2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《続・「真説古代史」拾遺篇》(148)



「倭人伝」中の倭語の読み方(91)
官職名(19):狗奴国


 これまでに度々ふれてきたように「井の中」では狗奴国の比定地を肥後国菊地郡とする説が最も有力な説となっているようだ。この説の論拠を簡単にまとめると次のようであった。誤謬の積み重ねの結果、この謬説を採るしかないというのが真相なのだ。(ここでは邪馬壹国大和説論者は全く相手にしないことにする。)

誤謬1
 「邪馬壹国」を「邪馬臺(台)国」と原文改定をした上にさらにこれを「ヤマト国」と訓み、その比定地を筑後国山門とする。
誤謬2
 さらに「倭人伝」の狗奴国の位置を示す記述
「…次に奴國有り。此れ女王の境界の尽くる所なり。その南に狗奴國有り。」
を「女王国の南」と曲解して、狗奴国の比定を肥後国菊地郡とした。

 この二つの誤謬を誤謬とは認識できないのだから、これを真説とする論拠を探してさらに第三の誤謬を創ることになる。

誤謬3
 「狗奴国=肥後国菊地郡」説を補強する論拠として狗奴国の官名「狗古智卑狗」を人名であるとして、「キクチヒコ(菊池彦)」の意であると解釈した。

 「誤謬3」の代表説として水野説を紹介しよう。まず、原文遂条解釈の所で次のように解説している。

有狗古智卑狗
 これは文書上よりみると、女王国の場合から推すと官職名にあたるが、しかし女王国の場合に比して、官職名とするには不似合であり、むしろ狗奴国の場合は、その官名が明らかでなく、その長官にあたる人物の名を記したものと解される。これは「クコチヒク」「コウコチヒコ」と訓んで、「キクチヒコ」と解されてきた。そうすれば明らかに王者に対する称号である(この狗古智卑狗については後の「評第五」を参照のこと)。

 ここでもまたまた類音探しという手法が使われている。それにしても、狗奴国には「男王卑彌弓呼」が存在するのだから、「王者に対する称号」というのは不用意な言い方だ。「評第五」を参照してみよう。

 私見では狗古智卑狗の卑狗は、対馬国の大官、一大国の大官の「卑狗」と同じで、わが国の「日子」「毗古」「彦」の転写音であるとすると、官職名ではなく、むしろ大官に相当する官司にあたっていた者の尊称である。したがって狗古智の卑狗という意味の名で、狗古智はその人物の居住地の地名であったとすると、その地域を支配していた人をさしていると考える。狗古智はわが国の地名に該当させると、菊池郡に相当するとする説が最も納得できそうであるが、「キクチ」という地名がこの当時から存在したかどうかはわからないが、『延喜式』にもすでに肥後国の菊池郡がみえるので、古地名であることはわかる。それで少なくとも奈良朝頃までに菊池という地名が、後の菊池郡の地域にあったとすれば、それらの地の豪族とみてよいであろう。

 狗奴国の大官は菊池という地に居住していたので「菊池彦」と呼ばれていたというわけだ。しかし、その地が3世紀頃にも「菊池」と呼ばれていた保障はまったくない。

 水野氏は『延喜式』を取り上げているが、肥後国菊地郡は『和名抄』にも記載されている。この地は『続日本紀』文武2年5月25日の記事「令大宰府繕治大野。基肄。鞠智三城」中の「鞠智」と同一地とされている。この地名は一般には「ククチ」と訓まれているようだ。そこで「狗古智卑狗」を「ククチヒク」と訓んで「狗奴国=肥後国菊地郡」説を正当化する研究者も出てくる。『問題の焦点は「狗奴国」』で取り上げた菊池秀夫著『邪馬台国と狗奴国と鉄』がその一例である。菊池氏は
「狗古智卑狗は多くの研究家が菊池彦ではないかと唱えているのだが、まだ誰も深い考察を行なっていない。どうしてそのように考えるのかを考察していく。」
という問題意識をもとに、「菊池」「鞠智」が出てくるあらゆる文献を調べて、結構誠実な考察を行っている。その取り扱った文献と「菊池」「鞠智」の訓みは次のようにまとめられている。

1070年(藤原則隆が太宰府の高級役人として肥後に赴任)
 菊池(キクチ) 藤原則隆が菊の池付近に下向して命名
930年代頃
 菊池(ククチ) 和名抄(937年完成)
879年
 菊池城院(不明) 三代実録(901年完成)
875年
 菊池郡倉舎 三代実録
858年
 菊池(不明) 文徳実録(879年完成)
698年 鞠智(不明) 続日本紀(797年完成)

 これらをもとに考察を進めて、次のような結論を下している。

 「きく」はもともと日本にはなく、奈良時代末期から平安時代初期に大陸から輸入された。『万葉集』には菊は詠まれていない。〈菊〉の字の初見は『類聚国史』の797年の桓武天皇の時の記事とされている。

 「きく」はもともと〈鞠〉として使用されていたものが〈菊〉として使用されるようになったと思われるのであるが、文献上これ以上調べていくことは難しい。そして、鞠智が「くくち」と呼ばれていた可能性が高いのであるが、証明することができない。

 しかし、この結論にもかかわらず、結局は「狗古智卑狗=菊池彦」説を受け入れている。「誤謬1・2」を捨てない限り、このような結果にならざるを得ないのだ。

 以上ように「狗古智卑狗=菊池彦」説は十分な検証を欠いたまま「井の中」の多くの研究家が採用することになっている。この例は実証不十分のまま定説を積み上げていくという「井の中」の混迷した研究体質を如実に示している。

 それにしても、「クコチヒク」「コウコチヒコ」「ククチヒク」を「キクチヒコ」と等値する論理が欠けている以前に、その訓みの検証が必要だろう。「卑狗」を「ヒコ」と訓み「好古都」を「コウコト」と訓んでいるのだから、「狗古智卑狗」は「ココチヒコ」という訓み以外は有り得ないのではないか。この訓みの場合、「コ」音に二種の異なる漢字を用いている問題が出てくるが、この点については表意文字として用いられていると解釈する外ないだろう。実はこの問題は菊池氏も取り上げている。当該論文の冒頭で次のように述べている。

 (使用されている文字の漢音・呉音を調べて)『三国志』が書かれていた時代は呉音が使用されていたと思われるので、ククチヒクと呼ばれていた可能性が高い。

 しかしそうすると、〈狗〉と〈古〉という同じ発音の文字をなぜ二種類も使用したのかという問題が発生する。本来であれば、狗と古の読み方の使い分けがどのようになされていたのかを証明する必要があるのだがかなり難しい。狗と古の読み方の使い分けに関しての考察は棚上げし、ククチヒクがどうして菊池彦となるのかだけを考察する。

 菊池氏は「棚上げ」してしまったが、たぶん古田氏は、明言はしていないが、そのような問題認識をもとに考察を進めたのではないかと推測している。古田説は次のようである。

 次は「三十国」に〝余された″一国、「狗奴国」とその官職名を論じたい。まず、官職名。「狗古智卑狗(ココチヒコ)」である。

 「卑狗」の称号は、本来「対海国」や「一大国」と同じく、同格の「卑狗」(太陽の男子)の〝仲間″であったことをしめしている。

 問題は「古智」だ。〝古代の智慧″という、見事な「二文字」である。すでに見たように「好古都国」の「古都」とは、〝出雲″を指していた。「小銅鐸の楽器」を〝礼式のシンボル″とする「古代の都」とされていたのである。

 したがってここでも、「古智」とは〝古えの出雲の文明(智慧)を受け継ぐ″という、「誇りある自称」なのではあるまいか。倭人側も、その「自称」を尊重して記録していたのである。

 冒頭の「狗(コ)」は「し(越)」などの「コ」。〝銅鐸文明の系列を引く″ことをしめすための接頭辞である。このように分析してみると、この「現代(三世紀)における、女王国のライバル」の〝身元″は、おのずから〝あらわれ″ているように見える。

 「好古都国」については、私は古田説とは異なり、「コウコツ」と訓んで「岡山市古都」に比定した。(『「21国」の比定:(14)好古都国(その三)』を参照してください。)ここでの「古智」の解釈は、私の比定の正否にかかわらないと考える。「すでに見たように「好古都国」の「古都」とは、〝出雲″を指していた。「小銅鐸の楽器」を〝礼式のシンボル″とする「古代の都」とされていたのである。」を削除しても「古智」解釈はそのまま使える。私はこの古田説に賛成する。

 冒頭の「狗」についての説明は、もちろん、「狗奴国」の国名の「狗」の意味を踏襲している。「狗奴国」は銅鐸圏の中枢域であり、出雲王朝の発展的継承者であった。(『「狗奴国」は何処?(6)』を参照してください。)

 以上により、改めて言い直してみると、「狗古智卑狗」の意味は
「狗奴国に継承されている古い文明(出雲文明)に精通・保持している大官(徳のある人)」
といったところだろうか。

 以上で『「倭人伝」中の倭語の読み方』の「官職名」編を終わります。
スポンサーサイト
 コメント
この記事へのコメント
[狗古
狗古智卑狗で「狗」と「古」が同じ音なのに使い分けられているのは、
「狗(の国の)古智卑狗」という意味で、倭人の固有名詞である「狗」(国名)、「古智(卑狗)」(官名)を併せたものだからではないでしょうか。
文章なら同音による字合わせをするかもしれませんが、そもそも別の字を使っている固有名詞をくっつけて、発音が同じだからと言って字を変えるとは考えづらいからです。
いかがでしょうか?
2013/01/30(水) 17:51 | URL | 愛読者 #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
 トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://adat.blog3.fc2.com/tb.php/1824-df975deb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック