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2006年9月4日 ホームページ『「日の丸・君が代の強制」と闘う人たちと勝手に連帯するレジスタンスの会』からの引越し完了しました。
《真説古代史・近畿王朝草創期編》(149)

「天武紀・持統紀」(64)


筑紫君薩夜麻とは誰か(5)
みどりこの母の歌(4)
子を思う母の悲痛な心


 「片戀嬬」の後に次のような詩句が出てくる。

夕星(ゆふつつ)の か行きかく行き 大船の たゆたふ見れば
(原文)
夕星之 彼徃此去 大船 猶預不定見者

 この部分を〈大系〉は次のように解釈している。

「夕星のようにあちらに行きこちらに来して、心も静まらずにおられるのを見ると、」

 「夕星」を「夕星のように・・・」と比喩として扱っている。「大船」は省いているが、これも「大船のように・・・」と比喩として扱っているようだ。しかし、「大船のように心も静まらずにおられるのを見ると、」と「大船」を書き入れると何ともおかしな詩句になってしまう。「大船」と言えばどっしりと揺らぎがなく頼もしいもの、というのがまともな感覚ではないだろうか。そのようなわけで、〈大意〉の作者は「大船のように」を書き入れるのをためらったのではないだろうか。この問題について、古田さんは次のように論じている。

 「大船の」を単に〝たゆたふ″心理に対する〝枕詞″的形容とされているようである。

 しかし、単に〝ゆらぐ心理″の形容なら、「大船」よりむしろ「小船」の方がふさわしい。「大船に乗ったよう。」とは、通例「不安」ではなく、「安心」の形容とされている。

 この点、中西進は巻二の次の歌を〝参照″としている。

 大船の泊(は)つる泊(とま)りのたゆたひに物思ひ痩(や)せぬ人の児ゆゑに(122)

 けれども、この場合も、「大船」がそのまま「思ひ痩せる」形容というよりも、この「大船」の中に乗せられた青年が、(残した)恋人を思うて「思ひ痩せ」る思いをしているのではあるまいか。

 「夕星」や「大船」は比喩として使われているのではなく、我が子の思い出にふけっている母は実際に夕星のきらめく港にたゆたう大船を眺めているのだ。次のような意になろう。

「夕星がここかしこにきらめき、大船のたゆたう風景を眺めていると・・・」

 「大船の たゆたふ見れば」には次の詩句が続く。

慰むる 情(こころ)もあらぬ
(原文)
遺悶流 情毛不在
〈大系〉の意訳
「自分の心をどう慰めてよいか分らないことだ。」

 ここでも「原文改竄」が行われている。

悶(金・類・温)―問

 後代写本(金沢本・類聚古集・紀州本)では「遺流」となっている詩句は、元暦校本や西本願寺本などでは「遺流」である。もともとの原文で訓読すれば
問はせる 情(こころ)もあらぬ」
となる。

 通して意訳すると、次のようになるだろうか。

「夕星がここかしこにきらめき、大船のたゆたう風景を眺めていると、どう問えばといのか、心は千々に乱れるばかりだ。」

 「大船」に乗って戦に出かけた我が子・明日香皇子を思い、その安否が分からない状況に胸を痛めているのだ。古田さんの解説を読んでみよう。

 なぜ、青年は「大船」に乗っているのか。戦争だ。「州柔城の戦」や「白村江の戦」のために、九州(倭国)をはなれる寸前の〝待ち″時間、その中における哀切の歌なのではあるまいか。

(中略)

 主人公は、「避城~州柔の戦」で〝行方を絶った″明日香皇子であるから、もし「健在」なら、当然「大船」で本国(倭国)へ帰還しよう。けれども、それが全く〝定か″ではない。その点を
 大船 猶預不定見
と表現したのである。「大船」自体が〝不安″なのではなく、それが「定見」できないことを〝不安″としているのだ。

(中略)

 問はせる 情(こころ)もあらぬ

 「何を問う」のか。もちろん、「明日香皇子の安否を問う」のだ。だが、久しく、その「回答」はなかった。そこでついに〝今日″の「殯宮」となったのである。しかし、今も、正確にはその「安否」は分っていないのである。「殯宮」の儀式となっても、人々の念頭には〝わだかまり″があった。「本当に亡くなられたのか。」という「問い」はつづいていたのである。

 このような状況だからこそ、第一短歌(197)の
 明日香川しがらみ渡し塞(せ)かませば
という、何か〝のどにつまった″ような「まどい」が表現されていたのである。

 長歌(196)は次のように終わっている。

み名に懸かせる 明日香河 萬代(よろづよ)までに 愛(は)しきやし わご王(おほきみ)の 形見かここを

 明日香皇子は、戦場で「行方を絶った」のであるけれど、その「遺体」が確認されたわけではなかったようである。

 だからこそ、明日香皇子の誕生の頃、「産湯」を使った、この場所そのものを、代って「形見」と見なそう。人麿は切実にそのように歌ったのである。

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