の数である。株価の高低に圧倒的な影響を及ぼしているのは機関投資家であろう。

 このような問題について、我が意を得たりと思った記事に出合った。以前にもお世話になった盛田常夫さん。『アベノミックスは「天動説」-俗流経済学で国民経済は救われない―』という論文から引用する。

(前略)

実物vs金融

 現代経済学から哲学的な概念がまったく排除されている訳でもない。たとえば、「金融経済と実体経済」という対概念が頻繁に使われる。金融と実体という対概念は奇異であるが、この奇妙な対概念は国民経済の現象と本質という関係を、哲学的な厳密性を無視して表現するものだ。

 実体経済はreal economyを、金融経済はmonetary economyを指しているから、「実物と金融」と表現すべきだが、「実体(substance)という表現にはそれこそが経済の本質であり、この本質こそが現実(real)であって、それと対比される金融経済は虚構(virtual)あるいは実体を包む形式(form)という意味が込められている。このように考えれば、奇妙な対概念の意味を理解することができる。

 このように、無意識に使用されている金融経済と実体経済という表現は一種の哲学的判断を含むもので、国民経済の本質は金融経済ではなく、実体経済にあることを示唆する対概念である。もちろん、金融と実物は相互に作用し合うが、実物に経済の本質があると考えるのは、しごく真っ当な思考である。ただし、金融と実体という表現を使っているエコノミストが、どれほどこの概念の区別と関係を理解しているかはきわめて怪しいが。

 まさに、この理解の度合いによって、アベノミックスの評価も分かれる。実体経済を重視する経済学者は金融政策の限界を指摘し、実体経済を支えている条件や環境の変化に目を向けるべきことを主張する。他方、アベノミックスを持ち上げる経済学者は金融政策から実体経済への作用を重視し、金融政策が惹き起す「期待」の変化が実体経済に影響を与えると考える。いわば、現象から本質(実体)を変えるという考え方である。

 相互作用があるのだから、金融政策が実体経済に影響を与えないことはあり得ないが、それは短期的の話であって、実体経済が抱える構造的で長期の環境変化には無力である。だからこそ、実物経済が究極的な本質であり、金融政策が現象なのである。それを逆に捉えるのが、「異次元の金融緩和」を支持する経済学者たちだ。まさに天動説に依拠した政策論である。

(中略)

国民はデイトレーダーではない

 GDP(Gross Domestic Products)は1年間に国内で創造された付加価値総額である。国民経済勘定システムでは、事後的に、生産された付加価値と支出された付加価値は等しいと想定するから、
 生産GDP=支出GDP(=消費+投資+政府支出+純輸出)
と表記する。この恒等式は、左辺の生産GDPと右辺の支出GDPが事後的にバランスすることを示している。付加価値総額は事業体の付加価値を総計して得られる。付加価値の実体が何かは教科書では一切記述されないが、労働支出と考える以外に方法はないだろう。この大きさを規定するのは、労働力の質と量である。高度成長によってGDPが急成長したのは、年間200万人もの新規労働力が国民経済に入っていったからである。高度成長が始まった理由も、高度成長が終わった理由も、究極的には新規労働力の質と量で理解される。

 しかし、俗流経済学はそのように説明しない。生産面からアプローチすると付加価値の実体の説明が不可欠になるので、GDPを支出面からだけで説明して価値実体論へ入るのを避ける。そして、恒等式を方程式として読み替え、右辺の消費、投資、政府支出、純輸出を独立変数とする関数関係として理解し、右辺のGDP支出項が増えれば、左辺の生産GDPも増えると解釈する。
 GDP=F(消費、投資、政府支出、純輸出)
こうして、生産されたものが支出されると読むのではなく、支出が生産を決めると逆読みし、生産を取り巻く社会的条件を無視して、消費や投資が伸びればGDPが伸びると考える。こうして、付加価値生産の実体を説明することなく、それを所与概念として、質を問わない量的関係だけに還元してしまう。

 アベノミックス効果を説明する場合、このロジックの中に金融緩和効果を挿入する必要がある。しかし、マクロ経済式に直接入れることができないので、「期待」という主観的な要素をカタライザー(触媒)として挟み込む。つまり、金融緩和政策が「期待」を通して先行的に消費や投資の増加を促進し、それが生産を牽引するという緩和効果論が展開される。

 現代の労働-生産条件の中で付加価値生産を如何にして増やすことができるのかという根本的議論を避けて、主観的「期待」に期待する議論だ。残念ながら、アメリカの世論調査でも8割の人が金融緩和の意味を知らない。日本の世論調査でもアベノミックスの恩恵をまったく感じないと答える人が8割もいる。

「期待」理論が間違っているのは、国民すべてがデイトレーダーのように経済行動していると想定していることだ。「異次元緩和」政策を賞賛する人々は、金融経済が国民経済を主導していると錯覚する「天動説」に陥っている。金融緩和の「期待」効果は金融投資を行っている主体に作用するだけのもので、そのような「期待」で国民経済が動いている訳ではない。

 このように現象的量的諸関係を操作することによって、経済世界を操作できると考えるのがアベノミックスを擁護する経済学者たちだ。そのような操作の余地があることを否定しないが、その効果は一時的なものでしかない。なぜなら、長期にわたってGDPが増えない原因は右辺の支出要素にあるのではなく、左辺の生産を支える社会条件の変化にあるからだ。現象と本質を区別できず、現象世界の操作に活路を見出そうとする政策は、歴史的な構造転換期を迎えている日本経済の有効な道筋を示すことができない。

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