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《真説古代史・近畿王朝草創期編》(167)

「天武紀・持統紀」(82)


「大化改新」の真相(5)
音韻学者・森博達氏の証言


 「孝徳紀」の年号「大化」は九州王朝が使用した年号の盗用だから、「孝徳紀」の大化元年・2年に記録されている詔勅は、「改新の詔」だけではなく、すべて九州王朝の史料からの盗用である。このように考えるのが自然(理性のしからしむところ)である。と、このように考えることが妥当であることを示す傍証がある。

(以下は森博達(ひろみち)著『日本書紀の謎を解く』を教科書にしています。)

 森氏は『日本書紀』全巻の音韻・語彙・語法さらには文体の調査をした。その結果、『日本書紀』には正格な漢文・唐の正音(歌謡訓注などの和文)で書かれた巻(α群と呼んでいる)と、倭習・倭音を含む巻(β群)があるという。倭習(あるいは倭臭)とは、漢文の中の和文的要素や、日本語の発想に基づく漢文の誤用や奇用のことである。倭音とは音韻における倭習のことで、漢音・呉音を混用したものや倭音(万葉仮名)を用いた和文である。つまりα群は中国人(続守言・薩弘恪と推定している)によって書かれたものであり、β群は中国語に精通していない日本人によって書かれたものである。

α群(巻14~21・24~27)
β群(巻1~13・22~23・28~29)

巻30(持統紀)が入っていないが、それについて森氏は次のように述べている。
 巻30には歌謡がなく、訓注も二例しかないので、仮名の性格からその表記者を窺うことはできなかった。文章に倭習が少ないので、この点ではα群に近い。そこで私は従来、暫定的に巻30をα群に算入していた。しかし成立の経緯を考えれば、α群に帰属させるのは無理がある。持統上皇が崩御したのは、大宝2年(702)12月22日のことである。帝紀の撰述は崩御の直後から開始されるものではない。巻30の述作には、続・薩両名とも関係しなかったと考えられる。

 実際、巻30には特殊な語句や文体が見られる。たとえば第一章の【表3】では、「群臣」は109例あり、α・β両群に広く分布するが、巻30には現れない。逆に、「公卿百寮人」は9例すべてが巻30に偏在している。中村啓信「日本書紀巻第三十について」(1961年)はさらに多くの例を加えている。たとえば、「大津皇子(おおつのみこ)」・「高市(たけち)皇子」等が巻30では 「皇子大津」・「皇子高市」等のように前後した表記法になる。また、「奉幣于四所伊勢・大倭・住吉・紀伊大神」等のように、並列する名詞の上にその数を冠する文体も、巻30に独特のものという。

 さて、α群にも倭習を含むものがあるが、巻25「孝徳紀」は異常に多い。谷口氏は番組制作に当たり、新たに「孝徳紀」の倭習についのて吟味・検討を森氏にお願いしている。そして森氏から誤用例の増補を得ているという。それが参考資料(3)に掲載されているので、こちらの方を少し形式を変えて転載する。

 以下は

☆誤用原文
【その読下し文】
 →森氏による修正案(誤用の補足説明)

という形で表示している。

―――――――――――――
「東国国司詔」(大化元年8月)

<使役表現の誤用>

☆不得取他貸賂、令致民於貧苦
【他(ひと)の貸賂(まいない)を取りて、民を貧苦(まずし)きに致さしむること得じ】
 →不得取他貸賂、令民致於貧苦(語順の誤り)

☆唯得使従国造・郡領
【唯に国造・郡領をのみ従はしむること得む】
 →唯得使国造・郡領従(語順の誤り)

<受身表現の誤用>

☆其於倭国六県被遣使者
【其れ、倭国の六県に遣(つかわ)さるる使者】
 →其於倭国六県見遣使者(「被」を「見」に)

<譲歩表現の誤用>

☆若有求名之人……
【若し名を求むる人有りて……とも】
 →縦有求名之人……(「若」を「縦」に)

―――――――――――――
「僧尼への詔」(大化元年8月)

<語句の誤用>

☆此十師等宜能教導衆僧
【比の十師等、能く衆僧を教導(おしえみちび)き】
 →此十師等宜教導衆僧(「能」は不要)

―――――――――――――
「土地兼併禁止詔」(大化元年9月)

<語句の誤用>

☆或者全無容針少地
【或いは全(もは)ら容針少地(はりさすばかりのところ)も無し】
 →或者全無容針小地(「少」を「小」に)

―――――――――――――
「鐘櫃制度の詔」(大化2年2月戊申)

<語句の誤用>

☆詔巳如此
【詔巳(すで)に此(かく)のごとし】
 →(「巳」を「全て」の意で用いるのは倭習)

―――――――――――――
「東国国司詔」(大化2年3月甲子)

<語句の誤用>

☆朕復思欲蒙神護力
【朕(われ)復(また)神の護(まもり)の力を蒙りて……思欲(おも)ふ】
 →朕亦思欲蒙神護力(「復」を「亦」に)

☆詔既若斯
【詔既に斯の若し】
→(「既」を「全て」の意で用いるのは倭習)

<使役表現の誤用>

☆故前以良家大夫使治東方八道
【故、前に良家の大夫を以ちて東の方の八道を治めし】
 →故前便良家大夫治東方八道(語順の誤り)

―――――――――――――
「旧俗矯正の詔」(大化2年3月甲申)

<受身表現の誤用>

☆復有妻妾、為夫被放之日
【復、妻妾有りて、夫の為に放(す)てらるる日に】
 →復有妻妾、為夫見放之日(「被」を「見」に)

☆復有為妻被嫌離者
【復、妻の為に嫌はれ離たれし者有りて】
 →復有為妻見嫌離者(「被」を「見」に)

<譲歩表現の誤用>

☆縦有違詔犯所禁者
【縦(も)し詔に達ひて禁(いさ)むる所を犯すこと有らば】
 →若有違詔犯所禁者(「縦」を「若」に)

☆縦違斯詔、将科重罪
【縦し斯(こ)の詔に違へらば、重罪科せむ】
 →若違斯詔、将科重罪(「縦」を「若」に)

<使役表現の誤用>

☆何故於我使遇溺人
【何の故か我を溺れたる人に遇はしむる】
 →何故使我遇溺人(語順の誤り)

―――――――――――――
「品部廃止の詔」(大化2年8月癸酉)

<否定詞の誤用>

☆斯等深不悟情
【斯等(これら)、深く情(こころ)に悟らず】
 →斯等不深悟情(語順の誤り)

<使役表現の誤用>

☆今以汝等使仕状者
【今汝等を以ちて仕へしむる状は】
 →今使汝等仕状者(語順の誤り)

 森氏は「孝徳紀」の倭習について、次のようにまとめている。

 α群は、中国人が執筆したと私は考えているところで、中国語の間違いは基本的にはありません。漢文の間違いが基本的にないのです。ところが、そのα群の中にあっても、一部間違いがあります。数多くはありません。それらの間違いがどこにあるのかというと、実は大化の改新の一連の詔勅に集中するのです。これは一体どういうことなのかということです。

 中国人の執筆者が亡くなった後、日本書紀の編集の最終段階で潤色、加筆ということが行われたのです。つまり、大化改新の記事というのは、最終段階で、編集の最終段階で付け加えられたものか、あるいは少なくとも大幅にこれは加筆をされているということは事実なのです。従って、『日本書紀』に書かれているような大化改新が実際にあったということは、これはいえないのです、そのままでは。

 私は、加筆ではなく、全ての詔勅が「編集の最終段階で付け加えられた」と考えてきたのだった。このように考える人が「井の中」にもいらっしゃった。古田さんと「邪馬台国」論争を行ったこともある山尾幸久氏である。つまり古田さんを決して無視をしてはいなかった(現在はどういう態度をされているのかは知らない)学者のお一人である。谷口氏は山尾氏の著書『「大化改新」の史料批判』から引用しながら、山尾氏の論考を次のように紹介している。

 「孝徳紀」の詔の原形は、漢語と漢字正訓表記とを交用し、それを和語で読上げる和化漢文体の詔書だったのであろう。

(中略)

 「孝徳紀」の和文脈を遺す厖大な詔書は、670年代ならば書けるが、640年代に作るのは難しい。

 そして大化の詔勅群は、朝廷に参集する宮人に対して詔が朗読されていることに着目、
 詔書の宣告は法の定立行為だから、神意を体するが故に公権を具現するという君主の超越性が要件である。

とし、大化の時期にそのような「現神天皇」はおらず、こうした詔書の宣命が成立したのは天智・天武の時代であるとした。

 天智も天武もそのような「現神天皇」ではない。701年以前にその資格を有するのは九州王朝の天子だけである。
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 コメント
この記事へのコメント
いよいよ佳境に入って来ましたね。
・やはり出るだろうと思っていたものが登場しましたね。

・森博達氏の『日本書紀』の内部徴証に基づく証言は何にも代え難いものです。

・しかし,あまりにも“杜撰”なものを最終的に奏上したということを,どのように理解すべきなのでしょう。

・ここまで来ると,以降というか,今後はどのような展開になるのか想像もつきませんが,よりよい着地点を求められますことを願ってやみません。

・私は私なりの論理で考えていますが,一度高所から俯瞰し直してみるべく,今このブログの進展を注目しながら考えている次第です。

・今後を楽しみにしています。
2011/04/19(火) 16:21 | URL | 隠居 #hvIICHmQ[ 編集]
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