2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
今日の話題



日本の優良会社


 三年半ほど前に、『大搾取!』(スティーブン・グリーンハウス著/曽田和子訳 文藝春秋)という本を教科書にして、「企業経営の社会主義化」という表題でアメリカの優良企業の紹介をした。ここでいう優良企業とは「従業員を搾取することなく(=人間として大事に扱い)成功している企業」のことだった。私はこの連載を始めるに当って
「従業員を搾取することなく(=人間として大事に扱い)成功している企業は日本にもかなりあると予想しているが、私の狭い情報源には入ってこない。できれば日本の例で話を進めたいのだけれど、やむを得ない。」
と書いたが、先日、日本の優良企業を長年にわたって調査している人がいるのを知った。

 東京新聞に「あの人に迫る」という連載記事(毎週日曜)がある。3月17日(日)の記事では坂本光司(経営学者)という方を取り上げていた。この記事のあらましを紹介しよう。

 インタービューアの太田鉄弥記者は坂本氏を次のように紹介している。

 全国の中小企業約七千社を訪問し、経営方針と業績を聞き取った研究結果から、「正しい経営」を提唱している法政大大学院教授、坂本光司さん(61)。その著「日本でいちばん大切にしたい会社」は根強く読まれている。日本の終身雇用制度が崩れ、リストラが当たり前となりつつあるいま、「一番大切なのは株主ではなく、社員」との訴えが注目を集める。

 坂本氏は静岡県中小企業振興公社(当時)に職を得て、中小企業を訪ねて景況調査を担当していた。そのときの体験を次のように語っている(以下の記事からの引用文は前後関係を編成し直しています)。

 当時はオイルショックや、固定相場の崩壊による円高で自動車など輸出産業が打撃を受けた。下請けは、徹底したコストダウンを求められた。手を真っ黒けにして「利益がなくても仕事があるだけいい」と話す社長さんたち。この人たちが国を支えているのに、あまりにも厳しい。社長たちの苦しみを聞き、私は経営の相談まで受けるようになった。

 助けたくて勉強した。場数を踏んで知見が増え、「それはやめた方がいい」「他の企業はこうしてうまくいった」と助言できた。私に勉強を与えてくれたのは現場です。普通は一日二軒の景況調査を私は八軒回つた。それを十五年間続けた。社員を守るために自分の給与を減らす社長もいた。そうした会社を応援したい。そのためにもっともっと多くの社長に会って学びたい。天職だと思った。

 1987年に出版した本が中小企業研究奨励賞本賞を受けた。それまでの受賞者は教授ばかりなのに40歳の公務員がです。誰よりもたくさん現場に出て、たくさん論文と本を書き、教授になった。従来の学者の鼻っ柱を折ることを言うので、嫌われたね。

 坂本氏が現場から得た知見「正しい経営」とはどういうものだろうか。氏は次のように語っている。

 会社の使命と責任は5人の幸せを実現すること。具体的には「社員とその家族」「社外社員」「顧客」「地域住民とりわけ障がい者や高齢者」「株主」です。この順番が大切で、従来の経営学とはまるっきり違う。

 一番は社員です。次に大切な社外社員とは仕入れ先や外注先、下請け先のこと。縁の下の力持ちなのに「下請けいじめ」など、現状はあまりに冷たい。最後の株主は強く意識する必要はない。意識すると、短期の業績を上げて株価を高めることに必死になり、ほかを犠牲にしてしまう。前者4人の幸せを追求すれば、自然と株主の幸せにもつながる。

 会社は資本家のため、お客さんのためにあるといわれてきた。しかし景況調査を重ねるうちに「人財」が集まる会社は景気にぶれない、という法則にたどり着いた。北海道から沖縄まで動き回るうちに、ここにも、あそこにもと、そうした会社が糸でつながり、理論に到達していった。

 人財とは会社の財産となる社員。企業の資源は人、物、カネ、技術というが、人がすべて。ほかは人間のための道具にすぎない。いい会社はリストラしないし、いい意味で年功序列で、ぬくもりがある。人と生活をとことん大切にする「人本(じんぽん)経営」を貫いている。

 坂本氏は「正しい経営」を貫いている会社を二例挙げている。

 決定的だったのは20年前に訪問した長野県伊那市の寒天メーカー、伊那食品工業。「会社を取り巻くすべての人々がいい会社だねと言ってくださる会社」を社是に、社員や地域住民を大切にしてきた結果、48年間も増収増益を続けた。社長に会って話を聞き、私は肩の荷が下りた気がした。「同志です」と握手を求めた。社長も「同じような経営をする会社がほとんどないから、自分の考え方は間違っているんじゃないかと思った」と。

 本(『日本で一番大切にしたい会社』)を書くきっかけになったのは十年前に訪れた川崎市の日本理化学工業。粉の飛ばないチョークを製造し、当時いた従業員約50人のうち7割が知的障がい者だった。障がい者を雇用し始めたのは60年前。特別支援学校の教諭が「春に卒業する二人の女の子の就職先が決まらない」と訪ねてきた。「就業体験だけでも。でないとこの子たちは働く喜び、働く幸せを知らないまま施設で暮らすことになる」と。少女たちは懸命にラベル貼りをした。一週間の体験が終わる前日、全社員が社長を囲み「二人を正社員にしてください。できないことがあれば私たちがカバーします」と頼んだという。素晴らしい話です。話を聞いている最中、初老の女性が小さな声で「コーヒーをどうぞ」と。出て行った後、社長が「いまの彼女です」と言う。私は涙をこらえられなかった。

 このくだりで私ももらい泣きをしてしまった。私は坂本氏の著作を直接読んでみたいと思った。私が利用している図書館の蔵書を検索してみたら坂本氏の著書は11冊あった。『日本でいちばん大切にしたい会社1・2・3』と『〝弱者″にやさしい会社の話』を借りてきた。



 太田記者は「インタビューを終えて」で次のように書いている。

 正しい経営って何?
 当たり前すぎる命題で考えてもみなかった。確かに「これが正しい経営です」と明記された法律はないし、社員は簡単にリストラされる。自宅には「本を読み、私の方針が間違っていたことに気付いた」と経営者からの手紙やメールが届く。ある若者は「人を大切にする会社、という物差しでもう一度、就職戦線に上がる」とつづってきたという。

 私か就職活動をした2001年当時、学生の憧れは利益一兆円のトヨタ自動車と、世界的ブランドのソニーだった。企業を測る物差しが多様になれば、この国はもっと活気づく。

 強欲資本主義と政府の誤った政策のツケで「就職氷河期」といわれる惨憺たる社会状況になって久しい。このささやかな紹介記事が、厳しい就職前線に立たされている若者たちの一人にでも出会えたらうれしいです。是非「人を大切にする会社、という物差し」で、「就職(仕事)とは何か」という問いを深められんことを願っています。
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