2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
ミニ経済学史(26)

現在の経済学は?(5):イザナミ景気(3):その内実


 イザナミ景気は「戦後最長」(2002年~2007年)とも言われているが、少なくとも私には好景気などという実感はまったくなかった。その「実感」はさまざまな統計資料によっても裏打ちされるだろう。

完全失業率は減少した?

 完全失業率が最も低下したのは景気最終年(2007年)の7月と12月で3.5%だった。これは景気が悪化する直前(1998年)の水準にやっと戻っただけの数字である。「平成不況」と騒がれていたバブル崩壊後の90年代前半でも、完全失業率はまだ2%~3%台前半ですんでいた。「完全失業率3.5%で好景気?」と当然「?」が付こう。

小売り販売額は?

小売り販売額

 2007年は2001年の段階にすら戻っていない。また、この時期は原油価格が上昇し続けていたので、原油関係の販売額は購入量の増加を示すものではない。そこで、原油価格上昇による影響を受ける「燃料」を除いたときのグラフが併記されている。それを見ると2002年以来不況の底が延々と続いているとしか思えない。

労働者の給与は?

 30人以上の事業所の毎月の現金給与(一般・パートを含む全体の平均)はどうか。2001年の39,7366円に戻せたことはなく、不況の底だった2002年水準を上回ったのは翌2003年だけである。2003年には景気回復が始まったことになっているが、「底」は2004年で37,6964円である。より詳しくは下のグラフを見ると一目瞭然である。

平均報酬

 このような不景気なデータばかりで、景気回復を示すデータは何もなかったのだろうか。ありました。2001年~2006年の間、企業の経常利益・株主への利潤配当は毎年伸び続けていたのだった。企業ばかりが潤い、その利潤は労働者には届いていない。次のグラフがそのことを如実に示している。

三大需要項目の伸び

この図についての松尾さんの解説を引用しよう。

 普通の景気拡大では、当初は設備投資や純輸出に主導されて上昇しはじめても、やがて個人消費が盛り上がってきて好況が本格化するものです。しかし、グラフを見て分かる通り、今回のケースでは、消費が最後まで盛り上がらないままだったので、設備投資や輸出が滞ると、たちまち挫折してしまう危険をはらんでいました。

 企業のもうけばかりが増えて、そこで実際に働いている人々はその恩恵にちっとも与れず、かえって貧しくなってしまった。今回の景気「拡大」のこんな特徴が、そのような脆弱さをもたらしたのだと思います。

 なんだか現在のアベコベミクスの現況とそっくりですね。安倍は企業に労働者の賃上げを呼びかけているが、一方でアベコベに、成長戦略と称して新自由主義的な労働の規制緩和を進めようとしている。実は、イザナミ景気が労働者にとってはまったくの不景気だった理由の一つがこの労働の規制緩和だったのだ。丁度本日(1月8日)、五十嵐仁さんが「経済蝕む新自由主義 いま決別を-新自由主義と日本経済(その2)」でそのことにふれているので、その部分の解説を引用しよう。

 すでに小泉内閣の時代に構造改革の一環として労働の規制緩和が着手され、労働の劣化を生み出してきたという苦い経験があります。その結果、ワーキングプア、ブラック企業、追い出し部屋やロックアウト解雇、過労死に過労自殺、メンタルヘルス不全などの多くの問題が生じました。

 安倍政権は、雇用政策の基本を維持から流動化へと転換させるとしていますが、日本の労働者の働き方は、すでにこれまでも十分に流動化し、不安定化しています。これ以上、クビを切りやすくすること、働く人々の不安を高めること、非正規化を進めてワーキングプアを増やすこと、労働時間の管理を緩めてサービス残業を合法化することが必要なのでしょうか。そのようなことをすれば、結局は日本の産業のみならず企業にとっても大きな災厄をもたらすということに、そろそろ気がついても良いのではないでしょうか。

 当時の正社員数と非正社員数の推移を示しているのが次のグラフである。

正社員と非正社員

 このグラフについても、松尾さんの解説を引用しておこう。

 産業構造を見てみると、第三次産業が増えていますし、サービス業や小売業はもともとパートの人とかが多いので、こうなるのも当然と思われるかもしれません。しかし、製造業にも同じような動きがあるのです。製造業だけの毎年のデータはないのですが、三年ごとの調査を見ると、やはり2007年には非正社員が約3割というところまで来ています。ここのところ何かと問題にされますが、特に派遣労働者の増加が目につきます。

 このように正社員が減って、賃金の低い非正社員が増えたために、社会全体で平均したら、景気が「回復」しても賃金が下がっていったという結果になったわけです。

 こうした動きは、「格差社会」というキーワードでよく表現されたりしますが、それはかなり誤解を招く呼び方だと思います。「格差拡大」と言うと、貧しくなる人が出る半面、働き者の成功者はどんどん豊かになっていくようなイメージがあります。

 しかし実際には、雇われて働く人々の所得額は、この10年、どんな階層を取ってみても、目立った増加はありません。森岡孝二さんはこれを「全層没落」と名付けておられますね。

 たとえば、従業員1000人以上の企業の大卒男性と、10人から99人規模の企業の高卒女性の初任給の伸び率を、2008年までの10年間で比べてみると、平均すれば両者ともほとんどゼロで変わりがないばかりか、むしろ03年以降は小企業の高卒女子の方が上昇しているくらいです。

 企業の経常利益や株主への利潤の配当は、景気「拡大」とともに増加を続けました。こうしたなかで、もとから大金持ちだった人の中には、たしかにうまいこと資産を運用することで、労せずしてたくさん配当をもらって、ますます金持ちになった人もいるかもしれません。しかし、雇われて働く立場の人たちについて言えば、所得はみんなよくて頭打ちだったわけです。その中でも特に低報酬の立場の人が増えたというのが実態でした。ですからこれは、「格差社会」と言うよりは、むしろ「貧困化社会」と言った方がいいのです。

 「図4-3」についての引用文中に
「普通の景気拡大では、当初は設備投資や純輸出に主導されて上昇しはじめても、やがて個人消費が盛り上がってきて好況が本格化するものです。」
という指摘があった。上に見てきたように、イザナミ景気は脆弱であり「好況が本格化」しなかったのだが、では、その原因は何だったのだろうか。
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