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ミニ経済学史(25)

現在の経済学は?(4):イザナミ景気(2)


 松尾さんは人々のインフレ予想を誘引した要因として日本銀行の「大幅な金融緩和政策」と「巨額の円売り介入」をあげている。

日銀の大幅な金融緩和政策

 念のため、金融緩和政策と何か。
 日銀はいわゆる「中央銀行」である。銀行券(通貨・紙幣)の発行、市中銀行への資金の貸し出し、国債の売買による国への資金提供、などを主な業務としている。特に、景気が悪化したときに景気の回復を図ることがその本来の役目である。

 さて、イザナミ景気前後の日銀の経済政策の変遷をたどってみよう。
1999年2月
 デフレ・スパイラルの懸念が深まる。その対策として、空前の金融緩和策である「ゼロ金利政策」を開始した。
2000年8月
 景気が回復したとの判断で、ゼロ金利政策を解除した。
2001年3月
 ところが再び不況。ゼロ金利よりも徹底した金融緩和である「量的緩和」という金融緩和政策を始めた。銀行間の金利は再びゼロになる。

 「量的緩和」とは、日銀にある市中銀行の当座預金口座に目標とする額の預金量が常に入っているように、日銀がおカネを出していくことである。この量的緩和政策は特に、2003年福井俊彦が日銀の総裁に就任されて以降、本格化した。

2003年10月
 日銀当座預金27~32兆円誘導。
 このころの日銀か出したおカネの量(「マネタリーベース」とか「ベースマネー」と呼ばれる)の伸び率は、1973年のオイルショックのころ以来の高い伸び率になっていた。

巨額の円売り介入

 円売り介入は2003年と2004年に行われている。2004年の場合については、ウィキペディアのお世話になろう。
「2004年はじめ行われた大規模な市場介入がある。前年の8月頃から、イラク情勢などの影響により投機筋は大幅な円高になると見込んでいた。このため投資ファンドは世界中から巨額の資金を集めて円買いを進め、1ドル117円前後で安定していた円相場は105円台に迫るまで跳ね上がっており、すぐに100円を切るとの観測もされていた。これに対抗するため、日本銀行は1日1兆円規模の円売り介入を継続的に実施した。」


 円売り介入は国際的な市場における政策だから、当然のことながら、アメリカの経済政策の帰趨が大いに関係している。

 前回、純輸出の寄与度が2002年が0.7%、2003年は0.8%と、かなりの比重で景気回復に貢献していることにふれたが、これは2000年頃に始まったアメリカでの不況回復の過程と連動している。その頃、FRB(米連邦準備制度理事会 アメリカの中央銀行)も景気回復のためにさかんに金融緩和政策を実行していた。それによる景気回復のおかげで日本の純輸出も増えたというわけだった。そして、FRBは日銀よりも大胆な行動を行い、もうだいぶ景気が拡大した03年になってもなお金融緩和を続けて、ついに利子率は歴史的な低水準に下がっていった。

 そうなると、資金運用はアメリカより日本で行う方が有利となるので、運用先をアメリカから日本に切り替えようとする動きが出てくる。運用先を日本に切り替えるためには、ドルを円に換えなければならないので、そのような動きが盛んになると、円はドルに対して高くなってしまう。いわゆる「円高」である。

 円高は日本経済にどのような影響を及ぼすだろうか。円高とは、円で見たら何も変わらないのに、ドルで測ると実質的に値上げすることと同じとなる。これは輸出産業の場合、売上げが落ちることになる。ドルで値上がりしないようにドル価格を維持すると、今度は円で測った収入か減ってしまう。どちらにしても、景気回復を支え始めたばかりの純輸出が落ちてしまうわけで、そうなれば、再び不況の底に逆戻りしてしまう。

 こうなるのを阻止するために、財務省は巨額の円を売ってドルなどの外貨を買い、円の価値が上がるのを食い止めたのだった。2003年に20兆円あまり、2004年には14兆8000億円の円売り介入をしている。この円売りが金融緩和政策と同じ効果を果たしたと、松尾さんは言う。次のような理屈である。

 財務省が外国為替市場で円売り介入をするとき、その円はどこから持ってくるのだろうか。2000年4月から、為替介入に必要な円は、日銀が融通するのではなく、民間から借りなければならなくなっている。そうすると、いくら円売り介入をしても、もともと民間にあった資金を民間に戻すだけなのだから、それだけでは何の金融緩和効果もない。ところが、このときは日銀が財務省の巨額の円売り介入と歩調を合わせて金融緩和を拡大した。だから結果的に、日銀が作ったおカネで円売り介入をして、世の中に「円」を出回らせるのと似たようなことになったのだった。

 では、以上のような量的緩和・円売り介入という政策の効果はどうだったのだろうか。松尾さんは次のようにまとめている。原文のまま引用しよう。

 いくら日銀がおカネをたくさん出しても、民間の銀行はそれを貯め込むだけで貸し出しに全然まわさなかった。だから世の中に出回るおカネの量は、あまり増えなかった。それは、よく指摘されている通りです。ですから、物価もデフレのままでした。基本的に消費者物価指数は2006年ごろまで、下がり続けました。

 さらに言えば2003年、2004年の巨額の円売り介入は、円高を阻止することはできたものの、円安に動かすことはできませんでした。このことによって、世の中に出回るおカネの量が特に増えたわけでもありません。

 家計も銀行もみんな、おカネが入っても貸付や債券や株などにまわさずに、全部おカネのまま持ってしまうという状況のことを、「流動性のわな」と言います。こんな状態に陥ると、人々は不況の下でいくら支出を減らしてどれだけおカネを残しても、それを他人に貸さないので利子率は下がりません。ですから、設備投資やローンでの買物なども冷え込んだままです。いつまでたってもモノが売れない状況か続きます。90年代の終わり頃から日本経済は、この流動性のわなの状態にあると言われました。

 そうであれば、日銀がいくらおカネを増やしても、それが貯め込まれて世の中に出回らないのも当然です。

 この時の量的緩和・円売り介入という政策には景気を好転させる効力はなかったと判断している。しかし、前回では松尾さんは
『2003年頃からの景気「回復」をもたらしたのは企業の設備投資の増加であり、これは、人々のデフレ予想が解消され、逆にインフレが予想されるようになったために生じた』
という判断をしていた。そして今回は、そのインフレ予想を誘引した要因を考察してきたのだった。量的緩和・円売り介入にはその効果はなかったというのなら、人々のインフレ予想の要因は一体何だったのだろうか。松尾さんはインフレ予想を誘引したは、量的緩和・円売り介入そのものではなく、その政策を施行する日銀の「本気」度にあったと言う。次のようである。

 では、日銀の大規模な金融緩和は無駄なことだったのでしょうか。そうじゃありません。たしかに現実に出回るおカネの量は増えなかった。現実の物価も上がらなかった。けれども、人々の予想は変わったのです。

 量的緩和を導入するにあたって、日銀はこれを、
「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率か安定的にゼロパーセント以上となるまで継続する」
と明確に約束しました。特に、2003年3月に福井さんが日銀総裁に就任してからは、市場に出すおカネの量の目標値を引き上げていきましたが、同年10月には、約束したインフレ率が「安定的にゼロパーセント以上」であるとはどういうことか明確化しています。それによると、数ヵ月平均してデフレになっていないこと、政策委員の多くが先行きデフレにならないと予想をすることです。しかもそれが満たされたとしても、
「経済・物価情勢によっては、量的緩和政策を継続することが適当であると判断する場合も考えられる」
と念を押しています。

 そして、このような決定をしているまさにそのとき、日銀は財務省の大規模な円売り介入を援護するような追加緩和を行ったのでした。

 デフレ解消にかけるこのような断固たる姿勢を見て人々は、日銀の「本気」を悟ったのだと思います。この調子でこのままおカネが延々と大量に出続けるなら、どこかでデフレは止まる。そしてインフレになっていくだろう。そう予想するのはとても合理的です。「ブレーク・イーブン・インフレ率」(前回の図)の動きはこのことを表しています。

 こうして、足下ではまだデフレか続いているにもかかわらず、人々はいずれデフレか解消し、インフレヘと反転していくことを予想するようになったのです。かくして実質利子率か低下し、設備投資の増加がもたらされたわけです。

 さて、お話がここで終わっていれば、日銀はよくやった、福井さんは日本経済を不況から救った英雄だってことで、経済の歴史に記されたことだろうと思います。

 ところが残念、そうはいきませんでした。
 2007年には景気は後退、2008年にはさらに悪化し、周知のようにデフレ不況は今日まで続いている。このデフレ脱却をめぐって施行されているアベコベミクスの当否をめぐって、経済学者・経済評論家たちの言説は賛否両論入り乱れて渾沌としている。

 日本経済が今なぜ、これほどまでに厳しい不況に苦しんでいるのか。その本当の原因は、イザナミ景気がどんな特徴を持っていたのかをもう少し詳しく見ていくことによって明らかになっていくだろう。「ミニ経済学史」としては逸脱の感があるが、教科書⑥を読み続けていくことにする。
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