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ミニ経済学史(23)

現在の経済学は?(2):ニュー・ケインジアンの理論


 以下の議論では「名目利子率」と「実質利子率」という概念が出てくる。恥ずかしながら、私はその意味を知らなかった。その意味を確認しておこう。この二つの利子率の関係は次の式で表される。

実質利子率=名目利子率-予想インフレ率

 この式の意味は具体例で説明すると次のようになる。
 例えば、100万円の資金を5%で1年間借りたとする。この5%が名目利子率である。1年後には利息5万円を加えて105万円の返済をすることになる。しかし、1年後の予想インフレ率が2%とすると、1年後には借入金100万円の実質価値はインフレ分(2万円)減って98万となる。従って、実質返済金は「98万+5万=103万」円であり、実質利子率は3%と考えることができる。
 デフレ率2%を予想した場合は「予想インフレ率=マイナス2%」ということだから、実質利子率は「5-(-2)=7」%となり、上昇する。

 さて、ニュー・ケインジアン派の理論は次のような新しい古典派の前提(①~③)の②に「流動性選好」というケインジアン派の前提を加えて構成されている。

① 価格・賃金の伸縮性
② 合理的期待の想定
③ ミクロ的基礎付け

 新しい古典派は、総需要不足で物価が下がった(デフレ)とき、人々が将来もとに戻る(インフレになる)だろうと予想して、次のように、市場は均衡すると考えた。

 将来インフレになることを予想するのだから、実質利子率は下がる。もしそうなら、消費者は将来モノを買うよりいまのうちに買っておいたほうがトクだと考えるし、企業もいま借金しても将来賃金や製品の売り値が上がって返すのが楽になると考えて、消費や設備投資が増える。つまり、総需要不足は解消される。

 これに対して、ニュー・ケインジアン派はデフレ不況を次のように説明している。

 総需要不足で物価が下がったとき、人々がこのまま将来もデフレが続くと、さらなるデフレを予想したとするとどうなるか。
 消費者にとっては、将来まで待てば今よりもっと安くなるのだから、いま買うのをやめて先延ばしをする。しかも実質利子率が上がるのに、将来も賃金は上がらず、むしろ下がるかもしれない。だから、いま借金をして買物したりすると、借金を返済するのが大変になる。特に自家用車とかマイホームとかを買うかどうかという選択をするときにはこのようなことを考えるだろう。
 企業の経営者も同じだ。機械の価格も工場の建設コストも、将来まで待てば今よりも安くなるのだから、設備投資をするのは先延ばしした方がいいと考えるだろう。いま慌てて借金して設備投資しても、自社製品の売値は将来下がるのだから、借金を返すためにはたくさん売らなければならなくなって大変なことになる。
 つまり、消費も設備投資も冷え込んでしまい、ますます総需要が減ることになる。このようになれば企業は雇用を減らすことになる。モノが売れず、失業が増えるので、物価や賃金は下がる。……ということで、当初の予想通り、ますますデフレが深刻になっていく。この悪循環が延々続くことになる。

 この新しいケインズ理論による理屈には冒頭の三つの手法が使われている。
(1)
 価格や賃金は下がらないのではなくて、需要不足や失業によって下がっていくと見なしている。
(2)
 人々が将来さらにデフレになることを予想して消費や設備投資を控える(流動性選好)ことを想定している。
(3)
 その個々の消費者や企業の決め方をふまえて、経済全体の消費や設備投資などの大きさを導いている。

 それではデフレ不況を脱却するための政策としてどのような政策が提出されているのだろうか。「リフレ政策」である。これは、広い意味でニュー・ケインジアンの一人とされているクルーグマンが主張している政策である。クルーグマンは早くから日本の長期不況をニュー・ケインジアンの理論によって分析していた。その結果得た結論だという。正しくは「インフレ目標」政策と呼ばれている。次のような理屈による。

 長期のデフレ不況は人々がさらなるデフレを予想して、将来実質利子率が上がることを見込んだために陥った「流動性のわな」が原因である。従ってデフレ脱却の政策は、人々が利子率が下がっていくことを確信するような政策を施行すればよい。名目利子率はほとんどゼロに近く下げようがない(例えば、銀行の貸し出し金利は1980年頃には8%前後だったのが現在は2パーセント弱であり、普通預金の金利は1980年頃には2~3パーセントほどだったのが現在は0.02%)。そうすると、予想インフレ率を上げるほかないことになる。そのためには、例えば2%なら2%と目標を定めて、その率のインフレを実現するまでは断固金融緩和を続けことを中央銀行が約束すればよい(アベコベミクスの「第一の矢」ですね)。中央銀行が約束したのだからそれは信頼できると、人々がそれを信じてインフレ予想をするようになれば、実質利子率が低下して消費や設備投資が増え、物価も上昇して本当に予想通りにインフレが実現する。

 予想インフレ率というような人々の頭の中にだけあり、実際には測れないものを組み込んだ理論が本当に役に立つのだろうか、と素朴な疑問が湧いてくるが、このような理論で説明できる事例があった。あのイザナミ景気である。次回はその説明を読んでみよう。
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