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ミニ経済学史(20)

新しい古典派の時代(3):フリードマン(2)


 フリードマンは、インフレの原因が労働組合(賃上げ)や企業(恣意的な値上げ)にあるという俗説をはっきり批判していた。彼は価格も賃金も当事者の意図で動くのは結果にすぎず、本当は人間の意思を離れた市場の圧力で決まると考えていた。従って、価格や賃金を無理矢理下げるような統制政策は、インフレ抑制のための愚策であると断じている。

 フリードマンのインフレ抑制対策は「貨幣供給量の削減」である。この政策によって、一時的に失業が高くなる副作用はあるが、インフレは落ち着くと主張している。落ち着くという状態は失業率が自然失業率に戻るということであり、ゆっくりでいいから、恐れずブレず、金融引締めをすればいいと言う。さらに、財政支出削減を主張する。財政赤字が問題なのなら増税して赤字を減らせばいいが、財政問題の核心は財政赤字にあるのではなく、財政支出が大きいこと自体にある。従って、政治家が真剣になって財政削減をするようにするため、かえって減税して財政赤字を増やしたほうがいい、とまで言う。また、フリードマンは1930年代の大不況の場合は逆に金融緩和をすることが必要と言っている。つまり、フリードマンは全て市場メカニズムに任せればよいなどという単純な主張をしているわけではない。またフリードマンは、金融引締めにしろ金融緩和にしろ「恐れずブレず」遂行すればよいと言っているが、その具体的な遂行方法は次のようである。

 金融引締めにしろ金融緩和にしろ、経済状況を見定めて行う裁量的政策はその時期や加減など適時適切に行うことは難しく、これまでの政策は実際に市場を混乱させるだけだった。そこでフリーマンは、あらかじめ2%なら2%というふうに貨幣供給量の増加率を決めておいて、何があろうともその一定の率での貨幣供給を増やし続けていくという方式を提唱している。長期的にはこの方法が経済を安定させる最善の方法だと言う。この方式は「フリードマンのx%ルール」と呼ばれている。その理屈はおおよそ次のようである。

 貨幣供給量とは世の中に出回ってるおカネの量のことである。だから、貨幣供給量は、中央銀行が発行したおカネの量が変わらなくても、市中銀行(民間の銀行)がたくさん貸し出しすれば大きくなり、あまり貸し出ししなければ少なくなる。従って、成り行きに任せておけば、貨幣供給量は景気のいいときには膨らむし、不況のときにはしぼむものである。常にx%を守り抜くことは、景気のいいときは金融引締めとなり、不況のときは金融緩和することと同じになり、長期的には景気は安定する。

 意外なことに、フリードマンは徴兵制や「赤狩り」にも反対していたという。徴兵制については政府の諮問委員会で激しく将軍とやりあって、徴兵制の廃止に貢献したという。「赤狩り」については、フリードマンは共産主義には反対の立場であったが、共産主義を信じる自由は守るべきだと考えていた。当時アメリカでは共産党員には、薬剤師・教師・調律師・獣医師などの免許がでない制度があったが、それも批判していた。また、全ての所得に一定の割合を課税し同時に全員に一律のおカネを給付するというベーシックインカム(基礎所得制度)と同じような考えを「負の所得税」と名付けて提案しているという。フリードマンは「自由な競争」を主張したが、決して自由放任主義者ではなかった。フリードマンの「自由な競争」を曲解して新自由主義が生まれたそうだが、フリードマンの「自由な競争」とは本来次のようなものであった。

 フリードマンが言う「競争」とは張り合って人を出し抜くとか出し抜かれるというような弱肉強食の競争ではない。人為的な思惑や作為が通用しない匿名多数の合成結果に合わせるほかなくなるのが本当の「競争」だと言っている。つまり、社会全体でいろいろな欲求の大小に合わせて各産業に労働がうまく配分されている状態が「効率的」な状態であり、自由な労働移動を通じてこの状態をもたらすものこそが「競争」だと言う。従って、報酬を得るのは結果として自分の所有するなにかが他人の役に立ったからであり、たまたま結果として役に立てず報酬が得られなかったとしても、それが人間的に劣っているわけではないということになる。

 上述のことは、自然失業という失業は世の中に必要なものであって減らすわけにいかないというフリードマンの主張の論拠と通じる。社会を構成する人々の欲求がいろいろ変わるのに合わせて、社会全体の労働の配分も変わっていかなければならない。人々の欲求の減った部門で人手が余り、別の人々の欲求が増えた部門で人手が足らなくなる。その両者の間の移動の途中で失業している状態というのがでてくる。それが自然失業であり、そのような」失業者は「脱落者」でも「負け犬」でもないということになる。

 以上のように、フリードマンは「自由」を最高の価値としているが、「平等」も決して軽視していないという。現実に見られる不平等の大半は、市場が不完全だから起こっていると言う。しかもその不完全性の大半は、政府が行う誤った政策が引き起こしているのであって、政府が余分なことをせずに、自由な競争が実現できたら、不平等の多くがなくなると主張する。「小さな政府」論である。そして、実際に資本主義が発達している国ほど人々の平等が実現できている、と資本主義を礼賛している。

 以上のようなフリードマン理論を実践したとされているサッチャー・レーガン・中曽根・小泉等がしでかした成果をみれば、とても手放しで資本主義を礼賛するわけにはいかない。教科書④はレーガン政権の政策について言及している。それによると、1980年代初頭にレーガンはフリードマンの提言を忠実に実行したという。その政策の結果インフレはある程度は収まったのに、その後、レーガンはソ連との対抗のために大軍拡を行い、財政支出を際限なく膨らませて全てを元の木阿弥としてしまった。教科書④は
「結局振り返ってみれば、フリードマンの言う通りに貫徹できたことと言えば、富裕層中心の減税と、福祉・医療・教育予算の大幅削減と、労働組合攻撃ぐらい」
と、手厳しい。ちなみに、「富裕層中心の減税」という項目が入っているが、フリードマンは累進課税反対論者である。累進課税は「税負担能力を基礎においた応能負担原則」によるものであり、私は公平な税制だと考えている。(『「財源=税」問題を考える』を参照してください。)

h  ところで、レーガンが行った政策の結果はどうだったのだろうか。『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』から引用しよう。

 レーガンは中米やカリブ諸国に対して非道な行動を取っただけではない。自国の労働者階級や貧困層も踏みつけにした。軍隊の多くの部分を占め、緊急事態に真っ先に犠牲になるのは彼らである。しかし、〈現在の危機に関する委員会(CPD)〉のメンバーで公職に就いている人間のうち、50人以上がその事実を「良いこと」とみなしていた。

 1980年の選挙の直後、メルビン・レアード元国務長官はレーガンに対して「国防費を大幅に増やすことは、アメリカにとって最もあってはならないことだ」と警告を発している。レーガンはこの助言を聞くどころか、正反対のことをした。「アメリカの軍事力は弱体化しており、このままではソ連の攻撃に対抗できない」という作り話を根拠に、国防費増額を強く訴えたのだ。「今われわれは、真珠湾後の日々よりも大きな危険の中にいる。アメリカの軍隊はこのままでは無力で、この国をまったく守ることができない」とも言った。

 レーガンの脅しは功を奏した。国防費は、1985年にはなんと、1980年に比べ51パーセント増となったのである。それだけの費用を捻出するため、彼は自らの裁量で動かせる内政関連の政府支出を30パーセントも削減した。700億ドルもの大金を内政から軍事へと振り向けることに成功したわけだ。

 ハワード・M・メッツェンバウム上院議員は、行政管理予算局局長のデイヴィッド・ストックマンの予算削減手腕の見事さを称賛したが、同時にストックマンという人間に関し「冷酷で、非人道的で、不公正」とも言った。1983年には、48万人もの人が、児童扶養世帯扶助制度(AFDC)の支援を受けられる資格を失っている。また、給付金を減らされた人も29万9000人にのぼった。レーガンはさらに議会を促して、120億ドルだったフードスタンプ(食糧配給券)の予算を20億ドル減らし、35億ドルだった学校給食の予算も10億ドル減らした。その他、メディケイド(低所得者向け医療費補助制度)、小児栄養、住宅補助、光熱費援助などの予算も削減し、都市支援の予算はほとんど半分まで減らした。レーガンは、こうして貧しい人間に厳しくする一方で、所得税の最高税率は引き下げた。70パーセントだった最高税率は、彼が大統領を退任するころには28パーセントになっていた。

 新兵器の開発、既存兵器の改良は積極的に進められた。費用が非常に高く、大幅に遅れていたMXミサイルの開発なども進んだ。これは、位置の特定を困難にし、ソ連の先制攻撃による破壊を避けるため、ループ状の地下坑道を移動する配備方式も検討されたミサイルである(訳注 のちの《ピースメーカー》ミサイルだが、結局、移動配備方式は採用されなかった)。レーガンは、ソ連の経済が停滞していることを知っており、おそらく追随することは難しいだろうと読んでいた。

 核兵器に向ける予算は飛躍的に増加した。1981年には、いわゆる「対ソ封じ込め政策」の提唱者であるジョージ・ケナンが、レーガン政権が無分別な核兵器の増強を続けていることを批判してこう発言している。
「われわれはこれまで、次々に武器を増やしてきた。ミサイルを次々に作り、破壊力をどこまでも高めてきた。やむを得ずそうしてきたのだ。催眠術にかかったように、半ば無意識に。夢の中にいる人のように。海に向かって行進するレミング(管理人注:集団自殺をする鼠の一種)のように」。

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