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《真説古代史・近畿王朝草創期編》(61)

「天智紀」(49)


近江遷都(7):「斉明紀」の北方遠征(6)「引田臣比羅夫」


 「斉明紀」の北方遠征関連記事(10)は次の通りである。

 660(斉明6)年5月是月
是月、・・・・・・又、阿倍引田臣〈名を闕せり。〉、夷五十余を献る。・・・・・・

 すると、「斉明紀」の北方遠征に登場する指揮官は見かけ上3名いることになる。
① 阿倍臣〈名を闕せり。〉
② 阿倍引田臣〈名を闕せり。〉
③ 越国守阿倍引田臣比羅夫
  (こしのくにのかみあへのひけたのおみひらぶ)

 前に述べたように、「定説」はこれを全て引田臣比羅夫としている。私は①と③は別人という立場で論を進めてきた。では②はどう考えたらいいのだろうか。ここで『日本書紀』編纂の法則2を援用しよう。

法則2
 固有名詞や代名詞の一部省略、一部添加はしても改定は絶対にしない。元史料のまま書く。表記の違う名は、別文献である。

 私は阿部引田臣比羅夫の「阿部」は「一部添加」の例ではないかと考えている。全てを同一人物と受け取らせようとする『日本書紀』編纂者の作為を感じる。つまり②では「引田」を、③では「阿倍」を添加した。従って①と②は同一人物と考える。そのように考える根拠は次の通りである。

 『続日本紀』に引田朝臣宿奈麻呂という人物が引田臣比羅夫の子として記録されている。

720(養老4)年正月27日
大納言正三位阿倍朝臣宿奈麻呂薨ず。後岡本朝の筑紫大宰帥大錦上比羅夫の子なり。

 ここでは肩書きは「阿倍朝臣」と成っているが、実はこれは宿奈麻呂が文武天皇から授与された称号である。(ヤマト朝廷の中で「阿倍」という姓はかなり重要な位置を占めていたようである。このことを取り上げる機会があるかも知れない。)

704(慶雲元)年11月14日
従四位下の引田朝臣宿奈麻呂の姓を改めて、阿倍朝臣を賜ふ。

 子の宿奈麻呂が授与された「阿倍」という姓を『日本書紀』にまで遡って父親に添加していると考えるのはおかしいだろうか。私にはそのように思える。よって以下では③を「引田臣比羅夫」と呼ぶことにする。

 さて、引田臣比羅夫の事績は、名無しの「安倍臣」の華々しい活躍と比べて、さえない。〈名を闕せり〉だらけの北方遠征記事の中で、唯一フルネームで記録されているこの人物は何者だろうか。最後にこの問題を考えてみよう。

 引田臣比羅夫は越国守という肩書きを持っている。では越国守とはどのような存在だったのだろうか。

 後にヤマト王権が大和王朝となって中央集権の体制を堅固なものとして以来、国守はヤマト朝廷が王侯貴族の中から任命し、派遣するようになった。しかし、それ以前の国守はそれぞれの国の国王である。

 前回、『続日本紀』に記録されている蝦夷の領域として越後が入っていたことが分かった。越国が越前・越中・越後と分けられたのは近畿王朝になってからである。記録には表われないとしても、とうぜん越前・越中も蝦夷の領域であったと考えてよいであろう。つまりもともとは一括して「越の蝦夷」と呼ばれていた。北方遠征関連記事(6)にはっきりとそのように書かれている。

659(斉明5)年3月17日
甘檮丘の東の川上(かわら)に、須弥山を造りて、陸奥ととの蝦夷に饗たまふ。

 引田臣比羅夫は越の蝦夷のリーダーであった。そして、上の記事でも分かるように、越の蝦夷は陸奥の蝦夷(阿倍氏)と親和的であった。「斉明紀」が記録する引田臣比羅夫が行った2回の北方遠征は2回とも粛慎討伐である。たぶん阿倍臣の粛慎討伐に協力したのではないか。もちろん「生羆二つ、羆皮七十枚や虜四十九人」を獻った相手は九州王朝である。越国は地理的な近親性故に早くから九州王朝の傘下に入っていたと思われる。だからこそ白村江の戦いにも参戦している。

661(斉明7)年8月
前將軍大花下阿曇比邏夫達・小花下河邊百枚臣等、後將事大花下阿倍引田比邏夫臣・大山上物部連熊・大山上守君大石等を遺して、百濟を救はしむ。・・・・・・

663(天智2)年3月
 三月に、前將軍上毛野君稚子・間人連大蓋、中將軍巨勢前臣譯語・三輪君根麻呂、後將軍阿倍引田臣比邏夫・大宅臣鎌柄を遺して、二萬七千人を率て、新羅を打)たしむ。

 引田臣比邏夫が白村江の戦いで戦死をしたのか捕虜になったのか、あるいは無事生還したのかは分からない。しかしその血脈は近畿王朝の貴族「阿倍朝臣」として受け継がれていった。
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