2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《『羽仁五郎の大予言』を読む》(5)

世界同時ファシズムの脅威(1)

アジェンデの立往生


 これからは『大予言』の言説の紹介や直接引用が加わるが、あらかじめお断りをしておくことがある。

 『大予言』はいわゆる論文ではない。羽仁さんの談話を矢崎さんが聞き役になり、その談話を記録したものである。従って、論理的に飛躍や空所がある。そのような部分は私の勝手な推論で補うことになる。もしかすると、羽仁さんの意図するところとは違う間違った解釈をするかもしれない。あらかじめお断りしておく。

 さて、これまでに調べた範囲からは、アジェンデ大統領の肉声が聞こえてこなかった。彼はアメリカの陰謀をいたずらに拱手傍観をしていたわけではないだろう。彼はどのような情勢判断をし、それにどのように対応しようとしていたのか。

 5月に『オリバー・ストーンが語るもう一つのアメリカ史1・2・3』(早川書房)という本が出版された。原書の書名は「The Untold Hisitory of the United States」である。私は「The Untold Hisitory」を「隠蔽された歴史」と解釈している。ブッシュがイラク・イラン等を「ならずもの国家」呼ばわりしたとき、私はアメリカこそ最悪の「ならずもの国家」だろうと思った。この本にはアメリカの「ならずもの国家」ぶりが余すところなく暴かれている。この本の第9章にアジェンデの国連での演説が取り上げられている。それを紹介しよう。

アメリカと多国籍企業を告発する、アジェンデの国連演説

 1972年12月4日、アジェンデはアメリカ合衆国と多国籍企業を国連での演説で非難した。90分におよぶ情熱的な訴えは、国連総会の会場を埋め尽くした聴衆の喝采を浴び、「ビバ、アジェンデー」の合唱が響き渡った。この演説のなかでアジェンデ大統領は、「自由選挙により国民の手で選ばれた政権の成立を妨害し……成立してからは転覆させるために」足並みをそろえてきたアメリカ政府と多国籍企業の行状について具体的に説明する。そして「彼らの行動は私たちを世界から切り離し、経済の首を絞め、主要な輸出品である銅の貿易を麻痺させて、国際的な金融支援を受ける道を奪おうとしている」と非難した。そのうえで、冷酷な多国籍企業から搾取されているすべての開発途上国の窮状について、次のように語った。

 もはや私たちの経済は、一握りの巨大な外資系企業に輸出の80パーセント以上を独占されるような隷属状態を容認できない。彼らにとっては、利益をもたらしてくれる国よりも、自分たちのほうが常に大切なのだ……これらの企業はチリの銅を長年にわたって搾取し続け、この42年間だけでも40億ドル以上の利益を上げてきた。それに引き替え、初期投資は3000万ドルにも満たない。私たちは闇の力の妨害行動を受けている。国旗は掲げられていないが強力な武器を持ち、大きな影響をおよぼす立場にある勢力だ。私たち途上国は豊かになる可能性を秘めているのに、貧しい暮らしから抜け出せない。あちこちで頭を下げて融資や援助を懇願しているが、本当は豊かな資源を輸出できる。これは資本主義経済システムの典型的な矛盾だ。

 チリが「自分たちの資源を自分たちの手に取り戻す決心をした」せいで、国際銀行は共謀してチリ政府への信用貸付を中止したのだとアジェンデは指摘したうえで、「このような行為を帝国主義者の傲慢と呼ぶのだ」と強調した。そしてITTの目に余る行動をやり玉に挙げ、「この会社の資本はラテンアメリカの数ヵ国の国家予算の合計よりも大きい」と説明した。さらにケネコット社に関しては、1955年から1970年にかけて、平均して52.8パーセントの年間利益を上げている点を取り上げた。そのうえで、図体は大きいくせに無責任な「多国籍」企業が、主権国家に対して戦争を仕かけている事実を非難してから、「全世界の政治構造がきしみ始めている」といって警告した。

 ラテンアメリカでは何百万人もの人たちが何十年にもわたり、現地の外交機関や軍部や諜報組織を後ろ盾としたアメリカ企業による冷酷な搾取を受け続けてきたが、アジェンデはそんな人たちの声を代弁したのである。この訴えは、スメドリー・バトラー将軍とヘンリー・ウォレスが何十年も前に的確に指摘した内容と変わらない。

 シカゴ・トリビューン紙によれば、アメリカ国連大使だったジョージ・H・W・ブッシュはスタンディングオベーションに加わった後に見解を述べたが、説得力はなかった。「われわれは自分たちが帝国主義者だとは思わない。民間企業が海外で帝国主義者のごとく振舞っているとの非難には当惑するばかりだ。アメリカが強くたくましく成長するうえで、これらの企業の存在は欠かせなかった」。チリのいかなるボイコットにもアメリカは関与していないとブッシュは主張した。アメリカ合衆国が望むのは、国有化された企業が正当な補償金を受け取ることだけだというのだ。

 ITTの誠意のない反応も、似たり寄ったりである。同社のスポークスマンは次のように語った。
「ITTは、いかなる形でもチリの内政に干渉も妨害もしていない……ITTの資産の国有化を願う受け入れ国の希望を、常に尊重してきた」。

 アジェンダはクーデターの危機も充分認識していたと推測できる。アジェンダは次のようにクーデターに対峙した。

ピノチェト将軍の軍事クーデタ ー アジェンデ自死する

 国連での勇気ある演説の結果、アジェンデは自分の死刑執行令状に署名してしまったのかもしれない。年が明けて1973年になると、CIAはチリの工作員に対し「全員は無理でもできる限り多くの軍人を引き込み、アジェンデ政権を乗っ取って追い出せ」と急かした。ストライキや反政府運動はエスカレートする。軍司令官のアウグスト・ピノチェト将軍の命令を受けたチリ軍の指導部は、クーデターの決行日を1973年9月11日に定めた。当日、反乱軍の一斉蜂起について聞かされたアジェンデは、大統領宮殿から最後のラジオ演説を行なった。

 私は辞任するつもりなどない……帝国主義を振りかざす外国資本が反動勢力と結託し、軍隊が伝統を破る雰囲気を創造した……チリ万歳!チリ国民万歳!最後にひとつだけ言っておきたい。私の犠牲は決して無駄にならない。少なくとも道徳的な教訓となり、犯罪者や卑怯者や裏切り者への戒めとなるだろう。

 演説が終わると、アジェンデは贈り物のライフルで自ら命を絶った。ライフルに取り付けられていた金板には「フィデル・カストロから私の良き友サルバドール・アジェンデヘ」という刻印が彫られていた。

 羽仁さんはクーデターでアジェンデ政権が崩壊に追い込まれた事態を「歴史的な立往生」と表現している。羽仁さんは次のように述べているが、とてもよく納得できる(序章から引用)。

羽仁さんはクーデターでアジェンデ政権が崩壊に追い込まれた事態を「歴史的な立往生」と表現している。羽仁さんは次のように述べているが、とてもよく納得できる(序章から引用)。

 チリでアジェンデが大統領に当選したときは、公平にいって、世界の世論は好意的に迎えたと思う。一応の良識ある人ならば、社会主義革命も、平和にできるなら、それでいいんじゃないかと思ったんじゃないかな。社会主義革命っていうのは、どうしても流血の惨事を伴うから困るというのが、いわゆる良識派の理論だった。それが選挙によってできるというのなら、それもひとつの方法と思っただろう。つまり、選挙によって、できたものなら、やってみて悪かったら、また選挙によって倒すことができる。したがって、共産主義にしても、現在の政治のルールの中で、観念的でなく、現実的な取り扱いができるのではないか。選挙で成立し、悪ければ倒すというのなら、やってみる価値は充分あるということである。

 アジェンデは、こうした期待に応えるために、選挙でできた以上、別の方法で永久政権を樹立しようとは考えなかった。もし、それをやったら「アジェンデは社会主義を平和に選挙によつて実現するといいながら、やっぱりプロレタリア独裁に移っていった」と批難されることになる。自分が革命軍という軍隊を組織しようとすれば、できる立場にいた。しかし、やらなかった。ここが大切なんだ。

 アジェンデぐらいの人物が、軍の反革命を見通せないはずはない。充分その危険を知っていて、あえて全世界の前で立往生を遂げてみせたんだね。大いなる立往生だ。ぼくは、そういう立往生が〝歴史的な立往生″だというんだ。

 東大闘争のころ、新聞記者が学生運動はどうなりますかって聞くから「学生は、全世界の人民の前で立往生してみせるんだ。それより他に方法はないんだ」つていってやった。ピノチェトにやられたアジェンデ、ソルジェニツィンを追放したソビエト、これは同じ歴史的な立往生なんだ。弁慶の立往生と一緒だよ。

 アジェンデはあえて独裁の道を選ばず、アメリカが後ろ盾しているクーデターという矢玉を全身に受けて立ち尽くしている。この立往生について、羽仁さんは第一章でも繰り返し補足説明をしている。

 アジェンデの立往生の意義は、国民の選挙で成立した政府を武力で倒すなどということが、二度とあってはならないというところにある。一回は武力で倒せても二度とそれを許さないためにはどうしたらいいか。それがアジェンデが考えぬいた最大のテーマだったと思うんだ。

 選挙で成立した政府を武力で倒すなどということは二度とあってはならないということを、羽仁さんは繰り返し強調している。

「 国民の直接の選挙で、議会で多数を占め、そこで成立した政府を、武力で倒してしまうということが許されてよいものかどうか。これが大問題だ。絶対に許してはいけない。どんな理由があろうと、許すことはできないはずなんだ。」

「アジェンデ政権の成立と、そしてピノチェトによる武カクーデター。これはおとぎばなしじゃないんだ。現実にチリで起こったことなんだ。革新的な政府が武力で倒されて、ファシスト政府が誕生した。こんなことを許してはいけないんだ。どんな理由があってもファシズムは拒否しなくてはならない。」

「とにかく、選挙によってできた社会主義政権を、軍事力によって倒してしまった。そのピノチェト政権を承認するということは、選挙の結果が気に入らない場合は、軍事力で倒せるのだということを、自分の国でも認める政府だ。だから、日本も政権が変わったら、ああいうふうにやりますと宣言したのに等しい。こういう手口が認められるなら、国際信義はなくなってしまう。選挙に何の希望も持てなくなる。」

 羽仁さんは別の所で、佐藤栄作が
「社会主義であろうが、平和な選挙によってできるんなら、それに服そう」
と語ったと伝えている。佐藤はアジェンデ政権誕生時の首相だったから、たぶんその時の談話だろう。チリ・クーデターの時の日本の首相は田中角栄だったが、何のためらいもなくいち早くピノチェト政権を承認したのではないだろうか。上の談話にかかわらず、佐藤が首相だったとしても同じだろう。アメリカの属国の首相は常にアメリカに追従してきたし、現在でも変わらない。

 ところで、ITTという電話電信の会社がなぜクーデター陰謀というだいそれたことに関与するのか腑に落ちなかったが、羽仁さんの解説で納得ができた。

 このITTというのは、はじめは電信電話の機械みたいなものを作っていたんだが、現在はあらゆることをやっている。つまり独占資本というものは銀行資本だから、何に投資するという制約はない。銀行からハンバーグまで儲かるものなら何でもいいんだ。したがって、産業である必要もないから、CIAにだって投資する。ITTとCIAがどうしてタイアップするのかというと、それが金融資本の性質だからなんだ。

 日本にこのITTが上陸したのは、なんと福井県の織機工場だった。この入り方が曲者なんだ。いきなり三井なり、三菱なりの日本の独占資本のところへ入ってくれば、当然のこととして大問題になる。ところが、福井の織機資本なんかにITTが入ってきても、誰もびっくりしないんだよ。だけど、目的は福井のハタ織りの機械なんじゃない。今では、テレビのCMなんかで盛んにやっているハンバーグとか、それこそあらゆるところに、すでに進出してきている。産業資本なら、永年焼き物をこさえていた資本が、突然ハンバーグを作るということはしない。ところが金融資本というのは、平和なときはミシンで儲け、戦争になったらマシンガンで儲ける。要はキチンキチンと利息が入って、かつ回転が早ければ何でもいいんだ。

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この記事へのコメント
歴史から何を学ぶか
EL PUEBLO UNIDO JAMÁS SERÁ VENCIDO!
2013/07/19(金) 22:45 | URL | 愛読者 #KUmnAu4w[ 編集]
Re: 歴史から何を学ぶか
> EL PUEBLO UNIDO JAMÁS SERÁ VENCIDO!

コメント、有り難うございました。まったく分からないのでネット検索して見ました。私と同様の方のために、ウィキペディアからリード部分を転載しておきます。

「不屈の民(¡El pueblo unido, jamás será vencido!、団結した人民は決して敗れない!)とはチリのヌエバ・カンシオンの曲の中で、最も国際的に良く知られた歌である。この曲はセルヒオ・オルテガによって作曲され、キラパジュンによって作詞された。1973年6月に作曲され、録音された。」

どんな歌なのか、聞いてみたいと思いました。
2013/07/20(土) 09:06 | URL | たっちゃん #-[ 編集]
Re: ベンセレモス(われらは勝利する)
(愛読者さんよりのコメント)

このスペイン語は「ベンセレモス(われらは勝利する)」冒頭のリードとして唱えられ、そこから歌が始まります。(ネットで演奏が聴けます)
何十年も前なのでうろ覚えですが、歌詞は次のようなものでした。
「祖国の大地深く 叫びが湧き起こり 夜明けが告げられて チリ人民は歌う 勇敢な戦士を 我らは思い起こし 祖国を裏切るより 我らは死をえらぶ 。Venceremos(ベセレモス)!Venceremos!鎖を断ち切ろう、Venceremos!Venceremos!苦しみを乗り越えよう。」
歌の通り数えきれない勇敢な人々がファシズムと戦い命を落としました。
この歌を思いだすたび、このような歴史が二度と繰り返されないようしっかりと現在を生きていかなければ、と強く感じます。

(訂正のコメントを頂きましたので訂正をし、元コメントを削除しました。)

2013/07/22(月) 11:20 | URL | たっちゃん #-[ 編集]
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