2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
企業経営の社会主義化・日本編(5)



株式会社樹研工業(2)


 坂本氏は氏を感動させたエピソードから書き始めている。樹研工業では三年半入院して出社できなかった社員にその間の給料・ボーナスを払い続けたというのだ。

 また、樹研工業では入社と同時に掛け金は全額会社負担で全員が1000万円の生命保険に加入する。そして、もしものときには保険の全額を家族が受け取ることになっている。松浦社長さんは言う。
「大切な人を病で失ったご家族に対して、会社ができることは、残った人たちの生活を支えてあげることくらいしかできません。社葬で大きな葬式をあげても、残った人たちのあとの生活を考えると、それは違うのではないかと考えて、私はこうしました。」

 さらに、全社員一心同体の社風を物語るすごい仕組みがある。

 100年に一度の不況といわれている昨今、トヨタやパナソニックといった大企業でも売上が大幅に減少しています。世界に一社しかない技術をもっている樹研工業といえども、仕事は減りました。

 仕事が三割、四割減れば、普通の会社であればリストラをするでしょう。しかし樹研工業では、みんなニコニコしています。

 その理由の一つは、仲間を大事にするという企業風土にあります。仕事が減ったからといって、誰かを犠牲にすることはいっさいしない。
「社員が路頭に迷うときは、私も路頭に迷います。喜びも悲しみも苦しみもみんなで分かち合うのが経営でしょう。社員を5人、10人つかまえて『いくらいくら払うからクビだ』。そんなものではない」
ということです。

 もう一つの理由は、潤沢な内部留保があるからです。
「時代は生き物ですから、好況不況は必ずある。うちは内部留保を積み立ててあります。わが社は1年や2年仕事がなくなっても、全社員に給料を払うだけの内部留保を貯めてあ りますから」
と松浦社長は言います。

 「決して社員を犠牲にしない」という松浦社長の信念は、開発力に裏打ちされて、今後も樹研工業の社風として受け継がれていくことでしょう。

 樹研工業は社員とその家族の生活のより所のような会社である。樹研工業では社員が入院した場合だけでなく、両親や子供の病気などのやむをえない事情で長期欠勤した場合でも、減給されるようなことはないという。坂本氏は次のようなエピソードも伝えている。

 ある日、59歳の社員が胃潰瘍で入院したそうです。社会的には定年間近な年齢ということもあり、弱気になっているその社員に、松浦社長は手紙を出したそうです。

「胃潰瘍くらいで会社を辞められると思ったら大間違い。早く治して出社せよ。会社は忙しい。きみがいないから会社は大混乱だ。よその会社と違って、くたばるまで辞めさせないぞ……」
という内容の手紙だそうです。

 この社員は完治して退院し、現在70歳ですが、「社長から来た手紙がいちばんうれしく、読んでいて涙が出ました」と、現在も元気で樹研工業で働いています。

この社員は70歳でも働いているという。一体、定年制や給料体系はどうなっているのだろうか。

 60歳定年でその時に退職金が全額支払われる。しかしその後、本人が希望すれば全員雇用が続く。しかも給料は続いて昇級していく。つまり60歳定年は名目上の定年なのだ。本人が辞めたいときが定年というわけだ。

 定年がない理由について、松浦社長は、
「六十歳のおめでたい還暦の歳が失業の日などという、こんなばかげた話はありません。第一そんな姿を30代、40代の社員が見ていて、自分の会社に強い愛情、帰属意識をもてるでしょうか?今の60歳や65歳は、昔と違い、精神年齢も肉体年齢も若く、仕事のノウハウが全身に詰まっている。職人たちは技が最もさえる年齢ですから、そんな人を失えません」
と語ってくれました。

 樹研工業の60歳から70歳の年収は1000万円くらいですから、70歳までの10年間働くと1億円です。80歳まで働けば2億円手に入るわけです。

「宝くじは当たるかどうかわからんけど、こっちは確実ですから、健康に気をつけなさいと社員にはやかましく言っています」
と、松浦社長は笑っていました。

 給料体系は完全な年齢序列制(「年功」ではない)だという。本給は、社の生涯賃金表にもとづいて、年齢に従って給料が上かっていくのだ。つまり、最高齢の人が最高給を受け取っていることになる。そのような給料体系になった経緯は次のようである。

 30年ほど前までは、樹研工業も、評価をして給与に多少差をつけていました。しかしある年、みんながよく働いたのでどうしても差をつけられなかったそうです。そのときは、
『今回は評価できないけど勘弁してくれ、次はちゃんと評価するから』
と謝ったのですが、その次もやはり評価できませんでした。それで、今日に至っているのです。

「ボーナスもやはり年齢で決まるのですか?」と私が質問をすると、
「そうです。最近は、『今回のボーナスは総額でいくらですよ』と全社員にメールを送っています。そのとき、『社員が今何人いるから、一人あたりはこのくらいの額ですが、それに満たない人は評価が低いわけじゃない、足らないのは年齢だけですから、もう少々お待ちください』という、ただし書きを添えています」
と話してくれました。

「年上の人より自分のほうが仕事をしているのに、と不満を言う社員はいないんですか」と重ねて尋ねると、
「そんなやつ、おるわけないでしょ。いい仕事ができるのは40歳過ぎてからで、技術が完成される60歳以降がいちばん生産性が高い。実際うちの業績を過去に遡って調べてみたら、社員の平均年齢が高い年ほど、業績の伸びもいい。年寄りがいちばん稼いでいるんです。感覚的ですが、年寄りの生産性は新入社員の5倍くらいはあるんじゃないかな……」


「不満を言う若手などいるわけがない」という松浦社長の言葉には驚かされました。「これだけの世界的な企業が何を浪花節みたいなことを……」と思う人がいるかもしれませんが、大家族的経営を志向する社長の人柄が組織に浸透しているからこそ言える言葉なのでしょう。

 このような会社なら働き甲斐があろう。全力を尽くして仕事に打ち込めるに違いない。

 では、このような素晴らしい会社に採用されるにはなにが必要だろうか。驚くべきことに、なんと、入社希望者は先着順で採用するという。

これは創業以来だそうです。

 創業当時、新聞などに募集広告を出しても、何をやっているかわからないような小さい会社ですから、なかなか従業員が集まらなかったそうです。そんなとき、わざわざ入社したいと来てくれたありがたさを、いまだに忘れることができないからといいます。

 ですから、中卒だろうが、中途採用であろうが、日本人であろうが、外国人であろうが、男だろうが、女だろうが、いっさい問題にせず、早い者順に採用しているのです。

 早い者順で面接する際、履歴書を持参する人もいるそうですが、まったく目を通さず、たいていはもち帰ってもらっているそうです。その理由を、松浦社長はこう教えてくれました。

「今までのことより、これから一緒にやろうということが大切です。それに何より、数ある企業から当社を選んでくれたことへの感謝の気持ちが先に立ってしまう。自分もこの町の多くの人に育てられて、今日があるのですから……」

 この人間信頼の深さにも驚かされる。しかし、私の中に巣くっているステレオタイプな常識が頭をもたげてくる。
「そのような採用の仕方では、中には非常識な者もいて、社員管理が大変だろう。」


 坂本氏が優良企業として取り上げている会社はどこも社員を管理するルール・規則がない。樹研工業も例外ではなかった。

 樹研工業には出勤簿もタイムレコーダーも、出張報告書もないのです。社内会議のための面倒な資料づくりや手続きも存在しまん。私が「それでは困りませんか?」と尋ねると、松浦社長は、
「つまらない、後ろ向きな仕事はできるだけ省き、次の仕事に取りかかる。これが生産性を上げる基本です。社員はみんな仕事をしに出社してくるのです。病気で休んだとしても、常に頭のなかは自分の仕事でいっぱいでしょう。そんな社員にとって、出社したという証明である出勤簿やタイムレコーダーに、どれだけの価値があるのですか?」
と話してくれました。

 樹研工業の社員たちの働きぶりを示すエピソードを拾ってみよう。(次回へ続く)
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