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《真説古代史・近畿王朝草創期編》(79)

「天智紀」(67)


近江令と庚午年籍(2):「定説」近江令


 戸籍を作るからにはそのもとになる「令」があるはずだ。つまり「近江令」と呼ぶべき「令」があった。これがヤマト一元主義の立場での論理である。しかしことはそれほど単純ではなく、近江令そのものを否定する説もあるようで、「定説」はいまだ一つにまとまっていないようだ。

 近江令の存否についてはこれまでに何度か触れてきたが、いい機会なので少し詳しく取り上げておこうと思う。まずこの問題は従来はどのように論じられていたのか、調べてみる。井上光貞氏の論文「大化の改新と東アジア」(岩波講座・日本歴史2」所収)に諸説をまとめらているくだりがあるので、それを用いる。

 近江令という言葉は『日本書紀』にも『続日本紀』にもない。後世に作られた言葉である。10世紀始め頃に成立したと伝えられる弘仁格序(こうにんきゃくじょ)に「近江朝廷の令」という言い方で出てくる。

(1)
蓋し聞く、律は懲粛(ようしゅく)を以て宗と為し、令は勧誡(かんかい)を以て本と為す。・・・・・・降って天智天皇元年に至り、令廿二巻を制す。世人所謂近江朝廷の令なり。

 『新撰日本史史料集』(令分社)から転記した。「天智天皇元年」に(662)と注記が付けられているが、ここの元年は「即位元年」(=称制7年)であり、正しくは668年である。もちろん、この年の条はもとより、「天智紀」には律令に関する記事は全くない。

 また近江令の存否をめぐる論争で引き合いに出される史料がもう三つある。一つは次の「藤氏家伝」(天智七年の段)中の一文である。

(2)
帝(てい)、大臣(おほおみ)に礼儀を撰述せしめ、律令を刊定せしめたまふ。天(あめ)・人の性(さが)に通して、朝廷(みかど)の訓(をしへ)を作る。大臣と時の賢人(さかしきひと)と、旧章を損益(おとしくは)へ、略(ほぼ)条例を為(つく)る。

 他の二つは「天武紀」と「持統紀」にある「令」に関する記事である。

(3)
681(天武10)年2月25日
天皇・皇后共に大極殿に居(おは)しまして、親王・。諸王及諸臣を喚(め)して、詔して曰はく、「朕、今より更(また)律令を定め、法式を改めむと欲す。故、倶に是の事を修めよ。然も頓(にはか)に是のみを務(まつりごと)に就(な)さば、公事闕(か)くこと有らむ。人を分けて行ふべし」とのたまふ。

(4)
689(持統3)年6月条29日
詔司に令一部廿二巻班(わか)ち賜ふ。

 (1)と(4)の巻数が一致することを軸にして、諸説が争っている。およそ次の三つの説にまとめられるようだ。

(a)
「(1)・(2)ともに史実にもとづく史料である。近江令は天智7年に成って部分的に施行された。天武朝にその更改がおこなわれて浄御原令となった。そして(4)はその施行記事である。」
(b)
「近江令は天智朝によって起草された。そして制定の途中、一部分は時々単行法として施行されていた。しかし原案全部の修正が完成したのは天武朝(683)で、公布されたのは持統朝である。(4)は近江令の施行を示す記事である。」
(c)
「(1)・(2)は後世の解釈であり、史料として採用できない。(4)は(3)の浄御原令の施行記事である。したがって近江令は存在しなかった。

 では、井上氏自身はどのような説をとなえているのだろうか。(井上氏が「ヽ」を付している文字を「太字」で示した。)

 筆者は特に、(3)天武紀10年2月条の「朕今欲定律令法式〔下略〕」の詔を重視して、やはり(a)説が妥当であるとするものである。なぜなら、(3)は律令更改の詔で、これが実ったのが(4)の飛鳥浄御原令であるが、律令を更改する以上、その前に律令法典、即ち近江令ができていなくてはならないからである。筆者も近江令がまったく完成にされたとは考えず、(2)に「略々条例をなす」と書くのもそのためとおもう。しかし、近江令なる法典の制作が、天武朝の未年に中断され、それを発展的に吸収・解消することによって、浄御原令が成立したのである。なお、(a)・(b)説が近江令の部分施行とするものを、令法典なしの単行法とする説もだされているが、筆者は近江令を否定する(c)説をとらないから、この説にも賛成しがたい。
 私(たち)の立場からはこれらの説すべてを、「倭国令」という一言で一蹴することは簡単だが、九州王朝を認めない者には馬耳東風だろう。代表として井上説を取り上げ、少し丁寧に批判してみよう。
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