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《続・「真説古代史」拾遺篇》(62)



「倭人伝」中の倭語の読み方(5)
「令支命題」


 倭国30国の中に「支」という文字を含む官職名・国名が爾支、伊支馬、彌馬獲支、已百支国、郡支国、支惟国と6例ある。「爾支」以外は「支」を通常通り「シ」(漢音・呉音共通)と読むと合理的な解釈が出来ない。この問題を解決したのが「令支命題」である。この命題の探求は『三国志・魏志の列伝「公孫瓉(こうそんさん)伝」』(8巻)に付された注記の発見が発端であった。

公孫瓉、字伯珪。遼西の令支の人なり。

     令音、郎定反。
     支音、其兒反。

(紹煕本。廿四史百納本、112ページ)

 この注は「反切」である。「反切」については『丸山林平「定本古事記」を読む(3)』で学習した。次のようになる。

 「令」の音は「郎(ロウ)」の子音と「定(テイ)」の母音から「レイ」である。
 「支」の音は「其(キ)」の子音と「兒(ジ)」の母音から「キ」となる。
 従ってこの「令支」は「レイシ」ではなく、「レイキ」と読むことになる。

 念のため〈筑摩版〉を調べてみたら
「公孫瓉(こうそんさん)は字(あざな)を伯珪(はくけい)といい、遼西(りょうせいぐん)令支(れいし)県の人である。」
と、注記を無視して「レイシ」と読んでいる。

 古田さんは「令支命題」を確信するに到る経緯を次のように述べている。

 倭人伝の国名表記などに「支」という文字表記の多いことは当然知っていたから、わたしは喜んだ。直ちに京大の中国文の言語学者、尾崎雄二郎さんにこれを報告したのである。すると、
「それは、そこ以外は「シ」と訓め、という意味の注記ですよ。」
と即答されたのである。「なるほど」と思った。さすが専門家による「専門家の目」の見識、そう思って心服したのである。

 しかし、今ふりかえってみると、それは必ずしも「諾(イエス)」ではなかった。なぜなら、もし三国志の魏志倭人伝の固有名詞表記が、一貫して中国側の表記、陳寿による「選字」であるとすれば、尾崎説の通りだ。漢書西域伝などにも「支」を「シ」と訓む例は少なくないからである。

安息の長老伝之聞く、條支に弱水有り、西王母も亦未だ嘗て見ざるなり。
(六十六、上)(史記大家伝では「條枝、安息の西、数千里に在り、西海に臨む」とある。)

 だが、現在到達したように、倭人伝の中の固有名詞が「倭人による漢字表記」であったとすれば、先の尾崎説のように、簡単に「反転」させていいかどうか、問題である。その前に、「倭人の漢字表記」の〝いわれ″とその歴史が問題だからだ。

 「倭」が中国の古典に最初に現われている例としては、「山海経」が有名である。

(「山海経」海内北経)
蓋国(がいこく)は鉅燕(きょえん)の南、倭の北に在り。倭は燕に属す。

 「蓋国」は「蓋馬大山」の地である。

(東沃沮伝)
東沃沮は高句麗の蓋馬大山の東に在り。

 右にある「~に属す」という表現の意義は何か。政治的のみならず、文化的にも〝深いかかわり″をもっている。そのように解しても、大きくはあやまらないであろう。

 今、「支」を「キ」の音で使っている「令支」の地は、この〝燕の領域″なのである。

 とすれば、少なくとも、かつての「尾崎命題」を〝はなれ″て、倭人伝の中の固有名詞の「支」を「キ」と訓むべき道、今はそれが〝開かれ″えたのである。これはわたしの倭人伝の「訓み」にとってきわめて重大だった。「閉されていた眼帯(アイ・マスク)」を取りはずし、自由に倭人伝を訓(よ)む。 ― それが可能となったのである。これを「令支(れいき)命題」と呼ぶこととする。

 「支」の音は手元の辞典では「シ」しかない。念のため、図書館で諸橋大漢和辞典を調べてみたら、「支」の音は四通りあり、二番目に「キ・ギ」があった。「キ」と読むのはそれほど特殊なことではないようだ。

 疑問点、というよりか、分らない点が二点ある。

一つは「公孫瓉伝」の注記は裴松之によるものなのか、あるいは陳寿が本文中に付したものなのか。また、裴松之は音に関する注記まで行ったのだろうか。陳寿自身による注があることなど聞いたことがないから、やはり裴松之によるものだと思うのだが、古田さんの引用の仕方を見ると、本文中に書かれているように見えるので疑問に思った。また、音に関する注記は他にもあるのだろうか。

 いま思いついて〈筑摩版〉の凡例を読んでみたら、「裴松之の注のうち、音注は原則として省いた。」とあった。上の疑問は解消しました。

 もう一つは燕と蓋国と倭国の位置関係で、「山海経」の記事では燕・蓋国・倭国が直接隣接していることになっているが、これをどう解釈したらよいのか。こちらは少し調べてみよう。(次回へ)
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