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《真説古代史・近畿王朝草創期編》(209)

「天武紀・持統紀」(124)


「大化改新」の真相(46)
「八色の姓」をめぐって(3)


 仮説2の検証を試みよう。その際、「八色の姓」で使われている姓名の中で「宿禰・臣・連・稲置」は古くから称号・職名などとして用いられていたので、旧来の称号・職名なのか「八色の姓」なのかを見極める必要がある。特に「臣・連」は「八色の姓」では第6・7位に置かれているが、旧来は大伴連・物部連・中臣連・小野臣・阿倍臣など有力豪族・高級官吏・将軍などの称号として用いられている。

 「八色の姓」の賜姓は当日の「真人」の賜姓に続けて684(天武13)年12月1日に「朝臣」を52氏に授与している。被授与者はすべて「君」または「臣」と呼ばれている氏族である。ここの「臣」は当然旧来から使われている称号である。〈大系〉は「君=豪族」・「臣=雄族」という区別をしている。

 次の賜姓は12月2日で宿禰を50氏に授与している。そのときの対象者は一人(諸會臣)を除いてすべて「連」である。この場合の「連」は明らかに「かばね」の「むらじ」だ。一気に四段階上がったことになる。

 最後の賜姓は忌寸で11氏に授与している。その時期はちょっと離れて685年(天武14)年6月20日である。対象者は10名が「連」で、一名だけ「大隅直(あたひ)」がいる。「直」は「八色の姓」以前の「連」賜姓記事にも多出していたが、「直」とはなんだろうか。472年(雄略16年10月条に次のような記事がある。

冬十月に詔して、「漢部を聚(つど)へて、其の伴造の者を定めよ」とのたまへり。姓を賜ひて直と曰ふ。〈一に云ふ。賜ふとは、漢使主(あやのおみ)等に、姓を賜ひて直と曰ふぞ。〉

 このように「直」とは民部・品部などの伴造(統括者)に授与した姓である。また『続日本紀』713(和銅6)年4月3日条に「夏四月の乙未に、……日向国から肝坏(きもつき)・贈於(そお)・大隅・姶[ネ羅](あいら)四郡を割ひて。始めて大隅国を置く。」とある。天武の頃、大隅は日向国の一つの評だった。「大隅直」は「直」という姓の意味から考えても、まさか評督ではあるまい。大隅の中の民部か品部の伴造であろう。大隅の伴造の中にヤマト王権への帰順者がいたということになる。

 さて、仮説2の検証だが、その方法としては被授与者の分析しかないだろう。〈大系〉では一人一人の系譜を調べ上げているが、系譜は全てを近畿天皇家に係累させる政治的造作が行われているのでほとんど役に立たない。実際にその系譜では、例えば「武内宿禰の子某の後」がわんさか出てくる。

 〈大系〉は一部の被授与者については系譜のほかに本貫や本拠地も記している。本貫や本拠地は有効な情報だと思う。ただし、宿禰や忌寸の被授与者は「土師連」「漆部連」など品部の名前で名乗る者もいて本貫や本拠地の比定は難しい。調べる価値があるのは朝臣の被授与者だけだろう。〈大系〉の記録で欠けているのもをできるだけ補充しながら検討してみよう。(吉田茂樹編著『日本古代地名事典』を用いる。出典がこの事典の場合〈事典〉、〈大系〉の頭注・補注を用いた場合は〈大系〉と付記する。いずれの場合も和名抄からの引用であることがはっきりしている場合は〈和名抄〉と付記した。同音の地名が複数ある場合は、私の判断で「らしい」方を選んだ。付記なしは私の推測。)

大三輪君
 大和磯城地方の豪族。〈大系〉
大春日臣
 大和国添上郡春日郷。〈和名抄〉
阿倍臣
 あの阿倍引田臣比羅夫と同族なら本拠地は越国。
巨勢臣
 大和国高市郡巨勢郷。〈和名抄〉
膳臣
 ?(和名抄によると播磨国に柏野郷・柏原郷がある。ここを本貫とするか。〈大系〉)
紀臣
 『和名抄』山城国に「紀伊郡」で見えるが、『欽明即位前紀』に「紀郡」(きのこほり)で初見し、京都市伏見区、南区を中心とする地域をいう。また、山城国風土記逸文に「許之国(このくに)」とあって、当初は宇治郡も含んだ地域であった。「き(木)」の郡とみられる。〈事典〉
波多臣
 大和国武市郡波多郷。〈和名抄〉
物部連
 言わずと知れた古来の豪族。
平群臣
 安房国平群郡〈和名抄〉
雀部(さざきべ)臣
 ?
中臣連
 古来の豪族。
大宅臣
 大和国添上郡大宅郷〈和名抄〉
粟田臣
 山城国愛宕郡上栗田・下栗田郷〈和名抄〉
石川臣
 『和名抄』河内国に「石川郷」とあるが、『続紀』慶雲三年(七〇六)の「石河郡」が郡名の初見。〈事典〉
桜井臣
 河内国河内郡桜井郷。〈和名抄)
 蘇我氏の同族。〈大系〉
采女臣
 ?。物部氏系の氏族〈大系〉。
田中臣
 讃岐国三木郡郡田中郷。〈和名抄〉
 蘇我氏の同族。〈大系〉
小墾田臣
 小墾田は大和国高市郡の地名。蘇我氏の同族。〈大系〉
穂積臣
 美濃国本巣郡穂積郷。〈和名抄〉
 物部氏系の氏族。〈大系〉
山背臣
 加賀国江沼郡山背郷。〈和名抄〉
 氏族としての由来は未詳。〈大系〉
鴨君
 『平城宮木簡』に大和国の「葛城上郡賀茂里」とあり、『神名帳』大和国葛上郡に「鴨都披八重事代主命神社二座」や「鴨山口神社」が見える。〈事典〉
小野臣
 小野は近江国の地名かという。〈大系〉
 『日後紀』大同元年(806)に山城国の「小野」で見え、京都市山科区小野かと見られ、一説に「小野の小町」の出身地という。〈事典〉
川辺臣
 摂津国川辺郡〈和名抄〉
 蘇我氏の同族。〈大系〉
櫟井(いちい)臣
 櫻井は大和国添上郡の地名。今、奈良県天理市轢之本付近。〈大系〉
柿本臣
 大和国添上郡を本拠とする氏族。〈大系〉
軽部臣
 続紀、天平勝宝三年二月条には巨勢男柄宿禰の子伊刀宿禰の後裔とある。〈大系〉
若桜部臣
 膳臣の同族。〈大系〉
岸田臣
 蘇我氏の同族。岸田村は大和国山辺郡の地名。〈大系〉
高向臣
 石川と同氏。〈大系〉
宍人(ししひと)臣
 宍人部(獣肉の調理にあたる品部)の伴造。阿倍朝臣と同祖。〈大系〉
来目臣
 『和名抄』伊予国に「久米郡」で見えるが、『藤原宮木簡』に「久米評」で初見。〈事典〉
 蘇我氏の同族。〈大系〉
犬上君
 犬上は近江国の地名。〈大系〉
上毛野君
 おなじみの上毛野国の王。本拠地は今の群馬県。
角(つの)臣
 『和名抄』近江国高島郡に「角野郷」、『神名帳』に「津野神社」で見え、滋賀県高島市今津町構(かまえ)の周辺かという。「角朝臣」一族の住地かと思われる。〈事典〉
星川臣
 大和国山辺郡星川郷。〈和名抄〉
多臣
 大和国十市飫富郷(現在の磯城郡田原本町多)。〈和名抄〉
 あの太朝臣安萬侶の一族。
胸形君
 筑前国を本拠とし、宗像神社をまつる氏族。〈大系〉
車持君
 上毛野朝臣と同祖〈大系〉
 群馬県高崎市に車持神社がある。
綾君
 讃岐綾君に同じ。讃岐国阿野郡を本拠とする。〈大系〉
下道(しもつみち)臣
 備中国下道都を本拠とする豪族。吉備真備はその一族。〈大系〉
伊賀臣
 伊賀国伊賀郡を本拠とする。〈大系〉
阿閉臣
 伊賀国阿拝郡を本拠とする。〈大系〉
林臣
 『和名抄』讃岐国山田郡に「拝師郷」で見えるが、『平城宮木簡』に「林郷」で初見し、香川県高松市林の地をいう。「はやし(林)」に由来する。〈事典〉
波彌臣
 波彌は近江国の地名。〈大系〉
下毛野君
 本拠地は今の栃木県。
佐味君
 越中国新川郡佐味郷。〈和名抄〉
道守(ちもり)臣
 左京・河内・和泉の皇別に道守朝臣とある。〈大系〉
大野君
 『和名抄』美濃国に「大野郡」で見えるが、『藤原宮木簡』に「大野評」で初見する。〈事典〉
坂本臣
 和泉国和泉郡坂本郷。〈和名抄〉
池田君
 和泉国和泉郡坂本郷。〈和名抄〉
玉手臣
 ?
笠臣
 備中国小田郡を本拠とする。〈大系〉

 以上の結果を見ると、九州が全くの空白であること、九州を除いて相当多くの国がヤマト王権の傘下に入っていることが分かる。唯一例外として胸形君があるが、高市皇子の母が胸形君徳善の娘であることから胸形一族をヤマト王権の一族扱いしたのだろう。

 「八色の姓」について〈大系〉の頭注は次のように書いている。

「八姓のうち、実際に賜わったのは、真人(この日)・朝臣(12月1日)・宿禰(12月2日)・忌寸(14年6月20日)の上位四姓のみ。旧来の臣・連・伴造・国造という身分秩序に対して、臣・連のなかから皇室と関係の深いものだけを抽出し、真人・朝臣・宿禰として上位におき、他を下位にとどめ、新らしい身分秩序の形成をはかったもの。これによって皇親の社会的地位が確立されるとともに、官僚制強化の動きと関連して、上級・下級官人層の家柄、中央貴族・地方豪族の差別がはっきりと標識化された。」

 これは大略正しい指摘だと思う。「多元史観」の立場で付け加えると、九州王朝とヤマト王権の間で、九州王朝が九州の範囲内で存続し、ヤマト王権と併存することで合意したのではないだろうか。九州王朝は引き続き朱雀(684~685)・朱鳥(686~694)・大化(二中暦では695~700)と改元を行っている。実力は著しく衰退したとはいえ、一応倭国の中心権力としての名分は保っていた。もしかすると朱雀改元(天武13年)はその合意が理由ではなかったか。九州王朝にとっては不名誉なことではあったが、ヤマト王権との合意をふまえて新体制を整える必要があった。再スタートの改元だった。

 ヤマト王権は九州王朝の「八色の姓」をそのまま踏襲したのはなぜだろう。冠位が一代限りなのに対して姓は代々継承されるものだ。まったく異なる姓制度を施行すれば相当な混乱を巻き起こすことになろう。姓制度はそのまま利用するのが得策だった。
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